2018年7月1日日曜日

西側世界はすべてが認知的不協和に陥っている

西側世界は開発途上国に対して民主主義や言論の自由、人権の尊重について説き、要求し、しばしば強制して来た。米国の利益にそぐわない国の政府に対しては武力で脅しをかけ、国内に騒乱を引き起こし、政権の転覆を図った。こうして、米国の指示に従順に従う傀儡政権を樹立し、現代的な新しい植民地を確立するのである。米国の新自由主義や新資本主義、グローバル主義、例外主義、等の考え方は、たとえ違った言葉で言い換えてみても、強力な軍事力に依存した進め方であることに変わりはない。それらは必ずしも民主主義や言論の自由、人権の尊重と相容れるものではない。とてつもなく大きな矛盾である。しかも、われわれが見るところ、この矛盾は拡大するばかりである。素人のわれわれにさえも日常的なレベルで感知することが可能だ。

米国の集団思考や議会が対外的に行おうとしている政策には大きな矛盾があることが指摘されている。西側の大手商業メディアはこうした矛盾に関して政府に向かって批判をしなくなってしまった。彼らはフェークニュースを流すばかりである。今や、大手メディアに代わって、独立系の代替メディアがジャーナリストとしての解説や健全な意見を報じる役割を担っている。

例えば、ポール・クレイグ・ロバーツは率直な意見を提言するトップクラスの論客のひとりである。彼にはこのブログでも今までに何回も登場して貰っている。最近の彼の記事は「西側世界はすべてが認知的不協和に陥っている」と題されている [注1]。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

西側は何処の国でもその精神が如何に現実から乖離してしまっているかを例証するために、本コラムではみっつの事例を挙げて議論を進めてみようと思う。

まず、家族の引き離しの件から始めよう。米国へ入国しようとする移住者・難民・亡命者としての両親からの子供の引き離しは一般市民の間に激しい抗議を引き起こしたことから、トランプ大統領はその政策を引っ込め、家族の引き離しを中断することを指示する大統領命令に署名した。

親たちが非合法的な入国の廉で起訴される一方、子供たちは米国の納税者から利益を吸い取ろうとする民間業者が運営する倉庫に放り込まれた。子供たちは恐怖に怯えた。この子供たちの恐怖が自己満足し、「例外主義を唱え、欠かせない存在である」と自負する米国人を知覚麻痺の状態から目覚めさせたのである。トランプ政権が家族を引き離すことによって国境警備当局の信用を落とすことになる政策を選択したことは実に不可解だ。多分、この政策は、「もしも米国へ不法入国したならば子供たちを引き離すぞ」というメッセージを発することによって、不法な移民行為を思いとどまらせようと意図したものであったのだろう。

しかし、問題は次の点だ。米国人は非人間的な国境警備政策を見て、それを拒否することが出来た。それにもかかわらず、ワシントン政府が21世紀になってから7ヵ国あるいは8ヵ国を破壊し、その結果引き起こされた家庭の崩壊という非人間的行為に関してその現実を見ようとはしない。これは何故だろうか?

ワシントン政府がもたらした死によって何百万人もが家族の崩壊という憂き目に晒されたが、20年近くもの間、抗議らしい抗議はほとんど観察されなかった。アフガニスタンやイラク、リビア、パキスタン、シリア、イエメン、ソマリアの住人に対する行為の非合法性はまったく明らかであり、疑いようもない。これらの行為は米国自身が設立した戦争犯罪にも定義されているが、ジョージ・W・ブッシュやオバマ、トランプにこれらの行為の中断を要請する一般庶民からの抗議はなかった。さらに8番目の事例を挙げるとすれば、それはロシア語を喋る住民が多く住み、ウクライナからの分離を切望するふたつの州に対して行われている軍事攻撃だ。これらの攻撃のために米国は武器を与え、支援を受けたネオナチの従属国家であるウクライナは軍事攻撃を継続している。

夥しい数の死者を出し、町や市、インフラが破壊され、身体的並びに精神的な不具者を続出し、ワシントン政府による戦争から逃れようとする難民は欧州へと流入した。中東や北アフリカにおけるワシントン政府の戦争犯罪を支持する馬鹿者たちで成り立っている欧州の各国政府はトランプの移民政策に匹敵するこの重大な事態について何の抗議もしなかった。

米国人は国境警備の執行における家族の引き離しには非人間性をありありと見い出したにもかかわらず、これら8ヵ国の住民に対してもたらされた戦争犯罪に関しては非人間性を見い出し得ないでいる。何故だろうか?われわれは認知的不協和という集団的精神障害に陥ってしまったのであろうか?

ここで、二番目の事例に移ろう。ワシントン政府は国連人権理事会から脱退した。

国家社会主義のドイツにその原因が帰せられたホロコーストよりも20年も遡るが、1917年11月2日、英国外相のアーサー・ジェームズ・バルフォアはロスチャイルド卿に宛てて「英国はパレスチナをユダヤ人国家の地とすることに賛成する」と書いた。換言すると、政治的に腐敗したバルフォア外相はパレスチナの地に2000年以上にもわたって居住してきた何百万人ものパレスチナ人の権利と生命を無視したのである。ロスチャイルドからの賄賂に比べて、これらの住民はいったい何だったのだろうか?英国の外相にとっては、彼らは何の意味も持たなかったのである。

パレスチナの正統な住民に対するバルフォアの態度は英国の権力が波及する植民地や領土の住民に対する英国人の態度とまったく同じであった。ワシントン政府はこの慣習を学び、この慣習を恒常的に繰り返して来た。

つい先日の事であるが、トランプ政権の国連大使を務め、気が狂っているとしか言いようがない、イスラエルの愛玩犬であるニッキ・ヘイリーはワシントン政府は国連人権理事会から脱退したと発表した。同理事会はイスラエルに対する政治的大嘘に満ちた悪の巣窟となってしまったからだと説明した。

イスラエルの代理人であるニッキ・ヘイリーからこの種の非難を受けるとは、国連人権理事会はいったい何を仕出かしたのだろうか?国連人権理事会はイスラエルのパレスチナ人に対する政策、つまり、医師や若い子供、母親、老女、老人、父親、ティーンエイジャー、等を殺害するイスラエルの政策を公然と非難したのである。

イスラエルを非難すると、たとえイスラエルの犯罪が重篤で、かつ、明白であるとしても、あなたは反ユダヤ主義者であり「ホロコーストの否定論者」であると見なされるのが落ちだ。ニッキ・ヘイリーやイスラエルにとっては、国連人権理事会をヒットラーを崇拝するナチの連中と同列に並べてしまうことは当たり前の事だ。

これが如何に馬鹿らしいことであるかは明らかである。しかしながら、そのことを正確に見抜く者はほとんどいない。イスラエルを除く全世界はワシントン政府の決断を非難した。ワシントンの敵国やパレスチナ人だけではなく、ワシントンの従属国さえもがこの非難に加わった。

現実世界からの乖離の程度を判断するには、ワシントン政府に対して発せられた非難の言葉遣いに関心を払う必要がある。

EUのスポークスパーソンはワシントン政府の国連人権理事会からの脱退は「国際舞台における民主主義のチャンピオンであり、支援者でもある米国の役割を損なう危険性がある」と言った。これよりもアホらしい声明を想像することが出来るだろうか?ワシントン政府はワシントン政府の意向に従順な独裁国家を支持することで知られている。南米のある国で市民の代表を務める大統領が選出されたとしよう。その大統領がニューヨークの銀行や米国の商業的関心事あるいは米国の外交政策を支持しない場合、ワシントン政府はそういった国を破壊することで良く知られている。

ワシントン政府が民主主義を支援した事例をひとつでもいいから挙げて貰いたいものだ。最近の数年間だけでも、オバマ政権は民主的に選出されたホンジュラス政府を倒し、操り人形を政権の座に就けた。オバマ政権は民主的に選出されていたウクライナ政府を倒し、ネオナチの政府を樹立した。ワシントン政府はアルゼンチンとブラジルの政府を倒し、今はベネズエラの政権を倒そうとしている。米国は、ロシアやイランだけではなく、ボリビアにも照準を合わせようとしている。

スウェーデンのマーゴット・ウオールシュトロム外相はこう言った。「米国が国連人権理事会から脱退すると聞いて私は悲しく思う。世界が人権に関してもっと関心を寄せ、より強力な国連を必要としている時にこの報がやって来た。その逆ではない。」ウオールシュトロムは、人権を破壊することで良く知られているワシントン政府の人権理事会での存在が理事会を駄目にしてしまうのではなく、理事会を強化するとどうして思うのであろうか?ワシントン政府が引き起こしている戦争犯罪を避けようとしてヨーロッパやスウェーデンへやって来た何百万人もの難民に聞いてみるがいい。ウオールシュトロムの現実からの乖離は恐ろしい限りだ。余りにも極端で、信じ難い程だ。

オーストラリアのジュリー・ビショップ外相が「国連人権理事会は反イスラエルの偏見に満ちている」と言った時、彼女はワシントン政府に従属する国々の間でもっとも強力なへつらいの言葉を口にした。われわれはここにすっかり洗脳されてしまって、現実との繋がりはこれぽっちも感じられない政治家を見ているのである。

三番目の事例はトランプが中国に対して掲げた「貿易戦争」だ。トランプ政権は中国の不公平な貿易の実態によって米国の対中貿易赤字は4000億ドル近くにも達すると主張している。この膨大な額の赤字は中国側の不公平な貿易のせいであると言う。実際には、対中貿易赤字はアップルやナイキ、リーバイ、その他数多くの米企業が中国において生産を行い、その製品を米国市場へ持ち込み、販売しているからである。米企業が海外で生産した製品を米国へ持ち込むと、それらは輸入品として数えられる。

私はこのことを米議会の中国委員会での証言で何年も前から指摘して来た。本件について数多くの記事を書き、ほとんどすべての場で出版した。それらの記事は私が2013年に出版した下記の書物に記載されている:「The Failure of Laissez Faire Capitalism」(
https://www.amazon.com/Failure-Laissez-Faire-Capitalism/dp/0986036250/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1529582838&sr=1-1&keywords=Paul+Craig+Roberts+books&dpID=51HWdHsbtFL&preST=_SY291_BO1,204,203,200_QL40_&dpSrc=srch

プレスティチュートとしての金融関連メディアや企業のために働くロビー活動家の中には数多くの「著名な」大学の経済専門家や知性がほとんど感じられない、不運な米国の政治家も含まれているが、彼らはこの米国の巨大な貿易赤字は職場を海外へ移転した結果であるという因果関係を理解できないでいる。これが米国を支配する連中の驚くべき愚鈍さのレベルなのである。

「The Failure of Laissez Faire Capitalism」の中で私はジョージ・W・ブッシュ大統領の経済諮問委員会のメンバーを務めたマシュー・J・スローターが犯した途方もない過ちを暴露した。彼は米国の職場が海外へ移転されると、一人の職場毎に米国内には二人の職場が新たに作り出されると無意味にも主張したのである。また、職場の海外への移転についてロビー活動を行うグループである「競争力委員会」のためにハーバード大学のマイケル・ポーター教授が示した「研究」の成果はでっち上げであることを私は暴露した。彼はとんでもないことを主張した。即ち、米国の高生産性や高い付加価値を持った仕事を海外へ移転することによって米国の労働力は大きな利益を享受すると言ったのである。

米国の間抜けな経済専門家や金融関連メディアならびに政策立案者らは職場の海外移転が米経済の先行きを破壊してしまったことやワシントン政府の予測よりも45年も早目に中国を先頭の位置に押しやってしまったという事実を依然として理解してはいないのだ。

要するに、西側の精神ならびに汎大西洋主義を標榜する一部のロシア人や中国の親米の若者たちの精神はプロパガンダ的なナンセンスに圧倒されて、彼らは現実からすっかり遊離してしまっている。

本当の世界が存在する。また、その本当の世界を覆い隠すプロパガンダ的な作為の世界も存在する。この作為の世界がある特定の関心事のために仕えているのである。私の仕事は一般庶民をこの作為的な世界から脱出させ、本当の世界へと導くことである。私の努力を支援して貰いたい。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

ロバーツのこの論評を読んでいると、彼の思考には私がこのブログで度々引用しているアンドレ・ヴルチェクの持論と相似性があることが感じられる。ロバーツが「プロパガンダ的な作為の世界」と形容するところをヴルチェクは「擬似的現実」と形容する(ヴルチェクが唱える「擬似的現実」については、1月9日に掲載した「戦場の特派員からの新年のメッセージならびに警告 - アンドレ・ヴルチェク」を参照されたい)。言うまでもなく、両者が言いたいことは同一である。

政治の世界では自己の主張を弁護するため、あるいは、政策の妥当性を説明するためにさまざまな議論が行われる。しかしながら、その議論や見解が、ここに論じらているように、現実世界からすっかり乖離しているとしたら、意味がない。問題の焦点はわれわれ一般庶民がそのことを見抜くことが出来るかどうかである。残念ながら、多くの場合、見抜けない。

一般庶民の側に立とうとする米国の識者らにとっては米政府の政治は危機的な状態にあり、その現実をどのようにして一般大衆の間で広く理解して貰うかが最大の課題となっていると感じられる。これらの記事を読み、シリアやウクライナの紛争、スクリパル親子毒殺未遂事件やマレーシア航空17便撃墜事件、あるいは、新冷戦やロシアゲートの背景を眺めてみると、これらの出来事のどれについても、まさにロバーツやヴルチェクが指摘しているように、「プロパガンダ的な作為の世界」が「現実世界」から如何に大きく乖離しているかがひしひしと伝わって来る。



参照:

注1: The Entire Western World Lives In Cognitive Dissonance: By Paul Craig Roberts,
Jun/21/2018, www.paulcraigroberts.org/.../entire-western-world-lives...







0 件のコメント:

コメントを投稿