2016年の米大統領選では勝利を自他共に確実視していた民主党のヒラリー・クリントンが共和党のトランプに敗北した。その結果が判明してからというもの、ヒラリー・クリントンや民主党は自分たちの失敗を認めず、トランプがロシアと結託して選挙に干渉したからだとして大失敗の矛先を相手側の候補に向けた。こうして、ロシアが米国の大統領選を干渉したとする筋書きが過去2年近くにわたって米国の大手メディアを賑わし続けている。率直に言って、すべてが作り話だ。
この「でっち上げ」を証拠付ける最も有力な理由はCNNの或るディレクターが「これはでっち上げだよ。売れるようにするためさ!」と、録画されているとは知らずに喋ったことだ。少なくとも、大手メディア側の当事者の間には「でっち上げ」をしているという明確な自覚があったことを物語っている。これはもう何をかいわんやだ。
しかしながら、その後の大手メディアの筋書きはしたたかにも何も変わってはいない。「嘘でもいいから、言い続けてさえいれば、一般大衆はそう思い込むようになるさ」と言わんばかりの態度だ。
米国の最高の思索家と目され、言論界の超大物であるノーム・チョムスキーが自分の意見を述べている。「イスラエルの米国の選挙に対する干渉はロシアがやったことを遥かに圧倒する」と言っている [注1]。彼は失うものが何もないことから、彼の指摘は実に単刀直入である。
今の米国ではイスラエルの政策に関して率直に喋ることが非常に難しいと言われている。たとえば、書き物を残すことを生業とする大学教授や研究者らは将来の研究費の枯渇を懸念して、言いたいことさえも言えないのが現実であると伝えられている。米国社会はそれほど迄に歪んでしまった。
本日はこのチョムスキーの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。
<引用開始>
やれやれ、これは米国における週末の政治論議をさらに厄介なものにしそうだ。
大手メディア(や左翼の政治家たちさえも)が「共謀」の筋書きから退去し始めたことから、彼らは米選挙へ介入し、「われわれの民主主義に干渉」するといった「悪意に満ちた」ロシアの努力を喧伝するとか、そういった類の非常に感情的な文言に今まで以上に焦点を合わせようとしている。
それが故に、世界でも良く知られている反体制派で、リベラルな思考の持ち主である大物、ノーム・チョムスキーが「デモクラシー・ナウ」とのインタビューで喋った言葉はトランプを嫌う連中にとっては厄介なものになりそうだ。
・・・そー、それでは、われわれの選挙に対して行われたと言われている外部からの干渉を取り上げてみよう。ロシア人はわれわれの選挙を干渉したのだろうか?メディアは非常に大きな懸念を抱いている。でも、世界中の人たちはほとんどがこれは冗談だとして受け止めている。
まずは、われわれの選挙に対する外国からの干渉について興味があるならば、ロシアが行ったかも知れない行為はほとんど問題にはならない。他の国が大っぴらに、厚かましく、しかも、非常に大きな支援を受けながら行っている行為と比べてみることが重要だ。
米国の選挙に対するイスラエルの干渉の程度はロシア人がやったかも知れない行為を遥かに圧倒している・・・
私が言いたいのはイスラエル首相のネタニヤフが米大統領への連絡もせずに、直接米議会へ出向き、大統領の政策を駄目にするために議会で演説を行い、拍手喝采を受けていることだ。2015年にオバマとネタニヤフとの間で何が起こったかはご存知だと思うが。
プーチンは米議会の両院合同の議場へやって来て、米国の政策を覆すよう議員たちに呼びかける演説を行っただろうか?しかも、米大統領には何の連絡もせずにだ。しかし、これはイスラエルが及ぼす圧倒的に大きな影響力の中ではほんの一部分でしかない。
もしもあなたが米選挙に対する外国からの干渉に興味をお持ちならば、検証すべき場所は他にある。しかしながら、それさえもが冗談みたいなものではあるが。
つまり、機能する民主主義のもっとも基本的な要素のひとつは選挙で選ばれた代議士たちは自分たちを選出してくれた有権者に対して責任を負うという点だ。それよりももっと基本的な事柄なんて何もない。しかし、米国では、単純に言って、実際にはそうではないことをわれわれは十分に知っている。
学術的な政治学の本流においては有権者の意向と選出された代議士が模索する政策との間の比較を行った論文が豊富にあり、それらが示すところによれば、有権者の大部分は基本的に選挙権を奪われたも同然だ。彼らが選出した代議士らは有権者の声には何の関心も示そうとはしない。彼らは有名な1パーセント、即ち、裕福で、強力な大企業の声に耳を傾けるだけだ。
トム・ファーガソンの非常に素晴らしい研究によると、何年も前に遡るが、米国の選挙は長い間多くが買収されて来た。単純に選挙運動の費用を見るだけで、大統領選や議会選挙の結果をかなりの精度で予測することが出来る。これは全体のほんの一部分だけだ。ロビー活動家たちは実際に議員会館で法案を起草する。強力なやり方で、個人資本家や大手企業、超裕福な連中が集まって、われわれの選挙にたっぷりと、圧倒的に介入し、それはもう民主主義のもっとも基本的な要素さえもが蹂躙される程のものだ。もちろん、これらはどれを取り上げてみても、純法律的には合法的ではあるのだが、社会がどのように機能しているのかを端的に示している。
もしもあなたが我が国の選挙を少しでも心配し、選挙がどのように運営され、その結果がこの民主主義社会に起こる事とどのように関わって来るのかについて心配するならば、ロシア人の不法侵入についてあれこれと詮索するなんてお門違いも甚だしい。メディアでは時にはこれらに対する関心も見られるが、その関心の程度はロシア人の不法侵入という取るに足りない問題と比べてさえも非常に小さい。
われわれはこれが次から次へと問題視されているのを目撃しており、トランプが言わんとすることについてさえも問題視されている。それがどんな理由からであろうとも、彼の言いたいことがまったく妥当性を欠いているという訳ではない。つまり、彼はロシアとの関係を改善するべきだと言っているが、これは完全に正しいことだ。
そのことで泥の中を引きずり回されるなんてことは驚くほどに奇妙なことであり、ロシアは米国との交渉を拒否すべきではない。何故かと言えば、当の米国はイラクへの侵攻によって今世紀では最悪の犯罪を犯しているのだから。ロシアがかって犯した悪事と比較するとイラクへの侵攻は遥かに悪辣だ。
しかし、彼らはそのことを理由にしてわれわれとの合意を拒むべきではないし、何らかの法律違反が存在するかも知れないが、彼らがどのような法律違反を犯していようともわれわれも彼らとの合意を拒むべきではない。実にばかばかしいことだ。われわれは一緒になって、改善の方向へ向かわなければならない。ロシアとの国境では緊張が非常に高まっており、その緊張が何時爆発するか分かったものではない。そんなことが起こったら、最終核戦争を招き、地球上の生物や生命の終焉となりかねない。われわれは今そのような状況に非常に近くなっている。
今、われわれは「何故」と問い質すべきだ。まずは、状況を改善するために何かを実行しなければならない。二番目には、われわれは「何故」と問い質さなければならない。さてと、ことの発端はソ連邦の崩壊後にミカイル・ゴルバチョフとの口頭の約束を破って、NATOを拡大したことにある。ほとんどはクリントン政権下での出来事であった。最初は父ブッシュの下で、ほとんどはクリントン政権の下で行われ、NATO圏はロシアとの国境にまで拡大された。その後、オバマ政権下でもさらなる拡大が進められた。
米国はウクライナをNATOへ加入させようとした。ウクライナはロシアにとっては戦略地政学的にも中核的な地域である。
そー、確かに、ロシアの国境付近では緊張が高まっている。メキシコとの国境でこんなことが起こったとしたら米国はいったいどう反応するかを考えて貰いたい。これらの出来事こそすべてがもっとも重要な関心事であるべきだ。
組織化された人間社会の運命、さらには、生命体の存続自体がこの問題に大きく依存しているのだ。トランプが嘘をついたかどうかという問題に比べて、いったいどれだけの関心がこれらの課題に寄せられているというのであろうか?思うに、これらはメディアに対する非常に基本的な批判である。
要約すると、 トランプがロシアとの関係を改善すると言っていることは正しい。世界の運命がそれと大きく関わっており、ロシアは特に注目すべきことなんて何もしてはいない。ロシア人による不正侵入は非常に瑣末な事柄である。イスラエルこそが本物のお節介焼きだ。米国の民主主義はもはや存在しない。米国を支配し、動かしているのは億万長者である大企業だ。
ノーム・チョムスキーは「プーチンの手先」であろうか?反体制派のベテランの闘士は「役に立つ馬鹿」になってしまったのだろうか?いや、彼は反ユダヤ主義者であるに違いない。そうだろう? われわれは左派の「ロシア、ロシア、ロシア」という筋書きに対するこのチョムスキーからの破壊的な攻撃にアダム・シフ [訳注: カリフォルニア選出の民主党下院議員で、外交問題に明るい] がどのように反応するのかを見ることにしよう。楽しみである。
この記事は最初に「ZeroHedge」によって出版された。
注: この記事に表明された見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を代表するものではありません。
<引用終了>
これで全文の仮訳が終了した。
チョムスキーのもっとも中核的な論点は「われわれは一緒になって、改善の方向へ向かわなければならない。ロシアとの国境では緊張が非常に高まっており、その緊張が何時爆発するか分かったものではない。そんなことが起こったら、最終核戦争を招き、地球上の生物や生命の終焉となりかねない。われわれは今そのような状況に非常に近くなっている・・・」という点にあると私は思う。
また、米国が犯したイラクへの軍事的侵攻は米国が他国のことをあれこれと論じる際のモラルの基盤そのものを台無しにしてしまったというチョムスキーの指摘は決して忘れたくはない。
人類の存続を確実にすることは他のすべての課題よりも優先させなければならない。これは自明の理である。
参照:
注1: Chomsky Admits “Israeli Intervention In US Elections Overwhelms Anything Russia Has Done": By Tyler Durden, ZeroHedge, Information Clearing House, Aug/05/2018
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