今、ベラルーシでは何が起こっているのだろうか?
8月9日の大統領選では現職のルカシェンコ大統領が80%もの得票を得て6期目の当選を確実にした。しかしながら、この選挙結果を不服とする反政府デモが拡大している。
外から見ていると、さまざまな懸念が脳裏をかすめる。この反政府デモは2014年にウクライナで起こったマイダン革命のような展開となるのだろうか?それとも、ルカシェンコ政権は1989年にルーマニアでチャウシェスク政権が子飼いの秘密警察の反乱に遭って失脚したように、ベラルーシの秘密警察であるKGBの反乱に遭遇するのであろうか?
何れの方向へ進んでも大きな混乱となる。あるいは、それらのふたつの軌跡とはまったく違った展開となるのかも知れない。
現状を分析しようとする試みはすでに幾つも公表されているのだが、当然ながら、現時点では何も確かなことは言えない。しかしながら、ロシア周辺の諸国を巡る反政府デモには常にひとつのパターンがついて回る。国によってさまざまな展開があるが、多くの場合、その底流には同一の動きを観察することができる。
ここで言う同一の動きとはいったい何かについて答えようとする一つの記事がある。この記事は「ベラルーシ:帝国主義者たちは毎日のように疲れ切った、古めかしい台本を展開する」と題されている(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。
ベラルーシにおける騒動を巡って国際政治の深層を学んでおきたい。
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西側の指導者層に仕える台本作成マネジャーは何時も同一のパターンを踏襲する。米国の同盟国であるフランスやイスラエルにおける反政府デモについては完全に無視する一方で、香港における反政府デモにはひどく固執して、報道をした。それと同じように、今、彼らはベラルーシの反政府デモに声援を送っている。
帝国主義派の評論家であって、オバマ政権下で新冷戦における戦士の役を演じたマイケル・マックフォールは最近下記のようなツイートを発信した(訳注:マイケル・マックフォールは米国の政治学者で、オバマ大統領の下で2012年~2014年に駐ロ米国大使を務めた):
「ベラルーシの国内あるいは国外に住んでいようとそれには関係なく、自分たちが勇敢に民主主義のために闘っているのに西側はどうして無関心のままでいられるのだろうかとベラルーシの人たちが今週私に問い掛けて来た。私には説明できない。皆さんは説明できる?」
(誰もがマイケル・マックフォールに訴えて来ると主張するなんて実に怪しげなことではあるが、その点を除けば)私はこのツイートが素晴らしいからこのツイートを参照しているわけではない。このツイートがまったく人の注意を引かないからこそ私は引用しているのだ。
2か月前、政治や経済、哲学を論じるウェブサイトである「ムーン・オブ・アラバマ」が「ベラルーシでは米国が後押しするカラー革命が進行中」と題した記事を配信し、モスクワ寄りのこの国家は間もなくソビエトスタイルの国内政治を行っている現政権に反対する反政府派によって大騒動に見舞われるかも知れないとして、その兆候を伝えていた。6月16日の記事からの抜粋をここに示してみよう:
8月9日にはベラルーシでは大統領選が行われる。ルカシェンコは勝利を収めるために全力を尽くすであろう。
カラー革命は、通常、議論を呼ぶ選挙に向けて導入される。選挙結果については、通常、選挙が始まる前から大っぴらに疑義の念が持たれる。ついに選挙結果が公表されると、西側のメディアは自分たちが予測した数値とは大きく異なっており、この相違は票を操作したからに違いないと主張する。こうして、一般大衆が反政府デモに狩り出される。この混乱を助長するために、ウクライナで実際に起こったように警察とデモ隊の両者に向けて発砲する狙撃者が配置されるかも知れない。現大統領がこてんぱんにやっつけられるか、米国が推す候補者が当選すると、この反政府デモは収束する。
昨年、「米国民主主義基金」(NED)はベラルーシで少なくとも34のプロジェクトや団体に対して資金を提供した。米国は慈善のためにそうするするのではなく、その国に手をかけるためにそうするのである。
通常見られる帝国主義的な台本を遂行する作戦のほとんどはこの国で今月行われた大統領選の前にすでに勢揃いしており、今われわれはCIAのスパイ網のための連絡係であるラジオ・フリー・ヨーロッパやラジオ・リバティーならびにNEDが米国務省と調子を合わせて反政府運動に喝采を送り、ベラルーシ政府を批判するのを目にする。
「われわれは反政府デモを支持し、デモ参加者に対する政府側の暴力的な取り締まりに抗議する」と自覚とか何かをまったく持ち合わせてはいない政府が述べている。
つまり、すべては何時もの通りの古いパターンのままに展開しているのである。すっかり疲れ切った公式が繰り返し使用されており、地面に耳を当てるとそれが目の前に現れる前にさえも予測することが出来る程だ。
繰り返すが、マックフォールのツイッターが異常であるからといってそれを参照しているわけではない。映画の「ブロブ」を連想させるような帝国(帝国は自分たちと同盟関係を組まない国家については常にそれらの国家を吸収、あるいは、破壊しようとする)によって統治されているわれわれのこの狂気じみた世界においては、それは完全に正常であり、ありふれたことではある。あのツイッターは支配者層の台本マネジャーがわれわれの世界で起こっている出来事を米国を中心とする帝国の都合に合わせて、それと同時にゼラチンのような帝国に吸収されまいとして頑張っている国家には極めて不利な形で、物事を如何に歪曲するのかを示す事例として私は引用したのだ。あれはほぼ無限に存在し引用可能なツイッターや記事、TVクリップのひとつである。
実際にマックフォールが発信したツイッターをオリジナルのテンプレート型式に翻訳して、物事を単純化してみようではないか:
© Caitlin Johnstone
ほら、これはもっと正直だ。
私は自分の職業が大好きだ。本当にそう思っている。しかし、西側の帝国主義の悪ふざけについてコメントする仕事は読者の皆さんが想像することができる仕事の中では極めて退屈で、単なる反復作業である。
何か新しいことなんて実際には何もない。まったく同一の邪悪な帝国主義者が毎日のようにさまざまな国々を次々と帝国からの攻撃の目標に設定し、まったく同一の台本をとうとうと喋りまくるのだが、それらはすべてがまったく同一の公式なのである。この仕事ではさらに飽き飽きさせられることがある。「何という事だ!米国からまだ何の影響も受けてはいないこの政府に対しては絶対に反対しなければならない」といった新たな国家が現れると、あたかもそれはまったく新しい案件であって、他の事例とは違っているかのようにそれを受け取るよう誰もが期待される始末だ。
しかし、これは何も新しいものでもなく、何かが異なっているわけでもない。そして、ついには毎日のようにまったく同じような国際政治のニュースに遭遇するようになるのである。そして、そのニュースは次のような具合だ:
「米国を中心とする帝国は自国の軍事力や金融、経済、あるいは、資源について主権を守ろうとする国家を呑み込んで、さらに強大になろうとする」のである。
そうなんだ!それこそが誰もが目にする国際政治のニュースの本質であって、それがすべてを物語っている。それ以外はただ単にその上に載せられている無用の飾りものに過ぎない。それが故に、まったく同じ戯言が毎日のように報道されていることにはあなた方は気が付かないのだ。
億万長者が経営するニュースメディアは常にそういった戯言と共に行進している。なぜならば、これらの億万長者らは自分たちの王国を築き上げた現状を維持するのに必要な台本をさらに強化するために存在するもろもろのシステムを自分たちの手中に収めているからだ。そういった巨大なメディアで働く記者たちは真理や事実に対する忠誠心なんてこれっぽちも持ち合わせてはいない。帝国の拡大を促進することだけだ。
私の言うことは信じられないって?昨年の報道であるが、平等と正確さに関して報じたこの記事を読んでもらいたい。これは大手メディアは中国政府に反対する香港におけるデモだけを報じることに集中し、フランスやイスラエル、チリ、ハイチといった米国の同盟国における反政府デモは無視していたのである。あるいは、2002年のこの記事を読んでもらいたい。当時、ワシントンポストの論説陣はサダム・フセインは化学兵器を所有しているかも知れないからイラク政府を転覆させなければならないと常に金切り声を挙げていた。その一方で、リーガン政権の最中にリーガンが実際に化学兵器を使用した際には極めて簡単で穏やかに指摘をするだけに留まった。
彼らはこれっぽっちの原則さえも持ってはいない。真実には何の関心もないのだ。
もしもサウジアラビアが米国に対する忠誠を中国に鞍替えしたならば、われわれは直ぐにでもイエメンにおける血なまぐさい行動に関する報道を毎日のように目にすることになるであろう。そういった出来事についてはわれわれは常に関心を払わなければならないとでも言うかのように。
もしもイスラエルがワシントンからモスクワに鞍替えしたならば、われわれは直ぐにでもパレスチナ人の窮状やネタニヤフの腐敗した政治に抗議する反政府運動についてのニュースで埋め尽くされてしまうであろう。
もしもオーストラリアが「ブロブ」から離れ、自国の主権を主張し始めたならば、世界中が突然アボリジニの人権や沖合に設けられた拘置所に暮らす難民について遥かに多くのニュース報道を毎日のように聴かされることになるであろう。
もしも帝国の「ブロブ」から離脱した政府が非難されるような人権問題を何も抱えてはいないならば、西側の諜報機関は何かをでっち上げ、西側のメディアは無批判にそれを事実であるかのように報じることであろう。
大手メディアの批評家や記者らは胸をドキッとさせることもなしにこういった豹変をするであろう。彼らはいつでもそうすることが自分たちの立ち位置であると装うことであろう。そして、その夜ベッドに身を横たえると、彼らは赤ん坊のように眠り込んでしまう。
いったい私はこんなことをどうして知っているのだろうか?それは彼らの最近の行動を観察したからに他ならない。
支配者層の台本を維持するマネジャーらが「邪悪で米国にはなびかない今週の国家」について喚き始めると、人々は決まったように私に向かって今度ばかりは何時もとはまったく異なっており、この件についてはポンぺオがすべての真実を語ってくれていると言う。彼らはまるでディズニー映画を何千回も観て、一日のうちに何回でも観る3歳児のようだ。何かの違いがあるとすれば、3歳児たちは間違いなく何かを学びとっていることだ。
台本のコントロールがもっと希薄になると、われわれはこの操り人形のショウから目覚め始めるに違いない。その時が来るまでは、一般庶民がプロパガンダによってもたらされた夢から目覚めるのを手助けするには、はっきりとした自覚を維持し、反対意見を有する人たちがやるべきことはこの退屈で、繰り返して報じられるニュースのマトリックスが現実から如何にかけ離れているかについてさまざまな形で指摘し続けることだ。
著者のプロフィール:ケイトリンの記事は全面的に読者からの支援に頼っている。もしもあなたがこの記事を楽しく読んでいただいたとするならば、この記事を共有し、彼女のフェースブックでは「いいね」をクリックし、ツイッターで彼女の行動をフォローし、彼女のポッドキャストをチェックし、パトレオンあるいはペイパルで彼女の帽子へ幾らかのお金を放り込んでいただきたい。あるいは、彼女の著作、Woke: A Field Guide for Utopia Preppersを購入していただきたい。https://caitlinjohnstone.com - - "Source" -
注:この記事に表明されている見解は全面的に著者のものであって、必ずしも「Information Clearing House」の意見を反映するものではありません。
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これで全文の仮訳が終了した。
米国がカラー革命で他国を干渉する手口ついては、著者が記述した「昨年、米国民主主義基金(NED)はベラルーシで少なくとも34のプロジェクトや団体に対して資金を提供した。米国は慈善のためにそうするするのではなく、その国に手をかけるためにそうするのである」という文言がすべてを語っている。この種のカラー革命のやり口はセルビアでの反ミロシェビッチ闘争(1998年~2000年)に端を発しており、その後、この手法が定番として繰り返して使用されている。
旧ソ連邦が崩壊した後、ロシアの周辺では多くの国でそれまでの政権が崩壊し、ユ-ゴスラビアに対するNATOの介入を経て、方々で親米路線の政権が誕生した。その結果、旧ワルシャワ条約機構加盟国からのNATOへの新規加盟は1999年のハンガリーやポーランドおよびチェコの加盟から始まって、新規加盟国が増えていった。このプロセスはつい最近まで続き、2020年には北マケドニアが加盟した。
そして、2020年の今日、直ぐにはNATOへの加盟には結びつかないかも知れないが、新冷戦の最前線の舞台は今やベラルーシでの大統領選である。これこそが著者が述べている帝国の拡大を示す兆候なのである。
この引用記事の著者の洞察は鋭く、帝国主義の非人間性を指摘する彼女の見解は論理的で、伝統的な一般常識や行動原則に忠実であって、著者は大多数の読者に受け入れられる価値観を持っている。実に興味深い。
参照:
注1:Belarus: Imperialists run the same tired old script day after day: By Caitlin Johnstone, Information Clearing House, Aug/15/2020
登録読者のシモムラです.北海道は前日の猛暑から一転晩秋の過ごしやすい気温となりました.半年が過ぎたのに,ワルシャワへは戻れません.おそらく来年の初夏までの滞日となるのでしょう.ところで,ロシアの女性の友人から、べラルス大統領ルカシェンコと愛息コーリャが戦闘ヘリコプターから完全軍装姿デ、それも撃発可能な状態の自動小銃を携えて降りてきたニュース報道をを見て、猛烈な賛辞を書いてよこしました.彼女はレニングラード大学で「ソ連共産党史」を専攻していた,嘗ての所謂ソ連体制派の人物です.あの姿はスターリンが1942年7月に発した,軍令第227所謂「一歩もひくな」(戦闘地域で臆病行動をした兵をその場で銃殺できるとした指令で,ドイツ国防軍の”持ち場死守命令”に同じ)を自らに課したものだと指摘しております.演技ではないそうです.ロシア人の少なからずの人びとはルカシェンコを見直したようです.べラルス市民もそのようだと私は思います.ゴルバチョフのような軟弱な国際常識派はロシア人のセンチメントにあいませんね.多分プーチンが「幼い息子とともに男を見せてやれ」と圧したのでしょうね.この反政府運動は自壊するでしょう.彼らを見る目は,ドイツのSS懲罰部隊とべラルス人同胞で組織した対独協力警察部隊を見る目なのですよ.こいつらは根からの心の病者であり,特に若い女性を残忍な手段で絞首し,その苦しむ有様を同胞に見ることを強いたのです.わずか八十年前の行為であり,生き残った方々も,処刑された方々の子孫もたくさんおられるわけです.
返信削除シモムラ様
削除コメントをお寄せいただき、有難うございます。貴重な情報インプットに感謝です。
ルカシェンコ大統領に関するこのニュースには気が付いていました。最近は親政府派のデモも報じられていますよね。
私の関心事はベラルーシがウクライナで起こったようなカラー革命の軌跡をたどるのかどうかで、目下、注目しています。ある識者が言うには、ベラルーシにはウクライナにおける極右派の民間軍事組織はないから、マイダン革命みたいな事態となる可能性は低いと言ってます。ただ、ベラルーシの諜報機関がどれだけ浸食を受けているのかは分からないとも。ベラルーシについては情報を得るのが困難ですよね。状況の推移が全然分かりません。
ウクライナのマイダン革命のような事態にはならないで欲しいと思います。ああいった混乱が起こると、最大級の生活の困難に見舞われるのは結局は一般大衆となりますから・・・
ワルシャワに帰られる時期が先へ延びそうだとのことですが、くれぐれもご自愛願いたいと思います。
新型コロナはただの風邪と大差がないと言われながらも、依然としてその脅威は喧伝されており、金儲けの商機としてこの事態を捉えた勢力は依然として当初からの筋書にこだわっているようです。この先どうなることやら。
登録読者のシモムラです.私が所属するロシア研究組織の会報に,下斗米伸夫(神奈川大学)の投稿がありました.ルカシェンコついて非常に興味深いことが書かれております.一部を抜き出しておきました.
返信削除《緊張感を深めているベラルーシ情勢だが、多くのコメンテーターや専門家にもわかりにくい論点がある。ロシアとベラルーシとが国家連邦(ソユーズ)を1999年に締結したことである。8月末の世論調査機関VTsIOMによれば43%のロシア人がこの連邦の存在をまったく知らなかったという。それはなぜか。
プーチン政権と「カラー革命」と呼ばれる旧ソ連の危機という問題はいずれも1996年に起きた問題に起因する。エリツィン大統領再選後の後継問題、NATOの旧ソ連諸国への拡大である。
冷戦終結とドイツ統一後東西は軍事同盟不拡大で合意していた。だがポーランド系戦略家Z・ブレジンスキーが東欧への拡大を92年に提唱、G・ケナンらほとんどの専門家の警告をよそに、民主党クリントン大統領が9月宣言した。実は再選のための1000万ポーランド移民票ほしさだった。米国の内政の都合で東西関係を棄損した。
これを後継問題に利用したのは連邦条約の仕掛人である新興財閥(オリガルフ)のベレゾフスキーだった。90年代前半、世紀の大安売りと呼ばれた民営化を利用して、石油利権や旧ソ連のロシア語放送ORTをタダ同然で入手した。腐敗と汚職で人気の急落したエリツィンだが、ベレゾフスキーらオリガルフが金と電波を再選に提供したことで、7月かろうじて再選された。
直後にエリツィンは倒れ11月には後継問題が出ていた。安保会議次長としてクレムリンの実権を握ったベレゾフスキーは、テロなどチェチェン問題の不手際で解任されたが、ウクライナに手をまわし東部軍産部門出身のクチマ大統領の推薦で98年CIS執行書記についた。
エリツィンはこの人事を知らなかったが、キングメーカー(ベレゾフスキーのことーシモムラ)は情報と石油利権をてこに旧ソ連を再統合した連邦を図ろうとした。手始めにベラルーシとの連邦締結を図ったのは99年12月8日、エリツィンらが9年前にソ連崩壊を決めたベロベージュ9周年の日であった。(ベレゾフスキーの―シモムラ)意中の次期クレムリン候補はベラルーシ大統領ルカシェンコだったといわれる。
だがエリツィンはNATO東方拡大批判、石油国有化で人気の高まるプリマコフ外相・首相に対抗するための後継者に選んだのはプーチンだった。ソプチャーク市長人脈で東独のKGB要員としてNATO対策をやったが、チェチェン対策でも成果をあげていた。当選したプーチンにはルカシェンコと連邦に義理はなく連邦は名存実亡となった(下斗米『新危機の20年―プーチン政治史』10月朝日選書)》
ルカシェンコはプーチンの後継を狙っているのでしょう.