最近の大手メディアの挙動にはまさになりふり構わずになってしまった観が強い。
たとえば、最近の事例を挙げてみよう。
「ロシアが新型コロナに対するワクチンを市場へ供給すると発表した途端、西側の大手メディアは突然懐疑的な姿勢を見せ始めた」と題された記事を覗いてみよう(原題:As Russia announces coronavirus vaccine, mainstream media suddenly discovers the meaning of skepticism: By Graham Dockery, Aug/11/2020)。米国政府が推し進める新冷戦という政治的シナリオを反映して、西側の大手メディアはジャーナリズム精神はあたかも無用の長物であるかのように脇へ押しやってしまって、誰も関心を示さない。
さっそくだが、本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
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Photo-1:ロシアのモスクワにあるガマレヤ研究所のラボで働いている科学者。2020年8月6日。© Reuters / The Russian Direct Investment Fund
ロシアが臨床試験の完了を待たずに、新型コロナに対する新ワクチンを市場に展開すると発表をしたことを受けて、西側のメディアは突然ワクチンの話へ戻ってきた。それはあたかもロシアが癌を治療することが出来て、まさにそれが故にプーチンを責める口実を新たに見つけたかのような振る舞いである。
ロシアは世界で初の新型コロナに対するワクチンを登録した。ロシア大統領のウラジミール・プーチンは火曜日(8月11日)にこの快挙を公表した。そして、彼の娘さんも接種を受けたことを付け加えた。医師や教師たちはこのワクチンの接種を受ける最初のグループとなり、一般大衆への接種は2021年の1月から開始するという。
RT.COMからの関連記事: Putin says Russia’s Health Ministry has approved world’s FIRST Covid-19 vaccine, his own daughter has been vaccinated
ロシアの科学者らは新型コロナと同種のウィルスと対抗するためにすでに何十年もの月日を投入して来たけれども、このワクチンは今も試験の真最中である。本ワクチンは猿と人を使った最初のふたつの試用段階をすでに通過し、プラシーボを使った第三段階をこれから通過しなければならない。この三段階目の試用試験は市場からの希望者への接種によって実施される。
この事実を批判する口実として、西側のメディアは警鐘を鳴らし始めた。ニューヨークタイムズは「近道を採用して、プロパガンダのための得点を上げようとしている」と言って、クレムリンを非難し、この新ワクチンの安全性試験は部分的に終わっただけであるとして安全性に関して警鐘を鳴らしたのである。また、ガーディアンもこの大急ぎの展開に警鐘を鳴らしている。そして、試験を終了した後でさえも「ワクチンは部分的にしか効き目を示さないかも知れない」とさえ付け加えた。これらと同様に、ワシントンポストは「この接種は危険この上なく、自分たちの免疫性に関して間違った安心感を人々に与えかねない」と警告した。
数多くの報道各社を通じて行われたそれぞれの警告はまったく同じ内容であった。ロシア製ワクチンは信用するべきではないという主張はプロパガンダ以外の何物でもなく、クレムリンは悪辣だと言わんばかりであるが、この西側の言い分は、逆に、試験が終わってはいない自分たちのワクチンを西側が計画に先立って使用することを中止に追い込むことになるかも知れない。
ロシアのせいで、報道各社は突然ワクチンの安全性の問題を喋り出した
pic.twitter.com/eP5DWGMOHu
— Ben Br@ddock (@AutistLvsMatter) August 11, 2020
ロシアにとってはワクチンの競争は国の威信がかかった課題であろうことには疑いの余地がない。このワクチンの名称は「スプートニクV」とされており、これは世界で初めて宇宙軌道に打ち上げられた衛星を引用したものであって、スプートニクは当時のソ連邦にとっては宇宙開発競争における強力なプロパガンダであり、クーデターでさえもあった。当時の状況と同様に、新聞各社がワクチンの安全性について警鐘を鳴らすことには一理ある。ガーディアンが指摘しているように、たとえもっとも厳密な試験を実施したワクチンであっても、最良の結果であっても効能を発揮せず、最悪のシナリオでは恐ろしい副作用をもたらすかも知れないのだ。
しかしながら、ロシアがその快挙を宣言する前はこれらの報道各社は正真正銘のワクチンの信奉者であった。「ワクチン接種は人命を救い、われわれの子供たちを防護し、公衆衛生上の偉大な成果である」と、この3月、ニューヨークタイムズ紙の論説ページは述べていた。執筆者には米公衆衛生局長官も含まれており、彼らは副作用に関する懸念をくだらないことだと一蹴し、一般大衆に政府のワクチン接種プログラムに参加し、皆が支えるようにと求めた。この7月にも「新型コロナワクチンに対する信用の欠如」は免疫を広く確保することを台無しにしかねないと同紙が書いたばかりである。
公平を期して言えば、後者の記事は、今回はプーチンではなく、ドナルド・トランプ大統領と彼の「ワープスピード作戦」と名付けられた開発プロジェクトを槍玉にあげて、西側の余りにも前のめりのワクチン開発には危惧の念を起こさせた。しかし、そのたった2カ月前にタイムズは「記録的な迅速さ」で開発を行う西側の取り組みは新型コロナの大流行の中で「希望」を与えるものであるとさえ言っていたばかりだ。
ガーディアンもまったく同様だ。同紙のジャーナリストは先週ワクチンに関する陰謀説を信じる「白人で、中流クラスのピンタレストを愛好する母親たち」をからかった。その1カ月前、彼らはたとえ不完全なワクチンであっても「成功だ」として賞賛されるだろうと言う専門家の意見を特集していたのである。
RT.COMからの関連記事:‘Safe & effective’ over ‘first’: US throws shade at Russia’s first-to-market Covid-19 vaccine
成功裏に開発された英国のワクチンは危険なほどに愛国心を煽ることになるのではないかとの懸念を述べたオックスフォード大学の教授が指摘したように、西側のメディアはロシア製のワクチンが大流行の流れを変えるのを目にすることはまったく耐えられないように見える。諸君は想像できる?大統領選挙に介入し、スパイが市民に毒薬を飲ませ、自由主義の秩序ある世界に対してトランプを通じて苦痛の種をばら撒いたプーチンのロシアが恐ろしい疫病から世界を救い出すワクチンを世界に先駆けて市場に送り出すなんて許せるか?
言うまでもなく、ロンドンのフリート街やニューヨークの八番街については多くの言葉が鵜呑みにされるであろう。もちろん、これらの話は昔の話である。可能性を秘めたワクチンはどれでもギャンブルのようなものであるのは何時ものことだ。限定的な使用と並行して試験を継続し、スプートニクVの有効性はこれから実証しなければならない。ロシアの努力は結局失敗に終わるかも知れない。もしそうなったら、少なくともロンドンとニューヨークにおける時事問題の批評家や解説者たちはほくそ笑むことであろうが、大流行は呪われる。
注:この記事に表明された見解や意見は全面的に著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではありません。
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これで全文の仮訳が終了した。
次に、ふたつ二つ目の記事として、「病気そのものよりも質が悪い治癒:われわれは聖書を燃やしているBLMデモの参加者の実際の姿を撮影した。ニューヨークタイムズはフェークニュースを使ってそれを潰そうとした」と題された記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う(原題:Cure worse than disease: We filmed REAL BLM protesters burning a Bible. NY Times tried to ‘debunk’ it with actual FAKE NEWS: By RT, Aug/12/2020)。
この記事も最近のものであって、私に言わせると、これは大手メディアの凋落振りを示す数多くの事例の中のひとつである。
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大手メデイアはポーtpランドでデモ参加者らが聖書を燃やしている様子を伝えたRuptlyの動画を「ロシア側の虚偽報道」であるとして非難した。しかし、これは何の修正も加えてはいない動画であって、幅広く閲覧されている情報に対して、いわば不都合な情報を伝えた相手に対して襲撃を加えるためにフェークニュースを繰り返して流し、対抗しようとしたものである。
(訳注:RuptlyはRTの子会社で、ドイツのベルリンに本拠を置いている。国際的な動画ニュースを扱い、オンデマンドでのニュース配信を専門としている。)
デモの参加者たちは先ずは炎の上を国旗で丁寧に覆い、燃えている聖書の周りに集まって、「トランプ、くたばれ!」と叫んでいる。この情景は90秒足らずで記録された。何人かのデモ参加者は小さな火の上に手をかざして暖を取ろうとするも、聖書が燃え尽きるにつれて体を温める素振りだけとなった。
これは扇動的な画像である(駄じゃれではない)。ある方面からはこれらのデモ参加者は多くの市民に好かれている国家的な象徴や宗教的な象徴に攻撃目標を定めているとしてすでに避難されているが、Ruptlyはこの動画については抗議デモの65日目に連邦政府のエージェントが連邦裁判所から立ち去った後に起こった出来事を説明しただけであって、この動画からそれ以上のことを導き出す積りなんてなかった。これらの映像はその事実を良く物語っている。
しかし、ニューヨークタイムズによると、この動画がソーシャルメディアや保守的な世界規模の情報通信ネットワークで急速に拡散したのはそのコンテンツに自分たちの政治的信条を支えるようなニュース性があったからというわけではなく、それはクレムリン政府の必死のプロパガンダであったからだと主張する。「これは2020年の大統領選では初のロシア側からの情報操作のひとつだ。」
タイムズはRuptlyの撮影者を明確に非難しているわけではないが、同紙はこの動画の信憑性について疑義を挟めることは何でも行おうとしている。同紙は「事実」は動画の劇的な見出しが読者に信じ込ませるであろうものよりも「遥かにありふれたものであった」と言う。
動画が見せてくれる内容からも明らかなように、聖書や国旗を燃やすことは「デモの主要な行動からは程遠いもの」であったとタイムズは書いたけれども、その行動そのものは動画によって示されている程には衝撃的なものではないと主張した。「何千人ものデモ参加者の中の数人が一冊の聖書を燃やした。もっと大きな火にするためには二冊目も燃やしたかも。」
彼らが言うには、そこから先はすべてがロシア側の情報操作であって、「その餌に飛びつき」、このストーリーをさらに拡散した保守派の批評家らは国家を分断する種を撒き散らているが、バカだが役に立つ連中だと見なされた。これで一件落着か?
RT.COMの関連記事: Portland mayor blasts rioters for 'attempted MURDER'...because it could help re-erect Trump?
この単純化された倫理劇はそれが答えてくれるよりもはるかに多くの新しい質問をもたらしている。まずは、「平和的なデモで聖書を燃やしても、いったい何冊だったらこの行為を許容できるのか?」という点だ。
Ruptlyの動画には何の修正も加えられてはいない。そのオリジナルの表題は「ポートランドのデモ参加者は抗議デモの65日目の夜、聖書と米国旗を燃やした」というものであるが、これは動画の内容を率直に記述したものだ。動画の記述内容はこの表題を超すような推測の賜物であるというわけでは決してない。
「左翼の活動家」がポートランドの裁判所の前で行う宗教的なテーマの焚火のために「何冊もの聖書」を運んできたと主張したのは保守派のソーシャルメディア工作員であるイアン・マイルズ・チョングであった。そして、彼の主張は共和党上院議員のテッド・クルスから始まってドナルド・トランプ・ジュニアに至るまで誰もが取り上げた。しかし、このことはタイムズにとっては重要ではなかった。その後の報道はすべてが毒(ロシア)樹の果物であった。(訳注:「毒樹の果実」は米国の法律用語であって、違法な手段で収集した証拠を出発点としてそこから二次的に収集された証拠。その場合証拠能力の有無が問題となる。)
この出来事を撮影したのはRuptlyだけではなかった。ニューヨークポストは聖書と国旗を燃やしている様子を自社で撮影し、cbsの地元の系列会社もRuptlyがその動画を配信する前にデモ隊の実況を伝えるニュースフィードで聖書を燃やしたことについてすでに書いていた。
アンティ―ファのデモ参加者たちがはた迷惑な行動を取った時大手メディアがそれに干渉する記事を流すのを見ることはもはや稀でも何でもない。バズフィードはニューヨーク州トロイにおけるBLMによるグレース・バプティスト教会に対する攻勢に関して防御をするための長い記事を書き、牧師の「頑固一徹な」見解を詳細に説明し、彼らは騒ぎ立てるデモ参加者が礼拝堂を焼き払うことの正当性を暗に示した程である。そうそう、RTは動画を再ツイートした。つまり、あのストーリーは虚偽情報であるのだ。
自己流スタイルのプロパガンダ専門家や学者らは学術論文での間違った言葉の使い方や倫理的な破綻を通じて目立たないながらもロビー活動を行い、「虚偽情報」という言葉を政府や米国が好まない「ある目的のために都合良く構築された事実」として再定義し、大手メディアはこの新たな定義を喜んで受け入れた。その結果、何が起こったか。米国の選挙を真近に控えて、メッセージというものは日に日にその重要性を失っているのである。何かを信頼することが出来るかどうかはメッセンジャー次第となった。
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これで、二番目の記事の仮訳が終了した。
西側の大手メディアが患っている「ジャーナリズム欠乏症」は末期的な段階に至ってしまったと言っても過言ではない。幸か不幸か、その病状を端的に示す逸話にはこと欠かないのである。ここに挙げた事例は数多くある逸話の中のほんの二例に過ぎなく、読者の皆さんもさまざまな状況の中でこれらに似た実例に数多く遭遇し、これからいったいどうなるのだろうかという思いや憂いを抱かれているのではないだろうか。
この事実を自覚し、ジャーナリズムの回生を図るにはわれわれ一般人には当面ひとつだけの選択肢が与えられている。それは代替メディアを読み漁り、その記事や著者が自分が求めている報道姿勢を持っているかどうかを見極めることだ。
私が代替メディアの重要性に気が付いたきっかけはシリアの内戦であった。私は2013年2月17日に「乗っとられたシリア革命」と題してシリア市民の声を投稿した。シリアの内戦については大手メディアはいわゆる大国の思惑にしたがって解説し、多くの事実を歪曲して報道した。そういった歪曲報道の積み重ねによって、「シリア民間防衛隊」(別称「ホワイトヘルメット」)という反政府派の宣伝部隊には、後に、アカデミー賞の短編ドキュメンタリー部門で受賞するというおまけまでが付くに至った。そして、シリアの内戦に関する情報の歪曲は次のような極めつけを世界中に知らしめた。国連組織のひとつである化学兵器禁止機関(OPCW)がシリアの現地で検証を行った検査官の報告書を歪曲して、西側大国のシナリオに沿った報告書に改ざんし、それを公式の報告書として公開するという極めて破廉恥な出来事までが一般大衆に知れ渡ることになったのである。
具体的な事例を挙げようとすると数多くの出来事があって、実は、どれを取り上げようかと惑うほどである。
好むと好まざるとかかわらず、われわれは今そのような世界に住んでいるのだということをしっかりと認識しておきたいと私は思う。
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