2月24日に開始されたウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦はすでに9カ月となる。だが、収束の気配はまだ見えない。二国間交渉については、ロシア側は交渉を促すも、ウクライナ側がそれに応じないという構図が支配的である。だが、米国のメディアの論調には変化が出て来た。要するに、ウクライナ政府が二国間交渉に応じるよう促した記事が目立ち始めた。和平を積極的に見い出そうとしない場合は、観測筋の解説を見ると、核戦争への拡大から始まってウクライナの自滅に至るまで、収束のシナリオの幅は非常に広い。最近は、ロシア軍がヘルソンから撤退し、ドニエプル川の東側へ後退したことから、ロシアの敗北論さえもが出ている。
米国の中間選挙の結果、下院が共和党の支配、上院が民主党の支配となって、「ねじれ状態」が現れそうである。となると、ウクライナ情勢については抜本的な変化はしばらくは起こり得ないと予想される。大雑把に言って、少なくとも、2024年の大統領選挙までは現状が続きそうだ。ウクライナ政府を牛耳っている米国に政策変更の意思が出ない限り、ウクライナ紛争の収束は見えてはこない。
ここに、「全世界のための最後の戦い」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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はじめに
先週、(ロシア連邦とドネツク・ルガンスク両共和国から成る)連合軍がドニエプル川の右岸、つまり、西岸、この場合は北岸地域(1)と地方都市のヘルソン(人口は283,000人)からの撤退を宣言した時、この紛争について短期的な見方をしている人々の間では混乱が支配的となった。彼らは、おそらく、あまりにも長い間西側のプロパガンダを聞くだけであったからなのであろう。おそらく、彼らはロシアが右岸のヘルソンを保持するのに苦労する場合、ウクライナにとってはさらに大きな困難を抱えることになることが確かであることについてはすっかり忘れてしまっていたのだろう。そこで、混乱の一部を解消するためにいくつかの基本的事実に立ち返ってみようではないか。
軍事的状況
ロシア連邦政府は2014年の政権交代後のウクライナに介入することには消極的であった。ロシアは交渉や外交が西洋の攻撃性と愚かさとを克服する日がやってくることを何時も望んでいた。
ロシア連邦政府は米国が2014年から2022年までの8年間にわたってNATOの同盟国を通じてウクライナを武器でいっぱいにし、軍隊を訓練していることを知っていた。
したがって、ロシア連邦政府は、この紛争について計画し、さまざまなシナリオを勘案し、昨年3月のキエフに向けた偵察や気を散らさせるための軍事的な動きを準備するのに8年も費やしたということになる。あり得るシナリオのひとつは米国はキエフ傀儡政権に対する介入を続け、NATO各国、将校、膨大な数の傭兵を使ってこの紛争を長引かせ、米国対ロシアの戦争に発展するであろうというものであった。そして、まさにそのような状況が起こった。ロシアは3月にウクライナを打ち負かした。だが、それ以降、紛争の最初の月にウクライナを非武装化したのと同じように、米国とNATO同盟国とを打ち負かさなければならなくなり、今は彼らを非武装化しようとしている。これが、紛争が何に変化したのかの説明であり、西側連合に対する解放戦争には迅速な収束がない理由なのである。
ウクライナに対するNATOの支配にはカーギル・モンサント・ブラックストーン・ブラックロックによる農地の支配、反スラブのバイオラボ網の構築、核装備の可能性、ロシアとの国境に配備された米国のミサイル、ロシア東部や南部における大量虐殺、西側のグローバリズム、研究所から漏洩された新型コロナ生物兵器、等があって、これらはロシアを破壊する
上で、さらには、世界に君臨する体制を敷く上で役に立っており、この状況はますます嫌悪すべきものとなっている。これらはすべてがロシアによる解放の可能性をますます高いものにした。しかし、これは意識の解放だけである。そして、それを誰が喜んで受け入れているのか?
かってはポーランド領であったウクライナのはるか西部の地域にはロシアに対する憎しみがあることはロシア連邦政府には常に分かっていたから、ロシアにはその地域を取り込む関心なんてまったくなかった。ロシア連邦政府とその同盟国は最初にドンバス地域の同盟国を解放し、それから同盟国の生存を脅かしてきた残りの「反ロシア」的な他のウクライナ地域を非武装化し、非ナチ化しなければならなかった。
今日、ウクライナは月額で最大50億ドルの財政赤字を抱えており、2022年の最初の7か月間で同国の軍事費は5倍の170億ドルにも増加している。
ウクライナ経済省は、先月、2022年の第2四半期に国の実質GDPは40%も減少したことを認めた。世界銀行によれば、ウクライナの経済生産高の年間の減少は35%にも達すると予想されている。ウクライナ当局はインフレが2023年の初めには40%に達し、ハイパーインフレに変わる可能性があると予測している。キエフ政府にできることと言えば、それは西側の支援者にブラックホールにさらに多くを注ぎ込むように促すことだけだ。
ドイツのキール世界経済研究所によると、米国、EU、およびその他の国々は2022年1月から10月の間にウクライナに対して合計936億2000万ドルを約束した。
キエフに武器とお金を送ることに加えて、EUはウクライナからの「難民」も受け入れている。国連のデータによると、ポーランドは1,365,810人、ドイツは1,003,029人、チェコは427,696人、イタリアは159,968人、トルコは145,000人、スペインは140,391人、英国は122,900人、米国は100,000人。事実上、合計で350万人。より多くの難民が移動し、今回は本物の難民となる可能性があり、これはすでに非常に弱くなっているEUや英国の背筋に震えをもたらしている。
ヨーロッパにおいてはウクライナ人を受け入れるコストは、特に、西側の政治家によるロシアのエネルギーや天然資源のボイコットによって引き起こされた高インフレと経済減速を考えると、かなりの額となる。ドイツのキール研究所によると、一部の国ではウクライナ難民の受け入れ費用はウクライナ政府への全体的な支援金額を上回っている。たとえば、エストニアはGDPの1.2%以上をキエフ政府とウクライナからの難民への支援に費やしている。ラトビアとポーランドの累積支援費用もGDPの1%を超えている。
さらには、ウクライナからの「難民」に対する国民の支持はEU全体で低下している。ウクライナの国旗はほぼどこでも降ろされてしまった。目新しさはなくなった。今やすっかり貧しくなってしまった多くの騙された欧米人は「難民」のほとんどは難民ではなく、利益を貪っているだけであることに気付き始めている。ほとんどの場合、「難民」を見ると、ウクライナ人の方がましだ。彼らは受け入れ側が所有する車よりも立派で派手なドイツ車を運転していたり、非常に高い期待を抱いており、信じられないほどの資格意識を持っている。彼らは押しのけ、前へ進み、ありがとうとは言わない。すべては彼らに負っているのである。ものを摑み取りにし、実に怠惰な態度をとった結果として、彼らの多くは、現在、彼らの純朴な受け入れ先から追い出され、ヨーロッパの町や都市の通りをさまよっている。彼らを再度受け入れてくれる人なんて誰もいない。
キエフ政府は資源とお金を使い果たしつつある。ロシアはほぼ同量の西側資産を凍結したため、キエフ政府は凍結されたロシアの資産を入手することはできない。
西側からの支援は永遠には続かない。ドニエプル川に沿って有利な位置を構築するためにロシア連邦軍がとった作戦によって特別軍事作戦はウクライナ側を疲弊させる作戦に切り替わる。記録的に穏やかだった10月の後、ヨーロッパでは11月も暖かさが続いている。しかし、それも長続きはしない。
結論:ウクライナや消耗によって金をすっかり巻き上げられようとしている西側連合にとっては、今冬は困難な冬になるであろう。その一方で、連合国側は急いではいない ― この点は集団的西側とはまったく異なる。連合国の戦略は、たとえそれがしばらくの間ヘルソンを放棄することを意味するとしても、ドニエプル川という自然の国境まで西方に押し出し、その東側はすべての州を占領することであるように思われる。これにより、連合国は比較的短く、十分に防護された前線を確保することが可能となる。そうして初めて連合国側は川を渡り、南部のニコラエフやオデッサを占領することを検討することになろう ― これは長期的にはかなりあり得そうなことだ。そして、そうした場合にのみ、トランスニストリアとの提携によって彼らは非NATOのモルドバ共和国を取り戻すことも検討することであろう。そして、ウクライナでNATO軍を粉砕してからは、彼らは自分たちのロシアの少数派を残酷にも迫害をしたバルト三国を取り戻すことも検討することであろう。
政治、経済、およびイデオロギー関連
ロシア連邦はこの30年間ソ連の崩壊について、そして、その後ソ連から分離し、形成された15の共和国の不正と不条理な国境について何をすべきかを考えてきた。膨大な数のロシア人がロシア連邦の外に住んでおり、迫害の対象となっていることに気付いている。2000年以降、プーチン大統領は連邦外で、特に、アジアやアフリカ、南米において同盟国や友好国を作り続けてきた。ここ数年、ロシア・中国・イランの枢軸が形成されている。それと同時に、クリミア共和国が祖国に復帰した際にモスクワ政府に対して課された西側の違法な経済制裁によってロシア連邦は自給自足を育んできたが、これは必要にせばまれたものであって、極めて加速されたプロセスとなった。
今や、ロシアは米国という全体主義大国にとって、ならびに、ネオコンが望む世界規模の独裁政権にとって主要な障害物となっている。このことから、米帝国はこれらのすべてについて激怒している。ロシアはBRICS+や形になりつつあるロシア・中国・イラン枢軸のイデオロギー的な指導者である。ところが、今や、たとえその目的には失敗するかも知れないとしても、米国のエリートはウクライナにさらに2.3兆ポンドも費やさなければならないようだ。これはアフガニスタンの征服に費やした金額と同じだ。そして、われわれは誰もがその試みがどのように終わったのかをよく知っている。米国のプードルに関して言えば、英国の指導者たちはその帝国を失い、今や、分断され、破産した王国さえをも失いかねない。そして、EUはどうか?EUは断末魔の苦しみの真っ只中にある。
ロシアのイデオロギーの勝利の象徴として、ジャーナリストのルスラン・オスタシコが彼のテレグラムチャンネルに掲載し、pravda.ru が引用した記事をわれわれはここで引用してみよう。彼はテキサスやデトロイト、ミネソタ、その他の州からやって来た米国人たちがグローバリズムとナチズムに対してロシア側の一員として戦うようになったと述べている。米国人たちはこう宣言した。つまり、「ロシアはグローバリズムやリベラリズムに対して戦い、新たな世界秩序のために戦っている。米国は新世界秩序を破壊しようとしている。」「みんな、これは世界のための最後の戦いだ!」
2022年11月13日記
注:
1. 「右岸」とは川を下って航行する際に右側にある部分を指す。これは、地図で見た場合は地図の左側となる可能性がある。地図は現実の表現とは必ずしも一致しない。
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これで全文の仮訳が終了した。
世界の秩序は今大きく変わろうとしている。好むと好まざるとにかかわらず、米国の覇権が衰え、ロシアや中国、イランといった国々は国際的な発言力を高め、世界が多極化する趨勢はさらに展開するばかりである。
他にもさまざまな要素があり、それらが複雑に織りなしているのは事実であるが、現在の状況を示す興味深い記事が11月17日に現れた。その表題は「G20サミットの共同宣言はG7の声がもはや優勢ではないことを示した」と題され、G20の場における昨今の状況を手短かに語っている(原典:Russian
Sherpa: declaration of the G20 summit showed that the voice of the G7 no longer
dominates: By Anton Demidov, Nov/17/2022)。
本日の引用記事は大きな潮流の中のひとつの場面を解説するものであると言えそうだ。もちろん、この潮流が一気に世界を変えてしまうのか、それとも、今後さらに何十年もかかるのかについては誰にも分からない。
しかしながら、世界の動きについて少しでも理解しようとしているわれわれの多くにとっては、この引用記事は、たとえ毎日の生活や仕事に忙しいからと言っても、見過ごしてしまうことはできそうにもない情報のひとつではないだろうか。少なくとも、商業主義に支配されている大手メディアやNHKのテレビニュースだけを頼りにしていると、われわれはとんでもない方向に誤導されてしまう危険性に見舞われかねない。新型コロナ騒動というあつものにこりてなますを吹くわけではないが、まさにそういった明確な認識を持っていることが昨今は重要であると思う次第だ。
参照:
注1:‘The Last Battle for the World’: By Batiushka, The Saker,
Nov/14/2022
追加情報:
返信削除ロシアと米国は核兵器の使用を控えることに合意した。これは、インドネシアで開催されたG20サミットの後、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が述べられたとRIAノーボスチが書いている。
エルドアンは諜報部長からこの情報を受け取ったと述べた。彼によると、現時点では双方は核兵器の使用を試みないだろう。
以前、米国は核のエスカレーションのリスクを減らすためにロシアとの接触を発表していた。(原典:Erdogan: Russia and the United States agreed to refrain from using nuclear weapons: By RZN.info, Nov/17/2022)
今回の選挙を見ても、アメリカという国の根幹が腐りきっていることを再認識しました。
返信削除まさに「これは世界のための最後の戦いだ!」
この視点から世界の動きを見ると、西側のやることがいかにばかげているか、面白いように分かってくるはずなんですけど。メディアが事実を公平に伝えないことが、どれほど悪魔的なことなのか痛感せざるを得ません。