2017年6月28日水曜日

アイパッドは子供たちにとっては想像以上に大きな脅威



この投稿の表題が示す懸念は幼児を抱えているご家庭では日頃から大なり小なり感じておられることではないかと推測する。

子供たちがアイパッドをいじっているのを見ると、しかも、長い間没頭している姿を見ると、不安がよぎるのではないだろうか。

そのような不安に関してある心理学者が専門家の立場から警告を出している記事 [注1]がある。本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。何らかのご判断に役立てば幸いだ。


<引用開始>

10年前、心理学を専門とするスー・パーマーはソーシャル・メディアがもたらす負の影響を予見していた。今、彼女はさらに新しい脅威を感じている・・・ 
  • スー・パーマーは心理学者であって、近代的な科学技術が幼児に如何に危険であるかを十分に理解している。
  • 幼児さえもがスクリーンの虜となってしまっているのを見て、彼女はショックを覚えた。 
  • 過剰なまでにスクリーンに没頭していると、肥満や攻撃性あるいはうつ症を引き起こす可能性がある。


Photo-1 

レジで小さな女の子がお菓子を指さした時、彼女のお母さんは「ダメよ!甘いものは歯に良くないわ」と言った。2歳未満とおぼしき子供はそんな状況で多くの子供たちが反応するのとまったく同じ振る舞いをした。その子は癇癪を起こした。

その直後にいったい何が起こったと思う?実は、それを見て、私はびっくりした。途方に暮れた母親はバッグの中から自分のアイパッドを取り出して、それを女の子に手渡した。程なく、辺りは静寂を取り戻したのである。

この出来事は3年前に起こったことだが、子供の癇癪を鎮静化するためにタブレットが用いられている様子を見たのはその時が初めてであった。しかし、あれが最後だったというわけではない。無数の10代の子供たちがスマホを手にして、テキストを送り出しながら、現実の世界からはすっかり遊離してしまっている事実はここで言及するまでもないけれども、あの時以来、まだ歩き始めてもいないような幼児が手慣れた様子でアイパッド上で指を滑らせているのを私は何回となく見てきた。

私が「Toxic Childhood」と題した本を出版してから10年になる。この本は幼児がスクリーンに過剰に接することは身体ならびに精神の健康には有害であることを警告するものだ。私の危惧は的中した。私は最先端技術がまったく気が付かない形で如何に幼児の生活に侵入してしまうかを予見した最初の一人ではあるのだが、幼児さえもがこれほど早い時期にスクリーンの虜と化してしまうことや年長の子供たちがバーチャルな世界によってこれほどにも自分たちの生活を規定されてしまうことは私にとっては大きな驚きである。

確か、私の本が市場に出た頃、フェースブックがわれわれの国にもやって来て、われわれは暴力をテーマにしたビデオゲームや子供たちが余りにも長時間テレビに張り付くことが心配だった。すでに、これは大昔の歴史のひとコマのように感じられるのではないだろうか?今日では、平均的に言って、子供たちはスクリーンの前で56時間も過ごしている。しかも、多くの場合、一度に2台も3台ものスクリーンを相手にしている。たとえば、テレビを観ながら、アイパッドで遊んでいるといった具合だ。

科学技術の世界が余りにも速く推移し、子供らはすぐさまそれに飛び付くことから、その状況をコントロールすることは親たちにとっては非常に難しい。スクリーンの前で子供時代を過ごすことに関して言えば、この世代はまさに研究室における実験動物みたいなものだ。長期的影響はまったく分からない。

アイパッドがまだ市場には出回ていない頃、つまり、2010年以前においてさえも、座ってばかりいて外へ出歩かない生活様式のせいで、学校へ通い始める子供たちの約80パーセントは身体の動きが十分ではないと専門家らが警告していた。



Photo-2: 子供たちがスクリーンに過剰に接していると肥満や睡眠障害あるいは攻撃性をもたらす可能性がある、とスー・パーマーは言う。

子供の発育を専門分野とする同僚らと共に、最近の10年足らずの間、私は注意欠陥多動性障害に用いる薬のリタリンの処方が4倍にも増加した事実を観察している。そして、われわれは過剰にスクリーンに接する時間と肥満や睡眠障害、攻撃性、社会性の欠如、うつ病、学力の低下、等との間の関連性を報告する数多くの研究報告をあちらこちらから集めた。

アイパッドやスマートフォンの流行と全年齢にわたって子供たちの身体ならびに精神の健康のさらなる劣化とが同時進行していることはさほど不思議ではない。悲しいことには、今、われわれは「テクノ幼児」の時代が台頭するのを見ているのだ。これらの幼児にとってはアイパッドは「心地がいい毛布」の現代版となったのである。

最近の研究によると、4歳未満の子供の10パーセントはベッドに入る際にタブレットが与えられ、タブレットでしばらく遊んでから眠りに就く。幼児を抱えている家庭を調査したある研究では、3歳以下の幼児の3分の一が専用のタブレットを持っている。子供用品の店頭で「アプティビティー・シート」が販売され、これには幼児の娯楽用としてタブレットが装着される。

アップルのボスであった故スティーブ・ジョッブズは自分の子供たちにはアイパッドを持たせようとはしなかったことは余り知られてはいない。私はこのことを彼が公表して欲しかった。そうしてくれていれば、多くの親たちが彼に倣ったことであろう。

と言うのは、子供たちがスクリーン中毒になるのが早ければ早いほど、スクリーンから離れることが難しくなるからだ。

しかし、これだけが心配だというわけではない。子供たちの発育に影響を与えるのはスクリーンで遊ぶことだけではない。問題はスクリーンが遊びを排除してしまうこと、つまり、実際の環境における活動がすべて排除されてしまう点にある。今日、子供たちにとっては私が「本当の遊び」と呼ぶ活動をする機会は実に少ない。子供たちはもはや人間らしい経験を実際に経験し、そこから学習することは極めて少なく、屋外で遊び、他の子供たちと交流する機会はひどく稀だ。

スクリーンに浸りっぱなしで子供時代を過ごしているまさに最悪の事例はロンドンに住む10歳の少年だ。肥満で、顔色の悪いこの児は私にこう喋ってくれた。「僕は部屋に座って、テレビを観たり、コンピュータで遊んでいる・・・、そして、腹がへったらママにテキストを発信するんだ。すると、ママがピザを持って来てくれる。」 子供たちの遊びに変化が起こったのは20年とちょっと前のことだ。多くの親たちは子供たちがスクリーンに接している時間について不安を感じてはいるものの、自分たちの生活に起こるさまざまな変化に対処することで手いっぱいになっていて、その問題に取り組むことは出来ないでいる。

とにかく、これは何処ででも起こっているのだから、子供たちに悪い筈なんてないのではないか?

しかし、実際に遊びをするということ自体は生物学的な必要性である。ある心理学者は私に「遊びは食べることや睡眠をとることと同じように重要だ」と言った。

社会的、および、創造的な反応を制御する神経系の回路が子供時代の初期の内に発達しなかったとしたら、後になってからそれらを活発化させることは難しい。ひとつの世代が楽しい遊びを発明したり、ゲームを編み出したり、本当の友達を得て、喜びを分かち合う知的な能力もなしに成長してしまう可能性があるのだ。これはすべてが余りにも長いことスクリーンと接していることに起因する。

幼児に身体的な能力を習得させるには屋外へ連れ出して、子供たちが走り回り、木に登り、隠れ家を作ったりするさまざまな遊びをさせることだ。「何とかごっこ」をして遊ぶことは創造的な過程でもあり、個人的に多くを入力することが求められる。

実際の遊びをすることは率先して何かを始め、問題を解決する能力を発達させ、多くの好ましい特性をもたらす。たとえば、物おじしない態度や忍耐力、感情的回復力、等だ。社会性を身に付けるには必須だ。一緒に遊ぶことによって、子供は他の子供たちとうまくやって行くことを学習する。子供は感情移入を発展させて、他の子供たちの心がどのように働くのかを発見する。そして、実際の遊びは外界世界がどのように動いているのかを理解しようとする生来の欲求によって推進されているように、それは学業の基礎をもたらすものでもある。実際に遊びをするということは子供たちの好奇心をそそり、問題を解決することができる適応力を持った人間としての精神を発育させる進化の道でもあるのだ。

米国小児科学会は2歳以下の幼児にはスクリーンに接する時間はゼロとし、2歳以上の子供には1日当たり2時間を限度とすることを推奨している。これはスクリーン・タイムと注意欠陥との間に関連性があるからと言うだけではなく、過剰なスクリーン・タイムは健康な身体や脳を発育させる他のさまざまな活動を排除してしまうからである。



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赤ちゃんは自分の世界を学ぼうとする強い欲求をもって生まれて来る。そして、自分自身の周囲の人たちや物と相互に作用し合うことに高度に動機付けられている。実際の遊びの始まりである。それこそがわれわれが子供たちと一緒に馬鹿げたゲームをすると、たとえば、「いないいないばー」をすると子供たちが大層喜んでくれたりする理由であり、家庭内に見える何かの物体を理解するようになるのである。遊びは子供たちが身体的協調や社会性を身に付けるのにとても役立つのだ。

しかし、ハイテック製品から即座の解決策が得られる場合、子供たちは「実際の遊び」をしようとはしない。スクリーン上の画像は実際の遊びと同じ位に素晴らしく、幼児でさえもが不器用にもずんぐりした指をさっと滑らせて映像を制御することが可能だ。

赤ちゃんや歩き始めの幼児は、スクリーン上で何かをしようとする時、抱き締めてやったり、お風呂で水しぶきをかけてやったりした時と同じようなはしゃぎ方を見せる。スクリーンをさっと一撫でするだけで即座に報酬が得られる場合、身体的、社会的、あるいは、知的な努力を必要とする遊びをしようなんていう気になるのだろうか?

神経学者であるスーザン・グリーンフィールドはこう言う。「子供をスクリーンの前に待機させて、子供たちに注意持続時間を長い間維持することを期待するなんて不可能だ。」

また、彼女はこうした革新技術が識字率にも影響を与えるのではないかと心配している。「読み方を学習することによって、子供たちはさまざまな考えを論理的に並べることを学ぶ」と彼女は言う。「その一方で、スクリーンを見ることは子供たちの脳を冬眠状態にしてしまう。」 

エイリック・シグマン博士は注意欠陥多動性障害や自閉症、情緒・挙動障害に関して膨大なデータベースを収集しているが、同博士もまたスクリーン・タイムと読み方の能力との間には対立関係があることを指摘している。

「スクリーンの映像とは違って、文字は動かないし、音をたてたり、歌ったり、踊ったりはしない。結局のところ、自分の精神を育成する大事なこの時期に、スクリーン映像は子供たちに文字は退屈なものだと感じさせてしまう」と彼は言う。 

また、あまりにも長くスクリーンに接していることのもうひとつの問題は回復力を育成してはくれないことである。

実際の遊びは子供たちに自分が試された時にどのように対処するべきかについて学習する機会を与えてくれる。自分が間違いをしたことからどのように学ぶべきかを見つけ出し、転倒しそうになった時に自分を取り戻し、遊び仲間との口喧嘩の成り行きを選り分けることが自信を高め、情緒的により良く回復させてくれる。

これは精神の健康にとっては非常に重要なことであり、特に周りからの圧力が高いわれわれの社会ではなおさらである。今月、英国が不幸な子供たちを作り出していることに関してチャイルドライン [訳注: 英国の児童相談サービス組織] が警告を発した時、私はそれほどは驚かなかった。この警告は悲しさがいっぱいの、一人ぼっちで、自尊心もなく、自傷行為をするような子供たちのことである。この慈善団体はわれわれの子供が示す情緒的状態について寒々とした描写をした。子供たちの不幸はソーシャルネットワークやインターネット上でのいじめにあると言う。

親たちが子供のソーシャルメディアの使用を制御できなくて途方に暮れていることは私にもよく分かる。結局、それはウィルスのように広がって行った。フェースブックが上陸してから6年経った2012年にはフェースブックが10歳の女の子たちの間ではお気に入りのウェブサイトとなった。

あの年、私はヨークシャーで3人の15歳の少女をインタビューした。彼女らは10歳の頃からフェースブックを活用していた。彼女らは「自分たちがもっと若かった頃」に比べりとそれほどの楽しさにはならなかったと言った。「自分たちのことを宣伝するキャンペーン」では自分たちの生活が魅力的で活気に満ちていることを常に見せつける必要があって、それは彼女たちを消耗させ、他の女の子たちの方がもっと楽しくやっている様子を見て意気消沈したと言う。

しかし、彼女らはこのソーシャルメディア・サイトを捨てることはできなかった。そんなことをしたら、彼女らは友達付き合いからは抜け者にされてしまうだろう。「インターネットではいじめが頻繁に起こる」と、一人が言った。「だから、皆と同じように振舞うしかないのよ。」

しかしながら、われわれの子供たちを「皆と同じように振る舞う」ままに放っておくことはできない。特に、それが子供たちに害を与えるような時にはなおさらのことだ。次世代に聡明で、均衡がとれて、健康に育って欲しい場合、親たちは行動を起こさなければならない。何をすべきかと言うと、スクリーン・タイムには制限を課し、家族と一緒に過ごさせ、外での遊びのために子供を連れ出すことだ。最新技術を用いることが世界の趨勢であるから、子供たちもそれを用いるべきだと主張する人がいる。しかし、幼児にハイテック製品を与える必要性はない。 

現代的な科学技術は驚異的な進歩を遂げている。7歳前の子供たちが学習するIT技術は彼らが10代になる頃にはとっくにその販売期限を過ぎてしまう。しかし、たとえ将来に何が起ころうとも、自信や情緒回復、創造性、社会性、集中力、等が子供たちを守り、維持してくれるのである。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

厳密に言うと、幼児がアイパッドを使う場合の負の効果に関するこの巨大な社会実験はまだ最終結論が出てはいないのが現状だ。幼児にとってはアイパッドは新たな脅威だと断言することは性急過ぎるのだろうか。私には分からない。

それだけに、小さなお子さんをお持ちの方はアイパッドを使わせる前に慎重な判断をした方が無難だ。何と言っても、ここで引用した記事が議論しているように、お子さんの将来を台無しにしてしまう可能性がゼロではないのだから。

アップルのボスであった故スティーブ・ジョッブズでさえも自分の子供たちにはアイパッドを持たせようとはしなかったという事実は何か重要な側面を示唆しているようでもある。

おじいちゃんやおばあちゃんはお孫さんの健康のためにも息子や娘に助言をしてやった方がいいと思う。




参照:

1The iPad is a Far Bigger Threat to Our Children Than Anyone Realizes: By Sue Palmer, The Daily Mail, Jan/28/2016





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