2021年6月15日火曜日

ウクライナよ、ごめん!米国はあんた方を救いには行かない。バイデンがウクライナへ警鐘を鳴らし、数年に及ぶ幻想に終止符

 

バイデン大統領の最近の発言はウクライナの政治家にとってはまさに青天のへきれきであったに違いない。

「ウクライナよ、ごめん!米国はあんた方を救いには行かない。バイデンがウクライナへ警鐘を鳴らし、数年に及ぶ幻想に終止符」と題された記事がつい最近現れたのだ(注1)。

ウクライナでは、2014年、選挙で民主的に選出されていた前大統領が暴力的に政権の座から追い出され、それに代わって米国の傀儡政権が誕生した。このクーデターは「マイダン革命」と称された。あの時から、米国がウクライナを支援する姿勢は誰が見ても明らかであった。米ロ間の新冷戦の中、ロシアの玄関先に位置するウクライナではあからさまなウクライナ支援が展開され、ロシアを敵視する米国の反ロ姿勢は否応もなく西側世界を追従させた。

新冷戦を背景にしたさまざまな出来事が起こり、今も続いている。例を挙げると、上述のマイダン革命(20142月)、それに続くクリミアのロシアへの復帰(20143月)ならびにそれに対する米国やEUによる対ロ経済制裁、マレーシア航空MH-17便のウクライナ上空での撃墜事件(20147月)、前トランプ大統領を貶める「ロシアゲート」と英国MI6元職員がでっち上げた「スティール文書」(20162020年)、英国ソールズベリーにおけるスクリッパル父娘殺害未遂事件とその事件で使用されたとするロシア製の軍用神経麻痺剤「ノビチョク」(20183月)、等々。

ところが、最近、この大きな潮流に劇的な変化が見え始めた。これは歓迎すべきなのか、それとも、危惧するべきなのかについては今の私には分からない。恐らくは、半年もしたならば妥当な評価が下せるのではないか。今、もっとも大きな激震に襲われている国はウクライナであると言えよう。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

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2014年以降、米国はキエフの指導者を勇気づけて、たとえ何が起ころうとも彼らを支えるものが居ると信じ込ませて来た。今、ノルドストリーム2パイプラインを施設するプロジェクトが完成に近づき、ウクライナ大統領は自分が誤導されて来たことに気付いて、裏切り行為だと悲鳴をあげている。

しばらく前、いくつかのサークルでは「プーチン・リブ」に関するお喋りをすることが人気を集めていた。つまり、それは「ロシアのプーチン大統領は明らかにドンバスの反政府勢力を犠牲にする運命にあり、多くの住民をウクライナ政府の慈悲のもとに委ねることになるのではないか」という憶測であった。しかし、皮肉なことには、このプーチン・リブはついに起こらず、今週キエフ政府が見せた憤怒は、それに代わって劇的な展開を見せ、まったく予期もしてはいなかった「バイデン・リブ」によってキエフ政府が翻弄されていることを如実に示したのである。ジョー・バイデン米大統領はキエフ政府を売り飛ばしてしまった。

バイデンの前任者であるドナルド・トランプはこの国とはさまざまな問題を抱えていた。彼は2016年の大統領選で同国が彼の選挙運動を台無しにしようとしたとして非難した。また、共和党員はトランプの民主党側の大統領候補は腐っていると描写するべく、バイデンの息子であるハンターがウクライナで行ったビジネス行為をやり玉に挙げていた。結果としては、ウクライナ人は一般的にバイデンが新大統領に就任したことを歓迎し、彼は同盟者としてはより信頼できる相手であると見ている。

今週まではそんな具合であった。だが、今は、状況が違う。

RT.COMからの関連記事: Washington says Ukrainian claims Biden offered NATO membership action plan are incorrect, as Kiev backtracks on account of call

過去の23か月、ウクライナのウロディミル・ゼレンスキー大統領はバイデンに会見を迫っていた。彼の言い分はバイデンがプーチンと会談を持つ前に自分との会談を済ませるべきだという点にあった。さもなければ、ロシアと米国の指導者はウクライナの運命のほころびを繕い、その後でキエフに対しては既成事実を見せつけることになるだろうというのが論点であった。米国がウクライナを裏切ってロシアと仲良くなることを未然に防ぐにはゼレンスキーがバイデンの所へ赴くのがいいと彼らは言う。

しかしながら、これはそうはならなかった。月曜日(67日)にゼレンスキーと電話で話して、バイデンは「616日にプーチンとの会談を済ませた後、この夏の終わり頃にはワシントンで彼をもてなす」という提案をした。明らかに、ホワイトハウスはウクライナを喜ばせることよりもロシアとの会談を優先させたのである。これはモスクワ政府は1500発もの核弾頭を所有しており、ウクライナは一発も持ってはいないという現実を見れば、妥当ではないとは決して言えないであろう。何が一番優先順位が高いのかに関しては、世界の安全こそに焦点を合わせることが多いのだ。

ゼレンスキーに対するもうひとつの打撃としては、バイデン政権はノルドストリーム2プロジェクトに対する妨害工作をついに止めることにしたことだ。同プロジェクトはロシアの天然ガスを(ウクライナを経由せずに)直接ドイツへ輸送することを目的としていた。現在、ドイツを除くヨーロッパ諸国へのロシアの天然ガス輸出は多くがウクライナを通過する旧ソ連時代の輸送ラインを経由して行われ、キエフ政府にはウクライナ通過料として年間30億ドルが支払われている。キエフ政府の心配は新海底パイプラインが完成し、天然ガス輸送が開始になると、ロシアはウクライナを経由する天然ガス輸送を中断することが可能となる。そうなると、ウクライナがもっとも必要とする現金収入の道が閉ざされてしまう。

これを理由に、セレンスキーと彼の同盟者たちはアメリカ人にロビー活動を行い、このパイプラインの完成を妨害した。その目的に応じて、トランプ政権は同プロジェクトに関与している企業に対して数多くの制裁を課した。今、バイデン政権は中心的な役割を担っているドイツ企業に対する制裁を解除し、同プロジェクトの完成に向けて実質的なゴーサインを出したのである。

RT.COMからの関連記事: Zelensky accuses America of paying for NS2 pipeline with Ukrainian lives & blasts Biden for not meeting him before Putin summit

これは現実の認識に基づいた措置であると言うわけではない。つまり、ノルドストリーム2は、たとえ米国が如何なる妨害をしたとしても、いずれは完成に漕ぎ着けるであろう。米国にとってはベルリンとの関係を現在以上に悪化させることは何の意味もないのである。一方では裕福で実力があるドイツの善意を見せつけられ、他方では困窮しているウクライナというふたつの選択肢を目の前にして、ワシントン政府が結局どちらを選択することになるかは極めて明らかであった。ひとつだけ驚きを隠せない点があるが、それは非常に長い時間を要したことだ。

追い打ちをかけるようにして、先週、プーチンが「パイプラインの最初の部分が完成した」ことを発表した。このニュースはゼレンスキーに怒りをもたらした。アクシオスのニュース・ウェブサイトとの話で彼はこのプロジェクトに対する制裁を解除するという米国の決断には「非常に困惑」し、「非常に失望」したと言い、苦情を述べたてた。米国が望みさえすれば米国はこのプロジェクトを中断させることができたことについて彼は「肯定的」であったと言った。また、ゼレンスキーは米国が自分たちの決断について彼には何も告げなかったことやホワイトハウスの記者会見からこのニュースでそれを知ったことでたいそう腹を立てたのである。「米国とドイツの二国間関係のためにいったいどれ程多くのウクライナ人の命が犠牲となるのか?」と彼は問いかけた。 

ウクライナ大統領のコメントは彼の途方もなく馬鹿正直な側面を露呈させた。つまり、彼は米国は万能の力を有しており、米国はキエフ政府との関係をモスクワやベルリンとの関係よりも優先させるだろうと本当に信じていた様である。今、彼は国際政治においては、ツキジデスが言ったように「強者はしたいと思うことをし、弱者は苦難を強いられる」という文言を今過酷な形で学びつつあるということだ。

もしもこのエピソードがゼレンスキー政府に警鐘として作用するならば、それはいいことだ。余りにも長い期間にわたって、ウクライナの指導者たちは幻想の中で生きて来たことを示していた。つまり、西側が強力な経済や軍事ならびに外交上の圧力を加えることによって何れはロシアにドンバス地域の反政府勢力に対する支援を諦めさせることになるであろうと。このような将来像こそがキエフ政府に20152月に合意されたミンスクII合意書の下でドンバス地域に和平をもたらすために必要な譲歩をすることには嫌気を感じさせたのである。特に、ドネツクとルガンスクの両州に「特別な地位」を与えるという件に関してだ。その結果、当該事項はウクライナ東部で紛争を引き起こし続ける上では主要な役割を演ずることになった。

RT.COMからの関連記事: Kremlin says Putin & Biden summit 'very, very important', but warns little prospect of a 're-set' & a high chance of disagreement

ゼレンスキーに対して公平を保つとすれば、米国はロシアを降参させるという幻想を勇気づけるのに必要なあらゆる試みを実施してきたこともまた事実である。彼がアクシオスとのインタビューで述べているように、バイデンは彼に米国はノルドストリーム2パイプラインを阻止する準備ができているという「直接のシグナル」を送っていた。これはワシントン政府が、ミンスク合意を無視することも含めて、たとえ何事が起ころうとも、キエフ政府には米国の後ろ盾が居ることをキエフの指導者らに信じ込ませようとして来た米国特有の行動パターンとよく一致する。

その結果、ゼレンスキーが、多分、裏切られたと感じたとしても、それは驚くには値しない。米国政府はウクライナの指導者らを誤導し、米国はウクライナのためには徹底してやると思わせた。外部の観察者にとっては、これは決して称賛できるものではなかった。しかしながら、ウクライナ政治における絶体絶命の世界観においてはこれはまったく別様に見えたことであろう。キエフのバブルは遥か昔に弾けてしまうべきであった。ノルドストリーム2での完敗が引き起こす影響については、逆説的ではあるが、この一週間は、たとえゼレンスキーや彼の支持者が何を考えようとも、ウクライナにとってはむしろいい一週間であったのではないか。

あなたの友人たちも興味を感じているだろうか?この記事を彼らと共有してみたらどうだろうか!

注:この記事に表明されている主張や見解あるいは意見は全面的に著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではありません。

著者のプロフィール:ポール・ロビンソンはオタワ大学の教授。彼はロシアやソ連の歴史、軍事史、軍の倫理、等について執筆し、「Irrusianality」と称されるブログ・サイトの著者でもある。

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これで全文の仮訳が終了した。

さて、ウクライナの指導者らにとってはこのような衝撃的なモーニング・コールですっかり目を覚まされた後にこれから彼らを待ち受けているのはジュネーブで16日に開催されるプーチン・バイデン会談がどのような結論をもたらすかである。目が離せない状況が続く。

何でもウクライナにおける世論調査の結果によれば、ウクライナ住民の少なくとも50%はウクライナはNATOへ加盟するべきではないと思っているそうだ。NATOとロシアが本格的な戦争に陥った場合、西側のプロパガンダとは裏腹に、NATOには勝ち目はないと言われている。そうなれば、ロシアとNATOとの戦争では地上戦の最前線のひとつになると思われるウクライナでは途方もなく大きな人的被害を受けることになる。西側メディアの美辞麗句には惑わされず、ウクライナの一般大衆は現実をよく理解しているということなのではないだろうか。


参照:

1Sorry Ukraine, Uncle Sam won’t be riding to your rescue: Biden delivers essential wake-up call to Kiev, ending years of delusion: By Paul Robinson, RT, Jun/09/2021, https://on.rt.com/b9x2

 




 

5 件のコメント:

  1. 登録読者のИ.Симомураです。大変勇気づけてくれる記事でした。実に読みやすく、内容の理解を容易にしてくれます。所謂マイダン革命ですが、この命名そのものが、秘密めいた、非合法の組織の存在を暗示しているのです。A.チェーホフの「サハリン島」に、監獄内部で行われるмайдан「賭場」を意味しているからです。майданщикマイダンシクとは、(野卑な言葉で)「賭博場の主」、動詞майданитьマイダニチとは、「賭博場の主となる、飲酒に耽る」を意味します。私の研究仲間でウクライナ国籍の女性がおりますが、数年前の実家訪問のことを語ってくれました。極度の貧困、子供の飲酒喫煙薬物吸引、大人の無情動、スラブ文化へのあからさまな軽蔑、等々、蜿蜒と話しておりました。「革命」が必要だとも言っておりました。CCCPの時代、ウクライナ社会主義共和国はロシア連邦よりも、豊かでしたね。米国のこの度の重要な動き、耄碌バイデンが主導したようには、思えません。おそらく政府内部で何かが起こっているのでしょう。

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    1. シモムラさま

      コメントをお寄せいただき有難うございます。
      「マイダン」は「広場」の意味であるとするウィキペデイアの説明に私は慣れっこになっていましたが、もうひとつ「賭場」の意味があるのですね。列挙していただいたいくつかの派生語を見ますと、この言葉には「広場」という中性的な言葉が表すものとは異なる裏の世界を髣髴とさせるものが感じられますよね。
      この引用記事(6月9日)には後日談があります。ゼレンスキーが「ウクライナをNATOへ加盟させる動きはすでにNATOで確認されている」とツイッターで主張したが、バイデン米大統領は「それはウクライナが加盟の条件を満たすかどうか次第だ。実際問題としては、メンバーシップ・アクション・プランへ加入するには彼らは基準を満たさなければならない。その問題についての議論はお預けだ。彼らはもっとたくさんのことをやり遂げなければならい」と応じています。これは昨日(14日)の報道。
      私の解釈では、ウクライナ東部の2州で反政府勢力との間で武力紛争が続いている限りNATO加盟の条件を満たさないと言っているように思えます。その延長線上にはクリミアのロシアへの復帰を認めたくはないウクライナ政府の姿勢があります。(また、これはEUの姿勢でもあります。)このような状況ではウクライナは隣国との政治的不安定さが続き、NATO加盟の条件を満たせそうにはありません。その一方で、NATOは今までこのようなウクライナの現状を利用して、対ロ嫌悪感を煽って、ウクライナをEUやNATOへ引き寄せて来ました。NATOの場合は実質的にはウクライナは同盟国並みの扱いをしているようにさえ見えます。現に、ウクライナは2021年にNATO軍との合同軍事演習をいくつも行う計画で、火に油を注いでいる始末。キエフ政府にとっては今年の夏は大舞台です。NATOとの軍事演習では21,000人のウクライナ軍に対してNATOからは11,000人が参加。膨大な数のNATO軍がゼレンスキー大統領によって招待され、この夏の演習が行われます。
      明日の16日にはバイデン・プーチン会談が行われます。どんな成果が得られるのか目が離せません。核戦争を避けることは米ロ両国にとっては戦略的に非常に重要な課題であって、これに匹敵するような課題は他にはありません。この基本戦略で両国が合意できるならば、より次元が低いウクライナ東部における武力紛争も解決へと踏み出せるのではないかと私は期待しています。ノルドストリーム2では米国が現実に目を向けた結果、同プロジェクトを妨害することをすでに止めています。さて、どうなることでしょうか?

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    2. 返信ありがとうございます。「キエフ政府にとっては今年の夏は大舞台です。NATOとの軍事演習では21,000人のウクライナ軍に対してNATOからは11,000人が参加。膨大な数のNATO軍がゼレンスキー大統領によって招待され、この夏の演習が行われます。」を今知りました。この演習は「関特演」でなければよいですが。もしかしたらウクライナ軍はクリミヤ奪還作戦という実戦発動を企図しているのではないでしょうか。「窮鼠熊を咬む」は西側の同情を買いますからね。

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    3. シモムラさま、
      ウクライナ軍にクリミア奪還作戦をさせ、西側の同情を買うという筋書きで最近のゼレンスキーとバイデンとのやり取りを見ますと、ロシア側に開戦の責任をとらせる自作自演作戦の道具立てはこれで準備万端整ったということでしょうか。
      そうならないことを願っています。

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