2018年8月4日土曜日

米諜報機関は米国の崩壊を駆動する役

7月16日、ヘルシンキでトランプ・プーチン会談が開催された。会談後、両大統領は共同記者会見に臨んだ。

記者会見ではさまざまな質問があった。もっとも関心を呼んだのはロシアが2016年の米大統領選に干渉したのかどうかという点である。トランプ大統領は会談の場でプーチン大統領の明確な否定を目撃したことから、ロシアは何の干渉もしなかったと答えた。米国内ではかねてから諜報部門からの代表者が集まり、諜報界全体の意見として、ロシアが大統領選に干渉したとする見解を報告していた。この諜報界からの報告は必ずしも正式に16部門全体を代表する見解ではないとの指摘もあるが、トランプ大統領はこの記者会見で自国の諜報機関からの報告を反故にして、ロシア大統領の言葉が正しいとしたのである。このことが反ロ・反トランプのキャンペーンを行って来た民主党や大手メディアの興奮状態を更に激しいものにした。

一連のロシアゲートを2年近くも観察して来たが、今回のトランプ・プーチン会談後の記者会見を受けて米国内がかくも騒然となったのは9/11同時多発テロ以来初めてのことである。

最大の不幸は、私の個人的な意見では、反トランプ・反ロの議論は作り話ばかりで、非常に理不尽であることだ。その理不尽な状況を先導しているのは米諜報機関だとする記事がここにある [注1]。その表題は「米諜報機関は米国の崩壊を駆動する役」と題され、著者はロシア系米国人で、ロシアに関する論評では定評のあるドミトリー・オルロフ。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

今日、米国では「スパイ」という用語は特定の分野以外ではそれ程用いられない。散発的に産業スパイが話題に登場することもあるが、米国人が国境を越えた世界を理解しようとする場合には「諜報」という言葉が多用される。物事をどう見るかによるが、これは知的な選択であるかも知れない。あるいは、そうではないかも知れない。

まず、米国の「諜報」は米国が伝統的に関与してきたスパイ・ゲームとは曖昧に関係するだけである。その一方、ロシアや中国といった国々では依然としてスパイ活動が行われている。スパイ活動では非常に重要な情報が収集され、自国の関連部署の意思決定者に送付される。この間、情報の収集や検証は極秘裏に進められる。

かっては、自分の存在が露見するとスパイは青酸カリを呑んだものだ。拷問は紳士的ではないと考えられている今日、相手に捕まってしまったスパイは「スパイの交換」の機会を辛抱強く待つことになる。スパイの交換に関する常識的な不文律としては、スパイの交換は密かに実施し、将来の交渉作業に支障を来たさないためにも交換された当事者に対しては何の介入もしない。近年、米諜報機関は囚人の拷問は利用価値があると判断しているが、職業的なスパイはその対象ではない。無実の傍観者が対象である。時には強制された挙句に「アルカイダ」のような作り話も登場する。米諜報機関がイスラム系テロリストの間でそれを喧伝する前はそんなものは存在してはいなかった。

米諜報機関の下部組織であり、ドクター・イーブルの小型版として見られる英国の「特殊サービス」は、最近、自分たちのスパイであり、二重スパイでもあるセルゲイ・スクリパルに干渉した。セルゲイ・スクリパルはスパイの交換によってロシアの刑務所から解放されていた。連中はスクリパルに毒を盛り、何の証拠も示さずにロシアにその罪を着せようとした。これで、英国のスパイはロシアとの間でスパイの交換が行われることはなくなるだろう。(英国がポートン・ダウンの「秘密」の研究所で所有しており、実に強力であるとされていたノビチョクが正常に機能せず、致死的な効果を示すのは20パーセントのみであることから)ロシアで活動する英国のスパイには、多分、伝統的な青酸カリが配布されるだろう。

一般的にスパイ活動については他にも常識的な不文律がある。何事が起こっても、すべてを法廷外に留めることだ。どんな訴訟であっても、事実の探索の過程は検察側に情報源や手法を暴露するよう強要し、これらの情報は公知の事実となってしまう。これに代わるものは秘密法廷でしかないが、この手法は正当な過程を踏んでいるかどうか、あるいは、証拠の原則を踏襲しているかどうかを独立に検証することが出来ないので、大きな利用価値があるとは言えない。

反逆者に対しては違った基準が適用される。つまり、この件においてはことの発端は公判中の人物であり、その方途は国家に対する反逆であって、これは暴露することが可能であることから、彼らを裁判所へ送り込むことは受け入れられ、倫理的にも高い目標に仕える。しかし、たとえ二重スパイであることが判明したとしても、この論理はただ単に自分の仕事をこなしている由緒正しい、職業的なスパイの場合には適用されない。事実、対防諜活動によって一人のスパイが発見された場合、プロフェッショナルな策は彼を二重スパイに仕立て上げるか、それが不可能な場合には偽情報を注入する経路として彼を活用することだ。

このルールを破るために米国人は最善を尽くして来た。最近、ロバート・ミュラー特別検察官はロシア国内からDNC(民主党全国委員会)のメール用サーバーに不正侵入し、電子メールをウィキリークスに送ったとして12人のロシア人の工作員を起訴した。ところで、このサーバーは今行方不明である(間違ってどこかへ置き去りにされてしまった)が、ウィキリークスによって公開されたファイルの更新日時を辿ってみると、これらのファイルはインターネット経由で送付されたのではなく、USB メモリーにコピーされたものであることを示している。したがって、これはリークであって、不正侵入ではない。ロシアの遠隔地から操作するなんて誰にもできない相談だ。

さらには、米国の高官にとってはロシア国内のロシア人市民を公判に付すという考えは無益となる。ロシアの憲法には次のような条文があることから、彼らが米国の裁判所へ出頭することはない。「61.1条 ロシア連邦の市民は国外へ退去させられたり、外国へ送還されることはない。」ミュラー特別検察官は憲法学者らをパネルに招致し、この条文を解釈して貰うべきだ。あるいは、その条文を読んで、くやし涙を流すことも可能だ。確かに、米国人らはスパイを裁判所に送り込むことに関する不文律を破るために最善の努力を尽くしてはいるのだが、彼らの最善の努力は決して十分だとは言えない。

とは言うものの、ロシア人スパイはDNCのメールサーバーへ不正侵入することは出来なかったと信じる理由はない。あのサーバーは、多分、マイクロソフト・ウィンドウズを使用しており、この基本ソフトは穴だらけであったに違いない。まさに、米国人が多くの市民が住んでいたシリアのラッカの街をガラクタに化した後のように穴だらけなのだ。フォックス・ニュースがこの不正侵入について質問をした時、プーチン大統領(現職の前はスパイとして仕事をしていた)は真面目な顔付きを保つことに苦労しているようでさえあったが、明らかにこの瞬間を楽しんでいた。不正侵入を受けた、あるいは、リークされた電子メールは不正行為のパターンを明確に示していると彼は指摘した。つまり、DNCの職員らは民主党の予備選挙でバーニー・サンダースから勝利を掠め取ろうと共謀し、このことがバレてしまった後に彼らは辞職を強いられた。もしもロシア人による不正侵入が本当に起こっていたとしたら、米国の民主主義を救うために働いていたのはロシア人であったということになる。とすると、感謝の念はいったい何処に向けるべきなのか?愛着の念は何処に向けたらいいのか?そうそう、DNCの犯罪者らはどうして刑務所に放り込まれていないのか?

米国とロシアとの間には刑事事件の捜査において協力するという合意があることから、プーチンはミュラーによって告訴されたスパイを尋問することを提言した。さらにプーチンはミュラーがこの訴訟に同席するよう提言した。しかし、そのお返しとして、ウィリアム・ブラウダーという有罪判決を受けている犯罪者に手を貸し、悪事を働いたかも知れない米国の政府職員を尋問することをプーチンは希望したのである。当のウィリアム・ブラウダーはロシアで9年の服役を何時でも開始するばかりとなっている。ところで、彼は不正に得た金の中から莫大な金額をヒラリー・クリントンの選挙運動に寄付をしていた。これに応えて、米上院は米国の政府職員に対してロシアが尋問をすることを禁じる決議を採択した。12人のロシア人のスパイに対する尋問について有効な要求書を発行する代わりに、少なくとも米国のある政府職員は彼らが米国へやって来るようにとの馬鹿げた要求をした。重ねて言うが、いったい彼らは61.1条のどの部分が理解できなかったのであろうか?

もしもわれわれが諜報活動や反諜報活動の伝統的な定義、つまり、国家を防護する上で最善の意思決定をすることを目的として詳細な情報に基づいて決断をするためにも十分に検証された情報を提供するという米国の専門用語における「諜報」の意味に厳密に従うならば、米国政府職員の論理は理解することが困難であろう。しかし、もしもわれわれがそのような奇妙な考えから自分自身を解放し、われわれが実際に目にする現実を受け入れるとするならば、すべてが完全に意味を成すのである。即ち、米国の「諜報」の目的は事実に基づくものではなく、単に「ナンセンスをもたらす」だけである。

米諜報機関が提供する「諜報」は何についてでもあり得るが、実際には、それが馬鹿げていればいるほどいいのだ。何故ならば、その目的は馬鹿げた連中が馬鹿げた意思決定をすることにあるからだ。事実、彼らは事実は有害であるとさえ考える。例えば、それがシリアの化学兵器であったり、バーニー・サンダースから予備選挙を勝ち取ろうとする陰謀、イラクの大量破壊兵器、あるいは、オサマ・ビン・ラーデンの居場所であったりする。何故ならば、事実は正確さや厳密さを要求する。その一方、彼らは純粋な幻想や奇行の世界に棲むことを好む。この意味においては、彼らの実際の目的は容易に認識可能である。

米国の諜報の目的は存在しない(即ち、借り物の)財政源を非効率的で、過大な値札が付けられた軍事作戦や兵器システムのために浪費することによって在りもしない攻撃的な敵国から米国を防護すると見せかけながら、米国やその同盟国に残されている富のすべてを吸い取り、出来るだけ多くをポケットに収めることにある。もしも攻撃的な敵国が想像上の存在ではなく現実のものである場合、彼らに代わって誰かが戦いを遂行するようお膳立てをする。例えば、「穏健な」テロリスト、等を使う。彼らの最先端技術でもっとも目覚ましい進歩の一例は、9/11 同時多発テロという実際に行われた偽旗作戦からシリアの東グータで観察された偽物の化学兵器攻撃に見られる作り物による偽旗作戦への移行に見ることができる。ロシアが米大統領選に干渉したとする物語はこの進化の過程の最終段階であろう。つまり、このでっち上げの過程でニューヨークの摩天楼は破壊されることもなかったし、シリアの子供たちは何の傷も受けなかった。一見したところ、この物語は数多くの人たちによって語り継がれ、永久に生きながらえることが可能であろう。これは、今や、純粋な信用詐欺である。もしもあなたが彼らが発明した筋書きにそれ程の感銘を受けないとするならば、あなたは共謀論者であると見なされ、最新の言葉を使うとすれば、あなたは反逆者である。

トランプ大統領は、最近、米国の諜報機関を信用するかとの質問を受けた。彼は言葉を濁した。気軽に表現すれば、彼の答えは下記のような具合だ:

「そんな馬鹿げた質問をするなんてあんたは何というお馬鹿さんであろうか。もちろん、彼らは嘘をついている!彼らは嘘をついているところを何度も捕まっているので、彼らを信用することなんて出来ない。彼らは今回は嘘をついてはいないと主張するならば、彼らが嘘をつくことを止めたのは何時だったのかを特定しなければならない。そして、それ以降彼らは嘘をついたことがないことを実証しなければならない。入手可能な情報に基づいて実証するのはまさに不可能だ。」

もっと真面目で事実に即した答えは次のようなものとなるだろう: 

「米国の諜報機関は2016年の大統領選の結果を覆すために私がロシアと共謀したとの言語道断な主張をした。これの証拠を示す責務は彼らにある。彼らは裁判所で彼らが述べたことを証明しなければならない。もしも決着することが出来ると言うならば、裁判所こそが物事を合法的に活着することが可能な場所だ。決着されるまでは、われわれは彼らの主張は事実としてではなく、陰謀論として取り扱わなければならない。」

そして、本格的で、かつ、無表情な答えは次のようなものとなろう: 

「米国の諜報サービスは米国の憲法を守るとする宣誓をしている。この宣誓によれば、私は彼らの最高司令官である。彼らが私に報告をするのであって、私が彼らに報告するのではない。彼らは私に対して忠実でなければならないのであって、私が彼らに対して忠実でなければならないのではない。もしも彼らが私に対して忠実ではないならば、その事実は彼らを解雇するのに十分な理由となる。」

しかし、そのような現実に即した、堅実な対話をすることは不可能であるようだ。われわれが耳にするのはすべてが作り話の質問に対する作り話の答であって、その結末は一連の間違いだらけの意思決定である。作り話の諜報に基づいて、米国はこの国のほとんどすべてを浪費し、この国は非常に高価で、最終的にはまったく無益な紛争に巻き込まれている。彼らの努力によってイランやイラク、シリアは今や宗教的にも地政学的にも同盟関係を維持し、ロシアに対して友好的になった。アフガニスタンではタリバンが再興し、イラクやシリアにおいて米国によってひとつの勢力として組織化されたイスラム国と戦っている。

今世紀になってから米国がこれらの戦争で費やした戦費の合計は4,575,610,429,593ドルに達したと報告されている。これを138,313,155人の米国の納税者数で割ると(実際に税金を支払っているのかという指摘は余りにも些末な質問だ)、納税者一人当たりで33,000ドルとなる。もしもあなたが米国で税金を払っているならば、それは米国のさまざまな諜報機関が発した「しまった!」という言葉に関してあなたに向けて発行された当面の請求書である。

16部門もある米国の諜報機関の予算の合計は668憶ドルにも達し、彼らが如何に効率的であるかを自覚するまでは、この額は著しく大きいと感じることであろう。彼らの「しまった!」の費用の総額は我が国にとっては彼らの予算の70倍にも相当する。20万人もの職員を抱え、米国の納税者にとっては個々の職員は平均で2千3百万ドルの負担となる。この数値はまったく途方もなく大きな金額だ!エネルギー業界は従業員当たりの稼ぎが一番高く、一人当たりで180万ドルとなる。ヴァレロエネルギーは飛びぬけて稼ぎが大きく、一人当たりで760万ドルだ。米諜報界は一人当たり2千3百万ドルで、ヴァレロの3倍となる。脱帽だ!当面、これは米諜報界を最高の地位に据えてくれた。考え得る限りでは最高に効率が高く、米国の崩壊に向けて駆動役を担っている。

なぜそうなのかに関してはふたつの仮説が想定される。

まずは、これらの20万人の職員はべらぼうに無能で、彼らがもたらす失敗は偶発的なものであると想定することができる。しかし、ひどく無能な連中がそれでもなお平均で一人当たり2千3百万ドルもの金額を彼らが選択した多種多様な無益な仕事に向けて何とか注ぎ込む姿を想像することは実に難しい。そのような無能な連中が自分たちが犯した失敗を咎められることもなく何十年間にもわたってヘマをし続けることが許されていることを想像するのはさらに難しい。

もうひとつの仮説はもっと妥当なものだ。米諜報界は終わることのない、高価で、無益な一連の紛争にこの国を追い込むことによってこの国を倒産させ、財政的にも、経済的にも、政治的にもこの国を崩壊させるという素晴らしい仕事をして来た。世界が認識している限りでは、これは単一の連続した行為としては最大級の窃盗である。「知的な存在」がどうして自分の国家に対してこのようなことを仕出かすことができるのであろうか。「諜報」に関して考え得る定義については、あなた方ご自身が見出して貰いたいと思う。その難題に取り組んでいる最中に、「国家に対する反逆」に関しても新たに改定された定義を見出して貰いたい。永久的な嘘つきとして知られている連中によってもたらされた馬鹿げた、根も葉もない主張に向けられる懐疑的な態度よりも遥かにましな定義を見つけて欲しいのだ。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

ところどころにユーモアを交えることによってこの記事を読みやすくしている。

下記に示す段落は実に秀逸だ:

米諜報機関が提供する「諜報」は何についてでもあり得るが、実際には、それが馬鹿げていればいるほどいいのだ。何故ならば、その目的は馬鹿げた連中が馬鹿げた意思決定をすることにあるからだ。事実、彼らは事実は有害であるとさえ考える。例えば、それがシリアの化学兵器であったり、バーニー・サンダースから予備選挙を勝ち取ろうとする陰謀、イラクの大量破壊兵器、あるいは、オサマ・ビン・ラーデンの居場所であったりする。何故ならば、事実は正確さや厳密さを要求する。その一方、彼らは純粋な幻想や奇行の世界に棲むことを好む。この意味においては、彼らの実際の目的は容易に認識可能である。

米諜報機関の存在は米国の社会に巣食う癌細胞であると言えようか。自己増殖によって今や余りにも大きくなってしまった。癌細胞を摘出しようとすると、周辺の正常な臓器を著しく傷つけてしまう危険性がある。それ程にも危険な状態となっているのだと感じられる。トランプ政権が発足してから1年半余りが過ぎたにもかかわらず、米国の政治は「軍産・ウオールストリート・大手メディア複合体」によってハイジャックされており、反ロ・反トランプのキャンペーンのせいで空回りをしている。そして、その中心に諜報部門が存在すると著者は言う。非常に興味深い指摘である。さまざまな事象を観察すると、著者の指摘が当を得ていることを思い知らされる。


参照:

注1: US Intelligence Community as a Collapse Driver: By Dmitry Orlov, cluborlov.blogspot.com, Jul/24/2018  






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