米議会の諮問委員会と米政府の会計検査院が米軍の軍事的優位性の低下は今や大きな脅威であることを報告したという事実があるのだが、ディープステーツの忠実な僕である米国の大手メディアは自分たちに都合の悪いこれらふたつの報告書を一般大衆に積極的に伝えようとはしなかった。メディアのこのような行動はこれらの報告書が伝えようとした内容がいかに深刻であるかを如実に物語っていると言えよう。
米ロの軍事面における非対称性は知れば知る程不思議である。ここに「米空母のコストは50億ドルもする。しかし、コストが4千万ドルでしかないロシア空軍機によって撃沈されてしまうかも」と題された記事がある(注1)。
一部の軍事分野におけるロシアの軍事技術はかって米国が誇っていた技術的優位性を越してしまったと言われている。特に、最近はこの種の見方が急増している。
ロシアの技術革新はどのような具体的な内容あるいは背景を持っているのであろうか?素人であるわれわれにはなかなかピンと来ない。私の考えでは、多くの理由のひとつとして、ロシア国内の低コストの経済構造が非常に重要だと思う。開発プロジェクトを低コストで推進することが可能であるからこそ、ロシアでは個々のプロジェクトを計画通りに推進することが可能となる。
米国ではどうか?ペンタゴンでは予算が具体的にどのように使われたのかについて説明することができない状況が慢性化している。1998年から 2015年までの使途不明金は21兆ドルに達したと言われている(注2)。1ドルを110円で換算すると、これは2310兆円に相当する。日本の国家予算は一般会計で約100兆円、特別会計で200兆円、合計で300兆円だ。ペンタゴンでは日本の国家予算の7~8年分に相当する金額が使途不明。通常、民間企業では毎年会計監査が実施され、企業の金の使い道が詳細に追跡され、使途不明金なんて出て来ることはない。しかし、最悪の場合は粉飾決算となり、新聞を賑わすことになる。ペンタゴンでは誰が何のために誰に支払ったのかを説明することができないという。これがペンタゴンの現実である。
さまざまな説明があるのだろうが、これはペンタゴンの組織全体による詐欺行為であると私は言いたい。歴史上でもっとも巨大な詐欺行為だ。個々の調達案件ごとに賄賂や着服がたくさんあるのではないか。大手の軍需企業から末端の部品供給企業に至るまで利益の確保は第一の目標である。利益を得ること自体は悪いことではないが、そこには節度が必要だ。こうして、ペンタゴンが調達する装備品はその性能とは無関係に、必然的に、非常に高価なものとなる。そればかりではなく、時間もかかる。
本日はこの記事(注1)を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
<引用開始>
NATOが非常に恐れているロシアのツポレフTu-22M3バックファイアーには新たな改造が施され、Kh-32と呼ばれる長距離超音速ミサイルが追加装備される。この改造は、かっての冷戦時代にはバックファイアーがそうであったように、北大西洋全域で連合国側の目標を攻撃することを可能としてくれる。この爆撃機と新型ミサイルは、この10月、ロシア空軍に引き渡される予定だ。
NATOが非常に恐れているロシアのツポレフTu-22M3バックファイアーには新たな改造が施され、Kh-32と呼ばれる長距離超音速ミサイルが追加装備される。この改造は、かっての冷戦時代にはバックファイアーがそうであったように、北大西洋全域で連合国側の目標を攻撃することを可能としてくれる。この爆撃機と新型ミサイルは、この10月、ロシア空軍に引き渡される予定だ。
Photo-1: Tu-22爆撃機は実際にはもっと近代的なSu-34に順次置き換えられるが、一部は温存され、最新モデルに改造される。この爆撃機は艦船の攻撃には欠かせない。
「現行の計画によると、最新式のKh-32長距離クルーズミサイルを搭載した最初のTu-22M3Mは、今年の10月、長距離飛行のために実戦配備される」[注: このテキストは2018年のもの]、とロシア防衛産業のある筋がタス・ニュースエージェンシーに語ってくれた。
Photo-2: 赤色の部分がKh-32。
冷戦時代の申し子であるラドウ—ガKh-22(またはAS-4キッチン)が強力なKh-32として近代的に改造され、それらが配備されるということはTu-22M3に素晴らしい攻撃力をもたらすことを意味する。つまり、艦船だけが対象ではなく、ヨーロッパのあらゆる戦略的攻撃目標を爆撃することが可能となるのだ。強力な破壊力を持つKh-22は元来米空母を破壊するために設計されたものであるが、新型のKh-32は、相互睨み合い距離の範囲内に点在する橋梁や軍事基地、発電所、等の大型インフラを含めて、非常に広範な軍事目標を攻撃できるように設計されている。
ロシア人はこのKh-32を長距離超音速クルーズミサイルと称しているが、このミサイルは弾道ミサイル特有のいくつもの特性も備えている。液体燃料で駆動されるロケットが装備され、本ミサイルは13万フィートの高度に達し、その後攻撃目標に向かって降下する。ロシアの情報筋によると、Kh-32 はマッハ5で飛行し、その到達距離は1000キロ、約600マイルである。このミサイルは慣性誘導とグロナスの組み合わせ、ならびに、能動型レーダーによって誘導される。
当面、ロシアは長年配備されてきたTu-22M3に改造を施す。ロシアは現存のTu-22M3バックファイアーの中から20~30機を選び、Tu-22M3Mに改造する考えだ。本改造にはアフターバーナーの定格推力が5万ポンド(約23トン)の新規に製造されるクズネツオフ・ターボファンが含まれ、全使用期間をカバーする。さらには、改造爆撃機にはツポレフTu-160M2ブラックジャックに用いられているものと同様の新型航空電子機器が搭載され、より広範な武器・装置が装備される。
ロシア人はこのKh-32を長距離超音速クルーズミサイルと称しているが、このミサイルは弾道ミサイル特有のいくつもの特性も備えている。液体燃料で駆動されるロケットが装備され、本ミサイルは13万フィートの高度に達し、その後攻撃目標に向かって降下する。ロシアの情報筋によると、Kh-32 はマッハ5で飛行し、その到達距離は1000キロ、約600マイルである。このミサイルは慣性誘導とグロナスの組み合わせ、ならびに、能動型レーダーによって誘導される。
当面、ロシアは長年配備されてきたTu-22M3に改造を施す。ロシアは現存のTu-22M3バックファイアーの中から20~30機を選び、Tu-22M3Mに改造する考えだ。本改造にはアフターバーナーの定格推力が5万ポンド(約23トン)の新規に製造されるクズネツオフ・ターボファンが含まれ、全使用期間をカバーする。さらには、改造爆撃機にはツポレフTu-160M2ブラックジャックに用いられているものと同様の新型航空電子機器が搭載され、より広範な武器・装置が装備される。
Photo-3: 3個のミサイルを搭載することが可能
Tu-22M3は遅かれ早かれ実戦配備からは排除される公算が高い。なぜかと言うと、ロシアはもっと性能が高いTu-160M2戦略爆撃機の製造を再開するからだ。50機を配備することによって、バックファイアーに比較して、地上の戦略的な目標に対しては遥かに優れた長距離爆撃能力が実現されよう。さらには、最新鋭の航空電子機器やスタンドオフ兵器を搭載した秀れ物のスホイSu-34の導入によって、このフルバックはヨーロッパの攻撃目標を容易に爆撃することが可能だ。こうして、バックファイアーの役目は相対的に狭い領域となる。このことはなぜ現行の航空隊の半分だけを近代化するのかについての説明となろう。
艦船を長距離爆撃するという目標、つまり、上記に説明した狭い領域に関して言えば、Tu-22M3よりも素晴らしいプラットフォームがいくつかある。
冷戦の最中、バックファイアーとそれに搭載されたミサイルは米海軍の悩みの種であった。ソ連のTu-22M3航空編隊を迎え撃つために米海軍は「外部航空戦闘」というドクトリンを編み出した。これはイージス巡洋艦と駆逐艦、ならびに、グラマンF-14トムキャットとそれに搭載されるフェニックスミサイルを併用するという作戦だ。
ロシアのTu-22M3の航空編隊はソ連がかって所有していた空軍力のほんの一部分にしか過ぎないが、近代化された武器やセンサーを用いており、今日のバックファイアーはその規模が小さいとは言え、大きな脅威である。
艦船を長距離爆撃するという目標、つまり、上記に説明した狭い領域に関して言えば、Tu-22M3よりも素晴らしいプラットフォームがいくつかある。
冷戦の最中、バックファイアーとそれに搭載されたミサイルは米海軍の悩みの種であった。ソ連のTu-22M3航空編隊を迎え撃つために米海軍は「外部航空戦闘」というドクトリンを編み出した。これはイージス巡洋艦と駆逐艦、ならびに、グラマンF-14トムキャットとそれに搭載されるフェニックスミサイルを併用するという作戦だ。
ロシアのTu-22M3の航空編隊はソ連がかって所有していた空軍力のほんの一部分にしか過ぎないが、近代化された武器やセンサーを用いており、今日のバックファイアーはその規模が小さいとは言え、大きな脅威である。
Photo-4
米海軍はもはやトムキャットを使用してはいないことから事態はさらに悪化し、対空仰撃能力を劣化させている。そうした現状から、ロシアのそこそこの規模の対艦攻撃能力であってさえも、優れた速度と操縦性を有するKh-32ミサイルは米空母攻撃軍団にとっては本物の危険をもたらすであろう。
米海軍はボーイングF/A-18E/Fならびにイージス巡洋艦や駆逐艦を使って、近代化されたバックファイアーやKh-32ミサイルから空母を防護する能力は持っている。しかしながら、スーパーホーネットの速度がもの足りないことを考慮すると、バックファイアーがミサイルを発射する前にバックファイアーを仰撃するというシナリオに頼り切ることはできそうにない。
しかしながら、AIM-120Dアムラムや艦艇発射型のSM-6は優れたミサイルであって、Kh-32が戦場に現れてもKh-32に対抗するには十分であろう。 [ミサイルが群れを成して殺到しない限り・・・。] しかし、米軍にとっては問題はバックファイアーだけではない。中国は太平洋でロシアと同様な攻撃能力を確立している。最終的には、米海軍は2030年代までには空母を防護することが可能な戦闘機の開発を行う必要があろう。
過去の四半世紀の間眠っていた爆撃機の脅威が今戻って来たのである。
出典: Checkpoint Asia
米海軍はボーイングF/A-18E/Fならびにイージス巡洋艦や駆逐艦を使って、近代化されたバックファイアーやKh-32ミサイルから空母を防護する能力は持っている。しかしながら、スーパーホーネットの速度がもの足りないことを考慮すると、バックファイアーがミサイルを発射する前にバックファイアーを仰撃するというシナリオに頼り切ることはできそうにない。
しかしながら、AIM-120Dアムラムや艦艇発射型のSM-6は優れたミサイルであって、Kh-32が戦場に現れてもKh-32に対抗するには十分であろう。 [ミサイルが群れを成して殺到しない限り・・・。] しかし、米軍にとっては問題はバックファイアーだけではない。中国は太平洋でロシアと同様な攻撃能力を確立している。最終的には、米海軍は2030年代までには空母を防護することが可能な戦闘機の開発を行う必要があろう。
過去の四半世紀の間眠っていた爆撃機の脅威が今戻って来たのである。
出典: Checkpoint Asia
<引用終了>
これで全文の仮訳が終了した。
元来は米空母を破壊するために設計されたミサイルが近代化され、攻撃目標としては空母だけではなく、地上のインフラをも破壊できるよう改造され、この新型ミサイル(Kh-32)は新型バックファイアー爆撃機に搭載されるという。米海軍はこのロシアの爆撃能力には対抗できないかも知れない。引用記事の著者は「バックファイアーがミサイルを発射する前にバックファイアーを仰撃するというシナリオに頼り切ることはできそうにない」と指摘している。バックファイアーを仰撃できなければ、50億ドルものコストを投入した米空母はロシア空軍の餌食となる。
米空軍が採用する最新式の戦闘機はF-35である。これはさまざまな型式の戦闘機を需要に応じて設計・製造し、顧客のニーズに合わせるという野心的な設計思想の下で開発が行われたものだ。地上基地を使う戦闘機(F-35A)、短距離離着陸・垂直着陸型機(F-35B)、艦載型(F-35C)とさまざまである。1992年から3000憶ドルもかけて開発が進められて来たが、まだ完成とは言えず、総開発コストは最終的に1兆ドルを超すかも知れないと言う。しかしながら、すでに配備された戦闘機は技術的な問題から全機が地上に待機させられ、検査を待つといった状況に何回も見舞われているという。検査で不具合が確認されると修理をしなければならないが、部品の供給が思うようにはいかない。
こうして、F-35戦闘機を運用する米空軍とか海軍では同戦闘機の稼働率は驚くほど低い。その状況は3月27日に掲載した「第三次世界大戦のシミュレーションでは米国が敗退 - ランド研究所」と題する投稿の後半で米政府の会計検査院が実施した調査の結果を紹介済みだ。ご興味のある方は3月27日の投稿をご覧願いたい。
このような現状を見ると、ペンタゴンはロシアや中国に対して先制核攻撃をするといった威勢のいい掛け声をかける割には実態がまったく伴わないのではないかという懸念が生じて来る。素人目にさえもギャップが余りにも大きい。
元来は米空母を破壊するために設計されたミサイルが近代化され、攻撃目標としては空母だけではなく、地上のインフラをも破壊できるよう改造され、この新型ミサイル(Kh-32)は新型バックファイアー爆撃機に搭載されるという。米海軍はこのロシアの爆撃能力には対抗できないかも知れない。引用記事の著者は「バックファイアーがミサイルを発射する前にバックファイアーを仰撃するというシナリオに頼り切ることはできそうにない」と指摘している。バックファイアーを仰撃できなければ、50億ドルものコストを投入した米空母はロシア空軍の餌食となる。
米空軍が採用する最新式の戦闘機はF-35である。これはさまざまな型式の戦闘機を需要に応じて設計・製造し、顧客のニーズに合わせるという野心的な設計思想の下で開発が行われたものだ。地上基地を使う戦闘機(F-35A)、短距離離着陸・垂直着陸型機(F-35B)、艦載型(F-35C)とさまざまである。1992年から3000憶ドルもかけて開発が進められて来たが、まだ完成とは言えず、総開発コストは最終的に1兆ドルを超すかも知れないと言う。しかしながら、すでに配備された戦闘機は技術的な問題から全機が地上に待機させられ、検査を待つといった状況に何回も見舞われているという。検査で不具合が確認されると修理をしなければならないが、部品の供給が思うようにはいかない。
こうして、F-35戦闘機を運用する米空軍とか海軍では同戦闘機の稼働率は驚くほど低い。その状況は3月27日に掲載した「第三次世界大戦のシミュレーションでは米国が敗退 - ランド研究所」と題する投稿の後半で米政府の会計検査院が実施した調査の結果を紹介済みだ。ご興味のある方は3月27日の投稿をご覧願いたい。
このような現状を見ると、ペンタゴンはロシアや中国に対して先制核攻撃をするといった威勢のいい掛け声をかける割には実態がまったく伴わないのではないかという懸念が生じて来る。素人目にさえもギャップが余りにも大きい。
注1: A Carrier
Costs 5 Billion Dollars. It Could Be Taken Out by This 40 Million Dollar
Russian Plane: By The National Interest, Apr/25/2019; RUSSIA INSIDER,
Apr/27/2019
注2: The Pentagon Can’t Account for 21 Trillion Dollars (That's Not a Typo): By Lee Camp, May/14/2018
注2: The Pentagon Can’t Account for 21 Trillion Dollars (That's Not a Typo): By Lee Camp, May/14/2018
0 件のコメント:
コメントを投稿