2018年8月29日水曜日
モンサントの有罪判決は始まったばかり
モンサント社が販売する除草剤「ラウンドアップ」の主成分であるグリフォサートは健康に関する権威筋によって癌との関連性が指摘されている。最近発表された報告書によると、子供用として販売されて数多くの朝食用食品やシリアルにはグリフォサートが含有されている。非営利団体のEnvironmental Working Group (EWG)によって実施された調査によると、オーツやグラノーラバー、スナックバーにはもっとも広範に使用されている除草剤の残留物質が含まれている。分析に供された45種類の食品のうちで31種の食品が科学者らが子供たちのために推奨する安全基準を超していた[注1]。
米国の裁判所におけるこのモンサント社の除草剤を巡る損害賠償訴訟については、最近、サンフランシスコ高裁がモンサントに原告の被害者に対して巨額の損害賠償を支払うよう命じた。モンサントは、もちろん、最高裁へ上訴すると表明している。
8月11日の報道によると、モンサントは発癌性を争うサンフランシスコの法廷で破れ(これは画期的な出来事だ)、学校の校庭管理者であった原告のディウェイン・ジョンソンに対して2億8千9百万ドルを支払うよう言い渡された。原告はカリフォルニアに在住する父親で、非ホジキンリンパ腫を患っている。これはグリフォサートを主成分とする除草剤のラウンドアップによって引き起こされたものだ。ジョンソンは3児の父親で、校庭を管理する職についていた。医師の話によると彼の余命は数ヶ月と言われ、ラウンドアップという商標で販売されている除草剤の化学成分が癌を引き起こしたと主張し、モンサントを法廷の場に送り込む最初の原告となった。この訴訟以外にも約4,000人が同様の訴訟で列を成している [注2]。
子供用の朝食用シリアルとか世界規模で使用されている除草剤による影響を考えると、この除草剤が人々に与える衝撃には計り知れないものがある。ラウンドアップの訴訟では原告の数は8,000人に急増したという報告もある(8月23日のフランクフルトからの報道)。サンフランシスコの法廷で損害賠償を支払うよう命じられたことから、モンサントの株価は一気に値を崩して、総額で125億ドル(12パーセント)を失った。
さまざまな出来事が立て続けに起こっている中、今後モンサントはいったいどうするのか、損害賠償に対応できるのか、といった疑問が頭を掠める。それらの疑問の一部に答える記事がここにある [注3]。
本日はこの記事[注3]を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。表題は「モンサントの有罪判決は始まったばかり」となっている。
<引用開始>
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カリフォルニア州での陪審裁判は農薬や遺伝子組み換え作物の大手であるモンサント(バイエルに買収され、今は「バイエル/モンサント」と称する)に有罪の判決を下した。裁判官はモンサントに元校庭管理者で非ホジキンリンパ腫を患う原告のディウェイン・ジョンソンに対して2億8千9百万ドルを支払うよう命じた。彼の弁護士は彼の疾患はモンサントが販売しているグリフォサートを主成分とするラウンドアップによって引き起こされたものだと主張した。疑いもなく、モンサントはこの判決を不服として、上訴する考えだ。上訴の結果の如何を問わず、この判決の衝撃は世界中に影響をもたらし、遺伝子組み換え作物や農薬に関するビジネスモデルにとっては大問題となることであろう。
サンフランシスコのカリフォルニア高等裁判所におけるディウェイン・ジョンソン対モンサントの訴訟(CGC-16-550128)は この種の訴訟においては全米で5000件を超す中で初めての事例である。これらの訴訟はラウンドアップが癌を引き起こしたと主張している。
46歳のジョンソンはカリフォルニアのある郡の元校庭管理者であって、彼は郡内の学校の校庭でモンサント製のラウンドアップやレンジャープロを年間30回近く散布し、この仕事を2年半以上も続けていた。
「インシュアランス・ジャーナル」誌によると、陪審員による有罪の判決はモンサント製のグリフォサートを主成分とするラウンドアップに関する何千件もの同類の訴訟に大きな影響を与えることになる。カリフォルニア州に本拠を置く「Baum, Hedlund, Aristei & Goldman法律事務所」がこの訴訟を担当しているが、同法律事務所はこの訴訟以外にも数多くの訴訟に関して弁護団の一部として関与する予定である。
訴訟にさらされるモンサント:
モンサントを訴えたこの訴訟で共同弁護士を務めているロバート・ケネディ・ジュニアーは法廷での原告の弁護士ならびにモンサントの弁護士による反対尋問の要約を記している。それによると、モンサントは自社にとっては不都合となる発癌性試験の結果を抑圧し、嘘をつき、モンサントのラウンドアップ除草剤には発癌性がないとする安全性に関する自社の主張を支えて貰うために「専門家」の学者に巨額の支払いを行っていたことが暴露された。
のっぴきならない告白の事例を挙げると、モンサントの毒性学の専門家であるドンナ・ファーマーは追い詰められた挙句、社内の電子メールを証拠として提示され、自分自身の優先事項は公衆の安全ではなく、関連法規を遵守することにあったことを認めた。また、ファーマーはグリフォサートを防護することに同意してくれた社外の学者の名前を借り、論文を代筆するよう画策したことをしぶしぶと認めた。彼女は「そのことは全然悪いことではない・・・」とも答えている。
もう一人の巨額の支払いを受け、モンサントの証言者であるウオレン・フォスター博士はモンサントがWHOの下部機関である国際癌研究機関(IARC)の動物試験結果を否定する証言をするよう支払いを受ける以前はグリフォサートについて、あるいは、その発癌性に関して研究をしたことはなかったという事実をしぶしぶと認めた。2015年、IARCはグリフォサートには「恐らく発癌性がある」と断定した。このIARCの裁定はグリフォサートを31パーセントも含有するモンサントのラウンドアップが人畜に有害ではないとする同社の主張に甚大な衝撃を与えた。
もう一人の毒性学の専門家、マーク・マーテンス博士は「社外の毒性学の専門家であるジェームズ・パリー博士による研究結果をどうして棄却したのか?しかも、同博士をその分野ではトップクラスであるとして賞賛したばかりであったではないか?」との尋問を受けた。パリーの研究結果はこの化学物質ならびに機密にされたままのラウンドアップの製剤手法が遺伝子レベルでの変異を引き起こし、潜在的に癌の前駆体となり得ると結論付けていた。このことから、モンサントは彼の役割を反故にし、社外の学者がパリーの研究結果を吟味する機会さえをも奪ってしまった。また、そればかりではなく、モンサントはパリーの論文を環境庁(EPA)へ送付することさえもしなかった。モンサントのもう一人の「専門家としての証言者」であり、癌疫学を専門とし、ハーヴァード公衆衛生大学院(HSPH)で助教授を務めるローレライ・ムッチ博士はモンサントが彼女の証言を得るために10万ドルを支払ってくれた事実を認めている。
モンサントの弁護士らは、IARCの見解とは違って、EPAがグリフォサートは人に癌を引き起こすことは「ありそうにない」と結論付けたことを述べて、毒物学の専門家であるクリストファー・ポルティエ博士の信用を落とそうとした。この時、ポルティエは宣誓をした上でEPAならびにEUの欧州食品安全機関(EFSA)は、両者共、15もの論文に収められているグリフォサートに関してネズミ類を使った様々な動物試験で得られた腫瘍についてのデータを採用しなかったが、これは間違った手法を使ったことから生じたものであると力説した。また、彼はこうも述べている。「私は意思決定を行う際には科学的な証拠を用いることに私の職歴のすべてを捧げてきた。まず第一に、それは化学物質の発癌性に関するものであって、私は適切な研究を行うために何年も、何年も費やしてきた。彼らが用いた手法は驚異的とも言える程の間違いだ。」
チャールズ・ベンブルック博士は、グリフォサートについてだけを論じようとして、EPAがグリフォサートに加えてラウンドアップを構成している補助剤または界面活性剤についてはそれを除外して論じることは詐欺行為であり、これは「ラウンドアップ製剤は単一物質ではなく、製剤としての毒性があり、発癌性を持っているのではないかというより差し迫った疑惑を覆い隠そうとするものだ」と証言した。
要約すると、サンフランシスコでの裁判で明白になったことは文書化された嘘や隠蔽がひとつのパターンとなっていることである。また、社外の毒物学の専門家らによって報告された研究結果がラウンドアップの安全性に関してモンサントが主張してきた内容と矛盾する場合、モンサントは彼らの信用を落とそうと画策した。これももうひとつのパターンである。
セラリーニのラットによる研究:
2016年2月26日、論文審査が行われる「International Journal of Environmental Research and Public Health」誌にひとつの論文が掲載された。フランスのカーン大学生物学研究所のギレス・エリック・セラリーニ、ならびに、ハンガリーの国立農学研究イノベーション・センターの農学環境研究所のアンドラス・シェカチ所長によって率いられた毒物学の研究チームは、モンサント製のラウンドアップも含めて、もっとも広範に使用されているグリフォサートを主成分とする除草剤について実施された試験の結果を報告した。
彼らの試験によって、グリフォサートを主成分とする除草剤製剤には公表されてはいない成分、つまり、界面活性剤が配合されており、多くの場合、グリフォサートを単独で試験した場合よりも強い毒性を示し、細胞に対する毒性の度合いは2000倍近くも高まることが報告されている。機密にしている製剤成分については、法律で公開することが求められているにもかかわらず、モンサントは米政府に対しても、一般に対しても公開をしてはいない。
最近サンフランシスコ高裁が下したモンサントに不利となる裁定の内容は実に明白であり、毒性を持ち、発癌性を示す農薬に反対する世論が高まり始めることであろう。この農薬はほとんどがモンサントによって販売されているが、同社は買収され、今や、バイエルの傘下になっている。世界中の不安を抱く市民らは証拠を集め、全容を明らかにし、愚か者として扱われて来ただけではなく、結果的には死に至るような危険性さえをも演じていることに気付き始めたとも言えよう。
アルゼンチンでは、つい最近出版された研究報告によると、「妊娠中に環境に起因するグリフォサートを主成分とする除草剤に暴露されると、雌のラットの受胎率は低下し、胎児の成長が損なわれ、四肢の発達障害が起こり、二世代目の子孫を含めて、先天的な異常をもたらす」と学者らが報告した。この研究は遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシを生産する地域のど真ん中にあるアルゼンチンの町に住む人々を調査したものであって、この地域では大量の除草剤が散布され、先天的な異常は全国平均の2倍にも達していることが記録されている。
著者のプロフィール: F・ウィリアム・エングダールは戦略リスクに関するコンサルタントであって、講演を行う。彼はプリンストン大学で政治学の学位を取得し、原油や地政学に関する著書はベストセラーとなった。オンラインマガジンである「New Eastern Outlook」に独占的に寄稿をしている。https://journal-neo.org/2018/08/15/monsanto-guilty-verdict-is-only-beginning/
<引用終了>
これで、全文の仮訳が終了した。
企業利益を追うあまりに私企業が倫理観を見失ってしまう事例は、洋の東西を問わず、無数に存在する。そして、世界規模で商売を行う大企業の場合は、その影響たるや世界規模となる。
この引用記事の著者は倫理観を失った企業の行動パターンを描写している。「サンフランシスコでの裁判で明白になったことは文書化された嘘や隠蔽がひとつのパターンとなっていることである。また、社外の毒物学の専門家らによって報告された研究結果がラウンドアップの安全性に関してモンサントが主張してきた内容と矛盾する場合は、モンサントは彼らの信用を落とそうと画策した。これももうひとつのパターンである」と述べている。
さらにもうひとつのパターンを付け加えるとれば、それは官庁がこの種の不祥事に大きな役割を担っていたという事実だ。米国のEPAや欧州のEFSAはモンサントとグルになっていたことが判明している。10万ドルで一人の学者や官吏の行動を左右することができるとすれば、官庁の場合はいったい何人を買収したのであろうか?モンサントはいったいどれ程の金をつぎ込んだのだろうか?と勘ぐってしまう。しかしながら、潤沢な資金を動かすことが容易な大企業にとっては学者や官吏を買収する総額さえもが大した金額ではなかったのだと推測される。総じて、モンサントの企業行動ならびに官庁の倫理観や機能は完全に地に堕ちたという感じである。
このサンフランシスコ高裁が下したモンサントに不利となる裁定はすでに食品業界に余波を巻き起こしている。たとえば、8月27日のある記事では『食品大手のジェネラルミルズ社はグラノーラバーの表示から「100パーセントナチュラル」という文言を削除』との表題が見られる [注4]。明らかに、虚偽の表示は大きな損失につながり得ると企業の経営者が判断した結果であると言える。これは消費者にとっては歓迎すべき傾向だ。このような動きが世界中に、かつ、急速に広がって欲しいものである。
参照:
注1: Weed-killing chemical linked to cancer found in some children's breakfast foods: By CBS News, Aug/15/2018
注2: Monsanto Loses Landmark Roundup Cancer Trial, Set to Pay USD 289 Million in Damages: By Sustainable Pulse, Aug/11/2018
注3: Monsanto Guilty Verdict Is Only Beginning: By F. William Engdahl, NEO, Aug/15/2018
注4:General Mills Removes ‘100 percent Natural’ Label from Nature Valley Granola Bars after Glyphosate Lawsuit: By Sustainable Pulse, Aug/27/2018
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