米国は敵国とみなす相手は破壊する。これは単独覇権国家にとっては決して譲れない基本的な路線である。戦争を行うという行為は、多くの場合、その国の対外政治の最終的な段階となる。戦争における判断は冷酷にならざるを得ない。戦略的に必要と判断される場合、他国との不可侵条約さえもが簡単に反故にされるし、国際法も無視される。
そして、同盟国であってさえも情け容赦なく切り捨ててしまう。ノルドストリーム・パイプラインが破壊工作を受けて、その結果、ドイツ経済が甚大な被害を受けた出来事は記憶に新しい。ロシア経済を疲弊させ、プーチンを失脚させるという覇権国としての最大級の戦略目標の前においては、米国の最強の同盟国である筈のヨーロッパの国家と言えども、それを犠牲にすることは米国の戦争推進派にとっては当然の選択肢であったようだ。
そういった観点から見るならば、米国の最大級の同盟国である筈のヨーロッパ諸国がたとえロシアとの核戦争に巻き込まれたとしても、戦場から何千キロも離れた米国の国土が核攻撃に見舞われない限り、ヨーロッパ大陸で最強の戦力(核兵器)を使用するのは当然のことだと考えるのではないか。何と言っても、核兵器はNATO加盟国の兵器庫に保管されており、使用を待っている。こうして、ウクライナの戦場に戦術核兵器が登場したとしても不思議ではない。その皮切りは英国がウクライナへ提供した劣化ウラン弾だ。そして、やがては、米国内の好戦派によってしばしば提言されてきた先制核攻撃の命令を米国が決定し、NATOがそれを実行する。
この時、最初の疑問はNATOの最高指揮官ははたして核兵器を使用する対象を相手国の軍事拠点だけに限定するのだろうかという点だ。広島や長崎の悲劇を再現することは避けるのだろうか?ウクライナ領内だけでの使用に限定するのだろうか?歴史的にみると、これらは単なる願望に過ぎないと言えるのではないだろうか。
ウクライナ領内でNATO軍がロシア軍に対して先制核攻撃を行った場合、ロシアはどう対応するのだろうか?戦争の論理は単純だと私には思える。つまり、後手に回れば、それは敗者となることを約束したも同然だと考える。戦後の地上のルールは、常に、勝者だけが決めることになるのだ。自分こそが勝者になりたいと誰もが考える。最後の手持ちのカードだけが残った場合、戦争計画者はいったいどのような決断をするのか?
もうひとつの心理は政治的な側面だ。敵側からの先制攻撃を許し、同盟国が見守る国際政治の舞台で相手の立場を弱体化させようとする試みである。敵が最初に侵攻するように導いて、敵が侵攻してきた暁に大規模なプロパガンダ作戦を繰り広げて、自分たちは敵の侵攻を食い止めるために応戦すると宣言する。こうして、巧妙に国際世論を自国側に引き寄せる。この種のプロパガンダ作戦は2022年2月24日に始まったロシア・ウクライナ戦争の際にそっくりそのまま観察された。だが、このような展開は通常兵器による戦場では通用するのであろうが、核戦争においても通用するのかどうかは極めて疑わしい。
一方、ロシアはウクライナでの核兵器の使用はしないと言った。つまり、ロシアは核による先制攻撃はしないという意味だ。それでは、西側からの先制核攻撃に対してロシアはどのように抗戦するのだろうか?ロシアは自国の安全保障が脅かされた場合は核を使うと戦争ドクトリンで公に述べている。すなわち、ロシアが先制核攻撃を受けた場合は、ロシアも核兵器で応戦すると言う。こうして、核戦争がエスカレートする。この件は、本日、深堀りすることはできないので、別途、カバーしてみたいと思う。
さまざまな不透明な疑問があるのだが、ここに、「米国は日本をロシアや中国との武力紛争へ引きずり込もうとしている」と題された記事がある(注1)。
日本にとっては極めて重要なテーマだ。おそらくは、戦後最大級のテーマであると言えよう。ロシア・ウクライナ戦争における現時点までの経緯を振り返ってみると、2022年2月24日以前の8年間の動きを含めて、米国の動きを俯瞰して見ると、米国による戦争の進め方が手に取るように分かる。日本が米中戦争に引きずり込まれるということは、米国による対ロ代理戦争におけるウクライナの場合と同様に、日本は、最悪の場合、米国による対中代理戦争の戦場になることを意味する。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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伝えられるところによると、ウクライナ軍を武装しているワシントン政府の努力の中、バイデン政権は米国製155mm砲弾のために日本からのTNT火薬の供給を確保するよう努めている。この動きの背後にあるものはいったい何だろうか?
「権力を握って以来、バイデン政権はヨーロッパやアジアの同盟国を動員し、団結を呼びかけるといった非常に集中的な政策を追求してきた」と、「モスクワ国際関係大学」(MGIMO)の「高等アメリカ研究センター」の主任研究員であるイーゴル・イストミンはスプートニク通信社に語った。「そして、この点において彼らはロシアに圧力をかけ、ウクライナへの武器の供与を支援する戦略にアジアの同盟国を積極的に関与させようとしている。したがって、日本がこの活動に関与しているという事実は決っして驚くべきことではない。」
日本の平和憲法にもかかわらず、今週の初め(6月2日)、ロイターは「米国が日本から爆発物を購入する動きをしている」と述べ、匿名の情報筋を引用した。問題の爆発物はTNT火薬、言い換えると、トリニトロトルエンであって、これは軍用砲弾や爆弾、手榴弾、工業用、水中爆破、等に使用される。伝えられるところによると、日本から調達した火薬は155mm砲弾の薬莢に詰める米軍所有の軍需工場に送られることになっている。
日本の産業通商経済省と防衛省の買収・技術・物流庁はこの件についてのコメントを控えた。
それでも、イストミンはこの傾向は明白であると思っている。彼は、特に、米国の冒険主義が韓国への関与を高まらせた点についても言及した。国防総省のファイルであると見られる文書は、米国の備蓄を補充することを支援するために韓国が砲弾を売ることに同意した後、韓国はそれを説明するのに困難を覚えたという事実を明らかにしていた。問題はワシントン政府がその弾薬をキエフ政権に供給する点にあることから、ソウル側はそのことを憂慮していた。
「ウクライナには武器を供給しないという以前からの声明にもかかわらず、韓国はNATOを支援し、NATO諸国に武器を供給することが増えていることはすでに分かっている」とイストミンは言う。「そして、日本もまさに同じ論理に組み込まれている。さらに、日本は、近年、多くの点で米国と遥かに近しい立場をとっている。したがって、これはかなり長期的な傾向を示すものだ。」
実際、過去10年間、日本は平和主義の戦略を徐々に修正してきた。2022年12月、岸田文雄首相が率いる日本政府は国家安全保障戦略(NSS)、国防戦略、防衛増強計画に関するみっつの政策文書を承認した。これらの文書は今後5年以内に日本の国防費を2倍にすることを想定している。
さらには、日本はNATOとの和解を強化しており、岸田首相は2022年6月のNATO首脳会議に日本の指導者として初めて出席した。5月10日、林義正外務大臣は東京がアジア初のNATO連絡事務所を開設することについて協議を進めていると述べた。
「近年、日本の指導層は以前は制限を加えていた物事を放棄し始めている」とイストミンは言う。「したがって、この場合は砲弾用のTNT火薬であるが、いくらかの量の砲弾の移転によって米国との同盟を深めるという日本側のより広範な政策を具体的に示すものであり、アジア太平洋とヨーロッパの戦場を世界戦略でリンクするという米国側の政策にもうまく適合するのである。」
それと同時に、日本の関与は現時点ではヨーロッパとアジアの両方で確立された勢力均衡を混乱させるには至らなかったと米陸軍本部の元スタッフであるデビッド・T・パインが述べている。
パインはスプートニクに、ワシントン政府がどれだけ多くの武器を送り込もうとも、ウクライナ軍が勝つチャンスはないと言った。なぜならば、「ロシアはウクライナよりも軍事的に遥かに強力であり、欧米はロシア連邦に最近編入されたウクライナの領土からロシア軍を追い出すために新たに軍隊を送り込もうなんて望んではいないからだ。」
「NATOの指導層は誰も望んではおらず、誰も利益を得ることがない不必要な核戦争につながりかねないことからも、ロシアとの直接の軍事的対立は決して望んではいないと思う」と彼は強調した。「誰もがロシアとの戦争を避けたいと切望してはいるものの、彼らはウクライナの武装を続け、ウクライナの人々に夥しい数の死者や破壊をもたらす紛争を、愚かにも、不必要に長引かせようと思っている。」
同時に、元国防総省将校は東京も中国と直接衝突する意思はないものと思っている。
「日本は、遥かに強力な中国に対してこの地域を軍事化する積りはない。日本が中国と台湾の紛争に軍事的に介入すると、広島と長崎の悲劇が再び繰り返される可能性があることを彼らは知っている」とパインは結論付けている。
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これで全文の仮訳が終了した。
「誰もがロシアとの戦争を避けたいと切望してはいるものの、彼らはウクライナの武装を続け、ウクライナの人々に夥しい数の死者や破壊をもたらす紛争を、愚かにも、不必要に長引かせようと思っている」という指摘はもっともだ。
最近では最大級の変化が報じられた。昨日(6月9日)、プーチン大統領はかねてから宣言されてきたウクライナによる大攻勢がついに始まったと記者団に述べた。
米国の好戦派は、今、このウクライナ軍による大攻勢がはたして戦果を挙げるかどうかに注目している。ある専門家は、もしも成功を収めたならば、F-16戦闘機の供与が具体化するだろうと言う。もしも何の戦果も挙げなければ、西側の支援は中断される。つまり、その時はゼレンスキー政権は崩壊する。
さて、どのような結果が待っているのか・・・
参照:
注1:Is US Dragging Japan Into Conflict
With Russia and China?: By Ekaterina
Blinova, The Intel Drop, Jun/03/2023
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