2014年3月6日木曜日

プーチンがインタビューで表明 「武力行使は最後の手段。その権利は保留」


「ロシアはウクライナの国民と戦争を始めるようなことはしない。しかし、もしキエフの過激派勢力がウクライナの市民に対して、特に、少数派のロシア人に対して暴力を振るうようなことがあれば、市民を守るためにはロシア軍を派遣する」とメデアに向かって表明した。
これは昨日(34日)RTから配信された記事の冒頭の一節だ。これを読んだ時の印象は、軍隊と政治の関係は米国とロシアではこうも違うのかと思った程だ。
たとえば、米国のオバマ大統領は昨年の8月、シリアで化学兵器によって多数の市民が殺害された時、これはシリア政府軍が行ったものであるとして「シリアを空爆する」と公言し、シリア政府に脅しをかけた。米国はシリア政府軍が化学兵器を使用したと言いながらも、その証拠を示すことはできなかった。一連の状況から言えることは、あれは米国側の手先による自作自演だったことがほぼ判明している。空爆を開始する、アサド政権を倒すといった筋書きがまずあって、その筋書きに合うような状況を演出しようとしたが、その演出は見事に失敗したのだ。
そして、このような主客転倒した政治の状況は10年前に米国主導で進められたイラク戦争がその最たる事例であると言えるのではないか。イラクへの軍事的侵攻は、結果的には、喧伝されていた大量破壊兵器を見つけることができなかった。そして、もっとも不幸なことには、イラク国内は三分され、極端な政治的混迷に陥っている。今もなお毎日のように多くの市民がテロに巻き込まれて殺害されている。これがすでに10年も経過したイラクにおける現状である。
世界は米国の軍事的優位を背景にした国際政治におけるこうした不条理には飽き飽きしいている。そこへ、昨日、プーチン大統領とのインタビュー記事が配信された。この記事に関しては無数のコメントが寄せられた。4時間足らずのうちに、昨日この原稿を書き始めた時点(34日の1518分)ですでに192件ものコメント数となっていた。
その内容は大部分がプーチン大統領の健全な論理と政治家としての使命感に共感したというコメントだ。プーチン大統領こそが世界の指導者であると賞賛する声も多い。しかし、プーチンの考えがどうして健全な論理として受け止められたのだろうか。さまざまなコメントを読んでみた。プーチンの思考は多くの人たちによって「常識にかなっている」と評価されていることが分かった。私の個人的な印象では、このことが多くの人からの支持を得た理由ではないかと推測される。
次に私が感じたのは、ヨーロッパ諸国の多くの政治家が米国に追従していることに失望しているという現実だ。そして、もうひとつは、RTは実質的にはロシア国営のニュース報道局ではあるのだが、英国の公営放送であるBBCや米国のCNNといった大手のメデアとは一味違った報道姿勢を保っている。それが故に、RTを通じて西側のメデアからは得られないような情報に接することができるとして、一般視聴者は好感を抱いているようだ。ウィキペデアの情報によると、米国内について言えばRTは二番目に多い聴視者を確保しているという。
前置きが長くなってしまったが、プーチン大統領とのインタービュー記事 [1] を仮訳して、下記に示したいと思う。多くの市民がなぜプーチン大統領のインタビュー内容に好意を抱いたのか、どういう点が共感を呼んだのか、その理由を皆さんに感じ取っていただきたいと思う。 

<引用開始>
ロシアはウクライナの国民と戦争を始めるようなことはしない。しかし、もしキエフの過激派勢力がウクライナ市民に対して、特に、少数派のロシア人に対して暴力を振るうようなことがあれば、市民を守るためにはロシア軍を派遣する、とプーチン大統領はメデアに対して述べた。
プーチン大統領はロシア議会の上院によってウクライナの市民を守るために武力を行使する権限を委任されているが、同大統領は目下のところそのような行動をとる必要はない、と言明した。
プーチンは、ある州の知事が鎖に繋がれて公衆の面前で屈辱感を味わされたとか、反政府派が地域党の本部を占拠した際に技術者を殺害したといった事例を挙げて、ウクライナにおける過激派の行動を引き合いに出し、ロシアがなぜウクライナ東部や南部の市民の生命や福利に関して懸念を抱いているのかについて説明をした。
そういった事態こそがロシアにとっては軍隊を配備するという選択肢を用意しておく最大の理由なのだ。
「もしこういった無法状態が東部で始まったとしたら、公選された大統領からの懇請(すでに受け取ってはいるが)に加えて、もし地域住民がわれわれに助けを求めてきたら、われわれにはこれらの住民を守るためにわれわれが持っているあらゆる手段を活用する権利がある。こういった行為はまったく合法的なことだとわれわれは信じている」と言った。
あるジャーナリストが戦争になると思うかと質問をした際、「ロシアはウクライナの市民と戦争をする積りはない」と、プーチンは強調した。「しかし、ウクライナの市民に対する攻撃が起こりそうになったら、ロシア軍はそういった動きを阻止する。」
「われわれはウクライナ市民と交戦する積りはない」と彼は述べた。「私はあなた方がこの件を明確に理解して欲しい。意思決定をする必要がある場合というのはウクライナの市民を守る時だけだ。軍に属する人たちには誰もが敢然と立ち向かわせたい。われわれの面前に立ち上がる者に対しては、彼らは彼ら自身の国民に対してさえも発砲するかも知れない。婦人や子供たちに対しても。ウクライナでは誰かがそのような行動 [訳注:市民を守ること] をとり命令を下すのを見たいものだ。」
現在ウクライナに居る制服を着て武装している連中はバッジを付けてはいないが、彼らはロシア兵ではないのかとの指摘をプーチンは否定した。彼らはクリミアの自警団のメンバーであると述べた。ヤヌコヴィッチ大統領の追放に一役買った過激派よりも立派な装備をしているわけでもなければ、より多くの訓練を受けているわけでもないとも言及した。
プーチン大統領は、この火曜日(訳注:34日)に終了したロシア西部で実施された軍事演習はウクライナ国内の出来事とは何の関連もないと述べた。  

制裁措置をとるとの脅かしは非生産的だ:
ウクライナに対するロシアの姿勢に関して批判が起こっているが、それについてはどう思うかとの質問を受けて、プーチンはロシアが非合法的な行動を起こしているという批判を退けた。たとえロシアがウクライナにおいて武力行使をしたとしても、それは国際法を犯したことにはならない、と述べた。
それと同時に、彼は米国やその同盟国が自分たちの国益を追求するために武力を行使する際、合法性については何らの関心も払ってはいないではないかと述べて、米国やその同盟国を批判した。
『彼らに私が「あなたたちは何事も合法的に行わなければならないと思っているか」と聞くと、彼らは「イエス」と言う。私はアフガニスタンやイラクならびにリビアでとった米国の行動を彼らに思い起こさせなければならない。これらの国々では彼らは国連安保理の委任状もなしに行動した。あるいは、リビアでの事例が示すように委任状を悪用した』と、プーチンは述べた。
『われわれのパートナー、特に米国は常に自国のために地政学的な利害や国益を明確に描きあげ、それらを執拗に追及しようとする。そして、残りの全世界をその方向に引っ張り、「われわれに賛成か反対か、どちらなんだ」といった原則論を用いて詰め寄り、賛成しない国に対しては嫌がらせをする』と、付け加えた。
ウクライナとの関連でロシアが直面している制裁措置に言及して、ロシアを脅かそうとしている連中は制裁措置に向けて先へ進めば自分たちにもその影響が及んでくるということを考えるべきではないか、とプーチンは述べた。相互に連携している今の世界においては、一国が他の国を痛めつけようとすれば、その国自体も損害を被ることになる。
プーチンはこのような状況においては脅かしは非生産的だと警告した。もしG8のメンバー国がソチで予定されているG8サミットに出席したくないと言うならば、それはその国自体の問題だ。
 

プーチンはキエフの中央広場に集まったデモの参加者には同情の念を寄せるものの、クーデターは拒絶: 

ウクライナの市民は、ヤヌコヴィッチ大統領によるあまりにもひどい不正行為やその他の失敗を考慮すると、ヤヌコヴィッチ政権に反対を表明することには合法的な理由があったとプーチンは強調した。
しかしながら、ヤヌコヴィッチを追い出した非合法的なやり方については、ウクライナ国内を政治的に不安定にしたとして、プーチンはそれに異議を唱えた。
「ウクライナにおけるこのような形での政権の交代には徹底的に反対する。私の立場は旧ソ連邦の崩壊後のどの国においても同じことだ。このようなやり方では法を順守する文化を育てることはできない。もし誰かがこのようなやり方を踏襲することが許されるとするならば、誰でもそうすることが許されることになる。これは大混乱を意味する。経済が安定せず政治的なシステムが定着してはいない国にとっては最悪の事態だ」と、プーチンは説明した。
彼は個人的には政府に圧力を加えるために何ヶ月にもわたって継続された街頭でのデモは好きにはなれないが、ウクライナの現状について純粋に怒りを感じてキエフの中央広場に集まった市民たちには同情の念を禁じえないと語った。
しかし、それと同時に、怪しげな名声を持った金持ちのビジネスマンが新政府の中枢に任命されている事実を指して、今ウクライナで起こっている事はただ単に一団の悪党を他の一団に置き換えているだけかも知れないと警告した。
先月キエフで起こった暴力的な対立の際に狙撃者がいたことについて質問され、プーチンはヤヌコヴィッチ政府が反政府派のデモ参加者に対して火器を使用せよとの命令を下したとは認識していないと述べた。狙撃者は反政府勢力の工作員たちであろうと主張した。対立の最中に警察官が致死的な武器で狙撃されたという事実だけは確かだ、と彼は付け加えた。
ヤヌコヴィッチはウクライナではすっかり無力なってしまっているが、法的な観点から言えば、彼はあの国の正当な大統領である、とプーチンは語った。ヤヌコヴィッチに取って代わったキエフの新政権のやり方は政権の信頼性を強化することにはならなかった。
ヤヌコヴィッチに同情していますかとの質問には、「とんでもない。私はまったく違った気持ちを持っている」とプーチンは語った。しかし、それがどんな気持ちであるのかに関して公に言及することは避けた。また、ヤヌコヴィッチの行動にはどのような間違いがあったのかについてのコメントも避けた。彼がそこまで立ち入ることは不適切であると説明した。
と同時に、プーチンはヤヌコヴィッチにはもう政治的な将来はないとしている。このことは追い出されたウクライナ大統領自身にも伝えてあるとのことだ。もし彼がウクライナに留まっていれば即座に処刑されかねないという状況から、ロシアとしては人道的な立場から彼がロシア入りすることを認めたとも付け加えた。 

ウクライナの将来についてはウクライナ市民全員の平等な参加を:
 
ロシア政府は二国間の経済的連携を維持することに関して今自称ウクライナ政府と話を進めようとしている。しかしながら、正常な二国間関係はウクライナが完全に合法的な政府を樹立した後に初めて可能になるだろう、とプーチンは語った。目下キエフ政府には自分の相手となる人物がいない、つまり、彼にとっては話かけることができるパートナーがいないのだ。
ロシア大統領は、ウクライナ市民全員が自分たちの国の将来を定義するに当たって皆が平等に参加する様子を見たいものだと述べた。現在ウクライナの東部や南部ではキエフ政府に対する反抗が明らかに見られるが、これはキエフ政府がウクライナを統治する委任を全国レベルで付与されているわけではないことを示している。
「率直に言って、ウクライナの全市民がそのプロセスに関与しているという実感を与えるためにも彼らは国民投票を通じて新憲法を採択し、自分たちの国がどのように機能しなければならないかという新たな原理原則を形成できるようにインプットを与えるべきだ」とプーチンが提案。「確かに、それはわれわれのためのものではなく、ウクライナ人自身のためのものだ。そして、ウクライナ政府はなんらかのやり方で決心しなければならない。合法的な政府が樹立され、新たな議会が選出された後に彼らはここへ戻ってくる。」
ロシアとしてはウクライナで予定されている大統領選挙を見守って行きたい、とプーチンが述べた。仮に、選挙がテロ的な雰囲気の下で行われた場合は、ロシアはその選挙は不正に行われたものと見なし、そのような投票結果は認められない、と警告した。
プーチンはロシアがその保全に最大限の努力を投じようとしているウクライナ領土の完全性についてもプーチンはコメントした。西側諸国はロシア側がウクライナでの出来事をクーデターだとして評価したことを拒否しようとしている。あれは革命であると言っている。
ロシアの専門家たちは、もしウクライナが革命を成し遂げたというのであれば、革命の後に出現した新国家は、ロシアが1917年のボルシェビキ革命後に完全に様変わりしたように、前の国家とはまったく違ったものとなっている筈だ。
もしそうであるならば、モスクワ政府はウクライナと締結していた条約にはもはや拘束されることはないと見なすこともできる、とプーチンは警告した。
<引用終了>
 

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プーチン大統領が言及していた狙撃者の存在に関しては本日の最新の情報 [2] によると、EU外務・安全保障政策上級代表のキャサリン・アシュトンとエストニアのウルマス・パエト外相との間で電話で交わされた会話が暴露された。後者は「背後から狙撃者を操っていたのは誰だったかと言うと、それはヤヌコヴィッチではなく、反政府派連合の誰かだったという疑いがより濃厚になってきた」と述べている。この電話は反政府派と治安部隊との衝突がその頂点に達していた225日にエストニアの外相がキエフを訪れた後にアシュトンと交わしたものだという。
パエト外相はキエフで狙撃者に撃たれた負傷者たちの治療に当たっていた医師と交わした会話を思い起こして話をしている。彼女は反政府派のデモ参加者たちや警察官は両者とも同一の狙撃者によって撃たれたものだと言ったのだ。
「二番目に、非常に憂慮すべきことではあるが、同医師 [オルガ・ボゴモレッツ教授]は、すべての証拠を総合すると、狙撃者によって撃たれた人たちはデモ参加者だけではなく警察官の方にも見られる。同一の狙撃者らが両派に向かって狙撃したものだと言った」と、エストニアの外相は語っている。
プーチン大統領が前日記者団の質問に対して答えていた内容が今日はこの暴露記事によってその通りであったことが証明された。新政権は、多分、この件については詳細な調査を行う積りはないのではないか。90数人が死亡しているという事実は非常に重い。本格的な調査を開始すると、幾つかの政治グループの間で結ばれた連携にはヒビが入るかも知れない。また、本件についてさらなる真実が報道されると、反政府派を支持してきた米国やEUにとっても政治的にはかなり厄介な荷物になるかも知れない。
また、プーチン大統領はインタビューの場で「西側がロシアに対して経済制裁を実施すると、経済がお互いに密に連携されている現在、西側もその影響を受けることになるだろう」と述べている。これは具体的にはどういうことだろうか。
私の考えは次のような具合だ。ロシアから大量の石油や天然ガスの供給を受けている西側諸国は、何年か前にロシアがウクライナに対して天然ガスの供給を一時的に遮断したように、ロシアはEU圏に対していとも簡単に報復措置をとることが可能だ。プーチン大統領はその可能性をあからさまには述べてはいないけれども、これは誰にでも推測できる内容である。
対ロシアの話になると歴史的にも特殊な背景を持っているポーランドは米国内で地政学的戦略の立案では大御所とも言えるブレジンスキーの故国でもある。そのポーランドはウクライナ問題ではEU圏内のタカ派的な存在でもあるようだ。しかし、他の国々はNATOのメンバーでもないウクライナに対してそれほど首を突っ込みたくはないとも言われている。つまり、米国の対ロシア戦略には一定の距離を置きたいというのが本音のようだ。
今後、まだまだ紆余曲折があると思う。さて、どの辺りに落ち着くのだろうか。
 

参照:
1Putin: Deploying military force is last resort, but we reserve right: By RT, Mar/04/2014, http://on.rt.com/pmgkkh
2Kiev snipers hired by Maidan leaders - leaked EU's Ashton phone tape: By RT, Mar/05/2014, http://on.rt.com/dx2op3

 

 

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