2021年6月26日土曜日

米国立衛生研究所によると2019年の12月には5州において新型コロナがすでに発生していた

 

新型コロナの起源に関する米国内の見方が最近大きく変わった。今まで1年以上にもわたって研究所漏洩説は「そんな事はあり得ない」、「とんでもない出鱈目だ」として大手メデイアは排斥した来た。自然発生説が1年以上にもわたって主流であった。しかしながら、最近、研究所漏洩説が大っぴらに報じられ、議論されるようになってきた。

ところが、研究所漏洩説へと潮流が変わって、関連情報がたくさん報じられるようになったかと言うと、そいうわけではないとする主張がある。つまり、どっちに転んでも情報統制は間違いなく続いているということのようだ。

たとえば、67日の投稿では私は次のように記した。「情報公開請求の下でノースカロライナ大学がプロパブリカ [注:プロパブリカは非営利団体であって、権力の乱用に関するニュースを報じることを目標としている] に公開した文書によると、201511日から202061日までの間にノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究所では遺伝子操作生物が関与する事故が28回起こり、同大学はこのことをアメリカ国立衛生研究所(NIH)の安全担当者に報告していた。NIHは遺伝子操作生物に関わる研究を監督する。」つまり、武漢研究所における新型コロナウィルスの漏洩について米政府は中国に対して最大級の圧力をかけてはいるが、米政府のお膝元では201511日から202061日までの間にノースカロライナ大学のチャペルヒル校で28回も事故が起こっているが、その詳細は必ずしも公開されてはいない。

[注:ノースカロライナ大学における遺伝子組み換え生物が絡んだ事故について簡単に触れておこう。記録によると、新型コロナウィルスの大流行が起こる前の5年間に同大学では4回の事故で少なくとも6人の研究者が(NIHが今になって確認しているが)研究所で作り出されたSARSコロナウィルスに曝された可能性があって、彼らは医学的監視の下に置かれた。事故例は、たとえば、研究者はコロナウィルスに感染したマウスに(二重に手袋をしてはいるが)指をかまれたというもの。さらには、他の二人の研究者もMERSコロナウィルスに曝された可能性があることから医学的監視下に置かれた。この監視下では体温や如何なる症状に関しても毎日二回大学の医療専門家に報告するよう要請された。]

ここに「米国立衛生研究所によると2019年の12月には5州において新型コロナがすでに発生していた」と題された記事がある(注1)。

何と言ってもこの記事は米国立衛生研究所(NIH)からの報告に関するものである。したがって、この記事が伝える内容は計り知れないほど重い。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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イタリアで血液サンプル中の抗体について検査が実施され、それによると新型コロナウィルスの感染は20199月にはすでに起こっていた。これはイタリアで最初の患者が報告された時点よりも6か月も前のことであった。しかしながら、米政府は新型コロナウィルスは2019年末に中国の研究所から漏洩したという説を堅持していた。

この新たな研究結果によると、米国では新型コロナウィルスは最初の感染例が記録された時点よりも数週間も前にすでに広まっていたのだ。つまり、一般的にこの大流行が起こったとされている中国で最初の患者が発見された時点よりも以前のことであったことになる。中国以外の国々でウィルスがそれよりも前にすでに広がっていたことから、この知見は新型コロナウィルスは中国を起源とするという説の信ぴょう性を脅かすことになる。

本研究は米国立衛生研究所の「All of Us」と称せられるプログラムに従事している研究者たちによって行われ、Clinical Infectious Diseasesの誌上で報告された。

本報告書の概略によると、研究者らは202012日から318日までの期間に50州から24,000個以上の血液サンプルを取り寄せ、新型コロナウィルスに対する抗体の有無について調査を行った。ヒトの体は感染と闘うために抗体を産出する。つまり、誰かが自分の血液中に抗体を持っているということはその人は最近どこかの時点ですでにコロナウィルスに感染していたということを意味する。

本研究は米国の5つの州、つまり、イリノイ、マサチュウセッツ、ミシシッピー、ペンシルバニア、ウィスコンシンの諸州で血液サンプル提供者の中で7人が新型コロナウィルスに対する抗体を持っていることを見い出した。3つのサンプルはイリノイ州からのもので、これらは17日に採取された。この時点は124日に最初の患者が確認された時点よりも17日も前のことであった。他の州ではそれぞれ1件あって、ほとんどが各州で最初の患者が報告された時点よりも前のことであったとNIHは報告している。

米国における新型コロナ感染者の最初の事例は2020119日に陽性と診断されたワシントン州の住人であった。それ以降、米国の新型コロナ感染者は3360万人に上り、60万人以上が死亡した。

「本研究は米国における大流行の初期段階に関してより多くの情報を掘り起こしており、新型コロナのような感染症の発生が見せる動力学的な挙動を理解するに当たって縦断調査の実際的な価値を十分に強調してくれている」とAll of UsプログラムのCEOであるジョシュ・デニーがNIHのプレスリリースで述べている。「われわれの研究における参加者は米国中のさまざまな地域社会から参画しており、惜しみなく自分の血液を提供し、幅広い生物医学的な発見をもたらすのに役立ってくれた。これは公衆衛生に関する戦略やそのための準備には不可欠だ。」

Photo-1WHOチームが武漢ウィルス研究所を訪問。資料ファイルから
© REUTERS / THOMAS PETER

しかしながら、研究者らは警告を発している。「われわれのデータは完全なものであるとは言えず、多くの州からのデータは小さく、患者がどのように感染したのかについての情報は欠如しているといった具合で、多くの点で限界を示している。」

この新型コロナウィルスは最初に2019年の末頃中国の武漢で観察され、病院ではいくつかの不可思議な、重度の肺炎を伴う症例が急増していた。2020112日にはこのウィルスは単離され、遺伝子配列が究明された。これは重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすSARS-CoV-1ではないけれども、それと非常に近縁であることが判明した。この新しいウィルスはSARS-CoV-2と名付けられた。

中国の追跡調査は2019年の11月中旬に湖北省で一件の発生を突き止めたが、イタリアでは血液検査の結果2019年の9月にはウィルスがすでに出回っていたことを示唆した。イタリアは急速にヨーロッパにおける流行の震源地となって行ったが、同国で最初の患者が特定されたのは2020221日であった。

WHOは新型コロナの起源を見い出す目的で新型コロナウィルスの抗体を発見したイタリアの科学者にそのサンプルをロッテルダムへ送って、ダブルチェックを行うよう要請した。あり得そうな起源を特定するべく中国の科学者とデータを共有するために、WHOの科学者は2021年の初頭に中国を訪問したが、起源を特定することも、可能性を排除することもできないまま、彼らは答えるよりも多くの質問を抱えて中国を離れた。

WHOの科学者は人がウィルスに感染したのは人畜共通感染であって、これがより確かな経路であると考えていた。つまり、動物から人へとウィルスが飛び移ったという考えだ。だが、最近、あり得そうもないと彼らが考えていた別の経路が米国が北京政府をイデオロギー的にやり込める手段として採用されたのである。すなわち、このウィルスは中国のバイオ研究所の中では最大手の施設である武漢ウィルス研究所から漏洩したという説である。

スプートニクが報道しているように、研究所漏洩説は大流行の初期に右翼の反中国派の評論家によってぶち上げられ、何十万人もの米国人が新型コロナで死亡し、ウィルスの封じ込めに失敗した責任を米政府から他所へ転じるために当時のトランプ大統領によってこの説が取り上げられた。彼らの議論は新型コロナウィルスは人工的な生物兵器であるとする説から中国政府が隠ぺいしようとした自然起源のウィルス・サンプルが漏洩したのだとする説へ移行したが、どちらにしても最終的には中国はこの説を反証するのに必要な資料や情報への適切なアクセスの提供を怠ったという非難に結びついて行くのである。

WHOの科学者はこの議論に対して反論し、武漢では彼らがデータへアクセスすることは禁じられなかったと言い、中国側に要請された情報の開陳はもしも米国自身が同様のレベルの情報の開陳を求められたならば米国はそのような要請を決して受け入れないであろうと述べている。

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これで全文の仮訳が終了した。

新型コロナウィルスの起源はいったい何処か、その起源は中国の武漢ではないかという議論は米中戦争の中でもっとも重要な最前線となって来た。中国との経済戦争では米国が劣勢を強いられていることは誰の目にも明らかである。もしも対中経済戦争では米国は勝てないとするならば、せめてこの情報戦争では米国は優位に立ちたいことであろう。相手を非難する舌戦は激しくなる一方である。

ここで国連の元職員であったアルフレッド・デ・ゼイヤスの意見をご紹介して、この投稿を締めくくることにしよう。デ・ゼイヤスは2012年に国連人権理事会によって国連特別報告者(Independent Expert)に任命されたが、今は退職している。

「米国が要求している独立調査に関して懐疑的にならざるを得ない理由は中国にはいくらでもある。何故かと言うと、米国が望んでいるのは中国を責めるための結論が先にあって、米国はそれに向かって目的論的な調査を行い、その結論に合った証拠を見つけようとする、あるいは、でっち上げようとするからだ。私は国連で40年間にわたってさまざまな調査を行う資格を与えられ、仕事をして来たが、独立調査の要求は、多くの場合、純粋に人類愛に基づいたもの、あるいは、将来の大流行を予防するためのものであるという保証はない。私が見てきたのは標的の国を責めるためのもうひとつの道具でしかないのだ。たとえば、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の人権の場合と同じであって、喧伝されている大量虐殺説には証拠がないのだ。」(原典:US’ Empty Threat to ‚Isolate’ China Over COVID Probe is Attempt to Win Info War, ex-UN Expert Says: By Ekaterina Blinova, Sputnik, June/22/2021, https://sptnkne.ws/G9Kn)

混迷は深まるばかりであるが、今後の展開を注視したい。


参照:

1NIH Study Finds Evidence COVID19 Was Circulating in Five US States in December 2019: By Morgan Artyukhina, Sputnik, June/16/2021, https://sptnkne.ws/G6FJ

 




 

2 件のコメント:

  1. 登録読者のИ.Симомураです.翻訳ありがとうございます.デ・ゼイヤスの「…米国が望んでいるのは中国を責めるための結論が先にあって、米国はそれに向かって目的論的な調査を行い、その結論に合った証拠を見つけようとする、あるいは、でっち上げようとするからだ…」という文は,”中国”の文字を”ロシア,べラルス,セルビア,ベネズエラ”等に置き換えることができますね.私も嫌露の友人との議論にこの表現をお借りします.

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  2. シモムラさま
    コメントをお寄せいただき有難うございます。米国の中国に対する姿勢に関するデ・ゼイヤスの言葉は小気味がいい程に正確ですよね。おっしゃる通り、他の国々に対する米国の姿勢もまったく同じです。また、英国やフランスといったかって庶民地を支配した国々は共通した要素を孕んでいます。この点を他山の石とせずに、日本もお隣の国々についての言動は十分に慎むべきでしょうね。

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