3月4日、英国のソールズベリーで神経ガスに曝された父親(セルゲイ・スクリパル)と娘(ユリア)の二人が意識不明で倒れていた。二人は今病院で治療中である。さらには、彼らを救助した警察官とひとりの市民も治療を受けている。父親はかってロシア人スパイであったが、今は英国に帰化し、英国のためにスパイ活動をして来たという。
英国政府によると、この事件に使用された凶器は神経ガスで、ロシアが開発した「ノビチョク」だと言う。そして、英国政府はロシア政府以外にはこの種の軍用レベルの「ノビチョク」を扱えるのはロシアだけであると主張し、ロシアが実行犯であるかのように断定し、ロシア政府に対して速やかな説明を求めた。
しかし、ロシア政府はそのような殺人未遂事件には関与していないと反論。
英ロ政府間の応酬を見ると、話がまったく噛み合っていない。その理由は何か?
扇動的な文言ばかりをひとり歩きさせ、肝腎の証拠を示そうとはしない英政府を見て、今回のソールズベリーでの神経ガスによる毒殺未遂事件は15年前のイラク侵攻の状況に酷似しているとの指摘が少なからずある
[注1]。
今や、誰でもが知っているように、2003年のイラクへの軍事侵攻が始まる前の大手メディアにおけるヒステリー状態は完全に異常であった。当時、米政府が喧伝していた大量破壊兵器は、結局、イラクには存在しなかった。
あの15年前の苦い経験が、今、学習効果を示しているのであろうか。イラク戦争ばかりではない。2014年7月、マレーシア航空のMH-17便撃墜事件では298人の乗員乗客が死亡した。出発国であったオランダは数多くの犠牲者に見舞われた。オランダ政府安全委員会を主体とした国際調査団にはウクライナも含まれていた。この調査団はひどく偏向した結論を報告書として提出した。それを見ると、ロシアを貶めようとするウクライナおよび西側諸国の執拗な努力が素人の目にさえも明白に感じ取れる。
新冷戦の現状を見て、軍事や安全保障に詳しい専門家のひとりは第三次世界大戦は米ロ間ですでに始まっていると指摘している。その80パーセントは情報戦争であり、15パーセントは経済戦争であって、残りの5パーセントが従来型の武器を用いた戦争であると彼は説明する。
敢えて言い古されている言葉を引用すると、戦争で最初に犠牲になるのは真実である。第三次世界大戦はすでに始まっているという指摘を取り上げてみると、最近のメディアにはフェークニュースが実に多いのが現実であることを改めて思い知らされ、非常に残念なことではあるが、真実は戦争の最初の犠牲者であるという指摘は当を得ていると言えよう。
とは言え、世間には情報を集め、冷静に物事を判断しようとするする人たちもたくさんいることは事実である。
この暗殺未遂事件によって病院で生死の淵をさまよっている被害者にとっては大変気の毒なことではあるが、この事件の深層に迫って、少しでも多くの真理を掘り出したいと思う。そうすることによって、事件の深層に隠されている真実を学び、大手メディアが売り込もうとする大嘘が満載されているプロパガンダに隠されている政治的目標を明確に把握し、われわれ自身の自己防衛をより効果的に行いたいと思う。
われわれ一般市民がそうすることによって、戦争の芽を早めに摘み取って行きたい。核大国間に直接的な軍事衝突が起こった暁には、世界規模の核戦争に発展するリスクは非常に大きい。世界規模の悪戦争になったら、地球上の生命は絶滅するであろう。そして、核戦争を危惧する意見が最近急速に多くなっているという現実を認識しておく必要がある。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
<引用開始>
私は外務英連邦省(FCO)で立派な地位にある人物からの確認を入手した。それによると、ポートンダウン [訳注: 英国軍の化学兵器の研究機関が集中している地域を指す。ソールズベリーの近くにある。] の科学者らは例の神経ガスがロシア産であることは特定することができず、政府からは同ガスを特定するよう圧力を受けたことに彼らは酷く憤慨している。どちらかと言うと集約することが難しい会合の後で譲歩の産物としてポートンダウンが署名することができる表現は「ロシアが開発したある種の(神経ガス)」であったのであろう。ロシアは殺虫剤や肥料といった商業的に入手可能な原料を用いて作り出すことができるある種の神経ガスに関する「ノビチョク」プログラムを推進していたと報じられている。この物質は例の意味合いにおいては「ノビチョク」である
[訳注: 「ノビチョク」とは「新参者」を意味する]。まさに、ある種の物質である。私は今米国で開発されたパソコンで原稿を書いている。しかし、このパソコンの製造元は中国だ。[訳注: この部分は原文の「of a type developed by Russia」という英国政府が用いた表現を使って物事を喋る場合を引き合いに出して、たとえロシアが開発したとしても、それを実際に製造したのは他の国であるかも知れないという可能性を著者は示唆しようとしている。パソコンの事例を見れば、開発者と製造者とは決して同義語ではないことが明らかである。]
ロンドンの中央官庁で働いたことのある人にとっては、このことは何日にもわたってすでに明白であった。英政府はこの神経ガスがロシア産であるとは決して言ってはいない。ロシアだけが製造することが出来るとも言ってはいない。「ロシアが開発したある種の」という表現は英国議会でテレサ・メイ首相によって用いられ、まったく同じ表現が国連安保理でも用いられ、昨日はボリス・ジョンソン外相がBBC で用いた。そして、この「ロシアが開発したある種の」という表現がもっとも多くを語っているのは英国、米国、フランスおよびドイツが昨日発表した共同コミュニケにおいてである。次に示すようにまったく同一の表現だ:
ロシアが開発したある種の軍事グレードの神経ガスの今回の使用はヨーロッパにおいては第二次世界大戦以降で神経ガスが攻撃に使われた初の事例である。
極めて注意深く準備された同一の言い回しがまったく寸分も違わずに用いられる時、それはロンドンの官庁が到達した極めて微妙な妥協の産物であることを示しており、皆さんはその事実を知っている。私のFCOにおける情報源は、私と同じように、FCO の職員や他の公務員らがイラクの大量破壊兵器に関する汚らわしい書類に署名をするよう異常な圧力を加えられたという事実を記憶している。幾つかの事例を私は回想録(Murder
in Samarkand)の中で説明している。彼女は現在起こっている状況、特に、ポートンダウンで起こっていることとの比較を自発的に行っている。私の方から促した訳ではない。
私は別途化学兵器禁止機関(OPCW)のメディア・オフィスに向けて手紙を書いて、ロシアの「ノビチョク」が存在したという物理的な証拠はかって存在しなかったことやロシアの化学兵器を検査し、破棄するプログラムは昨年完了したことを確認するよう依頼した。
非常に興味深いこれらの事実についてあなたはご存知だっただろうか?
OPCWの検査官は10年間にもわたってロシアの化学兵器施設へは、「ノビチョク」に関して内部告発を行ったミルザヤノフが言及した施設も含めて、何処へでも立ち入りすることができた。
昨年、OPCWの検査官はロシアの4万トンにも及ぶ化学兵器の最後の部分の破壊を完了した。
それとは対照的に、米国が蓄えている化学兵器の破壊プログラムは今後5年間継続しなければならないのだ。
イスラエルは大量の化学兵器を蓄えているが、それらに関してOPCWへ報告することは何時も拒んで来た。イスラエルは化学兵器禁止条約の約定国ではないし、OPCW
のメンバーでもない。イスラエルは1993年に署名をしたが、この条約は化学兵器の検査と破壊を意味することになることから、批准することを拒否したのである。疑う余地もなく、イスラエルは「ノビチョク」を合成することができる如何なる国とも同様に十分な技術的能力を備えている。
今週まで化学兵器の専門家の間でほぼ一様に信じれらて来たことやOPCW の公式な立場は、「ノビチョク」はせいぜい理論的な研究プログラムであって、ロシアが実際にその合成や製造に成功してはいないというものであった。この点こそがOPCWの禁止化学兵器には「ノビチョク」がまだ記載されてはいない理由なのである。
明らかに、ポートンダウンは「ノビチョク」の合成にロシアが成功したという主張については依然として確信してはいなかった。それ故、「ロシアが開発したある種の」という表現となっているのである。開発したと言う言葉に注意して欲しい。作成したとか、生産した、あるいは、製造したという表現ではない。
これは非常に注意深く言葉を選んだプロパガンダだ。嘘つきによってもたらされたものだ。
最新情報:
この寄稿に伴って、もうひとり別の古い友人と接触する機会がもたらされた。明るい面を挙げるとすれば、FCOはボリス外相を説得して、OPCWにサンプルを調査させることになった。しかし、調査はまだ行われてはいない。調査委員会では中国の代表が委員長を務めることが期待されている。ボリス外相の計画では、OPCW
には「ロシアが開発したある種の」という表現を約束して貰う考えで、目下、この目標に沿って北京で外交交渉が行われている。
本件についてBBC が何らかのジャーナリズム精神を発揮した兆候があるかと言うと、私にはまったく想像することもできない。
この記事の初出はCraig Murray
著者のプロフィール: クレイグ・マリーは2002年から2004年10月まで在ウズベキスタン英国大使を務めた。2007年から2010年まではダンディー大学の総長。現在は執筆活動や放送、人権活動に従事している。
<引用終了>
これで全文の仮訳は終了した。
われわれ素人にとっての最大の教訓は言葉が持つ本来の意味を厳格に踏襲しなければならないという点ではないだろうか。「開発」と「製造」とは同義語ではない。理屈の上では良く分かっているが、これらの言葉を厳密な意味合いでわれわれが日頃新聞やニュース報道を受け留めているかどうかは極めて疑問だ。
われわれ素人にとっての最大の教訓は言葉が持つ本来の意味を厳格に踏襲しなければならないという点ではないだろうか。「開発」と「製造」とは同義語ではない。理屈の上では良く分かっているが、これらの言葉を厳密な意味合いでわれわれが日頃新聞やニュース報道を受け留めているかどうかは極めて疑問だ。
また、「やらせ」、「偽旗作戦」、「自作自演作戦」、等、さまざまな表現が存在するが、この行為の本質は相手(敵国や一般大衆)を欺くことにある。首尾よく行けば、本物の加害者は闇に隠蔽され、無実の加害者が証拠もなしにでっち上げられる。普通の常識では、このような行為は非常に悪辣で、許せない行為だ。
しかしながら、歴史を紐解くと、このような事例は山ほど存在する。
今回の「ノビチョク」事件はこの自作自演作戦の歴史に新たな1頁を加えたことになるのではないか。
参照:
注1: Of a Type Developed by Liars: The Evolving
“Novichok” Nerve Agent Saga: By Craig Murry, Global Research, Mar/16/2018
いつもブログを拝見させてもらっています。
返信削除私はロシアという国が特別好きなわけではないですが、西側の偽旗作戦によるプロパガンダが過去に何度も起こっている状況下で 今回の英国のロシアに対する非難は一方的で、何の根拠もないのでは?と考えて、自分でネットで色々と調べていたところでした。
テリーザ・メイ英首相が労働党のジェレミー・コービン党首の「証拠があるのか?」という質問に答えることもせず、コービン氏が自らの労働党議員からもひどくバッシングされているところなんかは 本当にがっかりさせられます。イラクで大量破壊兵器 という嘘でイラク戦争を始めたことを彼らはまだ反省していないのでしょうか?
まず、ロシア側にとっては大統領選の直前、ロシアW杯も間近な中で 元Wスパイを暗殺するのは不利益しかならないわけで、そんなことをするはずがないですよね。
逆に米英にとっては ここで偽旗作戦をやってロシアを貶める絶好のタイミング と言えるわけです。
また、「ノビチョク」を開発したと主張している元ロシアの化学者は亡命した米国から「被害者に謝りたい」等と述べているのが 下手な芝居を見せられているようです。
この亡命した化学者は米国で100万ドルの豪邸に住んでいる というのも 彼が米の情報機関の協力者であることを匂わせるものです。
http://www.informationclearinghouse.info/48966.htm#idc-cover
何より、「ノビチョク」の開発者本人が米国にいて 米英の化学兵器研究機関がその製造法を知らないはずはないので、仮に 本当に「ノビチョク」が存在するにしても、それは"ロシアだけ"が製造できた、またはできるものではない ということですよね。
Kumi様
返信削除コメントを有難うございます。
念入りに情報集めをしていらっしゃることが察しられて、心強い助っ人が参上してくれた・・・という印象を抱きながらコメントを拝見しました。
今回の英国政府の振舞いは無分別で、腕力では誰にも負けないと自負するガキ大将が自分の配下を大勢集めて、ひとりの相手をやっつけようとしているように見えてなりません。
今後OPCWがどのような調査結果を報告するのかが見物ですよね。
また、この記事の著者、Craig Murryの情報源からの新たな情報としてどんな事柄が報じられるかも楽しみです。
総じて、この英国政府による偽旗作戦は失敗に終わるような感じが強くなっているようです。
お返事を頂き、ありがとうございます。
返信削除この事件は調べれば調べるほど、おかしなことだらけですね。
米のABCニュースがスクリパルが乗っていたBMWの換気システムの通風口から毒が放たれた可能性がある と報じています。
そして歩行者など、38人が神経剤の影響を受けている と。
https://www.zerohedge.com/news/2018-03-18/russian-double-agent-reportedly-poisoned-through-bmw-air-vents-38-others-sickened
他に38人も重篤ではない被害者がいるなら、その人たちはいったいどこにいるのでしょうか。 スクリパリとその娘が入院している病院も明らかにされていない上に、他の被害者の証言すらないのは明らかにおかしいです。
>総じて、この英国政府による偽旗作戦は失敗に終わるような感じが強くなっているようです。
私もそうなることを期待していますが、心配なのはサッカーのロシアW杯です。
彼らは大きなスポーツイベントとか、そういうきっかけを狙ってテロ等を起こしそうだからです。
ウクライナの紛争もソチでの冬季五輪の最中に発生しましたからね。
W杯期間中に また そういうことにならないことを願うばかりです。
Kumi様
削除おっしゃる通りだと思います。
今回の元スパイ暗殺未遂事件において英国政府がロシアを非難した言い分にはかなり大きな矛盾が含まれています。その結果、英政府の主張は内部崩壊するのではないかとさえ言われています。
OPCWによる現地調査が始まると言われていますが、その結論が出て来るまでには長い時間がかかります。結論が出るまでは、英国は今の論調を継続するのではないでしょうか。ですから、サッカーW杯の開催にも大なり小なり影響があるでしょうね。そもそも、大きな影響を与えることこそが西側の目標ではないかと思われます。
しかし、こうやってロシアに対する意地悪をすればするほど、ロシア市民のプーチン大統領に対する期待や信頼は強まるばかりです。過去に彼が示した指導力を反映して、最近の大統領選ではプーチンが圧倒的多数の支持票を獲得しています。投票に出かけた市民の数も大きかったようです。結局、西側の意図は不発に終わってしまいました。どうして、西側は次々と失敗するのでしょうか?識者に言わせると、近視眼的な策しか持っていないからです。
一方、ロシアに濡れ衣を着せようとした2014年のマレーシア航空MH-17便の撃墜事件では、西側は手持ちのレーダー情報を提供せず、オランダ政府の安全委員会はウクライナや米国およびEUの意向を忖度した報告書を提出しました。結局、あの事件も非常に大きな矛盾を抱えたまま、ご遺族に対しては大変気の毒なことですが、真理究明は行われずに、何も解決しないままで放置されています。
残念ながら、国際問題の解決は、多かれ少なかれ覇権国の意思次第であって、「国際法の遵守」や「真理の究明」、ならびに、「一般庶民の幸せ」は完全に二の次であると言わざるを得ません。大量破壊兵器を理由にして2003年のイラクへの侵攻を煽った西側メデイアのお祭り騒ぎが今でも悪夢として思い起されます。これが「民主主義」や「人権の尊重」をあちらこちらで主張し、世界をリードしてきた国家の今日の姿です。
上記の出来事はすべてが「矛盾」という言葉で一括りにすることができますよね。
ベトナム戦争前の米国はキラキラと輝いているかのように少年時代の私の目には映っていたものですが、今や、邪悪なモンスターです!
話が跳びますが、私たちの世代は次世代にいったい何を残すことができるのでしょうか?
私の最大の願いは「核戦争のない世界」です。ということで、今の米ロ間の緊張を何としてでも解決し、和平の方向へ持って行かなければなりません。ところが、巷にはフェークニュースが毎日のように流され、偽旗作戦があちらこちらで起こされています。そして、関連情報の量が余りにも多く、一般大衆が情報を整理し、深層に隠されているさまざまな事実を選り分け、本当の姿を見い出そうとしても、その作業は非常に難しいです。
企業メデイアが描く国際問題の姿やその解説はすべてが米ロ間で進行している情報戦争の産物です。一方に偏向しています。それが実態です。
そんなことを考えながら、非力ながらも私はこのブログを続けています。
何かご意見やインプットがありましたら、どんな小さなことでもいいですから、コメント欄へお寄せいただければ嬉しいです。