2018年3月8日木曜日

ロシアゲートの中味はゾッとするほど空虚だ

さまざまな情報を漁った結果、私はかなり前にロシアゲート(あるいは、「ロシア疑惑」)はでっち上げだと確信した。ロシア政府が米大統領選に介入したという証拠が見つからないのだから。その状況は今も続いている。

でっち上げであることが明らかであるにも関わらず、その事実を追求しようとはしない米国の一般庶民の政治性の欠如には落胆させられる。いや、多分、そうではなくて、この無関心振りは、むしろ、米国の企業メディアの不正義や偽善がもっとも大きな要因だと言えよう。あるいは、議会制民主主義が選挙民から遊離して、献金政治、もしくは、ロビー政治に巧妙に変身してしまったのかも知れない。多くの場合、EUや日本でも同じことではあるが、一般庶民の力は大手メディアの前では非常に非力である。
 

ここに、「ロシアゲートの中味はゾッとするほど空虚だ」と題された2017年12月15日の記事がある [注1]。
 

これはロシア研究の権威であるスティーブン・コーエン教授が書いたものだ。でっち上げをあたかも事実であるかのように装ってフェークニュースを流すことにより自分たちの売り上げを伸ばそうとする企業メディアの立場とはまったく異なり、コーエン教授はロシアの歴史や文化を詳細に理解しており、その知見に基づいて米国の対ロ外交政策を理性的に判断し、批判することができる頼もしい存在である。今まで一貫してそうして来た。言わば、米国の知性を代表する学者のひとりだ。
 

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
 

これを3月1日に掲載した「米、帝国のために他国の選挙へ介入した - CIAが告白」や2月21日掲載の「プーチンの政策を拡張主義であるとしてオランダ政府が嘘をつき、これがNATOの戦争計画を暴露」、等と組み合わせてお読みいただければ、より以上に興味深いのではないかと思います。
 

<引用開始>
 

この話の中心には肝腎な証拠が欠けており、最悪の場合には核戦争を招来させる危険性があるにも関わらず、ロシアゲートはトランプ政権を「捕まえる」のに非常に頼りになる、強力な非難であるとして見なされて来た。そして、それは今も変わってはいない、とロシア研究の専門家であるシティーブン・F・コーエンが下記に説明する。   

ロシアゲートの根本的な非難は次の点にある。2016年の米大統領選でドナルド・トランプ候補を助け、ヒラリー・クリントン候補を敗退させるために、ロシアのプーチン大統領が米民主党全国委員会のコンピュータへの不正侵入を命じ、電子メールを盗み出し、ウィキリークを通じて拡散することを命令した。さらには、トランプならびに彼の仲間たちはこの「米国の民主主義に対する攻撃」を共謀した。



Photo-1: クレムリンの城壁の外にある無名戦士の墓。2016年12月6日。(Photo by Robert Parry)
 

これらの主張を支える証拠を見い出すためにメデイアや政府調査官は過去1年半もの時間を費やしているにも関わらず何の成果も見せてはいないことから、われわれは「ロシアを抜きにしたロシアゲート」(そのものズバリのこの表現はNation に寄稿するジェームズ・カーデンが電子メールのやり取りの中で初めて使用した言葉)を抱え込んでしまった。ミュラー特別検察官は4件の告訴を導いた。つまり、国家安全保障担当補佐官としては短期の勤務で終わったマイケル・フリン退役陸軍中将、FBIに対して嘘をついたことで責任をとらされたトランプの下っ端で特別な意味は見当たらない「補佐官」のジョージ・パパドポラス、ならびに、金融上の不正で槍玉に挙げられたポール・マナフォートと彼のパートナーであるリック・ゲーツ。フリンに対する不法な仄めかしを除いては、これらの訴追は何れをとってもロシアと共に不適切な共謀を図ったという主張には繋がって来ない。  

それに代わって、共謀を行ったという実際の証拠を挙げるために幾つかの捜査が「ロシアとの契約」にまで広がって行った。政治、金融、あるいは、社会契約にまで広がって、これに巻き込まれる人たちの数は膨らみ、多くの場合、捜査の対象はトランプが大統領候補になることを想像し得る時点よりも何年も前にまで遡った。これが意味することはこれらの「契約」は犯罪である、もしくは、潜在的な犯罪だということだ。  

これはまったく前代未聞で、本末転倒で、しかも危険でさえもある。潜在的にはジョ―・マッカーシーが捜査した「共産主義者」との繋がりと比べてさえも危険だ。敢えて言えば、これは今日ロシアで商売を行っている数多くの企業は犯罪活動に携わっていると言っているようなものだ。

もっと核心に迫ってみよう。クレムリンの動的な政策決定について何かを理解しようとするならば、米国議員の顧問やロシアを論じるメディアの解説者は広い分野にわたって数多くのロシア人との人的関係を持たなければならない。私自身を例に挙げれば、私は以前大統領選(不成功に終わったが)で2回顧問を務めたことがある。これは広範にわたり、しかも、過去長い期間にわたって私が保って来たロシアとの人的交流を考慮してくれたものであった。これは今回の大統領選の際にも私が顧問を務めることになった理由とまったく同様である。
 

そのような人的関係を持つことが多少なりとも犯罪的であるとすることは何百人もの著名人を非難することにつながり、米国議員はイデオロギーだけで固まった、実際的な専門性は何も持たないような顧問たちに囲まれることになるだろう。また、ロシアとのより良好な関係、あるいは、緊張緩和を求めることさえもがどこか胡散くさく、違法で、不可能であることを示唆することとなろう。このことは最近アンドリュー・ワイスがウオールストリートジャーナルで述べ、ワシントンポストの社説もそう言っている。これは私が前回のコメントでロシアゲート事件ならびにその信奉者たちは何故に米国の安全保障に対してもっとも深刻な脅威となっているのかについて論じた時の理由でもある。  

ロシアゲートは、よく言われているように、反トランプの政治プロジェクトとして2016年6月よりも以前に始まった。(いったい何故、どのようにして、誰がこれを始めたのかについては明らかではない。ここには殆んどが偽りだらけの「調査書類」があって、米諜報界のトップ職員がこの書類を作成する際に担った今でも不透明なままの役割が実際に何を意味するのかは説明されずに横たわっている。)  

とは言うものの、でっち上げのロシアゲートが本物の政治的危機となるにつれて、米国の主流メディアはこれを誇張し、存続させ、維持することに傾注して来た。この政治的危機は近代の米国における大統領の歴史や政治制度史においては最大級のものとなった。メディアは自分たちが約束した基準に相反することによってこの愚行を推進してきた。つまり、検証済みのニュースを報道する、バランスがとれた取材を行うといった自分たちの行動基準に違反したのである。また、暗黙の検閲を行い、反対意見の報道を抑え、他のさまざまな意見を組織的に締め出した。  

(最近の事例の要約として、Interceptのグレン・グリーンワルド やConsortiumnewsのジョ―・ローリアの記事を覗いて貰いたい。本物の「フェークニュース」を暴露することに興味を覚える読者は誰もがこれらふたつのサイトを定期的に訪れて欲しいと思う。特に、後者は計り知れないほどに貴重なベテラン・ジャーナリストのロバート・パリーが作り上げたサイトだ。)   

さらに悪いことには、この大手メディアによる違法行為はジャーナリストの基準が高いことで定評のあった代替メディアにまで広がって行った。主張を支える「証拠」や「証」を蔑視することがあからさまとなって、何の事実をも伴わない主張が時には散見されるのである。これらの違法行為はプロ意識に支えられたジャーナリズムにおいてさえも起こり得るものであって、偶発的な出来事であるとは決して断言できない。  

グリーンワルドが指摘しているように、今になって撤回されることになった記事はすべてがロシアゲートを熱心に推進しようとしたものであって、反トランプ色の強いものであった。まさに、これらは「ロシアを抜きにしたロシアゲート」の事例である。
 
フリンとFBI:  

フリン中将が犯したかも知れない金融面での不正の可能性については脇へ置いておこう。彼に対する追求やその後の訴追は非常に暗示的である。新政権のためにセルゲイ・キスリャク・ロシア大使と連絡をとっていたことに関して、フリンはFBIに対しては嘘をついたことを認めた。話し合いの内容は、非常に漠然としたものではあるが、不可避的にオバマ大統領が2016年12月に、政権から離れる直前になって、ロシアに対して課した制裁に言及していた。




Photo-2: アリゾナ州フェニックスのフェニックス・コンベンション・センターで行われたドナルド・トランプ大統領候補の選挙運動に参加したマイケル・フリン退役陸軍中将。2016年10月29日。 (Flickr Gage Skidmore)
 

これらの制裁は尋常ではなかった。つまり、この制裁は大統領任期の最後の段階になってから発動され、米国内にあるロシアの財産を差し押さえるといった前代未聞の策が実施され、向こう見ずにもロシアに対して詳細不明のサイバー攻撃の脅しをかけたのである。これらの内容を見ると、オバマの意図はモスクワ政府との関係を良好にしたいとする選挙時のトランプの約束を実現することをより困難にさせようとする点にあるという印象を与える。  

さらには、オバマの具体的な理由は一般的に考えられているようなウクライナやシリアにおけるロシアの動きにあるのではなく、ロシアゲートそのものにある。即ち、プーチンによる「米国の民主主義に対する攻撃」である。明らかに、オバマの諜報部門のトップがこれは全面的に本物の主張であるとしてオバマに対して吹聴したものだ。(あるいは、自分の後継者となる筈のヒラリー・クリントンの目を通して、さらには、個人的にもトランプの勝利を拒絶して選挙の成り行きを見ていたオバマはそれらの報告を信じることに熱心であったに違いない。)  

しかし、フリンのロシア大使との話し合いは決して犯罪ではない。モスクワとの間に「裏チャンネル」の連絡ルートを確立するためにトランプ政権の他の職員が行った努力も同じことである。他の記事でも指摘したように、新政権のために行われるこの種の予備交渉の前例は数多く存在し、ごく普通のことであって、もしもモスクワ政府に新大統領が現行の両国間の関係を吟味する前にその関係を悪化させないようにと求めること自体はむしろ必要な行為であるとさえ見なされている。  

新たに選出されたニクソン大統領のためにヘンリー・キッシンジャーがこの種の予備交渉を行った際、彼のボスはその話し合いを極秘にするようキッシンジャーに指示した。新政権の他の閣僚たちに対してさえもだ。思うに、フリンもまったく同様に秘密を守った。その結果、ペンス副大統領に嘘をつく結果となって、フリンは罠にはまった。あるいは、まんまと罠に追い込まれてしまったのだ。あれは彼の大統領に対する忠誠心とFBI 工作員との間に仕掛けられたものだ。選挙前の段階においてはフリンがロシアゲートにおけるオバマの諜報部門のひとつを率いる役目を果たしていたことを考慮すると、フリンがFBI の職員によって特別警護を受けていたであろうことは疑いもない。そして、トランプが驚異的な勝利を収めた後に、このロシアゲートは一気に拡大した。  

フリンがモスクワ政府に対してオバマの酷く挑発的な制裁に対して同じやり方で速やかに報復することは控えるようにと求めたことに関して言えば、彼は米国の安全保障に貢献したのであって、彼の行為は犯罪ではない。フリンは自分が働こうとしている次期大統領の指示の下に行動をすることは当然だと思い、トランプ自身もそう考えていた。さらには、もしもフリンが何らかの形で「共謀」を図ったとするならば、それはイスラエルに対してであって、ロシアに対してではない。 イスラエル政府に頼まれて、彼は反イスラエルの安保理決議案への賛成の投票を行わないようにと各国を説得したのである。
 
ティラーソンの排除:   

最後に、同様の形で、レックス・ティラーソン国務長官を政府から追い出し、全面的にネオコンに同調し、反ロ派で、緊張緩和路線には反対する国務長官に据え替えようとする政治・メディア界の動きが存在する。ティラーソンはトランプによって指名された最高の閣僚である。彼は国際情勢に幅広い経験を有し、数々の場を踏んだ交渉者でもあり、熟達した現実的な人物である。




Photo-3: 2017年11月1日の閣僚会合で話をするトランプ大統領。レックス・ティラーソン国務長官がトランプの右側に座り、義理の息子であるジャレッド・クシュナーが後列に座っている。(whitehouse.govからのスクリーン画像)
 

元々、エクソン・モービルのCEOとしての彼の役割から、彼は非常に利潤が大きく、戦略的にも重要なエネルギーの採掘に関してクレムリンとの交渉を行って来たことから、彼は「プーチンの友人」であるといった中傷を招いた。この本末転倒な主張は、ずっと以前から過剰なまでに拡大し、ほとんど無能となってしまった国務省を彼はゆっくりとリストラし、削ぎ落とそうとするという非難にとって代わった。確かに、彼はそうするべきだと思う。米国の国家安全保障の最前線に位置する政府組織、栄光に満ちた職場を台無しにし兼ねないとしてティラーソンを糾弾するために、ヒラリー・クリントンの周囲にたむろしていた無数の元外交官らは、お互いに競争でもするかのように、影響力の高い論説欄へと走ったのである。数多くのニュース報道や解説番組、社説も同じようなやり方を踏襲した。しかしながら、近年、国務省や国務長官が大きな外交的成果を達成したなんていう事例はいったい存在するのであろうか?   

その答は、たとえば、オバマ政権がイランに核兵器開発の可能性を断念させたことは多国籍間の合意であるかのように見えるが、実際には、あれはロシアの大統領と外務省がもたらした成果であった。ロシアはこの合意に関与した当事者国家にとって欠くことの出来ない保証を提供してくれたのである。ところで、50人を超す国務省のキャリアー組の職員らがオバマが稀な試みとしてシリアでモスクワ政府との協力を推進しようとした際に反対を表明したことがあったが、これは忘れ去られようとしている。  

このような心意気にあるのだが、ティラーソンは間もなく辞職するか、更迭されるだろうというリーク情報が次々と流されている。しかしながら、彼は頑張っている。表面化しつつあるロシアゲートの害悪がロシア人の振る舞いに関して酷く誇張された形で制裁を課すよう彼に強いている。その一方で、これは彼が明らかに信じて止まないことであるのだが、モスクワ政府との間に「生産的な新たな関係」を構築するよう彼は呼びかけている。(邪魔物が排除された暁には、彼はこれを実現することだろう。)   

明白なことには、ティラーソンはロシア側の相手であるセルゲイ・ラブロフとの間には「生産的な」関係を構築して来た。これらふたりの人物は北朝鮮が米国や現行の危機に関わる他の国の首脳との間で交渉を開始する用意があるということを発表したばかりである。  

米国が直面する最大級の外交課題はいったい何かについては、ティラーソンの運命がわれわれに答えを示してくれることだろう。それは他の核大国との協調か、あるいは、対決をさらに拡大することか、緊張緩和によって新冷戦を消滅させることか、または、熱核戦争に発展するような危機をさらに拡大させることか。政治や政策は過剰に個人的なレベルで受け取るべきではない。より大きな要因が常に関与して来るからだ。しかし、最近のような前例のない時代においては、ティラーソンはある種の緊張緩和を実現する可能性を持った最後の人物となるのかも知れない。もちろん、彼を嫌っている、あるいは、嫌ってはいないトランプ大統領を除いてはの話である。別の言い方をすれば、ロシアゲートは今後も米国の安全保障に対して深刻な危険を与え続けることになるのであろうか?   

著者のプロフィール: スティーブン・F・コーエンはニューヨーク大学とプリンストン大学のロシア研究および政治に関する名誉教授であって、週刊誌「The Nation」の寄稿編集者でもある。この記事の初出は同誌。 
 

<引用終了>  


これでこの記事の全文の仮訳が終了した。
 

私はこのコーエン教授の論評を通じて「ロシアを抜きにしたロシアゲート」という言葉が存在することを初めて知ったが、この言葉はフェークニュースで構築されたロシアゲートの現状を実にうまく表現している。
 

さまざまな引用がされており、われわれ素人にも分かり易く記述されており、非常に興味深い内容を持った記事である。フリン元補佐官がロシア大使と連絡をとったことは犯罪ではないと断言している。キシンジャーの事例を取り上げて過去の検証も行っている。特に、ティラーソン国務長官については多くを記述し、好意的な評価を与えている点が実に興味深い。このような客観的な姿勢は、残念ながら、主流メディアでは見当たらない。
 

このロシアゲートでの大失敗によって、米国の国内政治は近い将来攻守が逆転し、トランプ大統領が攻めの姿勢に転じるという観測が出始めている。私のような素人にとってはそれが真面目な展望であるのか、あるいは、単なるガセネタに過ぎないのかは判断できない。思うに、世界中の市民が今思っていることはふたつの核大国の間で高まっている政治的・軍事的な緊張を一日でも早く緩和したいということに尽きるのではないか。これを除いて、いったいどのような重要課題が今存在するのか、私には思い当たらない。
 

そう言う意味でこの論評を読むと、ロシアゲートを乗り越えて、まずは米国政治を正常化させる努力が非常に重要だ。米国の一般市民を覚醒させる上でコーエン教授の重要さは計り知れないと言えよう。




参照:

注1:The Scary Void Inside Russia-gate: By Stephen F. Cohen, Consortiumnews, Dec/15/2017














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