2022年9月7日水曜日

ダリア・ドウギナを殺害したのはいったいどの犯罪シンジケートか?

 

29歳のジャーナリストであるダリア・ドギナは、820日の夕方、モスクワ近郊のモジャイスコエ・ハイウェーで車の運転中に車両に仕掛けられた簡易爆発物の爆発によって殺害された。彼女はロシアではよく知られている極右派の哲学者アレクサンドル・ドギンの娘であって、ジャーナリストである。また、作家でもあり、政治活動家でもあった。彼女の父親はプーチン大統領のブレーンの一人であるとも言われており、彼女は父親の代わりに暗殺されたとか、二人とも暗殺の対象であったとか、さまざまな見方が飛び交っている。

暗殺事件とは言え、ロシアの捜査当局はその犯人を迅速に割り出し、事件からまだ24時間と僅かしか経ってはいない時期に、つまり、822日に公式見解を発表した。犯人は1か月程前にウクライナからロシアへ入国したナタリア・ヴォウクであると言う。

ここに、「ダリア・ドギナを殺害したのはいったいどの犯罪シンジケートか?」と題された最近の記事がある(注1)。事件後約10日程経過した頃のものだ。この記事の著者ペペ・エスコバーはナタリア・ヴォウクは単なる下手人に過ぎず、暗殺事件の背景には大きな犯罪シンジケートが存在していると推論している。彼の視点は秀逸だ。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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モスクワの入口で実行されたダリヤ・ドゥギナの卑劣な暗殺、あるいは、テロ行為はロシア連邦保安庁(FSB)が24時間とちょっとという短期間の内に犯人を解き明かした。しかしながら、この快挙によって想像される程にすべての事柄が解明されているわけではいない。

アゾフ大隊のメンバーである主犯のナタリア・ヴォウクは単独で行動したのではなく、ウクライナ人の相棒ボグダン・ツィガネンコが脇に居り、彼は彼女が運転していたミニ・クーパーのために偽物のナンバープレートを提供し、モスクワの南西部で借りたガレージで粗末な自動車爆弾を組み立てるのを手伝ったことが、今や、立証されている。

FSBによると、ヴォウクはドゥギン一家を追って「トラディション・フェスティバル」と称される催し物に出掛け、リモコンで自動車爆弾を爆発させた。唯一欠けている要素は爆弾が何時ドゥギンのSUVの底面に設置されたのか、そして、誰がこの作業を行ったのかという点だ。さらには、このような洗練された手法を用いて、国境を越えて実行された標的殺人事件は父と娘の両方を狙ったものであったのかどうかという点だ。

地政学アナリストのマンリオ・ディヌッチが回想しているように、ロサンゼルス・タイムズ紙さえもが「2015年以降、CIAは米国の秘密施設でウクライナの諜報員を訓練していた」と公に報じていた。

ロシアの諜報機関はそれに気づいていた。実際、202112月のイタリアのメディアのインタビューにおいてダリヤ・ドゥギナ自身は、FSBの情報に基づいて「彼らはロシアの37の地域で攻撃や虐殺を準備していた106人のウクライナ人工作員を特定した」と明かしている。

ところが、ロシア諜報機関のある高官は、明白な理由から匿名のままでいなければならない彼の言葉を借りると、「この事件に全体像を加えてくれることだろう」と述べて、最近、一片の情報を流した。

言うまでもなく、この状況は彼が公表することを上司から許されたということとまったく同義である。彼の分析によると、「悲劇は夕方に起こった。その後の2日間足らずで、FSBは事件に関与したウクライナ保安庁(SBU)の連中に関するデータをすべて共有した。国民の大多数はこの事件は政治的な殺戮だったと考えている。事実、ウクライナには多くの政治的殺人事件が起こるが、今回の悲劇には政治的な根拠はない。本事件は、実際には、組織犯罪のお金の流れに関連している。」

情報筋はさらにこう述べている。「ダリヤは愛国的な活動の中にあって、モスクワやドネツク地域との繋がりを持っていた。ご存知のように、経済を回復するためにドンバス地域に対しては大量の資金の流れがある。この巨大な資金の流れは犯罪行為に対して極端なまでのインセンティブを与えることになる。ドネツクの犯罪組織は戦争地域で活動しているため、他の組織に比べると危険極まりない。したがって、ダリヤが何かを公にすることによって資金の流れの計画に狂いがもたらされることを誰かが恐れていた。」

この情報筋は重要な点を指摘している。「ボリス・ネムツォフ(旧ソ連邦の崩壊後のロシアに課せられた改革路線におけるリベラル派の主役)も、彼は非常に強力な政治家であるという事実にもかかわらず、彼がいくつかの資金の流れの計画を公にすることによって自分たちの利益が損なわれるかも知れないことを恐れた組織犯罪グループによって殺害された。さらには、(ジャーナリストの)アンナ・ポリトコフカヤの例だ。彼女は選挙期間中に政治的目的のためにチュバイス選挙事務所で90万ドルの現金を与えられた。しかし、何人かの男たちはそのことを知って、鞄を掴み取り、彼女は殺害された。」

いったい誰が得をするのか?

開示しておきたい点がある。私はアレクサンドル・ドギンとの友情を高く評価している。我々はイランやレバノン、ロシアで直接会ったことがある。彼は聳え立つような知的巨人であって、非常に敏感な精神の持ち主である。「プーチンのブレーン」という粗野で、ステレオタイプな見方からは遠く離れている。さらに悪いことには、「プーチンのラスプーチン」といった西側メディアによる動物学以下のレッテルが彼に向けて叩きつけられた。ユーラシア主義についての彼が描く将来像には十分に知的な議論や文明論的な真の対話といった実質的な対応を与えるべきである。しかしながら、集団的欧米世界の現在の目覚めた化身たちは、明らかに、本当の議論に挑戦する洗練さには欠けている。だから、彼は「キングダム・カム」によって悪魔視されているのだ(訳注:キングダム・カムとは1996年に発表された米国の4部作のコミック本。倫理観を失った新世代のヒーローが描かれている)。

私がモスクワで会う機会に恵まれたダリヤはモスクワ大学で哲学史を専攻した、若くて、輝かしいスターであった。彼女はモスクワ大学の哲学史を卒業し、彼女の主な研究分野は後期ネオプラトニズムの政治哲学に関するものであった。それは、明らかに、お金の流れに「害を与える」といった、冷酷な工作員が描く彼女のプロフィールとは何の関連性もなかった。彼女は金融を理解していないようであった。ましてや、「暗黒世界の」金融にまつわる作戦なんてまったく理解してはいないようであった。 彼女が理解していたのはウクライナの戦場が文明の生の衝突よりも大きな物、すなわち、「グローバリズム」対「ユーラシア主義」をいかに映し出しているかという点であった。

ロシア諜報機関の高官による主張に話題を戻すと、彼の主張は単純に却下することはできそうにない。例えば、当時、彼はロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」に対する攻撃に関して次のような決定版を発表していた。

選定された送付先に対してだけ彼が送信した電子メールで述べているように、「黒海艦隊の旗艦の破壊は戦略的な任務として計画されたものだ。したがって、PKR(対艦ミサイル)をオデッサに引き渡す作戦は厳重な秘密裏に実施され、電子戦の隠れ蓑でうまく覆われていた。この巡洋艦に対する「キラー・ミサイル」としては、彼らはウクライナのプロパガンダによって喧伝されていた「ネプチューン」ではなく、PKRを選んだ。このミサイルは第5世代のNSM PKR(対艦攻撃ミサイル、射程距離は185 km、ノルウェーと米国による共同開発)である。この対艦ミサイル(NSM)はGPSで調整された慣性航法システムによって、事前にプログラムされたルートに沿って標的に到達する。35メートルの高度で標的まで飛行し、標的艦を独立して捉えることができる。標的に近づくと、NSMは不規則な飛行を行い、電子干渉も開始する。高感度熱探知カメラが標的艦の最も脆弱な場所を独立して特定するホーミングシステムとして使用される。ウクライナに密かに送り届けられた固定コンテナ設備が発射装置として使用された。こうして、巡洋艦モスクワは損傷を受けた後、浸水に見舞われた・・・。残念ながら、黒海艦隊はもはや長距離対空ミサイルシステムを備えた艦艇は一隻もない。しかしながら、すべてがそれほど悪い状況になったというわけではない。クリミアには3バンドレーダーの「Sky-M」があって、最大600 kmの範囲ですべての航空目標を追跡することが可能だ。

そう、これを言いたかったのだ。旗艦モスクワへの攻撃は米国が命じたNATOの作戦だった。ロシア国防省はこのことを知っている。そして、米国もロシアが知っていることを知っている。報復は、遅かれ早かれ、モスクワ政府が選定した時期と場所でやって来ることだろう。

まったく同じことがダリヤ・ドゥギナの暗殺に対する報復にも当てはまる。現状では、3つの仮説があり得る。

1. キエフのSBUを指し示すFSBの公式説明。明らかに、FSBは彼らが知っていることのほんの一部しか公表してはいない。

2.  組織犯罪を指摘するロシア諜報部門の高官の話。

3.  いつもの事ながら、シオニストが容疑者。ドゥギンの猛烈な反グローバリズムのせいで、彼らはドゥギンを嫌っている。そして、それはCIAMI6よりも、多くの面で、ロシアでは遥かに有能な地元諜報機関を相手に楽しんでいるモサドの作戦を指し示している。

第四の仮説は完璧な嵐を呼び込むことになる。すなわち、それは上記のすべての組織犯罪シンジケートの関心事の合流点を指し示すものとなろう。ここでも、覇権主義的な米国のポップカルチャーに頼って、ツインピークスから借りて来よう。「フクロウは見た目とはまったく違う」のだ。ブラック作戦は彼らがそう見えるよりもはるかに暗黒な彼ら自身をさらけ出すことになろう。

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これで全文の仮訳が終了した。

引用記事の著者は冒頭で「モスクワの入口で実行されたダリヤ・ドゥギナの卑劣な暗殺、あるいは、テロ行為はロシア連邦保安庁(FSB)が24時間とちょっとという短期間の内に犯人を解き明かした。しかしながら、この快挙によって想像される程にすべての事柄が解明されているわけではいない」と切り出した。この記事を読み進むしたがって、われわれ読者に著者が言わんとしている骨子が明瞭に浮かび上がって来る。

ダリア・ドギナの暗殺は政治的な暗殺ではなく、金の流れに絡んだ犯罪シンジケートによるものであるかも知れないとの可能性が紹介し、政治的な暗殺であるとして他の可能性をまったく疑ってはいなかったわれわれ素人をまさにアッと言わさんばかりに驚かせた。

黒海艦隊の旗艦モスクワが破壊され、沈没に至った事実を引き合いに出して、ダリア・ドギナの暗殺に対する報復はロシアが決定したタイミングと場所で実行されるであろうという著者の見解は国際政治の実態を正確に、そして、広く把握しているジャーナリストならではの解説だ。こういった部分はペペ・エスコバーが常に見せる魅力のひとつであると言えよう。

今後、さらにどんなことが解明されるのか?この事件から目を離せなくなって来た。

参照:

1Which crime syndicate murdered Darya Dugina?: By Pepe Escobar, The Saker, Sep/01/2022

 

 



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