2020年5月22日金曜日

武漢のコロナウィルスに対するワクチン開発で遭遇するであろう主な問題点 - ロシアの専門家の意見

「感染症流行対策イノベーション連合」(CEPI)によると、202048日現在、世界中で115のワクチン開発プロジェクトが進行中である。それぞれのプロジェクトは違う開発段階にある。それらの内で78のプロジェクトが今活動中で、残りの37のプロジェクトは未確認だそうだ(公知の情報や知的所有権に関する情報からは確認ができなかった)。この調査によると、伝統的な手法や斬新な手法も含めて、非常に幅の広い取り組みが行われている。(出典:CEPI publishes analysis of COVID-19 vaccine development landscape: By CEPI, Apr/09/2020

そうしたワクチン開発が進行する中で非常に興味深い意見が出ている。たとえば、

新型コロナウィルスは世界中の人々がワクチンの恩恵を享受する前に「消滅してしまう」かも知れないと元WHOで指導的な立場にあった癌の専門家で、著名な研究者でもある人物が述べている。「このウィルスはワクチンが開発される前に消えてしまう可能性がある」と、バッキンガム大学医学部長を務めるカロル・シコラがツイッターに書いている。われわれは今どこであってもほとんど同様なパターンを目にしている。推定以上に多くの者が免疫を獲得しているのではないかと思う。ウィルスが広がるのを遅くさせる必要があるが、ウィルス自身が消えてしまう可能性もある。この意見は大きな反響を呼び、後に、シコラはこれは彼自身の個人的な意見であって、現行の「未知の状況」において起こるかも知れない「あり得そうなシナリオ」を仮定したまでのことだと付け加えた。この学者はさらに「何が確実に起こるのか」は誰にも分からないと述べ、一般大衆は、当面、社会的距離を維持するよう推奨した。(出典:Coronavirus to burn out ‘naturally’ BEFORE vaccine? Former top WHO oncologist Karol Sikora says there’s ‘REAL CHANCE’ of thatBy RT, May/17/2020

ワクチン開発の話へ戻ろう。

ここに「武漢のコロナウィルスに対するワクチン開発で遭遇するであろう主な問題点 – ロシアの専門家の意見」と題された記事がある。(原題:Russian Virologist Details Main Obstacle in Creation of Vaccine Against Wuhan Coronavirus: By RT, Mar/12/2020)果たしてどのような問題が横たわっているのであろうか?

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。



Photo-1: © REUTERS / STRINGER

武漢コロナウィルスの感染者総数は121,564人となった(訳注:この数値は2カ月以上も前のものだ。2020529日現在、感染者数は5,003,155人、死者数は325,218人)。コロナウィルスの感染が拡大することを防ぐためにより多くの国が旅行規制やビザの発給を規制することを再考する中、WHOは水曜日(311日)にパンデミックを宣言した。

「セチェノフ・モスクワ国立第一医科大学にて寄生虫学・熱帯病・病原媒介生物による疾患に関するマツィノフスキー研究所」の理事を務めるアレクサンダー・ルカシェフは武漢ウィルスと闘うためのワクチンをタイミング良く開発する際に遭遇する問題点に関して自分の見方を表明した。

スプートニク:コロナウィルスは外界の空間で生き延びる可能性はあるのか?もしも可能性があるとすれば、それを変え得るのは何か? 

アレクサンダー・ルカシェフ:コロナウィルスは表面上で暫くの間は保存が可能だ。少なくとも、24時間程度は。ある特定の条件下では23日。それ以上は不可能だ。

技術的に言えば、「生き延びる」ということではなく、ウィルスは人の外部では複製を繰り返すことが出来ないことから、単に「保存される」という意味に過ぎない。

スプートニク:中国は厳しい対策を講じて大流行が押し寄せて来るのを食い止めた。あの大流行を「食い止める」にはいったい何が重要であったと考えるか?

アレクサンダー・ルカシェフ:もちろん、中国は大流行を食い止めることに成功した。しかし、他の国があのような厳しい策を実行するだろうとは私は思わない。

大流行を食い止めるのに必要な策は人々が集合することを禁じ、感染者を隔離し、潜在的な感染経路を遮断することだ。

しかし、社会生活や経済に大きな影響を与えずにそうすることは不可能だ。これらの策のすべてを実行し、大流行をコントロール下に置くことができる国は非常に少ないと私は思う。

スプートニク:人から人へ感染するコロナウィルスは1960年代に初めて確認された。最初の大流行は2012年に起こり、主として中東地域であった。そして、ヨーロッパへもやって来た。あれから何年にもなるが、ワクチンの開発における主な課題は何か?

アレクサンダー・ルカシェフ:最初の大流行は実際には2002年に起こり、あれはSARSコロナウィルスだった。

あれ以降、ワクチンの開発に取り組んできた。主要な問題点は抗体依存性の感染の強化が起こる現象だ。これは不適切な、あるいは、量が足りない抗体は感染を防ぐ代わりに感染を強化してしまう現象のことである。

この現象は動物モデルで再現することが非常に難しい。他のウィルスの場合はワクチンを作成し、抗体反応を起こすことは十分に可能であり、ワクチンの効力や安全性に関して動物モデルを使うことは容易にできる。

コロナウィルスの場合、動物モデルではこの抗体依存性の感染の強化は正確には再現できず、人ではそれがいつでも起こる危険性がある。したがって、コロナウィルスのワクチンを採用すつ際には警戒をするべきだ。

それらの安全性について試験を行う前に、われわれは新型コロナウィルス感染の動物モデルを確立する必要があり、それができて初めてこれらのモデルが適切に抗体反応や潜在的な抗体依存性感染強化とを再現することができるようになる。さらに、われわれはこれらの動物試験で成功したワクチンに関して臨床試験を開始することができる。

ワクチンを製造する際のもうひとつの問題点はコロナウィルスは主として粘膜細胞に現れるのだが、これらの部位は血漿中にある抗体が容易に到達できる場所ではない。

コロナウィルスの感染を効率よくコントロール下に置くには具体的な粘膜での抗体反応が必要となり、幾つかの試作品段階にあるワクチンではこれは確認されてはいないかも知れない。


Photo-2: © REUTERS / JASON REDMOND
コロナウィルス感染の大流行の中、米国の首都は緊急事態を発令

第一に、提案されているワクチンの多くが順調に開発されるだろうとは言えないし、第二にはワクチンが安全であると確信を持てるわけでもない。

スプートニク:イスラエルの科学者らは90日以内にワクチンを製造することができると言う。そういうシナリオはいったい現実的なのだろうか?ワクチンの効能は次回に起こるかも知れない大流行、あるいは、ウィルスの突然変異にも現実的に対抗できるのだろうか?

アレクサンダー・ルカシェフ:ワクチンの試作品を作ること自体は非常に易しく、3カ月程度で作ることは可能だ。あるいは、それよりも短期間であってさえも可能だ。

しかしながら、当面、そういったワクチンの効能や安全性を証明するモデルさえもが存在してはいない。

数多くの研究所や企業が今ワクチンの試作品を作っているが、これらのワクチンを年内にでも人に投与することが出来るようになるとは私は思わない。

注:この記事で表明されている見解や意見は必ずしもスプートニクの見解や意見を反映するものではありません。


これで全文の仮訳が終了した。

この専門家の意見を聴く限りでは、1年や1年半でワクチンを開発するという発言は夢物語のように思えてくる。

今ワクチン開発でしのぎを削っている企業や研究所は安全性の追求よりも競争相手に先駆けて商業化することにまい進する。残念ながら、99パーセント確信を持ってそう言える。もしワクチンの製造を許可する監督官庁が何らかの理由で政府や新市場の獲得を目指す製薬企業あるいは広告収入が非常に気になるメディアからのプレッシャーに耐えることができないとすれば、結局のところ一般消費者が大きな負担を抱え込むことになるだろう。最悪の場合、ワクチンの開発には成功したけれども、実際に使ってみると副作用のせいで数多くの死者が出るといった本末転倒の事態が出現する。つまり、どこかで聞いたことがある場面がまたもや繰り返されることになるのだ。

SARSウィルスによるパンデミックは2002年に起こった。その後、ワクチンの開発研究が行われてきたが、20年近くになるにもかかわらず未だ成功してはいない。この現実を考慮に入れると、SARSコロナウィルスと兄弟分である新型コロナウィルスに有効なワクチンが今後1年とか1年半で実現すると期待することには大きな無理があると言わざるを得ない。ロシア人の専門家が表明した見解の意味がよく分かるような気がする。

新型コロナウィルスは遅かれ早かれ自然に消滅してしまうかも知れないとの見方については、冒頭に引用したバッキンガム大学のカロル・シコラとは別の識者からも聞いたことがある。兄弟分のSARSMARSウィルスがそうであったように新型コロナウィルスは人間以外の動物宿主の下へ戻ってしまうだろうと言っていた。

ウィルス自身が人現社会から自然消滅する時期とワクチン接種が開始される時期との間で競争が始まりそうだ。安全面では100パーセントの信頼性を確保することができそうもない商業主義の世界にいるわれわれとしては、ワクチン接種が開始される前にウィルスが「サイジイエン」と言って人間社会に別れを告げ、元の宿主動物の下へ戻って行って欲しいものである。しかし、この願いがはかない夢で終わるのかどうかは今の私には分からない。







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