2020年6月22日月曜日

キューバは病人を救っているのに、米国はそのキューバを叩く


ここに最近の記事がある。これは米国の対外政策がもたらす不条理に関してあらためて明確に思い知らせてくれる内容である。「キューバは病人を救っているのに、米国はそのキューバを叩く」と題されている(原題:Trump Hammers Cuba While Cuba Cures the Sick: By Medea Benjamin, Information Clearing House, June 16, 2020 )。
さまざまな事柄がわれわれの関心を他所の方向へ逸らせてしまう生活をわれわれは毎日のように送っていることは事実であるけれども、時にはこのような記事の表題を流し読みにせずに、その内容を丁寧に読み解き、少しでも多くの事実を理解して’おかなければならないと思う。そうすることによってより合理的な判断を導くことが可能となる。そんな思いをさせてくれる記事だ。そもそも、キューバは私にとっては前から関心を呼んでいた存在であった。世界の恵まれない地域へ医療団を派遣し、キューバは地域住民に感謝されていたからだ。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
85人の医師や看護師から成るキューバの医療チームが、63日、チリに到着した。新型コロナウィルスの大流行と闘うアンデスの国家を支援するためである。同日、マイク・ポンぺオ米国務長官はキューバに対する経済制裁をさらに強めると発表した。今回の制裁は七つのキューバの組織を対象にしており、他国への送金を取り扱う中核的な金融機関のひとつであるFincimex がその制裁に含まれている。また、マリオット・インターナショナルも対象のひとつだ。同社ならびに他の観光業分野の企業はキューバにおける営業を停止するよう命じられた。観光業はキューバのGDPの約10%をはじき出す重要な産業であるのだが、世界規模の感染症の大流行によって大打撃を受けていた矢先である。
キューバが世界中で多くの支援を達成すればするほど、キューバはトランプ政権によってさらに厳しく叩かれるようだ。キューバは60年近くも米国の禁輸政策に耐えて来たが、トランプは「最大級の圧力」を課す策によってハードルをさらにつり上げた。この政策には20191月以降に課された90項目以上に及ぶ経済政策も含まれる。カナダに駐在するジョセフィーナ・ヴィダルキューバ大使はこれらの政策を「その水準も適応範囲も前代未聞である」とし、「これは同国の経済発展に要する収入を無くそうとするものだ」と述べた。2018年の推計によると、この禁輸措置はそれが開始されてから累計で1300憶ドルもの損害をキューバにもたらした。2018-2019だけでも、経済的影響は40憶ドルに達した。しかし、この数値には観光業を痛めつけるために導入された20196月のトランプ政権による旅行禁止からの影響は含まれてはいない。
禁輸措置では人道的な物資は対象外となる筈ではあるが、公衆衛生の領域は対象外にはされなかった。キューバについては国民皆保険制度の存在が世界中で広く知られているが、禁輸措置によって医薬品や医療物資の欠如が顕著となった。特に、エイズや癌の患者についてはその影響が甚大となった。関連技術を所有する米企業はキューバへの販売を行うことができなかったことから、キューバの国立癌研究所の医師らは癌に冒された子供たちの脚を切断せざるを得なかった。新型コロナウィルスの大流行の最中に中国の億万長者であるジャック・マが寄贈しようとしたマスクや医療器材は米国によってブロックされた。
キューバ国内の医療分野を妨害することだけでは満足せず、トランプ政権はキューバが行っている国際医療サービスをも攻撃している。国内で現行の新型コロナウィルスの大流行と闘っている医療チームに対する攻撃から始まって、医療サービスが行き届かない164ヵ国での医療支援のために世界中を旅行する医療チームにまで至る。米国の目標はこの島国の収入を断ち切ることにある。これらの医療サービスの提供による収入はキューバの最大の収入源である観光業を追い越した。彼らの給与の一部はキューバの保健制度の費用を賄うことから彼らのことを人身売買の犠牲者」と称して、トランプ政権はエクアドルやボリビア、ブラジルを説得し、キューバの医師たちとの合意書を反故にさせた。ポンぺオはこれらの国々の指導者がキューバ政府が行っている搾取行為に対して目をつぶること」を止めてくれたとして彼らを賞賛した。しかし、この凱旋は長くは続かなかった。つまり、その1カ月後、ブラジルのボルソナーロ政権は新型コロナウィルスの大流行と対処するためにキューバの医師団を送り込んでくれとキューバに依頼することになったからだ。世界中の米国の同盟国は、カタール、クウェート、南ア、イタリア、ホンジュラス、ペルー、等を含めて、このキューバからの支援を有り難く受け入れたのである。キューバの医師団に対する賞賛はすこぶる大きく、彼らにノーベル平和賞を授与する動きさえもが沸き起こった程である。
トランプ政権はキューバの医療専門家を誹謗するだけではなく、国家をも誹謗した。この5月、米国務省は米国の反テロ活動に完全に協力してはいないい五カ国のひとつとしてキューバの名前を挙げた。そのもっともらしい口実はキューバがコロンビアの民族解放軍(ELN)のメンバーをもてなしたことにあった。しかしながら、米国務省のプレスリリースによると、ELNのメンバーをもてなしたのは「和平交渉議定書」の結果であると指摘している。キューバのブルーノ・ロドリゲス外相はこの言いがかりは不正直であり、「2019年にELNとの交渉を決裂せしめたコロンビア政府の不快な態度が発端であった」と述べた。エクアドルはELNとコロンビア政府との会談をとりなした最初の国ではあるが、モレノ政権が2018年にその責任を放棄した後にキューバが介入することを求められたという事実を指摘しておこう。
キューバが対テロ活動に完全な協力態勢を示さないという断定は米国が所有するテロ国家リストにキューバが記載されることを意味し、同国は厳しい罰を受けることになる。先月、この考えはトランプ政権の高官からロイター通信に流された。キューバは考え得るいかなる定義の下であってもテロ行為と言えるような暴力に積極的に従事したことはないと法的に裁定されているにもかかわらず、キューバは1982年から2015年までこのリストに記載されていた。
もちろん、米国は他の国々が対テロ活動に協力的ではないと主張するような立場にはない。何年にもわたって、米国はルイス・ポサダ・カリレスをかくまって来た。彼は73人もの犠牲者を出したキューバの民間航空機に爆弾を仕掛けた事件の黒幕であった。最近の出来事について言えば、米国はワシントンDCにあるキューバ大使館に向けて行われた430日の乱射事件に関して何らかのコメントをする要に迫られている。一人の男が自動小銃で建物に向かって銃撃をしたのである。
トランプ大統領の最高水準の圧力をかけるという政策を鼓舞するポンぺオ国務長官やルービオ上院議員といった右翼のイデオロギー信奉者が間違いなくいる一方で、トランプ自身にとってはキューバに関する政策はすべてが大統領選のためである。この小さな島国に対する彼の厳しい政策は中間選挙でフロリダの知事選を共和党の勝利に導くのに有利に働いたのかも知れないが、これが大統領選でも彼のために効を奏するのかどうかは必ずしも明らかではない。社会通念や世論調査によれば、若いキューバ系米国人は、他の若者たちのほとんどと同様に、中間選挙には投票せず、米国が課す禁輸措置に関しては今まで以上に懐疑的であり、総じて、キューバはもはやキューバ系米国人にとってもっとも重要な課題ではないトランプは2016年にはキューバ系米国人の票を勝ち取ったが、ヒラリー・クリントンは選挙人の4147%を獲得し、この得票率は何十年間にもわたる民主党候補の誰よりも高い水準であった。
キューバに対するトランプの厳しい姿勢は選挙戦略として効を奏さない兆候が見られる。もちろん、その戦略は得票がすべてであるとは言えず、キューバ系米国人の政治マシーンが堅実にトランプを後押しすることに資金を流し、成果を導くためのものでもある。
政治体制の変更という話になると、間違いなくこの戦略は見返りを得てはいない。60年以上にもなる米国の介入の歴史に比べてみると議論の余地が存在するかも知れないが、トランプ政権はキューバ政権の変更からは程遠い。トランプ政権になってから、キューバでは2019年にラウール・カストロからミゲル・ディアス・カネルへと政権が穏やかに移行され、キューバの選挙民は新憲法を圧倒的多数で批准したこれらは崩壊の途上にある国で観察されるような兆候ではない。
トランプが実行したことのすべてがこの島国に住む1千百万人の生活をより困難にした。世界中の人々と同じように、キューバの住人もコロナウィルスの大流行によって経済的な損害を被った。環境業は崩壊した。(米国の新たな規制、ならびに、キューバからの難民が手にする収入が激減したことによって)送金収入は減少した。かっては主要な後援者であったベネズエラは自国の危機に見舞われた。しかし、大流行に見舞われる前に3.7%の減速が予測されていたキューバ経済は最悪期をすでに通過していた。特に、1991年から2000年までの期間はソ連の崩壊後の「特殊な期間」として知られている。
ジョー・バイデンは曖昧な立ち位置を示しているが、ホワイトハウスの主の交代は一定の開放感をもたらすかも知れない。彼はオバマ大統領が行ったように両国の関係を修復すると言った。しかしながら、キューバがベネズエラ政府を支援していることに対しては罰として経済制裁を課すことについては自分は何時でも応じることができると付け加えた。
これから11月までの間、ならびに、今後の4年間、トランプ政権は明らかに隣国の島国を何度でも殴りつけるであろうと推測される。キューバ側は禁輸措置に対して世界規模の抗議行動を模索するであろう(2019年の国連での投票 187票が賛成、米国とブラジル、イスラエルの3票が反対であった)。そして、同国は善良なる隣人とはどういうものであるかを見せ続けるであろう。キューバはこれらの最近の挑発に対してキューバに特有な形態で応答をした。つまり、より多くの世界的な同志意識を獲得して、63日に経済制裁が放たれたが、その翌日には彼らは新型コロナウィルスによる感染症を治療するためにギニアやクウェートへ医療団を送り込んだ。現在、合計で26ヵ国が病人を救うためにキューバからの医療専門家の支援を享受している。
これは単に金では調達することが難しい善意の賜物であって、トランプ政権が今回の感染症の大流行の中でとった破廉恥な振る舞いとはまさに好対照である。この3月、キューバの医療団がイタリアに到着した際に元エクアドル大統領のラファエル・コレアがこうツイートした「何時の日にかわれわれは子供たちにこう言って聞かせることだろう。何十年にもわたる映画やプロパガンダを流した後で、真実を垣間見る時がやってきた。人間社会が大国からの支援を必要としていたまさにその時、その大国はどこかに隠れてしまい、キューバの医療団がやって来た。しかも何の見返りをも要求せずに。」 
著者のプロフィール:メディア・ベンジャミンは平和活動グループ「コードピンク」の共同設立者。彼女の最近の著書:Kingdom of the Unjust: Behind the U.S.-Saudi Connection (OR Books, September 2016)
これで全文の仮訳が終了した。
この引用記事は「そのもっともらしい口実はキューバがコロンビアの民族解放軍(ELN)のメンバーをもてなしたことにあった」と述べているが、この米国務省の口実に関してもう少し詳細を探ってみよう。
「米国の反テロ政策に完全には同調しない国家」と題された米国務省のプレスリリース(原題:Countries Certified as Not Cooperating Fully With U.S. Counterterrorism Efforts: By the Office of The Spokesperson, May/13/2020)によると、米国はイラン、北朝鮮、シリア、ベネズエラおよびキューバを米国に完全には同調しない国家としてリストアップした。キューバに関する記述を下記に示そう:
キューバ:2017年に政府側との和平交渉のためにハバナを訪れたELNのメンバーは2019年もキューバに留まっていた。和平交渉議定書を引用して、キューバ側はコロンビア政府が求めたELN指導者の引き渡しを拒んだのである。ELNのグループは2019年の1月にボゴタにあるポリースアカデミーを爆破し、22人を殺害し、60人以上を負傷させ、後に彼らは犯行責任を表明した。その後も指導者らはハバナに留まった。米国はコロンビア政府との間で永続的な安全保障協定を維持しており、ELNのような組織と闘うといった重要な対テロ政策をコロンビアと共有していることから、キューバがコロンビア政府との間で生産的な取り組みを拒否するということはコロンビア市民の正義や永続的平和、安全保障ならびに機会を確保しようとしているコロンビア政府の努力を支援している米国とは協力しないということを如実に示すものだ。政治的暴力の廉で指名手配され、米国の司法組織から逃れて来た米国人をキューバは何人もかくまっている。彼らの多くは何十年もキューバで暮らしている。たとえば、キューバ政府はジョアン・チェシマードの引き渡しを求められたが、それを拒否した。彼女は1973年にニュージャージー州兵のワーナー・ファースターを処刑したことで判決を受けている。キューバ政府はこういった人物らに住居を与え、食料切符を発行し、保健サービスを与えている。
これに対して、キューバ側が反論している。
その反論の内容は「米国のリストにキューバを含めるのは真実を歪曲するものだ - 外相の言」と題された記事で詳細に報じられている(原題:Cuba's inclusion in US list distort true, Foreign Minister says: By REPRESENTACIONES DIPLROMATICAS DE CUBA EN EL EXTERIOR, Jun/03/2020)。この記事の仮訳を下記に掲載する。
ブルーノ・ロドリゲス外相は、火曜日(62日)、米国の対テロ政策に同調しない国のリストにキューバを含めることは真実を歪曲しようとする恣意的な行為だと主張した。同外相は「このリストは大嘘だ」とツイッターに掲載した。そして、ロドリゲス外相はテロに対する闘いをしている米国との協力、ならびに、共同の取り組みや法的な対処に関しては具体的な証拠があると記述している。外相は月曜日(61日)に民族解放軍(ELN)のメンバーがハバナに滞在していることを理由にキューバがワシントン政府の対テロ政策に協力的ではない国家としてリストアップされたことを拒否する旨の声明を発表した。同外相はその声明文でELNのメンバーが当地に滞在しているという米国の非難は無力で、不正直であると述べた。「あれは無力で、コロンビア政府の不快な態度によってもたらされたものだ。」 キューバはいつもこの南米国家の平和を支援し、ELN、ならびに、その前身であるコロンビア人民軍(FARC-EP)の革命武装集団がコロンビア政府との和平交渉を行う際の保証人役を務め、交渉の会場を用意してきた、とその文書で強調している。米国務省が513日に発行した国家リストは一方的であり、恣意的であり、根拠や権威あるいは国際的な支持は皆無であると同声明文は指摘する。この議論に関して、同外務省はELNのメンバーとコロンビア政府の代表は、エクアドル政府が突然和平交渉のホスト役を放棄した後に、和平プロセスの一部として2018年の5月にキューバに到着したものであると付け加えた。
これで、米国の反テロ政策に協力的ではないとして5カ国をリストアップした米国務省とその一員にリストアップされたことに反論するキューバ外務省とのそれぞれの言い分をご紹介することができた。

米国とキューバ間の敵対関係は何十年もの長い歴史を持っているだけに両国間の関係を理解しようとしても、素人にとっては一筋縄では行かない。しかしながら、こうして両者の言い分を読み解くことによって、私自身も読者の皆さんも以前よりはキューバと米国の関係をより詳しく理解することができるようになったのではないかと思う。







2 件のコメント:

  1. 登録読者のИсао Симомураです.読むにしたがって理解させてくださる翻訳に感謝もうしあげます.小生27年ほど前に,ワルシャワ近郊の農村に畑付きの家を購入しました.行政管区はピアセチノ(”砂地の土地”の意)という,昔はユダヤ人が多数派の市に属しております.ここには樺太アイヌの研究者である,ブロニスワフ・ピウスツキの弟,ユゼフ・ピウスツキ元帥の邸宅―現在は博物館ーが残っておるのですが,そこから数軒隣にキューバ人医師の内科医院があります.医院は六十年代に追放されたユダヤ人医師所有のものを買い取ったものだそうです.ポーランド人の奥さんも医師でワルシャワの腫瘍総合病院の勤務医でした.ソ連と同じく,社会主義ポーランドもキューバやベトナムからの医学留学生を多数受け入れたのです.ルーマニアも同様だったのではないでしょうか.

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  2. シモムラ様

    コメントを寄せていただき、有難うございます。
    ワルシャワ近郊に家をお持ちなんですね。今頃はリンゴが大きくなり始め、スモモの実が色づいているのではないでしょうか。
    医学留学生については仰る通りです。確かに、ルーマニアにも外国から、特に、中東からの医学部留学生がたくさんおりました。私自身も、一時、ヨルダン人の留学生と交流したこともあります。また、最近の事例では保健省のトップクラスの医官が元留学生であるといった状況も出現しています。もうひとつの現実はEUへの加盟が認められてからは頭脳流出が起こって、より多くの給与を求めて、たくさんの医者が西欧へ出てしまったという現実もあります。私の身の回りでは40年も前の知り合いの歯医者がこの夏には移住先のドイツから一時帰国して再会する機会がありそうな気配です。まだコロナウィルス対策で空の旅が完全に自由というわけではありませんが、これから今年の夏は徐々に元の暮らしに戻って行きそうな感じですね。
    ご自愛ください。

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