2019年11月4日月曜日

ロシアとの戦争に導こうとしている


2019年も残るは2ヶ月足らずとなった。この2019年にわれわれが目にしたもっとも大きな政治ニュースは米国におけるロシア叩きの最終段階ではないだろうか。ロバート・ミュラー特別検察官の報告書は民主党の期待を裏切った。彼は2016年の大統領選に起こったとされるトランプ大統領のロシアとの共謀を立証することができなかった。しかしながら、それで民主党のトランプ降ろしが終わった訳ではない。
 
メディアは一般大衆がテレビを観てくれ、新聞を読んでくれさえすれば、たとえ彼ら自身が報道する内容が作り話であってもお構いなしという無責任な態度をとり続けている。それを示す証拠が挙がっている。奇しくも、CNNのあるディレクターは自分の発言が隠し撮りされているとは気づかずに率直にそのことをリポーターに話した。まさに企業ぐるみである。多くのジャーナリストが真実を掘り起こし、それを伝えるというジャーナリズムの真髄を組織全体で放棄し、彼らが持つ時間とエネルギーならびに知的能力といった貴重な資産を一般大衆を扇動することに投入しているのである。これほどの浪費があるだろうか?不幸にも、これはふんだんな資金力と人的資源ならびに組織力を持つ大手メディア、つまり、全米規模で影響を与えることが可能な企業の話である。
 
トランプ大統領のロシアとの共謀という筋書きはそれを推進すればするほど、ロシアを悪者扱いする手口がより厳しいもの、より悪辣なものへと変化してきた。たとえロシアをこき下ろすネタが作り話であってもお構いなしにメディアはそれを喧伝する。ますます冷却する両国間の政治的関係を反映して、ふたつの核大国はすでに軍事的競争の段階に突入している。人類にとっては非常に危険な兆候だ。
 
一方、大手メディアの報道に飽き足らず独立心が旺盛な識者らは専門家の立場からさまざまな形で現状を分析し、一部の良心的なメディアを通じて得られた知見や助言を伝え、一般大衆が洗脳されないようにと警鐘を鳴らしている。
 
ここに「ロシアとの戦争に導こうとしている」と題された記事がある(注1)。著者のクリス・エッジスはロシア学の権威でプリンストン大学とニューヨーク大学の名誉教授でもあるステイーブン・コーエンにインタビューした。このインタビュー記事もわれわれ一般大衆に対する啓蒙のひとつである。言うまでもなく、それを適切に理解するかどうかはわれわれ次第だ。
 
これは今年の6月の記事であるが、地球規模の戦略をあれこれと考察しようとする時、多くの場合年単位あるいは10年単位で物事を把握しなければならないことから、この記事は決して古いという訳ではない。
 
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

 
<引用開始>

ロバート・ミュラーの報告書は2016年の大統領選でドナルド・トランプと彼の選挙団がロシアとの共謀を図ったと結論付けることができなかったにもかかわらず、モスクワ政府との新冷戦は弱まる気配を見せてはいない。それはロシアとの国境にまでNATOの勢力を拡張することを正当化することに利用された。そして、この動きは米国の武器メーカーに何十億ドルもの利益をもたらした。それは国内の批判者や代替メディアを外国勢力の工作員であるとして悪者扱いするために利用された。それは民主党の労働者に対する裏切りや同党の企業パワーへの服従を覆い隠すために使われている。それは世界のふたつの核大国間の緊張緩和に対する信用を低下させるために使われている。それは米国内では市民の自由を奪うために、海外では米国が特定の国家に介入するために使われている。たとえば、シリアやベネズエラだ。この新冷戦はトランプの大統領選以前にまで遡る。新冷戦は10年以上も前に軍需産業と諜報機関によって作り上げられた。彼らはロシアとの紛争を扇動することによって自分たちのパワーを強化し、自分たちの利益を拡大することが出来ると判断した。(諜報活動の70%は民間企業であるブーズ・アレン・ハミルトンによって実行され、同社はスパイ活動の領域では世界でもっとも大きな利益を上げている。)

『これはトランプやロシアゲートよりもずっと以前に始まっていたと私の「On Contact」というテレビショウでインタビューに応えてくれたスティーブン・F・コーエンは述べている。コーエンはプリンストン大学の政治学の名誉教授であって、同大学でのロシア研究プログラムでディレクターを務めていた。また、ニューヨーク大学ではロシア学と歴史の名誉教授でもある。ワシントン政府は当時のソ連の共産主義指導者と生産的な外交をすることに何ら問題がなかったが、これは何故か、と自問自答しなければならない。リチャード・ニクソンとレオニード・ブレジネフとの関係をご記憶だろうか?あれはラブ・フェストだった。彼らは(ソ連で)一緒に狩猟に出かけた。そして、ソ連が解体されてからは、ウラジミール・プーチンが現れた。彼は共産主義者でないばかりか、反共産主義者であると公言している。ワシントン政府は2003年、2004年の頃から彼を嫌っている。このことは何らかの説明を要する。われわれはどうして反共産主義のロシアの指導者よりもむしろ共産主義の指導者を好きなのか?これは大きな謎だ。』 

『もしもあなたがワシントンのお偉方がいかにして憎しみを抱き、かつ、悪者扱いしながらプーチンを扱って来たかについて説明したいと思うならば、プーチンが登場する前の1990年代まで遡らなければならない、とコーエンは言った。彼の新刊書は「ロシアとの戦争?プーチンならびにウクライナからトランプならびにロシアゲートまで」と題されている。ソ連崩壊後の最初の指導者はボリス・イエルツィンである。米国側はクリントンが大統領。ふたりは作り物で、まがいものの友情を築き、そこでは、クリントン政権は本質的にはロシアが崩壊の途上にある現実に便乗していた。ロシアは主権を喪失する寸前であった。私は90年代にロシアに住んでいた。中産階級は自分たちの職を失い、高齢者は年金を失った。1990年代にロシアの工業生産が低下した割合は大恐慌の際にわれわれが失った割合よりも大きいと私は思う。あの状況は平和時に起こった事例の中では最悪の経済的・社会的恐慌であった。あれはロシアにとっては破滅的な状況だった。』

1993年の9月、ロシア人は街頭に繰り出して、恐ろしいほど蔓延している腐敗に加えて経済崩壊(国内総生産が50%も減少し、ハイパーインフレーションによって国が動揺していた)に抗議し、反政府行動を起こした。国営企業は取るに足りない手数料でロシアの振興成金に売却され、外国企業はたっぷりと袖の下や賄賂を受け取った。食料や燃料が不足し、給料や年金の支払いが滞った。医療サービスも含めて、基本的サービスが著しく不足。平均余命が低下。暴力犯罪が急増。イエルツィンの権力は拡大され、彼のチェチン戦争は不人気であった。

199310月、議会が民主的な反政府派の連中によって占拠されていたことから、イエルツィンは、議会の解散後、軍の戦車にロシア議会の建物に向かって砲撃するよう命じた。それでも、イエルツィンはワシントン政府によって大げさに賞賛され、支援されていた。これには1996年の大統領の再選キャンペーン時におけるIMFからの102億ドルの融資に関する米国政府の支持も含まれる。この融資はイエルツィンの政府が遅配となっている何百万人ものロシア人の給料や年金を支払うのに充当された。多くの場合、小切手は選挙の前日に届けられた。また、 この融資から15億ドルが直接イエルツィン大統領の再選のために充当された。しかし、199912月にイエルツィンが放り出される頃には彼の支持率は2%に低迷していた。ワシントン政府はイエルツィンを失い、新しいロシアの指導者を探し始めた。そして、彼らはプーチンにお誂えの指導者としての器量を見つけた。最初はそう思っていた。

「プーチンはテキサスへ出かけた」と、コーエンが言った。「彼はブッシュと二番目のブッシュと一緒にバーベキューを楽しんだ」 ブッシュはこう言った。「彼の目を覗き込んで、立派な魂を見た。」 当初はこのような蜜月の期間があったのだ。彼らはどうして反プーチンに変身したのか?彼はイエルツィンと同じではないことが分かったのだ。このことについては非常に興味深いコメントがある。ニューヨークタイムズのコラムニストであるニコラス・クリストフのコメントだ。2003年のことだったと思うが、彼はこう書いている「プーチンに関する彼の妄想は崩れた。プーチンは「しらふのイエルツィン」ではなかった。ワシントン政府が期待していたのは従順で、嘆願するようなソ連崩壊後の指導者であり、より若く、より健康で、呑み助ではない人物であった。彼らはプーチンにはそういった特性が備わっていると思っていた。イエルツィンはプーチンを権力の座に据えた。少なくとも、イエルツィンの取り巻きはそうした。」

「プーチンがロシアの主権や国際関係に関しては独立した態度を取ることについて話し始めた時、彼らは愕然とした」とワシントンのエリートらについてコーエンは言った。「これは彼らが期待していたことではない。私自身の考えでは、1990年代以降プーチンを手に入れたことはわれわれにとっては極めて幸運であった。周りには性質の悪い競争相手がいた。私は何人かをよく知っている。彼らの名前は言いたくはない。しかし、実際に何人かは実に手厳しい連中だ。プーチンは然るべき時のためには非常に適切な人物であって、ロシアのためにもロシアの国際関係のためにもいいことだ。」  

「われわれはこのためにもう3年も費やしてきた」と、ロシアゲートに関してコーエンは言う。『われわれはこの主張の本質を見失ってしまった。ロシアゲートをでっち上げた連中はもう3年間も「米国大統領はロシアのエージェントだ」、あるいは、「彼はクレムリン政府によって妥協させられた」と言っている。この話は余りにも凄いのでわれわれはニヤッとする。しかし、ワシントンのお偉方は、主として民主党員であり、さらには、彼らだけに限らず、これを真面目に受け取った。』

「アメリカの歴史にこのようなことがあったかどうかは私は知らない」とコーエンは言った。「あの批判はわれわれの制度に、ならびに、大統領制や選挙システム、議会、米国の大手メディア、米ロ関係、等に害を与えたことは言うまでもなく、ロシアのエリートや若い世代にも害を与えた。今のアメリカを見たまえ。このロシアゲートは全体が詐欺的であったばかりではなく、完全な失敗でもあった。」

20世紀の緊張緩和には三つの主要なエピソードがあった」とコーエンは言う。『最初の緊張緩和はスターリンの死後、冷戦が非常に危険であった頃だ。あれは共和党からの大統領であったドワイト・アイゼンハワーによって実行された。二番目はヘンリー・キシンジャーによって助言を受けて行動を起こしたニクソンだ。彼の緊張緩和は「ブレジネフとニクソンの緊張緩和」と呼ばれている。三番目はわれわれがもっとも成功した事例と考えるものであるが、これはロナルド・リーガンとミカイル・ゴルバチョフとによるものだ。この緊張緩和は大成功であった。リーガンの後継者であるブッシュは「冷戦はこれで永久に終わった」とさえ言った。』

1989年の東ドイツの崩壊とベルリンの壁の崩壊についてコーエンは「壁は崩壊した」と言った。 『東西ドイツは再統一しようとしていた。問題は「再統一されたドイツは何処へ行くのか」という点であった。西側はドイツをNATO陣営に留めておきたかった。ゴルバチョフにとっては、その考えは到底呑み込めるものではなかった。第二次世界大戦ではドイツを相手に東部戦線で2750万人のソ連市民が死亡したのである。諸々のたわ言に反して、皆はこう告げられた。米軍はノルマンディーには上陸せず、ナチを降伏させはしなかった。ナチ・ドイツの降伏は主としてソビエト軍によって達成された。ゴルバチョフは家へ帰って、「ドイツは再統一される。偉大な出来事だ。そして、ドイツはNATOに留まる」なんて果たして言えただろうか?NATOは東へ向けて1インチたりとも動かない。これはジェームズ・ベーカー国務長官が述べた文言である。換言すると、NATOはドイツより東へ、つまり、ロシアに向かっては決して拡大しないということだ。ところが、NATOは動いた。』

「今日、われわれが知っているように、NATOはロシアの国境にまで迫っている」とコーエンは言った。『バルト三国からウクライナへ、そして、ソ連邦の元一員であったジョージアへ。いったい何が起こったのか?後に、彼らは「ゴルバチョフは嘘をついた」、あるいは、「彼は誤解したのだ」と言った。「何の約束も無かった」とさえも言った。しかし、ワシントンの国家安全保障アーカイブは1990年に行われた討議についてすべてを文書化した。ジョージH.W.ブッシュだけではなく、フランス大統領のフランソワ・ミッテランや英国のマーガレット・サッチャー首相も含めて、西側の指導者らはゴルバチョフにNATOは東へ向かっては動かないと約束していたのである。』

「それで、今日、あなたはいったい何に直面しているのか?」と彼は問いかけてきた。『裏切りだ。今日の米ロ関係についての討議ではいかなる場合であっても情報通のロシア人はこう言うのではないか?「あんた方はまたもやわれわれを裏切ることだろう。」 ・・・プーチンは彼が権力の座に就いた時、彼は西側については勘違いをしていたと言った。』 

トランプは2016年にどこからともなく現れ、こう言った。「われわれはロシアと協力するべきだと思う」とコーエンが言った。「これは緊張緩和の宣言である。これは私の関心を彼に引き付けた。トランプはクレムリンのエージェントだとする見方が始まったのはこの時からだ。誰もが疑問に思い、私自身は実証できないけれども、論理的に考えなければならない。この非難は緊張緩和を標榜する大統領を望もうとはしない高官の誰かから始まったのではないか?当時、トランプが勝利を収める可能性は非常に小さかった。とは言え、彼らはロシアとの協力を話し合うことは好まなかった。それが今われわれがロシアゲートと呼ぶ一連の動きの口火となったのだ。」

「緊張緩和の先人は共和党である」とコーエンは言う。「これらの緊張緩和の期間に民主党がどのような挙動を示したのかと言うと、それはさまざまである。ヘンリー・ジャクソン陣営と称される集団があった。これはイデオロギーに凝り固まった民主党の強硬派で、緊張緩和なんて信じてはいなかった。民主党でも何人かは信じていた。ソ連時代にも、ロシアになってからも、私はモスクワに何年間か住んでいたことがある。仮にあなたがロシアの議員と話しをするならば、通常、彼らは大統領には共和党の候補者を好む。」

民主党員はロシアの議員たちからはよりイデオロギーに凝り固まっていると見なされているとコーエンは言う。

「共和党員はロシアとのビジネスを推進したいビジネスマンであることが多い」と彼は言った。『1970年代に設立されたものであるが、緊張緩和にとってもっとも重要なロビー活動のグループは「東西調和のための米国の委員会」(American Committee for East-West Accord)と称されている。これはソ連とのビジネスを希望する米国のCEOらによって創立されたものだ。』

「米国が持つ対外関係で唯一の重要な相手はロシアである」とコーエンは続けた。「核大国であるからというばかりではなく、ロシアは世界で最大の領土を有している。われわれが関心を寄せる地域ではいつもロシアと隣接する。ロシアとの緊張緩和、これは友好関係でもパートナーの関係でもなく、同盟関係でもない。しかし、紛争を低減させることにその本質がある。それにもかかわらず、2016年に何かが起こった。」

非難の内容はクレムリンがトランプをコントロールしているとかロシアはわれわれの選挙を盗んだというものであって、元国家安全保障局長官のジェームズ・クラッパーと元CIA長官のジョン・ブレナンによって何度も繰り返された。これらの非難は極めて憂慮すべきものであるとコーエンは言う。クラッパーとブレナンはトランプをクレムリンの「スパイ」として描写した。ブレナンはフィンランドでロシア大統領と共に行ったトランプの共同記者会見を「まさに国家反逆罪に他ならない」とさえ言った。

クラッパーは「事実と恐怖:諜報に捧げた生活から得られた真実」(Facts and Fears: Hard Truths From a Life in Intelligence)と題された彼の回想録の中で2016年の大統領選でプーチンがトランプのために行った干渉は「驚くばかりである」と主張している。

「もちろん、ロシアの努力は選挙結果に影響を及ぼした」とクラッパーは書いている。「彼らさえもが驚いている。彼らは票を動かし、トランプを勝たせた。これとは違う結論を導くには論理や常識ならびに軽信性をそれらが限界に至るまで伸ばさなければならない。三つの重要な州で8万票弱が動いた。それよりももっと多くの票がロシア人によるこの強力な努力によって影響を受けたことは疑いようもない。」

ブレナンとクラッパーは機会があるごとに公衆に向かって嘘をついたことが分かっている。たとえば、CIAは上院の職員が拷問に関する報告書を書いていたコンピュータを調査した。ブレナンはこの事実を不誠実にも否定した。上院諜報委員会の議長であるダイアン・フェインスタインはこの件を上院で取り上げ、CIAが拷問を活用したことを彼女の上院委員会が調査し、CIAがこの調査をスパイし、それを阻止しようとしたことでブレナンとCIAは潜在的に米国憲法を侵害した恐れがあり、犯罪行為であるとして非難した。彼女はこの状況を政治的監視のための「決定的瞬間」であると性格付けた。また、ブレナンは無人機を使った暗殺プログラムでは「一般人の巻き添え殺人」は一件もない、そして、オサマ・ビン・ラーデンはパキスタンでの米国の襲撃で射殺される前に妻を盾代わりに使ったと主張した。さらには、拷問を婉曲的に「強化尋問」と表現し、拷問は有用な情報を生み出してくれたと彼は言い張った。これらの文言は何れも真実ではない。

クラッパーは米国がイラクへ武力侵攻した時にはスパイ衛星からの写真や空気中の粒子および土壌サンプルを評価する任務を持つペンタゴンの機関、アメリカ国家地理空間情報局のディレクターであったが、彼はサダム・フセインの在りもしない大量破壊兵器のストーリーをでっち上げ、シリアへの侵攻の前夜にはシリアに対する彼のプログラムを検証する文書をでっち上げた。彼は上院で米国の一般市民に対する監視プログラムに関して質問をされた際にあからさまな偽証をした。彼は「NSA(国家安全保障局)は何百万人あるいは何億人もの米国市民について何らかのデータを収集しているのか」との質問に対して、クラッパーはこう答えた。「いいえ、故意には何も。」 クラッパー自身が良く知っているように、この返事は嘘であった

諜報部門の上級職員や諜報機関を監督し、コントロール下に置くことができないわれわれの無能さは影の国家が抱く目標に向けて情報をでっち上げることさえも許してしまう。これは民主主義の死を示唆している。諜報官僚は、見たところ、嘘をつく権限が与えられている。ブレナンとクラッパーはそのような連中の一人であって、不吉にも、批判者を効率的に沈黙させ、たとえ政府内部であってさえも彼らの行動を調査し、彼らや彼らの機関を説明のしようがないものにしてしまう監視や脅かしおよび抑圧の手段を手中に持っていた。

クリストファー・スティールによって編集された報告書に関しては、「われわれは米国のメディア内を流れているスティール・ファイルを持っている」とコーエンが言った。

この報告書はフュージョンGPSに発注され、ヒラリー・クリントンの選挙団と民主党全国委員会によって支払いが行われた。ボブ・ウッドワードはこう報告しているブレナンはスティール・ファイルをロシアの選挙干渉に関する諜報部門の評価に含めるよう後押しした。

「彼(スティール)はあの内容を新聞から入手したのだ」とコーエンは言った。『情報の入手源をたとえ一人でも彼がロシアに持っていたとはとても思えない。スティールはこの報告書を見せて、こう言った。「私は上層部からこの情報を入手した。」 クリントンの選挙団はこの仕事に資金を提供した。彼は英国の元諜報職員であり、本当にそうであったとすれば、彼はロシアで勤務し、ロシアで仕事をしていたことであろう。トランプが売春婦と跳ね回っていたとするファイルに含まれている情報を彼は所有していると言う。トランプが遊びまわっていたのは何十年も前の話だ。彼はこの情報をクレムリンの上層部から入手したと言うが。この説明は不合理で、非論理的だ。」

「論理としては、プーチンは是非ともトランプに大統領になって欲しかったのではないか?」とコーエンは言う。 「それにもかかわらず、クレムリンのプーチンの側近の誰かがスティールという男にトランプに関する悪口を流した。自分のボスがトランプの勝利を望んでいるというのに、そんなことをするだろうか?」

「このことはどうして重要なのか?」とコーエンが質した。「右翼の米メディア、特に、フォックスニュースはこのロシアゲート全体にわたってロシアを非難し続けていた。ロシアはこの偽情報をスティールに提供し、彼はそれをわれわれのシステムに注入した。こうして、ロシアゲートをもたらしたと言う。しかし、これはまったくの出鱈目だ。」

「スティール作戦を含めて、背後にはいったい誰が潜んでいるのか?」とコーエンが質す。「私は正統派の質問よりも立派な質問が好きだ。私は教条主義者ではない。私には証拠がないが、表に現れているすべての情報は、これはブレナンとCIAから始まったことを示唆している。それはかなり以前に、2015年の始めの頃、米国を襲った。今日われわれが抱えている問題のひとつは誰もがFBIを思い付くことだ。たとえば、電子メールを交わす愛人たちしかし、FBIは優柔不断な組織であり、FBIを恐れる者なんていない。今や、J・エドガー・フーバーの監督下にあった頃の組織ではなく、すっかり変容している。ジェームズ・コミーを見たまえ。ブレナンとクラッパーはコミーを手玉にとった。彼らはこれを彼に押しやった。コミーはクリントン候補の電子メール問題を取り扱うことさえもできなかった。彼は何でも台無しにした。狡猾なのは誰か?それはブレナンとクラッパーだ。ブレナンはCIA長官。クラッパーは国家情報部門の長官で、これらの機関を監督する立場にあった。」

「トランプとプーチンに関するこれらのロシアゲートの主張には何らかの現実性があるのだろうか?」と彼が質した。「これはわれわれの諜報部門による妄想だったのではないか?今日、米国司法長官を含めて、調査の実施が約束されている。彼らは誰もがFBIを調査したがっている。しかし、彼らはブレナンおよびCIAが何をしたのかを調査する必要がある。これは、少なくとも南北戦争以降の米国史においては最悪の醜聞だ。これがどのように始まったのかを知る必要がある。もしもわれわれの諜報部門が限界を逸脱して、まず大統領候補を潰し、次には大統領を潰すようなことまでもが可能であるとすれば、相手がトランプであることには私は構わないが、次回はハリー・スミス、あるいは、女性大統領だ。彼らがこんなことを仕出かすことが可能であるのかどうかをわれわれは知らなければならない。」

「二番目のブッシュは2002年に弾道弾迎撃ミサイル制限条約から脱退した」とコーエンは言った。「あれは非常に重要な条約であった。あの条約は弾道弾迎撃ミサイル網を配備することを防止してきた。もしもどちらかが有効な迎撃ミサイル網を持ったとしたら、彼らは相手に第一撃を加える選択肢を手にしたと考える。ロシアまたは米国は、反撃を受ける心配もなく、相手を攻撃できる。ブッシュがこの条約を破棄した後に、われわれは弾道弾迎撃ミサイル網をロシアの周りに配備し始めた。非常に危険なことだ。」

「ロシアは新たなミサイル・プログラムを開始した。これについてはわれわれは昨年知ることになった」と彼は言った。『極超音速ミサイルだ。ロシアは今や如何なるミサイル迎撃網であってもかいくぐることができる核ミサイルを所有する。われわれは今までの50年間の核兵器競争においてはまったく新しく、かつ、危険性がより高い段階に達している。プーチンは「われわれはあんた方がしたことを受けて、これらを開発することになった。われわれは今や相互に破壊し合うことが可能だ」と言う。今や、新たな軍縮協定に真剣に取り組まなければならない時だ。それにもかかわらず、われわれはいったい何をしでかしたのか?こともあろうにロシアゲートだ。ロシアゲートは国家安全保障に対するもっとも大きな脅威のひとつである。私はこの本で五つの脅威を書いたロシアや中国は含まれない。しかし、ロシアゲートは一番大きな脅威だ。』

著者のプロフィール: クリス・ヘッジスは特派員として中米、中東、アフリカおよびバルカンで約20年間を過ごした。50カ国以上から報告し、クリスチャン・サイエンス・モニターやナショナル・パブリック・ラジオ、ダラス・モーニング・ニュース、および、ニューヨーク・タイムズのために働いた。これらのメディアのために15年間を特派員として過ごした。https://www.truthdig.com/author/chris_hedges/

<引用終了>
 
これで全文の仮訳が終了した。
米政府はロシアゲートがどのようにして始まったのかという謎を解くための調査を開始しようとしている。ウィリアム・バー米司法長官がその任を与えられた。遅かれ早かれ、調査結果が公表されることであろう。
ここに引用したクリス・ヘッジのコーエン教授とのインタビューは上記のバー司法長官の調査結果を待たずに、すでに中核的な方向性を示している。コーエン教授は焦点はブレナン元CIA長官とCIAにあると指摘している。

ロシアゲートは新冷戦の中のひとつのエピソードでしかない。ロシアゲートよりも大きな枠で眺め、新冷戦の本質を議論するならば、まずは、新冷戦そのものはいったいどのように構築されているのか、新冷戦によっていったい誰が得をするのかという疑問に答えなければならない。奇しくも、コーエン教授は上記の引用記事で次のように答えている:
ロバート・ミュラーの報告書は2016年の大統領選でドナルド・トランプと彼の選挙団がロシアとの共謀を図ったと結論付けることができなかったにもかかわらず、モスクワ政府との新冷戦は弱まる気配を見せてはいない。それはロシアとの国境にまでNATOの勢力を拡張することを正当化することに利用された。そして、この動きは米国の武器メーカーに何十億ドルもの利益をもたらした。
そして、この軍産複合体の中核的な目標はさまざまな動きの中に実に巧妙にカモフラージュされ、軍産複合体の利益のために威力を発揮するのである。

それは国内の批判者や代替メディアを外国勢力の工作員であるとして悪者扱いするために利用された。それは民主党の労働者に対する裏切りや同党の企業パワーへの服従を覆い隠すために使われている。それは世界のふたつの核大国間の緊張緩和に対する信用を低下させるために使われている。それは米国内では市民の自由を奪うために、海外では米国が特定の国家に介入するために使われている。たとえば、シリアやベネズエラだ。
要するに、新冷戦の存在は米軍需産業の金儲けのためである。不幸なことには、世界中がそれに振り回されて、莫大な浪費をしている。言うまでもなく、これは世界史の中で何度も現れてきた構図であるのだが、大手メディアによる巧妙で大規模な扇動によって一般大衆は見事に誤導されているのだと言えよう。そして、その影響を直接受けているのは米国はもとより、西側全体なのである。 

新冷戦を作り出した最大の要素は米国がNATOをロシアとの国境にまで拡大し続けたことではないだろうか。米国のジェームズ・ベーカー国務長官は「NATOは東へ向けて1インチたりとも動かない」とゴルバチョフ書記長に約束していたのである。ワシントンの国家安全保障アーカイブは1990年に行われた討議についてすべてを文書化した。それによると、ジョージH.W.ブッシュだけではなく、フランス大統領のフランソワ・ミッテランや英国のマーガレット・サッチャー首相も含めて、西側の指導者らはゴルバチョフにNATOは東へ向かっては動かないと約束していたのである。それにもかかわらず、NATOは動いた。
米政治家の偽善振りは留まることを知らない。米国のエリートは文書化されている詳細な事実を見て、米国が約束を守らなかったことに関して恥ずかしくは思わないのだろうか?

ロシア学の権威であるスティーブン・コーエン名誉教授の緻密な情報収集とその分析ならびに洞察、さらには、このインタビューを実現し、世に送り出してくれたジャーナリストのクリス・エッジスに謝意を表したい。この引用記事によって、新冷戦のもっとも主要な要素を理解することが可能であるからだ。

 
参照:
1Manufacturing War With Russia: By Chris Hedges, Information Clearing House, June/03/2019

 

 


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