2018年8月1日水曜日

ドイツ議会はシリアにおける米国の駐留を非合法と判断

7月10日のある記事 [注1] によると、ドイツ議会にある「議会科学サービス」がシリアにおける米軍の駐留を非合法であると判断し、そのことを報告した。

興味深いことには今欧州では米国離れが着実に進んでいるようだ。今までは米国との同盟関係を重視するあまりに、言いたいことを言わなかった欧州がそうした受け身の態度を改めて、自分たちの本当の気持ちをはっきりと言い始めたのだ。果たしてこれがどこまで進行するのかは分からない。NATOが瓦解するのか、EUが内部崩壊を起こすのか・・・

また、欧州勢はシリアから完全に撤退するのか?イラン核合意は米国を抜きにして継続されるのか?ドイツが推進しているロシアからの天然ガスのパイプライン、ノルドストリーム2は完成するのか?ウクライナの行方は?と、大きな問題が山積している。そのどれもが欧州の政治的自立を試すことになるだろう。

欧州における米国離れの傾向は中国やロシアが米ドルによる貿易の決済を自国通貨に切り替え始めたことと相俟って今日の国際政治や国際経済においては非常に重要な要素であると思う。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

ドイツ議会の議会科学サービスがどのような論理でシリアにおける米軍の駐留を非合法であると判断したのか、その論理的背景を学んでおきたい。


<引用開始>

ドイツ議会の「科学サービス」は米議会の「議会調査サービス」に匹敵する組織である。議員は専門家の中立的な意見を求めて、この組織に法的な質問やその他の件について意見を求めることができる。科学サービスが提出する見解は何よりも高く評価される。

ドイツの左派の党「リンクス」の党員、アレクサンデル・ノイはシリア国内におけるロシア、米国ならびにイスラエルの軍事的作戦の合法性に関して意見を求めた。

その結果(pdf, ドイツ語) は極めて明白なものである: 

- ロシアは(国際的に)認知されているシリア政府からの要請を受けた。シリアにおけるロシア軍の駐屯は国際法の下では何の疑いもなく、合法的である。

- シリアにおける米国の軍事行動はふたつの局面として観察することができる: 

政権変更:

シリア国内の反乱者に対して行われた米国(ならびに、他の国)からの武器の供与は非合法である。これは国際法で定められている武力の行使の禁止、特に、国連憲章の第2条の4項に違反する。

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

ISISに対する戦い:

シリアにおけるイスラム国は米国に対して攻撃の脅威を与えることから、米国はシリアにおける米軍の存在は国連憲章の第51条に定められた(集団的)自衛権に相当するものだと主張している。その主張自体は、シリアが主権国家であることから、不十分なものとなろう。そのような状況から、イスラム国に対する戦いについてはシリアには「その気もなく、能力もない」と米国は主張している。

科学サービスは「その気もなく、能力もない」という主張は米国の作戦が開始された時点ですでに曖昧であったと述べている。これはふたつの理由からである: 

これは法律ではなく、国際的に認知された法的原理でもない。(非同盟諸国の120か国、ならびに、他の国々がこれに反対。) 

シリア政府自体はイスラム国と戦って来たが、イスラム国が支配していた地域はシリアの大部分を占めるものではなく、全土に及ぶ作戦ではなかった。人によってはこれは「能力もない」という主張を正当化すると言う。しかしながら、イスラム国はほとんどが敗退し、もはや意味のある領土的支配を保ってはいない。

米軍や他の同盟国のシリアにおける存在はすでに法的に曖昧になっており、この主張はもはや維持することはできない。シリアにおける米軍の存在は非合法である。

- シリアにおけるヒズボラやイラン軍の部隊あるいは施設に対するイスラエル軍の攻撃は、シリア軍そのものに対する攻撃と同様に、国連憲章の51条の下で「予期される自衛の行動」であるとイスラエル側は主張する。しかし、「予期される自衛の行動」はイスラエルに対する攻撃が真近に迫った時にのみ主張することが可能なものである。ところが、そのような事態は生じてはいなかった。したがって、イスラエルの攻撃は「先制攻撃」であって、これは国際法の原理として認知されたものではない。

このようにイスラエルによる攻撃は「専制的な自衛の行動」であって、これは国際法で認知された原理ではない。

科学サービスはシリアに対するトルコの侵攻に関しては意見を求められてはいないが、シリア国内でクルド人勢力に対してトルコが行っている侵攻はあくまでも「自衛」のためであると主張しているが、これは、多くの場合、地政学的戦略の目的のために乱用されている。


限定的な科学サービスの意見:

ここに提供された議論はまったく新しいという訳ではない。他の論者も同様な経路を辿って、同様な結末に至っている。

しかし、ドイツ軍はイスラム国に対抗する米国の同盟国の一員であり、米国が主張するこの議論の下で米国を支援するためにトルコやヨルダンから偵察機を発進させて来た。ドイツ議会は、目下、イスラム国に対抗する委任状を更新する積りはなさそうだ。他の国々もこれにならって、米国との同盟軍としての参画は中断する模様である。

これはシリアの地上の状況を変えるものにはならないけれども、国際政治の雰囲気を変えるものとなる。また、これはヨーロッパの一般大衆の目に映るシリア政府の「リハビリ」に功を奏するであろう。シリア政府はもはや「敵国」とは見なされないからだ。

この記事は最初に「Moon Of Alabama」によって出版された。

注:この記事の見解は全面的に著者のものであって、必ずしも Information Clearing Houseの意見を反映するものではありません。

<引用終了>


これで全文の仮訳は終了した。

ドイツ議会の科学サービスが行ったこの検証結果は「シリアの地上の状況を変えるものにはならないけれども、国際政治の雰囲気を変えるものとなる。また、これはヨーロッパの一般大衆の目に映るシリア政府のリハビリに功を奏するであろう。シリア政府はもはや敵国とは見なされないからだ」と述べている。

昨年の夏、カタールとサウジアラビアとの間の関係は非常に険悪なものとなった。両国の間には天然ガスを巡って20年間にも及ぶ争いが続いていたと言われている。結果として、カタールはサウジの影響圏から脱して、天然ガス源を巡ってはかねてから仇敵であったイランと天然ガスの共同開発を行うといった話題さえもが出て来る昨今である。また、イランはサウジのライバルである。カタールはかってはサウジと並んでシリアの反政府派を支援する強力なメンバーでもあった。大量の資金が供給されていた。また、カタールから大量の資本を導入していたフランスもカタールの外交上の変化によって対シリア政策に大なり小なりの影響を被っていることだろうと推測する。

数年前にシリアを取り巻いていた状況と比べると、ドイツ議会の科学サービスが提示した結論は国際政治の上では画期的なものであると言えるのではないか。この趨勢が逆戻りすることもなく前進し、故郷を追われ、難民生活を余儀なくされて来た何百万人ものシリア市民が故郷へ再び戻れる日が来ることを願うばかりである。




参照:

注1: German Parliament Report U.S. Presence in Syria Is Illegal: By Moon Of Alabama, Information Clearing House, Jul/10/2018











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