ウクライナでの政変が今後どのように展開するのか、あるいは、どのような決着を見るのかは私たち素人には予想がつかない。しかし、西側の一部の観測筋は、クリミア半島は大きな衝突を起こさず、一発の弾丸も発射されることもなく、静穏にロシア軍のコントロール下に収まったとの認識をしているようだ。
ここに、現状を描くひとつの論評 [注1] がある。それを仮訳して、下記に示したいと思う。何と言っても、ウクライナの現状については少しでも多く、少しでも深く理解したいからだ。さまざまな解説や論評が毎日のように飛び交う中、ウクライナ情勢についての理解を深める上でひとつの材料にでもなれば幸いである。少なくとも、英語圏の情報を見ると、日本の大手メデイアが伝える情報以外にも膨大な量の情報が行き交っているのが観察できるからだ。
<引用開始>
オバマ米国大統領がロシアのプーチン大統領に向けて発した「ウクライナの主権を尊重し、同地域を不安定にしないように」との厳しい警告をもって、さすがのアメリカ例外主義も「やり過ぎ」の域に達してしまった感がある。
ここでは、「アメリカ例外主義」という言葉によりわれわれは例外的な傲慢さやダブル・スタンダードをゴリ押しするワシントン政府が有する無限の能力を形容する。
オバマは危機的状況に陥ったウクライナに対する「軍事的侵略」に関してロシアをあからさまに非難したわけではなく、この非難は週末のプレス・コンファレンスからの推論でしかない。武力衝突の脅威を語りながらも、ヴェールに包まれたような文言で米国大統領はモスクワには大きな「代償」が待ち受けていると述べた。
「ウクライナの主権や領土に対する如何なる侵害もウクライナを著しく不安定にすることだろう。 [このような侵害に対しては] 代償を支払うことになるだろうという点に関して米国は国際社会と共に確認する」と、金曜日に、ワシントンでそそくさと用意されたメデイア向けの声明文で述べた。
ホワイトハウスはウクライナ南部のクリミア半島へのロシア軍の動きの報に接して明らかに困惑した。モスクワが言うところによれば、ウクライナのクリミア自治共和国内でのロシア軍の存在は長期にわたる法的取り決めに完全に準拠したものであって、黒海のロシア海軍基地の一部として同自治共和国内に兵を駐屯させるのは当然なことだ。
同取り決めは2010年に更新され、モスクワとキエフの両政府間でさらに20年の延長が合意された。これによって、クリミア半島でのロシア軍の駐留を可能とし、特にセヴァストーポリには海軍基地が置かれ、ここがロシアの黒海艦隊の司令部となっている。
駐国連ロシア大使のヴィタリ・チャーキンは、ロシアがウクライナの領土内に武力侵攻したとの見方を否定し、「われわれはこの [ウクライナとの]
取り決めに準拠して行動している」と述べた。
クリミア半島における出来事は、最近の数日間、無秩序な様相を呈していた。武装した何者かがクリミア地方議会を占拠し、その屋上にはロシア国旗が掲揚された。また、他の報道によれば、多数の軍隊が主要な民間空港や他の施設にも配備された。これらの兵士たちは国籍不明の服装で身を固めていたが、未確認の報道によると装甲車両にはロシア軍のバッジが付いていた。
クリミア半島のセヴァストーポリにおける海軍基地借用に関する現行の契約下では、ロシアは同半島に数千人の兵士を駐屯させることができる。モスクワ政府は過去においても同地域での作戦行動を定常的に行っている。
しかしながら、最近のロシア軍の展開は単に「日常的」なものであるとするモスクワ政府の説明を鵜呑みにするには、バカ正直な素人の域を超えたものだと言えるのではないか。クリミア半島における軍の行動は他の大規模なロシア軍の招集やウクライナ国境に接する地域への軍用機の動きと軌を一にしている。
しかし、オバマが発した抗議には吹き出したくなるような皮肉を覚える。最近のロシア軍の動きは、明らかに、米国が支援し、すでに何ヶ月にもわたってウクライナの不安定化の工作が行われた後に起こったものだ。この非合法的で極秘に進められてきた米国による干渉はウクライナの主権をそこいらじゅうで踏みにじった。ウクライナの主権について、オバマは、皮肉にも、自分の相手先であるロシアのウラジーミル・プーチンが侵害しているとばかりに非難したのだ。
昨年の11月、ウクライナがEUとの臨時通商協約を拒絶したことから、ウクライナの首都キエフでは街頭での抗議行動はその規模を急速に大きくしていった。ワシントン、ならびに、その同盟国であるヨーロッパ各国は、英国、フランス、ドイツを含めて、これらの街頭での抗議行動を拡大させようとして、政府高官たちによる声明から始まってCIAのさまざまな機関を通じての軍の極秘の侵入に至るまで、それこそあらゆる手段を講じた。キエフにおけるデモは短期間のうちに半ば軍事的な性格さえ帯び始め、行動を共にしていた極右翼の連中は政府の建物を占拠するために火器やその他の暴力的な手段を用いた。あの迅速さは「抗議行動」を行うに当たって前もって準備された外部からの支援を如実に示すものだ。
ウクライナ警察と抗議デモとの間の衝突によって何人もが死亡したが、信頼できる報告によると、死者の多くは実際には西側が支持した反政府派や何としてでもこの危機を拡大させてやろうと目論んでいた狙撃者たちによって殺害されたのだ。1990年代の始めから、ワシントン政府はCIAや数多くの所謂NGOと共に、前ソビエト連邦の一員であった当該共和国の政権を動揺させる目的を持って、ウクライナへ侵入していった。
米国の国務次官補であるヴィクトリア・ヌーランドは、ワシントン政府は過去20年間でウクライナ国内で「民主主義を働きかける」(つまり、政府の転覆や暴動を起こす)ために50億ドルも「投資した」と最近述べている。
正当な選挙で選出されたヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領は追い詰められ、先週、官邸から突然姿をくらまし、ロシアへ亡命した時、ウクライナの危機はその極に達した。ウクライナ議会は、それ以降、西側によって支援を受けていた反政府派によって支配され、新政府が樹立された。ワシントンとブリュッセルは速やかにこのキエフの新政権を承認したが、ロシアは、全うな法的理由から、選挙で選ばれたヤヌコヴィッチならびにその閣僚を罷免することはクーデターに等しいとして非難をした。
ウクライナにおける混迷には、このように、ワシントン主導の政権転覆工作に伴うあらゆる特徴が観察される。言うまでもなく、国際法をおもちゃにする干渉行為は完全に犯罪的である。ウクライナに対するこのようなおせっかいの最終的な目的は、1990年代の当初からズビグニュウ・ブレジンスキーやその他の米国帝国主義を維持しようとする立案者たちによって厚かましくも公言されてきたように、ロシアを不安定にすることにある。
笑い出したくなるところではあるが、キエフにおけるワシントンの傀儡であるオレクサンドル・トウルチノフ大統領は、今や、ロシア軍がウクライナ南部のクリミアで地方議会やその他の政府の建物を「取り押さえ、占拠した」として非難をしている有様だ。
この非難は、キエフで政府の建物を手中に収めようとして警察官の殺害を含むさまざまな暴力やその他の犯罪的な行為を駆使してきた政治的扇動者たちの口から発せられた。彼らの行動は選挙で選出された大統領を追い出す結果となった。
ロシアのプーチン大統領は意図的に静かにしていた。しかし、このロシアの指導者はアメリカの策略や偽善を熟知しており、ワシントンの極秘の意図であるウクライナ政権の転覆はロシアの盟友であるシリアに対して見せた意図と共通したものであることをよく認識している。
当面、モスクワは沈着に合法的な行動をとり、規則に従うように見える。彼らはクリミアのロシア軍はウクライナとの間で締結された相互軍事協定の一部に関係したものだとしている。
しかし、オフレコで有り体に言えば、プーチンは実際には「あんた達は国際法を破りたいと思っている。それも良かろう。われわれもそうすることができるんだ。さあ、引っ込んでいろ!」と言っているのだ。米国人はこのことをよくわきまえているのではないか。
主権に関する規則や国際法はもはや問題にはされず、ウクライナで執拗に非合法的な干渉を行い、ウクライナの主権や国際法を台無しにしたのはワシントンとその盟友であるヨーロッパ各国である。ウクライナの領土や何世紀にもわたって共有してきた歴史はロシアの根源的な関心事である。
プーチンがウクライナに関してワシントン政府に対して暗黙の軍事的標識を設定することは、2008年にNATOの手先としてグルジアを扇動し、米国が南オセチアで軍事的な一騒動を起こそうとした時にプーチンが採った行動と同じように、まったく正当だ。
傲慢さと非合法性に満ちたアメリカ例外主義は外交言語を理解しようとはしない。アメリカ例外主義が応答する唯一の言語は武力だ。武力に受け答えできるのは武力だけだ。
著者のフィニアン・カニンガム(1963年生まれ)は国際情勢に関して多くの記事を書いており、彼の記事はいくつかの言語で出版されている。農芸化学の修士号を持ち、英国のケンブリッジにて英国王立化学協会の科学編集者を務めた。その後、ジャーナリズムへ転向。彼は音楽家でもあり、作詞家でもある。20年近く、彼は、ミラー、アイリッシュ・タイムズ、インデペンデント紙を含む主要なメデイアにおいて編集者ならびに著述業務についていた。
<引用終了>
この著者はいみじくも言った。プーチンの行動は何を意味するかというと、それは実際には「米国は国際法を破りたいと思っている。それも良かろう。われわれもそうすることができるんだ。さあ、引っ込んでいろ!」と言っているのだ…
米国やヨーロッパ各国がロシアに対してウクライナへの軍事的介入をしないようにと説得をしてみても、そこには説得力がまったくないのが現状である。それは米国やヨーロッパ各国が見せた国際政治での実態を観察すれば、なぜ説得力がないのかは一目瞭然である。上記の引用記事を読んでみるとその思いは強まるばかりだ。
ただ、キエフの中央広場で犠牲になった人たちの家族は今どのような思いを持っているのだろうか。何時ものことながら、犠牲者は一般市民である。多分、今回のウクライナでの政変は、結果としてクリミア自治共和国が政治的にどのような決着を見たとしても、今後何年にもわたってウクライナ全土に暗い影を落とすことになるのではないかと懸念される。
ウクライナから目を離せられない日々が続きそうだ。
参照:
注1:Putin Faces Down Obama Over Ukraine: By Finian Cunningham,
Information Clearance House – “Press TV”, Mar/02/2014
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