全世界の市場で除草剤として使用されている農薬「ラウンドアップ」の有効成分は「グリフォサートイソプロピルアミン塩」と称される化学物質である。通常、「グリフォサート」と呼ばれている。この除草剤は製造企業であるモンサント社が販売する遺伝子組み換え(GM)作物とセットで販売される。つまり、同社のGM作物には除草剤ラウンドアップに対してより強い耐性が組み込まれ、雑草が除草剤にやられてもGM作物自身は十分に耐え得るように設計されている。
国連の世界保健機構(WHO)の下部組織である国際癌研究機関(IARC)はグリフォサートの安全性を5段階の分類で上から2番目にリスクが高い「恐らく、発癌性がある」ことを示す「2A」に位置付けた。
米国立癌研究所の名誉研究員であり本調査結果に関して中心的な著者でもあるアーロン・ブレア―はロイターに対してこう言った:「動物試験では十分な証拠をつかみ、人の臨床試験でも限定的な証拠をつかんでいる。また、DNAの突然変異や染色体の損傷を示す強力な証拠も揃っている。」 WHO傘下のIARCは世界中で広く使用されているこの除草薬が非ホジキンリンパ腫を誘発することを見い出し、グリフォサートに関する研究成果を2015年3月20日に公表した。[注: より詳細な情報に関しては、2015年6月15日に掲載した「モンサントの除草剤と発癌性との関連性 - WHOは公表した調査結果を撤回しそうもない」と題した投稿を参照ください。]
もちろん、ラウンドアップ除草剤の主要成分がグリフォサートであることから、ラウンドアップを製造・販売するモンサント社はこのIARCの発表に関しては反論をしている。
GM作物はその安全性が以前から危惧されている。もう何年にもなる。しかしながら、白黒の決着はつかないままだ。製造・販売元のモンサント社は数多くの安全性評価のための研究に莫大な費用を提供しており、同社の製品は世界市場を席巻している。同社は、もちろん、ラウンドアップ除草剤は安全であると主張している。しかしながら、はっきり言えば、製造企業にとって都合のいいデータだけが公表され、拡販に都合のいい説明や解釈が行われて来たのが現状である。
食品の安全性を監督する規制当局、たとえば、モンサント社のお膝元である米国では環境保護庁、EUでは欧州食品安全機関、日本では農林水産省、等が産業界をしっかりと監督してくれていれば(つまり、公平性と透明性を維持してくれてさえいれば)、消費者にとっては特に問題はない。ところが、消費者にとっては非常に不幸なことに、規制当局と産業界との間には、長年、癒着が繰り返され、しかも、至る所で起こっている。現実には、消費者の安全性は完全に後回しとなっているのだ。
大企業は自分たちの既得権を死守し、将来の利益を不動のものにしようとする。潤沢な資金を投入して、自分たちに不利となりそうな科学的情報が独立心が旺盛な専門家や消費者の間に流布しないように注力する。
そうした現状については、このブログでも幾つかの投稿でご紹介をして来た。
本日のブログでは、規制当局の安全性審査が如何に不完全であったかを指摘するつい最近の記事
[注1] を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
この記事は「グリフォサートの機密データの中に腫瘍を引き起こす証拠を発見」と題されている。不完全な安全性審査の現状について学んでおきたい。
<引用開始>
これはグリフォサートの最前線における重要なニュースだ。グリフォサートの再登録の手続きのために産業界からEUに向けて送付され、初めて一連の機密データが規制当局や産業界から独立している専門家によって解析が行われた。その結果、当該化学物質に暴露された後に腫瘍や癌が引き起こされることを報告したいくつかの研究結果がEFSA(欧州食品安全機関)やECHA(欧州化学機関)が行った安全性の評価では取り上げられてはいなかったことが判明したのである。今や、絶好の時がやって来た。完璧なデータがすべて出版され、科学者仲間による詳細な検討が可能になったのだ。
Photo-1: Source: corporateeurope.org
環境や健康ならびに発癌性に関して指導的な専門家として定評のあるクリストファー・ポルティエ(1)はIARC(国際癌研究機関)によるグリフォサートのEUにおける再登録に関わる評価を積極的に擁護していたのだが、彼によると、グリフォサートの毒性に関して科学的評価を行った公的機関(BfR, EFSA and ECHA)は産業界から提供された機密データに含まれていた情報、つまり、グリフォサートへの暴露の後には腫瘍が有意に増加することを報告している8個のデータを見逃していたのである。
ポルティエ博士は5月28日に自分が見出した内容を詳細に綴った手紙 を欧州委員会のジャン・クロード・ユンケルに送り、そのコピーをグリフォサートのEU再登録に関与するすべての機関へも送付した。解析作業の結果、「グリフォサートへの暴露の後、腫瘍反応が有意に増加することを示す8個のデータがEFSAおよびのEChA評価のどちらにおいても評価の対象には含まれてはいない」ことが判明した、と彼は記している。「この事実はグリフォサートのデータに対して行われた評価は科学的には不完全であり、これらの評価に基づいて導かれる政策決定は如何なるものも公衆の健康を守ることはできないことを示唆している。」
このデータがグリフォサートを製造する産業界とは研究資金の面で何の繋がりもなく、EUの公式評価にも参画してはいない科学者によって解析されたのは初めてのことだ(2)。このデータは緑の党の最高執行責任者ならびに同党の欧州議会議員が文書公開請求をして入手したものではあるが、産業界はそれに反対し、数多くの編集を要求したことから、EFSAが文書公開を行うまでに1年を要した。
大事なことがひとつある。それは、このデータはポルティエ博士ならびに他の科学者の間で個人的に共有し、解析作業を行うことが出来るだけであって、もしもそれを公開したならば産業界による訴訟を招くリスクがあるのだ。
ポルティエ博士の記述によると、EFSAが公にした声明では「EFSAとEU参加国はそもそもオリジナルの研究に依存し、それらの根拠となる生データを自分たちで検証する」としているが、彼がこれらのデータを審査したところ実際にはそうではなくて、EU当局による最初の審査(この場合はドイツ連邦リスク評価研究所、BfRが行った)では腫瘍の発生が有意に認められた事例の中でたった20パーセントがその存在を特定されただけである。
これは驚くべきことだが、本当にそうなのか?BfRの仕事はEFSAやECHAでのEUによる評価作業に対してインプットすることであって、自分たちが行った当初の評価については何も書かず、単にグリフォサート・タスクフォースによって提供された研究についてコメントをしただけであったということを誰もが記憶しておく必要がある。さらには、最近の論争はEPAの元専門家がEFSAの作業に介入したことが所謂「モンサント文書」によって暴露され、時には「禁止するには余りにも大きすぎる」と言われているグリフォサートを「救済する」ために動物実験での発癌性に関するいくつかの研究成果を不当にも取り上げなかったのではないかという疑念に関して以前から行われていた論争(ならびに、ポルティエ博士の以前の手紙)を再燃させることになったのである。
ポルティエ博士は手紙の中で「グリフォサートの毒物としての分類は公衆のための重要な医療政策を支える科学的証拠に関する透明性の欠如が如何に公衆の信頼感を低下させ、懸念を引き起こすかを示す貴重な事例となった」と主張している。
たとえ何らかの疑念が残されているとしても、本日のポルティエ博士からの手紙は、ついに、科学者全員が誰でも評価することが可能な、公開された証拠に基づいてこの論争を進めるには、何と言っても、EUの評価を支えるデータを公開することが急務であることを示したのだ。
一連のデータがすべてこの審査作業の当初に公表されていたならば、明らかに、莫大な時間やエネルギーの浪費は避けられただろうし、EUのリスク評価システムに対する信頼も損なわれずに済んだことであろう。このことは殺虫剤や除草剤のような製品の評価ルールを見直し、新たなシステムを構築することを求めている。新しいシステムでは、評価の費用は依然として産業界に課されるだろうが、評価作業そのものは公的機関によって独立した研究所に委託され、評価結果は出版される前に専門家による査読を受け、その後に科学雑誌に掲載される(そして、生データは要請があれば入手可能とする)。
背景事情:
グリフォサートの再登録においては、当初から、最高執行責任者
[訳注:緑の党の] が恒久的なスキャンダルを指摘して来た。つまり、世界でもっとも多用されているこの除草剤の毒性の評価に用いられたデータの大部分はグリフォサートの製造企業自身から提供されたものであって、これらのデータは何処にも公開されたことはないのだ。この状況はグリフォサートに限ったことではない。EU市場で規制されている製品は、殺虫剤も含めて、すべてがこの方式で評価が行われている。
2015年の12月、EFSAは自分たちの評価結果とIARCのそれとの間にある主要な相違点のひとつとして、詰まるところは、産業界から提供されたデータに関してより多くの、より重要な機密データへのアクセスを可能にすると説明した。そして、その後、これらの評価作業のいくつかに関しては、特に、EFSAが重要な役割を果たして来た分野においては、われわれは文書公開請求の制度を導入すると言った。
2016年の9月、EFSAは最高執行責任者ならびに緑の党の欧州議会議員に対してデータを公開するという約束を守った。 これは「EFSAならびにEU加盟国が行ったグリフォサートの評価に関して第三者が検証することを可能にするものである。」
2016年の12月、ついに、われわれは三つの評価作業に用いられた生データを入手したが、これらはひどく編集されており、再評価を行う事はかなり難しい状況であった。 われわれはEFSAがこのデータをどのように判断したのかに関して、入手したデータが果たして独自の解析を行うのに十分であるのかどうかという点を、ポルティエ博士も含めて、何人かの科学者に質問してみた。彼らの意見はこうだった。つまり、このデータは、本日の公表が裏付けているように、確かに興味深い洞察を可能とする。その一方で、このデータを部外に公開することができないという事は科学者にとってはこのデータを使う事が非常に困難なものとなる。それでも、本日の出来事から判断すると、EFSAは約束を守ってくれたので、このこと自体は正当に認識するべきである。とは言うものの、たとえポルティエ博士がこのデータならびにEUの機関が行った評価を解析することができたとしても、彼は自分が参照する証拠を公開することはできないのだ。
- 1. クリストファー・ポルティエ博士は(米)国立環境衛生センターのセンター長、有害物質・疾病登録局の局長、国立環境衛生科学研究所の副所長、国家毒性プログラムの副長を歴任した。米国統計協会および国際統計学会の会員である。現在は退職し、米国の環境関連のNGOであるEnvironmental Defense Fundでパートタイムで働いている(彼はグリフォサートのためではないと付け加えた)。彼は所謂「モンサント文書」の公開で引き金となったカリフォルニア州での訴訟において専門家側からの証人として参画した。
- 2. 彼自身が「招聘された専門家」として貢献して来たIARCの評価や後に彼がIARCの評価をEU当局に向けて弁護したこと(EFSAの長官は彼の批判に激怒して、欧州議会議員にポルティエの手紙は「フェースブック時代の科学」だと言った)を台無しにしようとして、彼はひどく攻撃され、中傷されている。これらの新知見は彼を産業界の荒らしの間で今以上に人気者にすることはないと予測することができる。
<引用終了>
これで仮訳は終了した。
「本日のポルティエ博士からの手紙は、ついに、科学者全員が誰でも評価することが可能な、公開された証拠に基づいてこの論争を進めるには、何と言っても、EUの評価を支えるデータを公開することが急務であることを示したのだ」という認識は消費者の安全を正当に確保する上では歴史的な出来事であると言えよう。
こうして、EUでのラウンドアップの再登録はまったく新しい局面に入って来た。グリフォサートの登録時の安全性の評価が科学的には不完全であったことが専門家によって指摘され、今われわれ自身が学んでいるように、その事実が一般大衆の目にも曝されることになった。今後の焦点は、グリフォサートの新たな発癌性の知見が欧州におけるラウンドアップの再登録を阻止することに繋がるかどうかにある。
ラウンドアップを引き続き販売したい産業界と次世代の安全を確保したい消費者側との間の綱引きは、国連の世界保健機構(WHO)の傘下にある国際癌研究機関(IARC)がグリフォサートには「恐らく、発癌性がある」と公表したことから、一段と激しくなって来た。このIARCの声明は2015年3月20日に発表された。本声明は産業界に、特に、この除草剤を製造している製造企業に大きな衝撃を与えたに違いない。
消費者にとっては非常に歯がゆいことではあるが、これで一件落着とはならない。むしろ、産業界と消費者団体との間の攻防戦はますます激しくなろうとしているのが現状だ。今までは資金をふんだんに投入することが可能で、安全性に関する情報を企業秘密として一般には公開しない産業界側が圧倒的に優勢であった。しかし、引用記事でも報告されているように、発癌性を示唆するデータが当局の今までの評価では正当に取り上げられてはいなかったことが指摘され、文書公開請求の道が開かれたたことによって、ラウンドアップ除草剤の安全神話の一角が今崩れようとしているのである。
今回の出来事は歴史的な出来事であると言える。そして、この時点で暴き出された問題は単にラウンドアップの欧州市場における再登録だけに限られるものではない。ラウンドアップ以外の除草剤や殺虫剤、遺伝子組み換え作物、等の安全性に関しても同様の懸念を引き起こす切っ掛けになるのではないか。それと並んで、毒性や発癌性が疑われるワクチンや医薬品もこの動きの延長線上に見えて来る。バイオテクノロジーの世界では今でも未知の事柄が山ほども存在する。それにもかかわらず、商業性だけが強調され、消費者や将来世代の安全はあろそかにされていることが実に多い。
今や、製品登録に関わる当局の透明性や公平性の重要さが一段と求められ、登録過程の妥当性が問われている。
♞ ♞ ♞
上記に掲載した引用記事は持続可能な農業や食品に焦点を絞ったウェブサイト、Sustainable Pulseから入手したものである。同サイトはTHE
DETOX PROJECTと称するサイトも運営し、公衆への情報提供を行っている。参考のために、このTHE DETOX
PROJECTのサイトが提供する発癌性に関する情報 [注2] の一部を下記に転載してみよう(斜体で示す)。なお、上記の引用文献を補完する部分だけを抜粋することにし、この投稿を簡潔にするために重複する部分は割愛したいと思う。
THE
DETOX PROJECT
発癌性
概要:
2015年、世界保健機構の国際癌研究センター(IARC)はグリフォサートには「恐らく、発癌性がある」と宣言した。グリフォサートを主成分とする除草剤(いくつもの化学物質の混合物)は癌を引き起こすことはないとする主張は産業界自身がグリフォサートを単独で調査し、商業的には極秘とされるデータについて政府の規制当局が下した解釈に基づいている。それとは対照的に、ラウンドアップとグリフォサートについて独立した科学者が行った調査によると、動物試験で癌を引き起こすことが分かった。試験管内での研究(動物や人について行われたものではない)によると、グリフォサートはホルモンの分泌を撹乱し、EUで許容されている含有レベルよりも遥かに低い濃度で乳癌細胞を増殖させることが分かった。ラットを使った対照試験は化学物質が人に癌を引き起こす影響度を調査するのに適したモデルであることが広く認識されている。
・・・
モンサント社はグリフォサートは癌を引き起こさない3との各国の「規制当局が導いた結論」を引き合いに出して、IARCの結論に反論した。しかしながら、これら規制当局がその結論の根拠とする研究は規制当局への申請の裏付けとして除草剤の製造企業自身が行ったものであったり、外部へ委任して入手したものであった。これらの研究は公衆や独立した科学者らに対しては極秘とされ、古くて、時代遅れの手法に基づいていた
[“Glyphosate and Roundup
damage DNA”を参照]。
これらの産業界の研究に基づいてEUが2002年に行ったグリフォサートの審査は発癌性を示す証拠はないと主張した4。しかし、ラットを用いたふたつの長期的な研究は発癌性を示しており、この情報は当時すでに得られていたのである。ラットを用いたこれらの長期研究は1979~1981年 および1988~1990に行われた5。最初の試験ではラットに与える一日当たりのグリフォサートの量は比較的少なく、二回目の試験ではより大きな投与量とした。最初の試験はグリフォサートを投与されたラットに腫瘍が見られたが、投与量が高い二番目の試験では同一の効果は得られなかった。これらの結果に基づいて、グリフォサートは癌を引き起こす化学物質からは除外されたのである5,6。
しかしながら、この動きは毒物学的な想定が時代遅れであり、間違っていた。癌は特定の化学物質の内分泌撹乱効果によって引き起こされ、これは著しく低い投与水準であっても引き起こされる。内分泌撹乱物質は高い投与量よりも、むしろ、より低い投与量にてより強力な内分泌撹乱効果を示す。時には、より高い投与量では撹乱効果がまったく観察されないこともあり得る7。
低投与量での効果は、グリフォサートを含め、殺虫剤や除草剤について規制当局によって実施される高い投与量で行われる試験結果から推測することは不可能である。規制当局の試験は低投与量での試験を要求しないことから、内分泌撹乱効果の可能性を確認することはできない8。したがって、上記に議論されている長期試験で得られた知見5 は最新式の知識に照らして再評価するべきである。
・・・
ラウンドアップに関してマウスを使って独立した研究者が行った実験室での試験によると、癌を促進する効果があることが明らかとなった。ラウンドアップはマウスの皮膚に癌性腫瘍の成長を促進することが見つかった10。
グリフォサート単独での人の細胞に関する実験室での管内試験はこの化学物質は内分泌撹乱物質であることを示した。グリフォサートはエストロゲンの働きによって11、EUでの飲料水に許容される濃度よりも遥かに低レベル
(“Potentially
dangerous levels of glyphosate found in GM soy”を参照)であってさえもエストロゲン依存性の乳癌細胞の増殖を促進させることが判明した。
腫瘍に関する思いがけない知見は引き続き注視して行かなければならない:
ラウンドアップをラットに投与する試験が行われた。ラウンドアップは飲料水中にグリフォサート基準で50ng/L相当に希釈。この濃度はEUの飲料水に許容される濃度の半分12であり、米国の飲料水の許容濃度の14,000倍も低い濃度13であるのだが、臓器にひどい損傷をもたらし、2年間の投与によって雌の実験動物では乳腺腫瘍の発症率が増加した14。
この研究は発癌性について実施されたものではなく、慢性毒性の研究であることから、予期せずに腫瘍の発生を見い出したのである。発癌性の研究に比べると、慢性毒性の研究は実験動物の数が少ないことから、この腫瘍の発見に関しては多数の実験動物(ひとつのグループ当たり性別毎に50頭)を用いて本格的な発癌性試験を追試する必要がある。ラウンドアップについては規制当局への情報提供のために長期毒性に関する動物試験を行ったことはない。つまり、グリフォサート単独での試験が行われただけであって、その結果は上述の通りである。
人に関する疫学的調査によると、癌のリスクが確認されている:
人の集団に関する調査により、ラウンドアップへの暴露と二種類の血液癌との間に関連性があることが判明した:
- 米国における農薬散布者に関する調査の結果、グリフォサート系除草剤への暴露は多発性骨髄腫の発症率を高めることに関連性があることが分かった15。
- スウェーデンで行われた疫学調査によると、グリフォサート系除草剤への暴露は非ホジキンリンパ腫の発症率を高めることが分かった16 17 18。2014年に出版された文献を組織的に調査した結果、グリフォサート系除草剤と非ホジキンリンパ腫との間には関連性があることが判明した19。
「グリフォサートの事実」というウェブサイトは癌の研究結果を偽って伝えている:
不思議な事ではあるが、除草剤の産業界が運営する「グリフォサートの事実」というウェブサイトは非ホジキンリンパ腫に関する上述の研究結果を偽って伝えている。ウェブサイトでは下記のように伝えられているのだ:
「別の出版物が非ホジキンリンパ腫とグリフォサートとの間の関連性を報告しているが、この関連性は同一の研究者グループが後に行った試験では再現されなかった20。」
一番目に引用された研究結果(Hardell他、2002年)は、「グリフォサートの事実」というウェブサイトが言っているように、グリフォサート系除草剤に暴露された人たちと非ホジキンリンパ腫との関連性を見い出していた17。しかしながら、同ウェブサイトが二番目に主張する内容とは裏腹に、二番目に引用された研究結果(Eriksson他、2008年)は先の研究で見出されていた非ホジキンリンパ腫とグリフォサート系除草剤との関連性を実際には再確認するものであって、この関連性は「著しく強くなった」と付け加えているのだ18。
「グリフォサートの事実」の著者はこの研究結果を偽って伝えているようだ。
ラットは人の癌を実験するのに適したモデルである:
イタリアのラマッツィ―二研究所で30年以上にわたって収集されたデータによると、同研究所や世界中で数多くの毒性研究で使用されて来たスプラーグ・ドーリー種のラットは、実験計画が適切である場合には、人の癌を研究するのに適したモデルであることを示している21。言葉を換えて言えば、化学物質がこの種のラットで癌を引き起こせば、その化学物質は人間にも癌を引き起こす可能性が高いということである。
参照文献:
- Guyton K, Loomis D, Grosse Y, El Ghissassi F, Benbrahim-Tallaa L. Carcinogenicity of tetrachlorvinphos, parathion, malathion, diazinon, and glyphosate. Lancet Oncol. 2015. http://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanonc/PIIS1470-2045%2815%2970134-8.pdf.
- International Agency for Research on Cancer. IARC Monographs Volume 112: Evaluation of Five Organophosphate Insecticides and Herbicides. Lyon, France: World Health Organization; 2015. https://www.documentcloud.org/documents/1690645-iarc-monographs-volume-112-evaluation-of-five.html.
- Monsanto. Monsanto disagrees with IARC classification for glyphosate. 2015. http://www.monsanto.ca/newsviews/Pages/NR-2015-03-20.aspx.
- European Commission Health & Consumer Protection Directorate-General. Review report for the active substance glyphosate. 2002. http://bit.ly/HQnkFj.
- International Programme on Chemical Safety. Environmental health criteria 159: Glyphosate. 1994. http://www.inchem.org/documents/ehc/ehc/ehc159.htm.
- Dallegrave E, Mantese FD, Coelho RS, Pereira JD, Dalsenter PR, Langeloh A. The teratogenic potential of the herbicide glyphosate-Roundup in Wistar rats. Toxicol Lett. 2003;142:45-52.
- Vandenberg LN, Colborn T, Hayes TB, et al. Hormones and endocrine-disrupting chemicals: Low-dose effects and nonmonotonic dose responses. Endocr Rev. 2012;33(3):378-455. doi:10.1210/er.2011-1050.
- Vom Saal FS, Akingbemi BT, Belcher SM, et al. Chapel Hill bisphenol A expert panel consensus statement: integration of mechanisms, effects in animals and potential to impact human health at current levels of exposure. Reprod Toxicol. 2007;24:131-138. doi:10.1016/j.reprotox.2007.07.005.
- Dykstra W. Memorandum from William Dykstra to Robert J. Taylor: Subject: Glyphosate – EPA Registration Nos. 524–318 and 524–333 – Historical Control Data for Mouse Kidney Tumours. Washington, DC: US Environmental Protection Agency (EPA); 1989. http://www.epa.gov/pesticides/chem_search/cleared_reviews/csr_PC-103601_19-Jun-89_249.pdf.
- George J, Prasad S, Mahmood Z, Shukla Y. Studies on glyphosate-induced carcinogenicity in mouse skin: A proteomic approach. J Proteomics. 2010;73:951-964. doi:10.1016/j.jprot.2009.12.008.
- Thongprakaisang S, Thiantanawat A, Rangkadilok N, Suriyo T, Satayavivad J. Glyphosate induces human breast cancer cells growth via estrogen receptors. Food Chem Toxicol. 2013;59:129-136. doi:10.1016/j.fct.2013.05.057.
- Council of the European Union. Council directive 98/83/EC of 3 November 1998 on the quality of water intended for human consumption. Off J Eur Communities. 1998. http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:1998:330:0032:0054:EN:PDF.
- US Environmental Protection Agency (EPA). Basic information about glyphosate in drinking water. 2014. http://water.epa.gov/drink/contaminants/basicinformation/glyphosate.cfm#four.
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- Hardell L, Eriksson M. A case-control study of non-Hodgkin lymphoma and exposure to pesticides. Cancer. 1999;85:1353-1360. doi:10.1002/(SICI)1097-0142(19990315)85:6<1353::AID-CNCR19>3.0.CO;2-1.
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抜粋はこれで終了した。
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こうして政府による認可作業の背後で行われて来た諸々の事柄についてその詳細を知れば知る程、それが米国、EU、あるいは、日本の何処であろうとも、不適切な行いが何と多いことかと驚かされる。
それらの不適切さの根源は商業主義に重点を置く企業の姿勢であることは論を待たない。そして、科学者の側にも大きな要因が潜んでいる。それは研究費を獲得するためには資金源である企業側の言いなりになってしまう科学者側の弱い立場や倫理観の欠如であろう。
この投稿を読んでいただいた皆さんに後味の悪さを感じて貰えたとしたら、投稿者としては嬉しい限りだ。除草剤の安全性や遺伝子組み換え作物の安全性は未完成のままであることに留意する必要があるからだ。
今後、ラウンドアップ除草剤に関して新たな局面がどこまで進展するのかを注視して行きたいと思う。
参照:
注2: Carcinogenicity: By THE DETOX PROJECT
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