2018年7月8日日曜日

クリミアの認知と合法化 - トランプの判断には依存しない - ロスティスラフ・イシチェンコ

7月16日にヘルシンキで開催されるトランプ・プーチン会談は世界中から注目されている。会談の場で話し合われる事柄の中でもっとも中心的なテーマはシリア紛争であろうと観測されている。

そして、見逃したくはないもうひとつの米ロ間の重要テーマはウクライナだ。ウクライナ情勢を非常に複雑にしている要因はクリミアのウクライナからの離脱と住民投票によって圧倒的な支持率で決まったロシアへの帰属だ。この動きを国連憲章が謳っている民族自立の原則として受け入れるのか、それとも、他国の領土を割譲したとして対ロ経済制裁の理由としてでっち上げるかの判断は判断の当事者が誰であるかとその時点の政治的環境によって多いに左右される。

最近、トランプ米大統領がウクライナについては「様子をみよう」と発言したことが内外で注目されている(Trump says he’s ‘going to have to see’ if US will accept Russia’s seizure of Crimea: By
Veronika Melkozerova, Kyiv Post, Jun/30/2018) 。ヘルシンキでのトランプ・プーチン会談が迫っていることから、この発言に対する注目度は高まるばかりである。

クリミアについては今まで数多くの見解や論評が公開されている。そんな中で、ロシアのロスティスラフ・イシチェンコが最近表明した見解が非常に興味深く感じられた [注1]。

本日はその記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

クリミアについては「様子を見よう」というトランプ大統領の発言がウクライナの住民にヒステリー状態を引き起こしている。この状況は十分に理解できる。米大統領はウクライナを無視し、ウクライナに代償を払わせて、ロシアとの合意に漕ぎ着けたいとする意向を述べた。つまり、「全世界がわれわれの側に立っている」とか「西側がわれわれを支援する」といった言葉に運命を賭けることは失敗に終わったのだ。

キエフは孤立した。誰も必要とはしない。そして、妥協を引き出すためにロシア側への支払いとしてキエフを使おうではないかとの意図が垣間見える。

しかし、トランプはこの妥協を米国の国益に活用しようとする。戦略的な戦いで勝利を収めるために、彼は戦術的な妥協のやり取りを試みる。彼は取り上げられた物の一部を取り戻したいと考える。取り上げられた物は将来取り返すのだ。さらに、彼が持ち主に返すと言っている事柄を永久に拒否する意図はない。状況がもっと好転してから再度この課題に取り組めるような形で彼はこれを提示しようとしているのだ。

これはクリミアに直接的な懸念をもたらすことから、この悪評高いトランプの声明を聞いて、ロシアの専門家や政界を虜にし、有頂天にさせたことが私には今ひとつ理解できない。

ある条件下ではクリミアがロシア領であることを米国が認知することは可能だとトランプが言った。しかし、ブルキナ・ファソでさえもがある条件下であるならばこのような認知を表明することは可能である。しかも、一段と良好な条件下でだ。もちろん、米国は超大国である。最近までは世界的な覇権国家であった。そして、世界規模の交渉のプロセスに与えるワシントン政府の影響力を過小評価しようとしても、それは難しい。米国、あるいは、大多数の国家がクリミアをロシア領として認知したとしても、国際法上のクリミアの地位には何らの変化も与えない。

予測が可能なことがひとつだけある。それはクリミアに対する米国の経済制裁だ [つまり、ロシアへの併合 - 編集者]。しかし、彼らは何らかの理由で、あるいは、何の理由もなしに、WTOの規則に反して再び経済制裁を導入し、(公式には依然としてもっとも近しい同盟国である)EUの物品に対してさえも制限的な関税を課すことができる。

先ず、ロシアが自国の主張を軍事的に防護するだけの力を備えている限り、クリミアのロシア領としての具体的な地位を考えるならば、全世界が何を考えているかとは無関係に、現実の状況には逆らわない形で仲直りをするであろう。クリミアへやって来る外国人はロシアの旅券審査や税関を通過する。憤然としてウクライナの国境警備隊に旅券を示したいと言う者なんていないだろう。毎年、何十万人ものウクライナ人がロシアのクリミアへこっそりとやって来る。クリミアがロシア領であることはキエフ政府は認めてはいないし、世界の多くの国も認知してはいない。

アルゼンチンはフォークランド(マルビナス)諸島が英国領であることを認めてはいない。日本は南千島がロシアの主権下にあることを認めてはいない。中華人民共和国は台湾の中華民国を認めてはいない。これらの状況はすべてが何十年も続いており、限られた専門家を除けば、誰かが特に迷惑を被っている訳ではない。そうとは言え、領土紛争の問題は遅かれ早かれ爆発し、抗争へと発展する。それだけではなく、そういった抗争で利益を得るのは第三者だ。

国際法の観点から言えば、今日、クリミアは領土紛争の状態にある。それと同時に、クリミアは二つの国家の憲法の下に置かれた領域となっている。両者(ロシアとウクライナ)は共にクリミア半島について法的権限を主張している。この問題を完全に解決することはロシアの国益に適う(そして、早ければ早いほどいい)。 

国際的な立法行為を行使する枠組みの中で、このような紛争は大多数の賛成、あるいは、全会一致の賛成によってひとつの地域の地位を新たに認知することで決着させようとしても、それはできない。これはその種の解決策についてたいそう立派な前例を作り出すだけであって、解決そのものにはならない。千島列島はロシア領であることは全世界が同意する。だからと言って、日本がこれらの島を要求することを妨げる訳ではなく、米国は、これらの日ロ間の紛争を利用して、極東における軍事的ならびに政治的な優位性を達成しようとしている。

まったく同じような構図で世界のほとんどの国家は北京政府が推進している「ひとつの中国」という概念に賛成して、台湾との外交関係を中断した。(ただし、経済的な繋がりは維持している。これは中国が経済協力は拒まないからだ。) しかし、これは台湾に対する中国の主権を取り戻すことには役立たなかった。中国が持っている唯一のチャンスは台湾が国内の手続きに基づいて統一を決断することだ。

この選択肢はクリミアにも当てはまる。両者の何れか一方が領土に関する主張を諦めれば、キエフとモスクワは新たな合意書に署名し、クリミアの地位が確定する。そうすると、ひとつの領土についてひとつの国家がその領有を主張するだけとなることから、他の国の認知は自動的に得られることになる。

今日、このような選択肢は非現実的であることをわれわれは理解している。ロシアがクリミアを所有していることは事実である。その一方で、ロシアはクリミアの住民の絶対多数からの支持に依存してもいる。ロシアはクリミア半島の管理権をウクライナに譲る積りは毛頭ない。ウクライナは何年も前にクリミアを失い、平和的にそれを取り戻す術を持ってはいない。また、理論的な権利を放棄する計画もない。西側ヨーロッパは、かって、この種の状況にあった。十字軍で失敗し、十字軍国家が崩壊した後でさえも、エルサレムの名ばかりの王やラテン帝国の帝王の朝廷は何世紀も存在し続けた。どちらの当事国も折れない場合、合意を得ることはできないばかりではなく、交渉を開始することさえもできない。

国際裁判所を通じて合法化する選択肢があり得る。しかし、この選択肢を活用するには、同一の領土を主張する両国が自国の主権を裁判所の裁定に委ねることに合意しなければならない。われわれにとっては、これも不可能である。最近の数年間、(領土問題も含めて)それぞれ異なる分野を専門とする国際裁判所の裁定は政治的な動機にひどく偏るようになって来て居り、(これはこの種のやり方に信頼を勝ち取るには役立たないという)事実に加えて、ロシアは、原則として、自国領土の保全を外部の調停機関に委ねるような前例を作ることは容認しない。モスクワは、基本的に、このような問題は二国間の交渉によってのみ解決する。なぜならば、調停者は誰であっても自国の利益を追求するからである。

もうひとつの可能な選択肢は国連安保理による決定である。しかし、安保理で全会一致の評決を得ることは不可能である。全会一致の評決が可能な決議案でさえも、誰かが拒否をするであろう。それと同時に、当事国の議論は相容れない議論となる。まさに鶏が先か、卵が先かの議論となって、国際法の規則を活用して如何なる立場をも正当化される。ロシアとウクライナのどちらに対してでも、具体的にはどの国が安保理のメンバーであるかによって、この紛争で支持をするかどうかが決定される。

一例を挙げてこのことを示してみよう。ウクライナは、下記のふたつの理由から、クリミアのロシアへの併合に関する住民投票は合法的であるとは認められないとしている。

1. ウクライナ憲法の観点からは、ウクライナ最高議会だけが領土の変更に関する住民投票を宣言することが可能であり、全国民が投票に参加しなければならない。

2. 国際法の観点からは、ウクライナはクリミア半島の管理能力を失い、同半島は住民投票の前から駐屯していたロシア軍の手に陥った。

これらのふたつの声明は正しい。トークショウの常連が哀れにも試みる「ロシア軍は条約に基づいて同半島に駐屯していた」という言い分は如何なる批判をも支持するものではない。特殊作戦部隊がクリミア半島に追加的に導入されたという事実はロシア大統領によってかなり前に公にされたが、このことを除外したとしても、ロシア軍が半島内で寝起きし、彼らが基地の外で仕事をすること、特に、ウクライナ軍に対する封鎖作戦を行うことは条約には何も記されてはいなかった。

しかし、これらはすべてがロシア側の言い分は弱いということを意味する訳ではない。モスクワ政府は完全に現実と一致し、誰にも良く知られている事実にすべてを依存する。ロシアの言い分は下記の通りだ。 

1. キエフでクーデターが起こった。それが何を意味するのかと言うと、合法的な政府が消えてしまったのである。大統領は身の危険を感じて、逃亡し、政府の一部も逃亡し、その業務を遂行することが出来なくなり、議会は自動小銃を突き付けられて決断をした。当初の何時間もの間、あるいは、何日間もの間、クーデターの成功に酔い痺れていたクーデターの参加者たちはそれを隠そうとはしなかった。しかし、それはすでに遅過ぎた。即ち、クリミアでの出来事が進行している際、ウクライナには憲法に則った、合法的で国際的に認知された政府は存在してはいなかったのである。


2. 国際的に認知された選挙が実施され、憲法に則った政府機構の活動を公に確立したのは5月の末であった。クーデターの参加者の利益のために彼らによって実施されたこれらの選挙について、その合法性を問い質すことは可能であろう。何故ならば、少なくとも、数多くのウクライナの政党は選挙に参画することさえも拒否された。しかし、これらの政党は選挙の合法性に関して国際組織に苦情を訴えようとはしなかった。訴えも無しに、外部機関がこれらの選挙を非合法的であると断定することは出来ない。しかしながら、この壮大な選挙のドラマにおいて、われわれにとって重要な唯一の事実はウクライナが自分たちの憲法の機能を公に回復させた時点には、クリミアはとうの昔にロシアへの帰属を完了していたという点にある。 

このように、これはクリミアの離脱とウクライナの憲法上の手続きとの間の対応が欠如していることに依存する議論である。クリミアがロシアの政体に移行した際、ウクライナ憲法は機能してはいなかったし、権威ある憲法体系はウクライナには存在してはいなかったのである。

3. さらには、本質的にはモスクワ政府は未だかって登場したことがないもうひとつの議論を有しており、何時でも議論のテーブルに持ち出すことが可能だ。ウクライナはこのクーデターを「革命」と呼んだ。事実、古い権力システムは完全に破壊され、今でさえも多くの点が修復されてはいない。ロシアは、確かに、ポロシェンコの大統領選挙、ならびに、その後行われた議会選挙の合法性を認知した。しかし、結局のところ、革命はひとつの国家を破壊し、もうひとつの国家を確立する。これらの国家の間には(常にという訳ではないが、ほとんどの場合)領土や民族集団の連続性が保たれるが、法的連続性は維持されない。

即ち、クリミアを含むヤヌコヴィッチのウクライナとクリミアを含まないポロシェンコのウクライナはふつたつのまったく異なった国家である。これらのふたつの国家の領土は一般的には一致するが、完全に一致しなければならないと言う訳ではない。特に、それらの国家の法的継承者が異なる場合は必ずしも一致を見る訳ではない。ヤヌコヴィッチのウクライナはウクライナ社会主義共和国の正当な後継者である。ポロシェンコのウクライナはペトリューラが率いたウクライナ人民共和国(UPR)やウクライナ民族主義者組織(OUN)/ウクライナ蜂起軍(UPA)の協力者たちにそのルーツを持っている。ペトリューラやOUN/UPA の協力者らの政権はクリミアをその領土としたことがない。

われわれが理解しているように、ウクライナ憲法に対する違反であるとする主張は無効である。さらには、ヤヌコヴィッチのウクライナからポロシェンコのウクライナへの継承には大きな疑念がある。しかしながら、われわれには住民投票が行われていた際にロシア軍がクリミア半島に駐屯し、クリミア半島の治安維持を行っていたという事実に基づいて国際的にも合法的な議論を行う用意がある。

理論的には、紛争の的となっている領土で一方の当事国が軍隊による治安維持を行ったことから、このことは住民投票の結果に挑戦する口実を与えるかも知れない。しかし、われわれがすでに実証したように、あの時点においてはウクライナには憲法が機能してはいなく、合法的な政府は破壊されていた。クリミアの住民は権力を握った暴徒による暴力に恐怖を感じて、ロシアに助けを求めた。頼りになる武装集団が保護をすること以外に何らかの策を用いてクリミアの住民を救出することが可能であるとは想像することもできなかった。キエフ当局のその後の行動はわれわれの立ち位置を肯定している。と言うのは、もしもコルスンの近くでクリミアからやって来た反マイダン革命の人たちを乗せたバスが受けた襲撃が「不快な出来事」であったとか、「余剰な革命行動」であったとして捉えられるとするならば、ドンバス地方における戦争はキエフ政府の決断に基づいて開始されたものとなる。この状況はキエフ政府が2014年5月2日にオデッサでの大量殺戮を組織化し、それを認めた状況とまったく同じである。これらの両方の出来事に関する決断は大統領選挙の初期の段階に、ウクライナ新政府が合法化される前に成された。これらの両方の出来事は「最高議会議長兼大統領」のトウルチノフによって決断され、彼の一人二役を見るだけでも、これはキエフ政権の非合法性を強調するものである。最終的に、これらふたつの出来事に関する決断こそがクリミア住人の恐怖やロシアの行動を正当化しているのである。

われわれが理解しているように、個々の当事国はそれ自身の立ち位置に沿って国際法を自分たちの読み方で読もうとし、自分たちの方式で物事の優先順位を決めようとする。これはこの案件に関してだけではなく、世界の歴史においてはすべての紛争において観察される。最近、皆が記憶しているように、米国は民族自立という一国の権利の条項と領土的一体性を自衛する国家の条項との間に相互関係を与えようとした。もちろん、彼らにとって好都合な形でだ。コソボやボスニア、アフカジア、南オセチア、クリミア、トランスニストリア、ドンバスおよびカラバフに関する彼らの立ち位置には一貫性が見られないのはこれが理由だ。米国はすべての紛争を個々に「固有な事例」として扱おうとした。それらの間には類似性がなく、前例を作り出さないようにしたのである。

この点に関しては、ロシアは過去の数十年間にわたって国際的慣行から逸脱するようなことはしていない(国際法には前例がある)。モスクワ政府はこの案件を固有の事例として扱い、自国の立ち位置を防護する。何故かと言うと、当の米国はその立ち位置に基づいて、ボスニア危機の際、隣接国の政府(特に、もしもその政府が非合法的であれば、なおさらのこと・・・)の不適切な政策によって引き起こされる人道主義の危機を未然に防ぐためにはあらゆる手段を使用する権利(この地域ではダントツの軍事力を有する国家として、ならびに、国連安保理での恒久的なメンバーとしての)を有し、そうする義務を有すると宣言したのである。人道的な危機がクリミアに脅威を与えた。これはドンバスに見られるのだ。

昔のこと(1836年から1848年の頃)であるが、米国は民族自立のためにメキシコからの独立を宣言していたテキサスの住人の権利を防護することにたいそう腐心した挙句、(住民投票を実施することもなく)テキサスを併合した。そして、メキシコに対して戦争を開始し、近代になってからは三番目となるもうひとつの領土を獲得した。ワシントン政府が北カリフォルニアをメキシコに返還することやテキサスの独立を認知することなんて、今や、誰も期待しない。

その点こそが国際的な監視の下でクリミアの地位を合法化するために住民投票をもう一回行うことについてロシアが拒んでいる理由なのである。結局のところ、ウクライナが住民投票の結果を認知するとは誰も保証することは出来ない。住民投票の実施に同意することはロシアの国際的な地位を弱体化することも事実である。何故ならば、それはクリミアがロシアの一部となった根拠である2014年の住民投票の完璧さに疑問を挟むことになりかねないからだ。

さらには、前例を作り出すことにもなる。その前例に基づいて、ロシアの一地域が国際監視団の下で住民投票を行い、独立(あるいは、他国への移行)を主張することはロシアにとっては受け入れられない。何故かと言えば、それはロシアの主権に制限を課し、外部勢力がロシアの領土を分断化する法的手続きの前例を作り出してしまうからである。

このようにして、今日、上記のような状況が存在している。この状況においては、国際的に認知されている手法による解決に比べて、ウクライナの自殺によるクリミア問題の解決こそがより現実的である。ところで、クリミアが実際にロシアの一部となったこと自体はすでに国際社会によって受け入れられており、既定事実化しているのだ。

それこそが、一般的に言ってウクライナ国家が嘆かわしい状況下にあることを考慮に入れると、現実の姿にしたがって国際的に合法的な手法を速やかに見い出すことを希望しなければならない理由である。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

非常に興味深い内容だ。私自身にとってはこれだけ詳細に論じているクリミアに関する議論は初めてのことである。それだけに、非常に新鮮である。

著者の議論の展開にはいくつかの強力な論点が観察される。私が個人的に面白いなと感じたのは下記の点だ。

クリミアを含むヤヌコヴィッチのウクライナとクリミアを含まないポロシェンコのウクライナはふつたつのまったく異なった国家である。これらのふたつの国家の領土は一般的には一致するが、完全に一致しなければならないと言う訳ではない。特に、それらの国家の法的継承者が異なる場合は必ずしも一致を見ない。ヤヌコヴィッチのウクライナはウクライナ社会主義共和国の正当な後継者である。ポロシェンコのウクライナはペトリューラが率いたウクライナ人民共和国(UPR)やウクライナ民族主義者組織(OUN)/ウクライナ蜂起軍(UPA)の協力者たちにそのルーツを持っている。ペトリューラやOUN/UPA の協力者らの政権はクリミアをその領土としたことはない。

ウクライナとロシアとの間の現時点での綱引きの現状だけではなく、歴史的に見て法的な継承がどのように行われて来たのかという議論は実に興味深い。歴史を紐解くと、クリミアはロシアに帰属することになるのは当然だと思う。素人考えではあるが、このことを覆すことができる議論はいったい存在するのだろうか。

また、著者は下記のような指摘をしている。

ロシアは過去の数十年間にわたって国際的慣行から逸脱するようなことはしていない(国際法には前例がある)。モスクワ政府はこの案件を固有の事例として扱い、自国の立ち位置を防護する。何故かと言うと、当の米国はその立ち位置に基づいて、ボスニア危機の際、隣接国の政府(特に、もしもその政府が非合法的であれば、なおさらのこと・・・)の不適切な政策によって引き起こされる人道主義の危機を未然に防ぐためにはあらゆる手段を使用する権利(この地域ではダントツの軍事力を有する国家として、ならびに、国連安保理での恒久的なメンバーとしての)を有し、そうする義務を有すると宣言したのである。人道的な危機がクリミアに脅威を与えた。これはドンバスに見られるのだ。

クリミアの住民を守ることの正当性に関するロシアの論理的な展開について、他国が真っ向から反論することは出来ないのではないかと私には思える。ロシアの備えは盤石であると言えよう。

著者はこの記事の表題で「トランプの判断には依存しない」と言っているが、こうしてロシア側のいくつかの論点を見ると、ヘルシンキでの16日のトランプ・プーチン会談での展開が何処に落ち着くかについてはある程度の予測ができるような気がする。

このウクライナ紛争が全面的な解決を見せて、クリミア半島の住民だけではなく、ウクライナ東部のドンバス地方の住民も枕を高くして眠れる日が一日でも早くやって来て欲しいものである。




参照:

注1:Rostislav Ishchenko: The Recognition and Legitimation of Crimea - What Doesn’t Depend on Trump:By Rostislav Ishchenko, The Saker, Translated by Ollie Richardson and Angelina Siard, Jul/03/2018. Cross posted with
http://www.stalkerzone.org/ishchenko-crimea-recognition-trump/ Source: https://ukraina.ru/opinion/20180702/1020548537.html





 


4 件のコメント:

  1. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  2. 翻訳有難うございます。
    ただ長文なので小生には読むのがつらいのですが,本翻訳を読んで気が付いたことが2つほどあります。
    一つは旧ソ連邦が消滅したとき,ウクライナが勝手に独立したことが論じられていません。
    二つは,米国が英国より独立したことはどうなのかということです。成文憲法ではないとしても,イギリス本国から植民地が勝手に独立できるのでしょうか。

    うろ覚えでありますので小生が間違っているかもしれませんが,詳しい方のご教示をお願いしたいと思います。

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    1. 箒川兵庫助様

      コメントを有難うございます。

      私は法律の専門家ではありませんので、適切にお答えすることができるかどうかは分かりませんが、クリミアの独立の際に読んだ様々な解説によると、植民地の独立についてはどのケースでも宗主国は反対であったと言われています。米国も宗主国の反対を押し切って独立を目指したのです。その結果、独立戦争をもたらした訳です。そうした様々な歴史的経験があったからこそ、現行の国連憲章では「民族自決」の原則を国連加盟国の総意として成文化したのだと思います。ひとつの国家がふたつに分かれる場合、話し合いで実現したケースは非常に稀です。チェコスロバキアがチェコとスロバキアとに分離した時ぐらいではないでしょうか。2017年、スペインのカタルーニャ州が独立をめざして住民投票を行い、投票率が4割と低調ではあったものの賛成が9割に達したことから、プッチダモン州首相は勝利宣言をしました。しかし、州政府とスペイン中央政府との交渉はうまく行かず、スペイン政府はカタルーニャ州の自治権を停止し、直接統治に乗り出そうとしました。あれから1年、カタルーニャの独立は実現していません。このカタルーニャの独立運動に類する事例としては、スペインのバスク地方、イタリアの裕福な北部2州があります。イタリアの2州では2017年に住民投票が行われ、多数の賛成票を得ています。

      ウクライナに関する情報を下記に纏めてみます。

      ソビエト連邦構成共和国:
      1.ロシア、2.ウクライナ、3.白ロシア(ベロルシア)、4.ウズベキスタン、5.カザフスタン、6. ジョージア(旧称はグルジア)、7.アゼルバイジャン、8.リトアニア、9.モルドバ、10.ラトビア、11.キルギス、12.タジキスタン、13.アルメニア、14.トルクメニスタン、15.エストニア

      1977年に改訂されたソビエト憲法第76条によれば、自治権があるそれぞれのソビエト社会主義国家が結合して、ソビエト社会主義共和国連邦を結成しているとされた。第81条では「連邦共和国の自治権はソビエト連邦によって保護される」と規定。
      しかし、場合によってはバルト三国はソビエト連邦の一部と考えられていない。これらの国は1940年にモロトフ・リッベントロップ条約に基づくバルト諸国占領でソビエト連邦に違法に併合されたとしており、したがってソビエト支配下でも独立国を維持していたと主張している。
      憲法では、ソビエト連邦は政府連合であり、1924年、1936年、1977年の憲法の条項にしたがってそれぞれの共和国は連邦から脱退する権利を保持した。冷戦の間はこの権利は無意味なものであるとの見方が支配的だったが、1977年憲法の第72条は1991年12月にソビエト連邦の事実上の崩壊に利用され、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは連邦から脱退した。

      つまり、ウクライナはソビエト連邦の憲法にしたがってソ連邦から離脱したということになります。

      ソビエト連邦は政府連合であるという宣言は欧州連合(EU)と比較して見ると面白いかなと思います。今進行しつつある英国のEUからの離脱は国民投票の結果を反映したものです。

      クリミアにおける住民投票によるウクライナからの離脱とロシアへの編入に関するウクライナ憲法との関係については、今回の投稿でも興味深い議論が成されています。つまり、それが合法的であったのかどうかという議論です。ロシア側の議論は私も今回初めて知りましたが、実に興味深い内容となっています。

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  3. たくさんの情報とご解説,有難うございました。
    法律にも疎いので詳しいことは分からないのですが,プ-チン大統領がウクライナの独立を法律違反だと言っていたような気がするので,本記事では抜けているなと指摘させて頂きました。1977年憲法の第72条が「適用された」とするならば,「抜けていない」ということになり小生の誤りということになります。
     2つめですが,アメリカの英国からの独立は違法であるとすれば,アメリカ米国がクリミアの独立を認めないというのは可笑しいことになります。
     ポロシェンコの革命政権ができて一番儲けているのはアメリカであり,地勢的にもロシアを脅かす位置を確保できているのでアメリカは大喜びなのでしょう。西側がクリミア帰属問題で制裁を加えている間は,ウクライナ現政権の違法性を問われないのでアメリカは西側政府を煽り続けると思います。しかしおそらく「ロシア側の議論」が正しいと思います。

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