2022年10月9日日曜日

分析 ― ノルドストリームパイプラインが破壊工作に見舞われた。一国だけはこの出来事から利益を享受

 

927、スウェーデンの地震専門家はバルト海で起こっているノルドストリームパイプラインからのガスの漏洩は同パイプラインが海底地震によってではなく、何らかの爆発によって引き起こされたものであると述べた。ウプサラ大学にあるスウェーデン国立地震観測網で研究を行っているビョルン・ルンドは、彼自身と彼の同僚らによって収集されたデータはこの爆発は海底の岩盤の中で起こったのではなく、水中で起こったことを示していると言った。(原典:Blasts near North Stream were explosions, not earthquakes, Swedish seismologist says: By Reuters, Sep/27/2022

この出来事は秘密裏に遂行されたことから、「テロリストによるものであろう」とか、「ロシアがやった」、「米国がやった」、「ドイツあるいはフランスの仕業かも」といったさまざまな憶測が世界のメディアを賑わした。結局のところ、決定的な証拠を提示するには至らず、926日からすでに二週間にもなるというのに、真犯人の特定作業はまだ成果を挙げてはいない。

ここに、「分析 ― ノルドストリームパイプラインが破壊工作に見舞われた。一国だけはこの出来事から利益を享受」と題された928日の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

***

Photo-1: ボルンホルム島の近くで破壊されたノルドストリームパイプラインの空中写真。ゲストであるビル・ヘネシーによる寄稿。

月曜日(926日)に3回の深海爆発が起こり、バルト海に設置されているノルドストリームパイプラインが破壊された。MSMや各国政府は圧力が突然ゼロに低下し、パイプラインの「漏れ」が起こったことを報告したが、スウェーデンの地震学者はもっと良く知っていた。

三つの爆発のうちのひとつは地震強度のリヒタースケールで2.3を示したが、これらは地震ではなかった。何らかの爆発であった。まるで巨大な海底地雷のようであった。

ロイター通信によると、ウプサラ大学のスウェーデン国立地震網の地震学者、ビョルン・ルンド氏は彼と北欧各国の同僚が収集した地震データはこの爆発は海底の岩盤の中ではなく、水中で起こったことを示していると述べた。

これらの爆発は、ドイツとEUがロシアからのエネルギー輸入に対する経済制裁に関して将来右や左へ揺らぐことがないことを保証するためのものである。パイプラインの損傷を修復しようとしても数ヶ月が必要であり、その作業は来年の夏まで始まる可能性は低い。たとえドイツが熱とエネルギーの不足をめぐって市民の不安が激化するにつれて「アンクル・サム」に向けて叫んだとしても、たとえロシアが電源を再び入れることを決めたとしても、ヨーロッパへのロシア産天然ガスの配管は破壊されてたままだ。

タス通信は爆発の詳細を次のように報告している:

最初の爆発は月曜日(926日)の午前2時頃、2回目の爆発は同日午後704分に記録された。ガス漏れ警報は月曜日の午後152分と午後841分にそれぞれ発令された。伝えられるところによると、この地域を通過した船舶が海面上の漏れの兆候を沿岸警備隊に通知した。ルンドは、この事件が起こった海域では、通常、軍事演習はなく、理論的にはパイプラインが破壊工作に見舞われた可能性が高いと述べている。

月曜日にはこの海域で軍事演習は行われてはいなかったが、最近この海域で軍事演習があった。この演習については後ほど説明しよう。

ノルドストリームは死んだ。問題は「犯人は誰か?」だ。

手段、動機および機会:

犯罪を解決するには警察は手段、動機、機会を確立しようとする。被害者が自宅で銃撃され、暴力的な侵入や闘った痕跡が見つからない場合、容疑者は被害者に知られている人物であり、彼は殺人に使われた武器にアクセスが可能で、彼を殺す理由があったと言える。手段(銃)、動機(利益)、機会(アクセス)のいずれかの要素が排除されると、その容疑者のケースは成立しない。

合理的に推測された容疑者に対して3つの要素のすべてが成立すると、その人物が容疑者として浮かび上がる。

手段を調べてみると、ほとんどの容疑者が排除される。高度な海戦能力を持つ政府だけが破壊工作を実行できたであろう。これによって、容疑者はドイツ、英国、フランス、米国、ロシア、中国に限定される。

しかし、手段には現場に近接しているかどうかも含まれる。この地域で中国やフランスの海軍が何らかの活動を行う場合は、国旗を掲げていたであろう。米海軍は高度な戦闘能力を持ち、世界のあらゆる海で活動しているという事実を除けば、地理学的にはあたかも米国は排除されるかのように見えるだろう。こうして、ノルドストリームを破壊する手段を持つ容疑者リストは英国、米国、ロシア、ドイツに限定されてくる。

次に、動機について。

ドイツにはエネルギーという同国の生命線を破壊する動機はない。ドイツはロシアの天然ガスに大きく依存している。対ロ経済制裁によるエネルギー不足と、ロシアがパイプラインを通る流れを減らしたことによるエネルギー不足のために、ドイツの産業はすべてが国有化されている。ドイツ人は、この週末、ロシア産エネルギーへの回帰と引き換えにドイツ政府に反ロ同盟からの脱退を要求する大規模な抗議行動を行った。

また、英国はロシアが2月にウクライナへ侵攻した後に課した経済制裁の下で苦しんでいる。英国経済は混乱しており、英国の中央銀行は量的緩和への回帰を余儀なくされている。さらに、英国の新政府は、今、政府を樹立することに手一杯だ。英国人がこのような悪ふざけを試みる可能性は極めて低い。

ロシアには動機があるようだ:ウクライナに致死的な武器を送ったことのお返しとしてEU圏に長期的な苦痛を与えることだ。しかし、ロシアはパイプラインを爆破する必要はなかった。ロシアはヨーロッパへのガスの流れを送ったり、止めたりするバルブを制御しており、すでに蛇口を止めた。ロシアはパイプラインの建設費用の一部を払っており、ウクライナとの戦争が落ち着いた暁にはEU圏への収益性の高いエネルギー輸出を再開することを期待している。いったいどうしてロシアは自らの鼻を切り落とさなければならないのか?

こうして、米国だけが残ることとなる。では、米国の動機は何か?

第一に、ロシアからの天然ガスの流れが遮断された途端に、米国は液化天然ガスのヨーロッパへの輸出国のナンバーワンとなった。ドイツを米国産LNGへ依存させることはドイツを対ロ経済制裁の同盟にとどめておくためのニンジンである。冬の到来が近づく中、ドイツ市民の不安が高まり、ドイツ政府がぐらつき、制裁を緩和し、ウクライナへの武器の供給を断ち切り、プーチンにエネルギー供給を乞うのではないかと米国務省は懸念していたことであろう。ノルドストリームパイプラインの喪失はドイツへのガス輸入に回帰する道をなくした。

第二に、バイデン・ファミリーは長い間天然ガスとウクライナに絡んできた。ハンター・バイデンはウクライナ最大の天然ガス会社の取締役に就任し、ウクライナの新興財閥に対してジョー・バイデンへのアクセスを提供していた。エネルギー分野での経験がないとは言え、ハンターはこの取引で何百万ドルも稼ぎ、ウクライナ側は買収された米国大統領を入手した。

第三に、民主党のバイデンは11月の中間選挙で民主党の議会支配を潰す恐れのある人気の低迷を何としてでも押さえる必要がある。

だから、アメリカ合州国だけがロシアからのEUのエネルギー生命線を破壊するという説得力のある理由を持っているのである。米国だけが手段と動機の両方を持っている。

しかし、機会についてはどうであろうか?

バルトップス22作戦 ―  20226月:

「海軍連盟」の公式雑誌であるシーパワー・マガジンは6月にバルト海での米国の演習について報告した。この演習は大規模な海底爆発がノルドストリームパイプラインを破壊したふたつの場所の真上で行われた。

Photo-2

シーパワーのストーリーは海軍が数マイルも離れた場所から標的を爆発させることができるという新技術を強調している。

個の演習のもうひとつの重要な目的は通信範囲とデータ転送能力をさらに拡大し、機雷のハンティング作業におけるオペレーターの柔軟性を高めることにあると指摘している。今年実証された通信技術の進歩は現在使用されているシステムよりも動作範囲が大幅に改善されたことを示している。これによって、米海軍は機雷のハンティング作業を安全に実施しようとする際に必要な遠隔地点からの操作に対してかなりの柔軟性を提供することができる。

言い換えると、大統領が選定する任意の日時に遠隔爆発を行うことができるようにするために、米海軍はこの6月にパイプラインに爆発物を装着する機会があった。

世界最大級の水陸両用船である米海軍の艦艇「キアサージ」が、最近、この海域にいた。

そして、米国だけがこのような機会を持っていた。

また、伝えられるところでは、この6月、「バルトプス22作戦」の進行中に、CIAはパイプラインに対する破壊工作が差し迫っているとドイツ政府に警告を発した

Photo-3

さらに、バイデンと他の高官はパイプラインを戦争の道具として用いる意思を示していた。ジョー・バイデンは「もしロシアが侵略すれば、ノルド・ストリームを終わらせる」との脅しの言葉を発した。

こうして、可能性は一国だけとなる:

犯罪を犯す三大要素、すなわち、手段、動機、機会のすべてを備えていたのは米国だけだ。

しかし、犯罪の三大要素をすべて所有しているからといって、それに該当する人物が有罪になるわけではない。手段、動機、機会に加えて、有罪当事者は犯罪を犯す道徳的堕落も持っていなければならない。銃を所持する人は誰でも、ある時点で誰かを撃つ手段、動機、機会を持っているわけであるが、合法的に銃を所有する者はほとんどが犯罪を犯さない。それはなぜか?

なぜならば、われわれのほとんどには衝動に基づいて行動するのを止めるのに必要な道徳的良心が十分に形成されているからだ。ジェファーソンが独立宣言に書いたように、われわれは引き金を引く前に多くの虐待に苦しむことは厭わない。

だから、我々は問わなければならない:米政権はその巨大な軍事能力を使うことに抵抗する衝動制御を十分に持ち合わせているのか? それとも、この政権は単なる苛立ちで誰かを撃ってしまう連中でいっぱいなのか?

それに答えるためには、FBIが生命を尊重する大臣の家を襲撃したり、令状を得るために裁判官に嘘をついた後に貸金庫を強盗したり、次の選挙で現大統領の主要な反対者となる人物の家を襲撃したり、ミネソタ州の生命を尊重する妊娠カウンセラーを脅したりした事実、等について考えてみていただきたい。

また、女性的すぎる、または、男性的すぎるという犯罪(?)のために小さな男の子を去勢したり、小さな女の子の胸を切り落とすといった政権側からの圧力についても考えてみて欲しい。5歳の女の子がステージ上で女装した男性のペニスをマッサージして両親の猥褻な興味を喚起する子供向けの女装男性ショーに対する米国の嗜好についても考えてみていただきたい。フェークニュースを流す「The Gateway Pundit」紙が最近報じたように:

米国はバルト海で重大犯罪を犯すことができるのか?

もちろん、できる。

ジョー・バイデンが率いる米国には道徳的な羅針盤はない。まさにそれは行動を唯一正当化する権力や暴力を使って基地で待っている快楽に向かって航行する、舵のない、正気を失った船なのである。

米国がパイプラインを爆破したかどうかは確かではない。だが、米国がエリート達のための権力を追求し、全世界をハルマゲドンの端に追いやるのに必要となる手段や動機、機会、道徳的欠陥を持っていることは確かである。そして、元ポーランド国防大臣であって、現在は欧州議会議員を務めている人物は素早く爆発の責任(または信用)を米国に貼り付けた:

Photo-4 (訳注:欧州議会議員であるラデック・シコルスキーは「米国よ、有難う!」と言った。)

乞うご期待。ノルドストリームはわれわれの生涯で最大級の物語であるのかも知れない。

***


これで全文の仮訳が終了した。

「伝えられるところでは、この6月、バルトプス22作戦の進行中に、CIAはパイプラインに対する破壊工作が差し迫っているとドイツ政府に警告を発した」という事実は、放火犯が次に起こる火事の場所と日時について予告めいた情報を流す心理とまったく同じに見える。実は、このような状況は世界中で何度となく繰り返されて来た。新型コロナ禍の直前、米諜報機関内では近い内に大きな感染症が中国で起こるとの予想が流され、韓国や日本に駐留する米軍の将兵への感染について心配を募らせていたと言われている。こういった状況は自作自演を疑わせる。シリアでは反政府武装グループが化学兵器攻撃の動画をインターネット上で報じたが、それはなんと実際の攻撃の日の一日前であったという。大失敗であった。自作自演作戦の周囲では大小の予測出来ないようなことが起こり、時間が経つにつれて、そういった出来事は一般大衆の耳にも届く。

「ロシアが機雷を仕掛けた可能性もあることから、英国はパイプラインの調査を行う」と題された108日付けの記事に気付いた(原題:Britain inspects pipelines because of fear of "mining" by Russia: LENTA.RU, Oct/08/2022)。この情報の出処は英国のデイリー・メール紙である。ただ、私には不思議に感じられる点があった。諜報関係については米国と緊密な連携を維持している英国ははたして最初からロシアを疑っていたのであろうかという点だ。もしそうだったとするならば、米国犯人説を崩すためにも最初から大声を挙げてパイプラインの調査を行うと言っていたのではないかとも考えられる。何と言っても、ロシアについては事ある毎に、あること無いこと、何の気兼ねもせずに、証拠も無しにいろいろとロシアに責任をなすりつけてくる英国のことであるからだ。「ロシアが調査を行うと聞いて、自尊心が極めて旺盛な英国がどうして静観していられようか?」今回は4年前のノビチョック事件におけるテレサ・メイ元首相とは違って、新たに英国首相となったトラス首相からは「Very likely」といった曖昧な言葉を使ったロシア政府に対する非難はなかった。もっと正確に言うと、現時点では「まだない」と言うべきか。


 Photo-5

101日にはユーモラスな画像がインターネットを席巻した(出典:Chinese diplomat memes US attempts to harm Russia: By RIA Novosti, Oct/01/2022。画像の著者は在レバノン中国大使館のCao Yi 毅)氏であると言う。西側諸国がロシアを犯人扱いする偽善性を滑稽に、だが、鋭く突いた内容となっている。

もうひとつだけ重要な情報を付け加えておこう。これはライフ誌からの記事だ(原典:Explosions on the underwater gas pipeline: Who attacked the "Nord Stream": By Elena Stafeeva, LIFE, Sep/29/2022):

概して、ヨーロッパの出版物はすべてが経済テロ行為に関しては非常に抑制された態度を示しているが、多くのアナリストが信じているように、その背後には米国が立っている。例えば、フランスのル・フィガロ紙は、ノルド・ストリーム1とノルド・ストリーム2のガス・パイプラインの漏れを「神秘的」と呼び、これらが事故であることを疑った。

西側の政治家ではただ一人であるのだが、米国のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は今年の2月に彼女が予測し、述べていたことを国民に思い出させてくれた。つまり、「ウクライナに対するアメリカの関心は天然ガスの取引に関連している。誰もがノルドストリームへの明らかな攻撃に注意を払うべきだ。私はあらゆるペニーとウクライナでの戦争に対する米国の参加には反対票を投じて来た。なぜなら、それは民主主義とは何の関係もないからだ」とテイラー・グリーンはソーシャルネットワークに書いている。

さて、真犯人はいったい誰か?

 

参照:

1ANALYSIS: Nord Stream Pipelines Sabotaged, and Only One Country Benefits: By Jim Hoft, Gateway Pundit, Sep/28/2022

 




1 件のコメント:

  1. 追加情報:読者の皆さんはすでに気付いておられるかも知れないが、私は今頃になってノルドストリーム2(NS2)の一本のパイプラインは破壊を免れていることを知った。そのことについて、下記に簡単に補足しておこうと思う:

    10月14日のノルドストリーム(NS)に関する報道によると、ドイツの調査グループが撮影した水中写真には合計で4個の穴(NS1とNS2のそれぞれに2個の穴)が記録されている。NS2の1本のパイプラインは影響を受けてはいないとのことだ。(原典:ARD learned about the refusal of the three countries to study the state of emergency at Nord Streams together: Oct/14/2022)
    これを受けて、プーチン大統領は「NS2の運用開始の見込みはなさそう」と述べた。「モスクワで私が言ったように、1本のパイプラインは明らかに機能するが、それを使うかどうかの決定は行われてはいない。明らかに、それを使用する可能性は低い。しかし、これはもはやわれわれロシア側のビジネスではない。これはわれわれのパートナー、つまり、ドイツが決めることだ。」(原典:"They will be swept away by the electorate." Expert on the consequences of gas shortage in the EU: Oct/14/2022)

    こうして、ドイツ政府はこの冬を暖房なしで過ごすのか、それとも、選挙民からの厳しい批判に曝されるkとを避けるためにNS2の使用を決定するのか、厳しい政治的選択をしなければならなくなった。米国に追従することを選んだショルツ政権にとっては非常に難しい局面となっている。はたしてどのような選択をするのだろうか?

    返信削除