2020年7月16日木曜日

どうして中国は資本主義国家として描かれているのか


アンドレ・ヴルチェクという著者の名前は本ブログの読者の皆さんにはすでにお馴染みであると思う。このブログに何回か登場して貰っているからだ。彼はロシア人として生まれたが、今は米国籍。哲学者であり、世界中を訪れて国際政治を分析し、調査報道を行うジャーナリストでもある。さらには、記録映画の制作や著作にも従事し、実に多才だ。

今思い起すと、彼の著作に始めて接した時私は彼独特の解析と洞察力に圧倒されるような印象を抱いたものだ。あの時の感慨は新鮮に残っている。若い頃、歴史家であるアーノルド・トインビーの本を読んで、目が覚めるような思いを感じたことがある。本一冊で世界観が大きく変わったのだ。これは、あの時の感覚と非常によく似ている。

アンドレ・ヴルチェクの著作の中で本ブログが掲載したものとしては下記のようなものがある:

202042日:「本当に病んでいると言えるのは中国ではなく、西側である」(yocchan31.blogspot.com/2020/04/blog-post.html
2019731日:「西側はなぜ中国の成功を無視しようとするのか」 (yocchan31.blogspot.com/2019/07/blog-post
201819日:「戦場の特派員からの新年のメッセージならびに警告 - アンドレ・ヴルチェク」 (yocchan31.blogspot.com/2018/01/blog-post_9.html
2016711日:「日本のメディアが誰にも喋って欲しくはないこと」 (yocchan31.blogspot.com/2016/07/blog-post_11.html

最近の彼の記事は「どうして中国は資本主義国家として描かれているのか」と題されている(原題:Why is China Painted as ‘Capitalist’ by Western Propaganda?By Andre Vltchek, Information Clearing House, Jul/09/2020 )。その内容は昨年731日に投稿した記事の続編であるかのような印象を受ける。中国問題は著者にとっては長い間熟成させてきた重要なテーマであり、哲学的な思考の結果でもあるようだ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


パンチの効いた表現から始めてみよう。「米国やヨーロッパ、カナダおよびオーストラリアのマスメディアは中華人民共和国を資本主義国家であると描写する。それはなぜかと言うと、今や資本主義という言葉は相手をさげすむのに都合がいい、実に汚い言葉であるからだ。西側の人たちは市場経済を一種のゴミのように汚いものだと見なしてさえもいる。」 

中国を資本主義国家と呼ぶのは同国を貶めるためである。それはあたかも「中国人はわれわれ自身とまったく同じではないか。中国はわれわれが行ったような不正義を行い、われわれが過去の500何十年間にわたって犯してきた犯罪行為と同様のことを犯している」と言おうしているように思える。

西側、特に米英両国が行う民衆に対する扇動はまさに完璧とも言えるほどの境地に達している。彼らは世界中のあらゆる地域で何十億人もの精神を条件付けし、一様で卑屈なほどに従順な物の見方をするように仕向けている。これはすべてがすでに単なるプロパガンダの域を越して、アートとでも言えるようなレベルの洗脳である。その目標を見逃すことなんてあり得ない。そして、何人かの頑迷な個人を説得することには失敗するかも知れないが、他人とは違う考えを持ち、独立心が旺盛な人物の精神に対しても常に彼らのプロパガンダ何らかの痕跡を残していく。

一言で言えば、西側のプロパガンダは完璧そのものだ。命取りとさえなる。現在までのところ、敵の反撃に対する防弾性能は群を抜いている。

「資本主義国家である中国」とか「中国の国家資本主義」といった言葉はすべてが真実を偽っているのであるが’、それらの文言について反論する者が誰もいなくなるまで彼らは何度でも繰り返して用いる。

ウィグルや香港、中印国境についてもまったく同様なことが言える。さらには、さまざまな歴史的出来事についても同様だ。

それにしても、現実の課題として彼らはどうして中国は「社会主義国家ではない」といった嘘をつかなければならないのだろうか? 

答えは簡単である。ほとんどの人たちは「社会主義」とか「共産主義」という言葉によってある種の希望を連想するからだ。確かに、その傾向は強い!少なくとも、意識下においてはそう連想してしまう。何十年にもわたる洗脳と相手を蔑むキャンペーンの後であってさえもだ!「社会主義国家の中国」とは「中国の人民ならびに世界に希望をもたらす中国」を意味することになるのである。その一方で、世界中の人々は「資本主義」という言葉は気分を沈滞させ、気の抜けた、退行的な状況を連想する。こうして、中国を「資本主義国家」と呼ぶことによってこの言葉は中国に関して陰鬱で、落ち込んだ印象をもたらす。

帝国主義的、かつ、資本市議的である西側は社会主義とはもうこれ以上競争することはできない。したがって、西側は中国を塵芥の中へ引きずり込もうとし、中国を破壊しようとしているのである。間接的には、経済制裁を課し、イランや北朝鮮、ボリビア、キューバおよびベネズエラではクーデターを試みた。直接的には、中東の国々でクーデターを引き起こした。中国は考え得るすべての面で攻撃を受けている。当面は軍事的な攻撃には至ってはいないが、これらの攻撃は経済面から始まってイデオロギーに至るまですべての領域で進行している。もっとも強力で極めて不快な武器としては、今までのところ、嘘や矛盾する言動ならびに虚無主義運動が常に注入されてきたことだ。たとえば、香港を見て欲しい!

虚無主義は致命的である。何かに熱中しようとする気分を破壊し、国家から自信や勇気を奪ってしまうからだ。

そして、そういった状況の実現こそが西側が達成しようとしている目標なのである。つまり、さらに先へ進もうとしている進歩的な社会主義国家を脱線させ、新植民地主義によって抑圧を受けている国々からは人々の夢を追い払い、希望を抱き、抵抗する意思を挫こうとする。(私はこうした破壊的なプロセスを「Revolutionary Optimism, Western Nihilism」と題した書物の中で詳しく書いている。)

西側の扇動者はよくわきまえている。つまり、中国はその真髄を奪い取られてしまっている。ここで言う真髄とは「中国的な社会主義」のことである。その真髄を見失った中国はもはや全世界に向けて代替となる社会制度に共鳴させる力はなく、それを売り込むことはできない。中国を貶め、静かにさせるのにもっとも効果的な手法は世界中に中国は「資本主義国家」であると信じ込ませることなのである。

そういった手練手管は以前から用いられてきた。たとえば、ドイツのナチスがそうした。彼らは自分たちの占領に抵抗する勢力には数多くのテロリストが含まれていると主張した。米国もまったく同一の手法を使っていることが知られている。また、大英帝国は反抗的な地域住民を「未開人の集団」と称した。真実の本末を転倒させ、勝ち取るのである!
恥も外聞もなく物事を歪曲し、物事を上下逆さまにし、嘘を何千回でも反復する。マスメディアの全能力を駆使してそれらを印刷する。その結果、何が起こるかと言うと、あなたが推進したい作り話は何十億もの人たちによって信じて貰えるようになる。

中国の場合、西側は中国が米英、仏、カナダと同様にギャング国家であることを全世界に信じ込ませようとしている。中国を資本主義国家と呼ぶことによって、西側はまさにそうしているのだ。中国の挙動を西側の植民地主義大国のそれと等置することによってそうしている。西側自身が何世紀にもわたってそうしてきたにもかかわらず、西側は中国が自国内の少数民族を抑圧していると主張することによってそうしているのである。

***

しかし、中国は資本主義国家ではなく、帝国主義国家でもない。中国はこの地球上で拡張主義を採用しようとはしない大国のひとつである。

中国は世界中で何百万人もの人々を殺害することはなく、外国の政府を転覆させることもしない。そして、貧窮に襲われている国々から最後に残された富を収奪するようなこともしない。

中国は大銀行や超富裕者に支配されているのではなく、社会主義的な5か年計画によって導かれている。同国の民間企業や国有企業は政府ならびに国民の意向に従わなければならない。これらの企業は国民や世界中の生活水準を向上させるために製品を作り、サービスを提供しなければならないのだ。何を製造しなければならないのかに関しては、企業は政府から詳細な指示を受け、西側で起こるような状況とは異なって、国民そのものを代表する。なぜそのような違いが起こるのかと言うと、西側においては政府を選ぶのは一般大衆ではなく、企業であるからだ!

中国は社会主義国家である。それは「中国的な特徴を持った社会主義」である。約14億人の人口を抱える国家において極貧を何とか一掃することに成功した社会主義国家である。「生態学的な文明社会」を作り出そうとしている社会主義国家である。今までは極貧に見舞われていた国々を「一帯一路」政策を通じて結び合わせ、世界をリンクさせようとしている社会主義国家である。

中国においては、民主主義は紙の破片を貼り合わせてひとつの箱を作り上げるような作業ではない。それは、文字通り、国民が支配するものなのだ。それは社会主義国的に発展し、その国の男女や子供たちの生活を毎年のように上へ上へと向上させる国家のことである。

それは新鮮で、楽観的で、常に改善され、進化していくシステムである。中国の都市部や地方で住民に問いかけてみたまえ。彼らはあなたの質問に答えてくれるだろう。彼らの大多数は幸福であり、彼らは希望を抱き、楽観的であさえもある。

北米の都会や地方で人々に同じ質問をしてみたまえ。すると、彼らが言わんとすることは直ぐに分かる。今まで以上に「生活は災難続きだ!」と彼らは毒づくであろう。

***

大きな問題がある。それは北米やヨーロッパの人々のほとんどが中国に関しては必ずしも戦略的とは言えないような手法でしか中国を学んではいないことだ。一般的には、彼らはテレビの前の椅子に座り込んで、あるいは、高度に検閲されているヤフーやグーグルの一面記事から情報を入手するのが普通だ。

中国へ旅行する彼らの多くはグループ旅行をし、主要な観光スポットを訪れるだけである。もちろん、そういった中国との接触であっても何もしないよりは遥かにましだ。中国は何処を訪れても非常に印象深い。

しかしながら、中国に関する判断に関して合格することができるような人たちであってさえも、中国のことを深く理解している西側の人たちというのは極めて少ない。この範ちゅうには トランプ政権で国家通商製造業政策局の長官としてトランプ大統領の補佐役を務めるピーター・ケント・ナヴァロも含まれる。彼は中国のことは何も知らず、中国語は喋れない。しかしながら、反中国のテーマで本を書いている。また、共和党上院の重鎮であるマルコ・アントニオ・ルビオも同類である。

ロンドンやパリおよびニューヨークに住んでいるプロパガンダの専門家たちは、少なくとも西側においては中国に関する知識の欠如には十分に気付いている。とは言え、自分たちは何の反論さえをも受けないことから、彼らは言語同断な大嘘や作り話を勝手気儘に喋り、出版する。そして、反論された場合には、自分たちに大胆にも立ち向かおうとする人たちを容易く検閲することができるのである。

中国共産党の党員である中国人の男性あるいは女性が英国のテレビで自国について喋るのをあなたは今までに見たことがあるだろうか?そんなことは一度もないだろう。本当のことを言えば、少なくとも西側ではそのようなことは禁じられている。西側のプロパガンダの筋書を強く踏襲する中国人だけが西側のテレビチャンネルで自由に喋ることができるのである。そんなことは考えたこともなかった?だったら、ここで良く考えて貰いたい!親プーチン派または親共産主義派のロシア人の中でいったい何人が英国や米国の放送局で喋っているのを視聴しているであろうか?

西側のファイアーウオールは完璧である。

メディアは西側の歴史の中からもっとも汚らしい章を掘り出して、まばたきひとつもせずに、状況をすっかり入れ替えて、中国に対する批判に変換してしまう。オーストラリア人や北米の連中は先住民族やジプシー、アボリジニ、その他の女性を不妊化してきた。こうして、彼らは新たな考えを持ち出して、中国は今同じことを行っていると喧伝する。何世紀にもわたって、西側は人々を植民地の中へ囲い込み、ヨーロッパでは人々を収容所に押し込んだ。巧妙に歪曲した形を用いて、ロンドンやワシントンのプロパガンダの長老らはこれらの挙動を今中国に帰しているのだ。

決定的な証拠は必要ではない。ご自分の想像力をフル回転させるだけでいい。人々は嘘に慣れてしまっている。彼らは従順で、洗脳されている。彼らは他の国、つまり、西側に属さない国家が軽蔑されているのを見るのが好きである。特に、ヨーロッパや米国が何世紀にもわたって犯してきた犯罪と同一のことを仕出かしているとして他国が批判されるのを見るのが好きだ。そのような場面は自分たちの罪の意識を軽減してくれるのである。そして、彼らはこんな風に言うことができる。「世界はどこもかしこも汚らわしい。われわれはお互いに実に酷い!」 

多分、これらのプロパガンダ攻撃の後には何らの希望も残らないであろう。しかしながら、少なくとも西側は自分たちの優位性を急いで捨てる必要もなければ、特権を排除する必要性も感じない。

***

こうして、「中国は資本主義国家なのだ!」 おまけに、バオバブの木は本当はブーゲンビリアなのだ。 西側が主導する専制主義は、それを信じようが信じまいが、民主主義なのである。さらには、西側の助言者は世界に向けて説教を垂らす倫理的な委任状を携えているのである。

中国共産党の何人かの高官らは米国へ旅行することが西側によって禁じられている。それとは対照的に、世界の至るところで集団虐殺を主導してきた責任を持っているにもかかわらず、米国の高官らはどこへでも好き勝手に旅行することができる。

中国の共産党は14億人の人口を抱える国家を繁栄させ、高等教育を施し、今後ますます生態学的に健全な国家を築いていくという責任を担っている。その一方で、米国の帝国主義的な官僚は数多くの進歩的な政府を転覆させ、何百万人もの市民を爆撃し、植民地の環境を破壊し、経済制裁を通じて何億もの人たちを飢餓状態に放り込むという責任を担っている。しかし、彼らは自分自身を制裁することは決してなく、行きたいところは何処へでも出かけることができる。不思議な世界だと思うかい?なぜかを解明・・・ 

中国が順調に行けば行くほど、中国はさらに軽蔑の対象となる。将来さらにうまく行ったとしたら、中国は直接攻撃を受けるかも知れない。恐らくは、武力で。

社会主義国家である中国はますますうまくやって行くことであろう。そうそう、あなた方の推察は正解だ。それは共産党の指導の下でだ! 

ところで、われわれは何に向けて準備をするべきか?第三次世界大戦か?人類の滅亡か?これは西側が負け方を弁えてはいないからなのか?これは、たとえわれわれ人類が絶滅に瀕してさえも、資本主義や帝国主義は世界的な権力の座を手放そうとはしないからなのか?

これは北米やヨーロッパが病的な優越感を患い、集団虐殺の本能に苛まれている悪辣な嘘つきであるからなのか?

残念ながら、われわれのこの地球にとっていい展望であるとは決して言えない。

著者のプロフィール:アンドレ・ヴルチェクは哲学者であり、小説家、映画製作者、そして、調査報道ジャーナリストでもある。彼の近著には次の6冊が挙げられる:New Capital of Indonesia China Belt and Road InitiativeChina and Ecological Civilization John B. Cobb, Jr.との共著)、 Revolutionary Optimism, Western Nihilism、革命小説であるAurora、および、ベストセラーの政治ノンフィクションのExposing Lies Of The Empire 彼の他の書籍に関しては こちら Rwanda Gambitを視聴願いたい。これはルワンダとコンゴ民紙主義共和国に関する画期的な記録映画である。また、ノーム・チョムスキーとの対談を記録した映画、On Western Terrorismもお忘れなく。 ヴルチェクは現在東アジアと南米に住み、世界を駆け巡って仕事を続けている。彼との連絡は彼の ウェブサイト ツイッター および パトレオンでどうぞ。


これで全文の仮訳が終了した。

日本を含む西側においては大手メディアが報道する内容は何らかの検閲を受けていると言われている。21世紀に入ってから早くも20年を経過しようとしているが、言論界を巡る綱引きはどう見ても言論の統制を図る勢力の一人勝ちになりそうな気配である。その典型的な例は検閲がますます強化されているインターネット、ソーシャルネットワークの現状に見られる。ディープステーツの意向に沿わないフェースブックへの投稿があちこちで閉鎖され、グーグル検索では検閲の目標となった著述家の記事や情報は通常ならば上位に現れる筈なのに、何百もの検索結果のしっぽの方で初めて現れて来るような塩梅だ。好むと好まざるとにかかわらず、われわれは今そんな社会に住んでいる。

本日ご紹介したアンドレ・ヴルチェクの記事は、恐らく、多くの読者の皆さんは彼のあからさまなものの言い方に違和感を覚えるかも知れない。しかしながら、その違和感の一部は、この引用記事が言っているように、実は自分たちの罪の意識と何処かで深く関連し、本能的な自己防衛と繋がっているのかも知れないのである。彼がわれわれ一般庶民に要求しているように、今われわれはこの現状をよく考え、深層をよく分析した上で適正な判断をしなければならない。洗脳の罠に陥らないだけの判断力を養うことが急務だ。これはかなりの努力を強いることになるであろう。言うまでもなく、努力をし続ける価値は十二分にある。そういう意味からも、この引用記事はわれわれを覚醒してくれ、実に秀逸なインプットであると思う。

夏の夜空を見上げて、煌めく星に思いを馳せ、悠久の真理に迫りたいものである。












0 件のコメント:

コメントを投稿