2020年8月24日月曜日

最後通牒としての「ハル・ノート」

 私にとって8月は太平洋戦争に関する歴史を読み漁る時だ。今年も例外ではない。

米国民の多くは1941127日(現地時間)にハワイの真珠湾に停泊していた米艦隊に対して行われた日本軍の攻撃は宣戦を布告せずに行なわれたもので、破廉恥極まりない奇襲攻撃であったとして理解している。記憶の中にそう刷り込まれているのだ。

しかしながら、最近、歴史的な公文書や資料が公開されるにつれて、新たな事実太平洋を挟む両国の一般人にも理解されるようになってきた。これはいいことだと思う。

米国の戦史作家であるJohn Tolandの著書「Infamy: Perl Harbor and its aftermath(1986年刊)は今でも貴重な情報源である。彼は膨大な資料を駆使して、真珠湾の奇襲は「作られた奇襲」であったとはっきりと述べている。その背景を大雑把に要約すると、ルーズベルト大統領は日本海軍が真珠湾を攻撃してくることを事前に知っていながらも、ハワイの現地司令官にはそのことを伝えようとはしなかった。ルーズベルト大統領にとっては欧州への参戦が重要な政治課題であった。参戦について国民の民意を大幅に変え、参戦に向かわせるにはハワイに停泊する艦隊を犠牲にする価値は十分にあったのである。そして、それは図星であった。

今日、私はウィキペディアで米国が日本に示した最後通牒であると言われている「ハル・ノート」に関する記述を覗いてみた。「ハル・ノート」とは真珠湾の攻撃よりも11日も前(1126日)にハル米国務長官から野村駐米大使に手交された交渉文書のことである。この文書を受け取って、121日に開催された御前会議で日本政府はこれは最後通牒であるとして理解し、米国に対する開戦を決意した。

ウィキペディアには膨大な量の情報が収録されている。その中には上述のジョン・トーランドの言葉もあった。非常に興味深い内容であるので、その部分だけ下記に抜粋しておこうと思う:


ジョン・トーランド

「実はハル・ノートの内容については、日米間に悲劇的な誤解があった。ハルのいう『シナ』には満州は含まれず、だいいち彼は最初から日本による満州国の放棄など考えていなかったのである。ハル・ノートは、この点をもっと明瞭にしておくべきだった。満州国はそのままとさえわかれば、日本側はあれほど絶対に呑めぬと考えはしなかったであろう」[472][473]

「筆者は東郷外相に近かった数人に、ハル・ノートが『シナ』の定義をもっと厳密にしていたらどうだったかと質問してみた。・・・佐藤賢了は、ひたいを叩き『そうでしたか!あなたのほうが満州国を承認するとさえ言ってくれれば、ハル・ノートを受諾するところでしたよ』と言った。・・・賀屋(興宣)は、『ハル・ノートが満州国を除外していれば、開戦決断にはもっと長くかかったはずです。連絡会議では、共産主義の脅威を知りつつ北支から撤兵すべきかどうかで大激論になったでしょう』と答えた」[474]


つまり、ジョン・トーランドの指摘は日本側がハル・ノートをより厳密に理解していたならば、太平洋戦争は起こらなかったかも知れないということだ310万人もの兵士や民間人が死亡せずに済んだのかも知れない。しかし、日本にとって不幸なことには歴史はそのようには展開しなかった。日本は敗戦という結末を招いただけではなく、戦後75年が経過した今でさえも耐えがたいほど大きな負の遺産に苦しめられている。これは実に大きな歴史の皮肉である。

歴史を読むとき「もしもこうでなかったとしたら」という考え方はあり得ない、あるいは、無駄なことだと良く言われていることではあるが、人の勘違いと関係するひとつの要素が310万人もの死を招いたとすれば、その勘違いの代償はあまりにも大きいと認識しなければならない。

この指摘を現代の国際政治に適用したら、どんな意味を持っているのだろうか?

要するに、もしもこのような人為ミスが今起こったとしたら世界はいったいどうなるのかという点だ。

たとえば、核戦争において核大国のひとつが非常に基本的な部分で勘違いをしてしまったと仮定してみよう。最悪の場合、それは一国の敗戦には留まらず、全人類、地球上の全生命の滅亡にまで進展してしまう可能性が出て来ることだ。

素人の私が思いつく典型的な勘違いはペンタゴンが主張した先制核攻撃にある。仮に、ペンタゴンの意図は北朝鮮とかイランに対するメッセージであったとしても、そのような先制攻撃が実行された暁には、地域が限定的な核攻撃が何らかの形で核大国間の応酬に発展する可能性は捨てきれない。そういった展開はいったいどうやって阻止するのであろうか?そもそも、阻止することは可能なのだろうか?阻止するメカニズムは実在するのか?

先制攻撃のシナリオを核大国間の紛争に移してみよう。先制攻撃による一撃で相手を壊滅させ、自国は報復攻撃を受けないという考えは、基本的には成立しない。非常に大きな勘違いであると言わざるを得ない。大量の核弾頭を搭載した潜水艦が24時間大洋に潜んでおり、何時でも報復核攻撃を実施することが可能だ。その現状を考慮すると、先制攻撃によって相手国を一方的に壊滅させて、二国間の武力紛争がめでたく終了するというシナリオはあり得ない。国際的に核兵器を監視し、将来的にはそれらを撤廃することの重要性を改めて痛感する次第である。

もうひとつ挙げてみよう。最近の米国の政策を見ると、米国は核兵器における軍拡競争を抑止する国際条約から撤退し(たとえば、米国は2018年にINFから脱退)、小型の戦術核を開発する方向へと動いているようだ。ここでも、新たに、地域的な紛争における戦術核の使用が世界規模の核戦争へと発展する種を蒔くことになる。

核戦争による人類の滅亡はさまざまな形で現実味を帯びて来る。

何百万年にもわたって進化してきたと言われる人類は科学技術の進歩の恩恵を享受し、今、豊かな物質生活を送っている。しかしながら、まさにその科学技術の進歩によって、極めて不幸なことには、一握りの戦争計画者の近視眼的で、偏った考えが何らかの勘違いを誘発し、人類を自滅の道に招いてしまうのではないかと思えてならない。

こんな陰鬱なことを考えるのは8月だからこその年中行事ではあるのだが、読者の皆さんと上述したような情報や思いを共有することを通じて、核兵器によって人類が曝されている脅威を一日でも早く無くすことに繋がって行って欲しいと思う次第だ。日本人の8月の思いである。






2 件のコメント:

  1. 2020/10/06にYouTubeに掲載された武田邦彦先生の動画は必見:

    【武田邦彦 10/6超重要】隠蔽された真実を追放覚悟でお話します!この真実を知らないままでは日本に未来は無いと思います!
    https://youtu.be/1wg7X2Vpz7g

    7:00~ 「満州は中国ではない。満州は万里の長城の向こう側にある。つまり、中国は満州を含まない」という武田邦彦教授の見解は「ハルノート」が満州を含めてはいなかったという戦史作家のジョン・トーランドが指摘した内容と見事に一致する!

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  2. 清朝に依る満洲移民・開拓政策(戊辰戦争前後から)、民国時代の張作霖爆殺と易幟事件くらい調べてから書いてもらえますか。そんなことも知らない三流学者の話をわざわざ書きこまないでください。
    >1912年、清朝は滅亡し、中華民国が成立します。これは、事実上単なる政権交代であって、国際的に見れば、清朝の主権、領土、国民は自動的に中華民国に引き継がれたと見るのが常識です。当然、ロシアとの間に結ばれた条約に基づく国境線もそのまま引き継がれていますし、そのほかの国も、清が倒れて中華民国が成立した際、わざわざ新たに外交関係や条約を結び直した国などありません。すべて清朝時代のものを引き継いでいます。清朝倒れて後、中国は群雄割拠の戦国状態となりましたが、それはあくまでも内乱であり、戦国時代の日本が群雄割拠になったからと言って日本という国そのものが分裂したとは見なされないのと同様、単に国内的な内戦とみなされるべきものです。

    何よりも、先に指摘したように、我が国自身が1915年、21ヶ条の要求に於いて中華民国政府に「満洲」での諸権益を要求し、それを認めさせた以上、他ならぬ我が国政府自身が東三省は中華民国政府の主権下にあるという前提で行動していたことは明らかです。また、この混乱期に東三省をほぼ一貫して統治していた張作霖は、たびたび北京(北平)に進出して、中央政府の権力争いに加わっており、最高権力を手にしたこともあります。中国本土は外国などという感覚があるわけがありません。彼が関東軍に爆殺された後、その跡を継いだ張学良は、易幟、つまり中華民国国民政府の国旗である青天白日旗を役所などに一斉に掲げることによって、この土地と自分自身が中華民国の主権下にあることを、改めて明確にしました。

    また、国際的に見ても、先に触れたリットン調査団報告は、日本に対する様々な妥協はあるものの、主権の所在という根本部分においては、「満洲」が中国の主権下にあることを明確に断じており、そのリットン調査団報告は国際連盟において42対1、反対は日本のみ(棄権は他にもあったけれど)という圧倒的大差で採択されています。つまり、当時の国際社会が「満洲」は当然に中国の一部であると見なしていたということです。

    つまり、どこからどう見ても、「満洲」は中国ではない、などという理屈は成り立たないのです。それに、仮に「満洲」は中国のものでないと仮定したとしてさえも、日本のものでないことはそれ以上に明白です。日本が占領して傀儡国家を打ち立てて良い根拠にはなりません。
    http://ryofolklore.music.coocan.jp/intisol/la%20paz2.htm

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