中東においては米国の存在感が、今、急に失われている。それに代わって、中国の影響力が急速に拡大している。
1971年の8月、ニクソン米大統領は建国以来200年近く維持されてきた金本位制を放棄した。これは、米国が見舞われていたインフレに対抗する措置であり、各国が米国に対して米ドルを金と引き換える要求を止めさせるためでもあった。結果として、米国はドル紙幣を乱発する体制に移行した。サウジに対する安全保障との引き換えにして、サウジアラビアが産出する大量の原油を米国のコントロール下に収め、原油だけではなく他の貿易品目も含めて、国際貿易の決済は米ドル建てとなった。ペトロダラーの君臨が始まった。
だが、今、米国による一極支配体制が崩れようとしている。
3月10日、中国の仲裁によってサウジアラビアとイランが和解した。この新しい動きによって、サウジとイランの間の代理戦争の観を呈していたイエメンにおける内戦も鎮静化した。そして、サウジ自身は長く続いていた米国との親密な関係を破棄し、ロシアや中国に傾いている。これによって、サウジから輸出される原油の決済は米ドルではなく、当事国の通貨でも決済が可能となった。サウジに続いて、他の中東産油国も脱ドル化に加わりつつある。これらの新しい動きはすべてが中東における中国の存在観を疑いようのないものにした。
ここに、「中東:米国よ、サヨーナラ!中国よ、コンニチハ!」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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副題:米国はこの地域で地歩を失いつつあり、その責任は米国自身にある。
中東において衰退する自国の影響力を救うために、アントニー・ブリンケン米国務長官は、今週(6月7日、サウジ到着)、サウジアラビアへの3日間の訪問に乗り出す。しかし、サウジアラビアと湾岸諸国との「戦略的協力」を進めることは困難な戦いを証明することになるかも知れない。
昨年の7月、ジョー・バイデン大統領は同王国で開催された湾岸協力会議サミットに出席し、「米国はこの地域から離れ、中国やロシア、または、イランによって空白が埋められて行くことを野放しにはしない」と誓った。しかし、まさにそれが今起こっていることだ。
米国の反対にもかかわらず、この1年、この地の同盟国はハイブリッド化に走った。つまり、北京とテヘランとの関係を改善し、モスクワとの強い関係を維持。
バイデン政権は外交関係を再構築するために最近中国が仲介したサウジアラビアとイランとの合意の重要性を公には軽視しているが、石油が豊富な湾岸地域と中東において高まるばかりの中国の影響力には殺気立っているようだ。
過去20年間、米国は石油と天然ガスの生産を増やし、事実上エネルギー自給を独立させてきた。もはや湾岸石油をそれほど必要としないのかも知れないが、紛争の際には中国にとって重要なエネルギー供給を遮断し、同盟国のためにそれらを確保できるようにこの地域の面倒を見ると主張している。
ブリンケンが先月警告したように、「中国はわれわれが今日直面している地政学的にもっとも重大な挑戦を象徴している。それは自由で、開かれた、安全で、豊かな国際秩序を目指すわれわれのビジョンに挑戦する意思を持ち、その能力をますます高めている国家のことだ。」
しかしながら、ワシントンの民主主義よりも、むしろ、北京の独裁主義の方がこの地域の独裁者たちにとっては簡単明瞭で、しっくりと来るのかも知れない。
中東やそれ以外の地域におけるロシアの影響力も米国を神経質にさせている。
彼らの曖昧さ、さらには、ロシアとの共謀には辟易としており、バイデン政権は中東の特定の国々への圧力を強めており、米国の忍耐は今や限界に近いことを明瞭に示している。この地域の国々に対してロシアの経済制裁逃れの手助けをしないようにと警告し、どちら側につくかをはっきりとさせることを求めている。さもなければ、米国とG7諸国の怒りに触れることになると。
だが、無駄に終わった。
サウジアラビアは、これまで、市場価格を引き下げるために石油を大幅に増産せよという米国の要求を拒否し、欧米の対ロ経済制裁の影響を相殺するように振る舞ってきた。モスクワとは良好な関係を維持し、ウクライナ支援については足を引っ張っている。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の「ワシントンに向かって中指を突き立てる」姿勢は同地域においては絶大な人気をもたらしたと伝えられている。
昨年、バイデンがリヤドを懲罰すると脅したことに対抗して、サウジアラビアは中国の習近平国家主席を招いて、二国間協議を行い、中国・湾岸諸国協力理事会および中国・アラブ首脳会議を開催した。その後、サウジアラビアは西側諸国がテヘランに対する制裁を強化していた矢先に、中国の仲介でイランとの関係を正常化し、米国への明らかなけん制としてシリアとの関係修復に乗り出した。
しかし、対米関係に対するこうした新しい態度はリヤド政府だけに見られるものではなく、地域的な現象である。米国のもうひとつの同盟国であるアラブ首長国連邦も、また、中国との関係を緊密化し、フランスとの戦略的関係を改善し、イラン、ロシア、インドとの関係に取り組んでいる。時として、これは米国との関係を犠牲にしてきた。
この地域は、全体として、世界との関わりを多様化している。これは商業関係を見ても明らかだ。2000年から2021年の間に中東と中国の貿易額は152億ドルから2843億ドルに増加した。同じ期間における米国との貿易額は634億ドルから984億ドルと微増にとどまっている。
サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなど中東6カ国は、最近、ロシアやインド、ブラジル、南アフリカを含む中国主導のBRICSグループへの加盟を希望。西側諸国が対ロ経済制裁体制を拡大し続けているにもかかわらずである。
もちろん、米国は過去30年間中東においては支配的な戦略的大国であったし、現在もそうである。しかし、次の30年もそうであろうか?
独裁的な政権と一般市民とはまったくと言っていいほど一致しないこの地域においては、米国は人権と民主主義についてリップサービスしかしない偽善的な帝国主義国家であると大多数が考えている。そのため、米国に対して「ノー」と言うのは非常に人気のある姿勢なのである。
特に、パレスチナに対する米国の外交政策において顕著で、米国の外交政策はパレスチナ人に対して植民地主義を取り、占領者でもあるイスラエルを断固として、無条件で支持している。
ブリンケン長官はリヤドを訪問する際、サウジアラビアに圧力をかけてテルアビブとの関係を正常化させ、核の民生プログラムや安全保障を含むとされるサウジアラビアの要求額を引き下げようと画策するであろう。
UAE、バーレーン、モロッコ、スーダンは、すでにアブダビへの米国製F-35の売却、西サハラに関するモロッコの主張の承認、米国によるハルツームに対する制裁の解除といった米国側の譲歩と引き換えに、パレスチナ人を犠牲にしてイスラエルとの関係を正常化している。これらはすべてがイスラエル政府が自ら「譲歩」し、数十年にわたるパレスチナの占領を終わらせる必要がないようにするためだ。
しかし、米国は距離を置くべき二枚舌の大国だとアラブ国民に確信させたのは一般のアラブ人にとって極めて身近なパレスチナ問題だけではないのだ。
衛星テレビやソーシャルメディア・プラットフォームのおかげで、この地域の人々はイラクにおける米国の犯罪やアフガニスタンでの屈辱を自分たちの目で見て来た。9.11同時多発テロ以来、過去20年間にわたる米国の中東への介入に関する損益計算書は米国にとっては有利なものではなかった。
ドーハを拠点とする「アラブ研究政策センター」が2022年にアラブ14カ国で実施した世論調査によると、回答者の78%がこの地域の脅威と不安定性の最大の原因は米国だと考えているのも決して不思議ではない。それとは対照的に、シリアからイラク、イエメンに至るまで、この地域で独自の汚い仕事をしてきたイランとロシアをこのように考えているのは57%に過ぎなかった。
元米政府高官のスティーブン・サイモンは彼の著書『巨大な幻想』(原題:Grand Delusion)で、中東における米国の野望を描いている。つまり、米国はアラブ人やイスラム教徒を何百万人も死に至らしめ、彼らの地域社会を荒廃させた戦争に約5兆~7兆ドルを浪費したと彼は見積もっている。さらに、これらの紛争は数千人の米兵を戦死させ、数万人もの負傷者を出し、約3万人の米退役軍人の自殺にもつながった。
この地域が米国から切り離されること、そして、少なくとも米国がこの地域から手を引くことは必然的であり、それと同時に、望ましいことであるとより多くの中東の人々(そして、米国人)が同意しているのは決して偶然ではない。
また、このような展開は双方にとって長期にわたる極めて厄介な結果をもたらし、米国が外交政策を変更するかどうか、さらには、どのように変更するのかによって決まるであろう。
しかし、その詳細については別の議論を行わなければならない。
著者のプロフィール:マルワン・ビシャラはアル・ジャジーラ紙の上級政治分析者。マルワン・ビシャラは国際政治に関して多くの著作を出しており、米国の外交政策や中東、国際戦略問題の第一人者として広く知られている。以前はパリ・アメリカン大学で国際関係学の教授を務めていた。
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これで全文の仮訳が終了した。
この記事は中東における国際政治の変化について簡潔に解説している。著者が言いたいことのすべてはこの引用記事の表題に見事に集約されている。
この記事を読んで痛感させられることのひとつは政治が持つ理不尽さではないだろうか?それは、今日、至る所で観察される。この現状を説明する元凶は一極覇権を押し進める米国の対外政策にあると言えよう。政治が持つ理不尽さが現状を支え切れなくなると、今まで維持されてきた均衡が何処かで破れる。中東はその好例であろう。
一般庶民の常識や価値観から言っても、米国政府の対外政策、つまり、人権や民主主義を錦の御旗に押し立て、圧倒的な武力を誇示して、相手国の政府を脅かす手法は子供たちの間のガキ大将や巷のゴロツキやギャングのそれと何ら変わりがない。一時の痛みを避けるためには、それが現実の世界であるとしてそういった脅しを受け入れることは可能だ。しかしながら、次世代のためにはそれでいいのだろうか?
長期的な視点に欠ける時、人間の判断はとんでもない方向に向かってしまうことが多い。
それは一極支配体制にしがみ付こうとする余りにウクライナにおいて対ロ代理戦争を遂行し、台湾を舞台にした対中戦争を画策する米国にもっとも説得力のある事例が見て取れる。そもそも、ロシアを仮想敵国とすることは旧ソ連邦の崩壊によって完全にオサラバした筈であった。だが、米国の軍産複合体の飽くなき金銭欲や自己欺瞞はそうはさせなかった。ネオコンの連中はあの手この手を次々と繰り出し、世間を洗脳し続けた。トランプ政権時代には現職の大統領を相手にロシア疑惑を捏造し、主要メデイアを駆使して、大キャンペーンを繰り広げ、執拗にトランプ大統領を攻撃した。しかしながら、真実の情報がやがて表面化した。9・11同時多発テロ、イラク戦争、アフガニスタン紛争、シリア紛争、ウクライナにおけるマイダン革命、マレーシア航空MH-17便撃墜事件、英国のソールズベリーにおけるスクリッパル父娘毒殺未遂事件、トランプ米大統領に対するロシア疑惑、米大統領選における選挙不正、イラク空港でのイランのソレイマニ将軍の暗殺、等、数え上げたら切りがない。米国の内政の混乱は、今や、その極に至っている。政治が持つ極めて醜い現実があからさまになってきたが、皮肉なことには、われわれ一般大衆はそのことに慣れっこになってしまったかのようである。
そして、そのような米国に盲目的に従属する日本政府に関してはいったいどのように形容し、どのように説明したらいいのだろうか?
それだけではなく、新型コロナワクチンの集団接種を巡っては、虚偽の報道が繰り返して流され、情報管制が行われ、FDAやCDCといった米国の規制当局は自分たちの責務である国民の生命と安全を守るという本来の使命を忘れ、ビッグファーマの利益を最大限にする策に加担した。こうして、科学は政治にハイジャックされてしまった。その結果、新型コロナワクチンの副作用のせいで世界中で何十万人もの死者を出し、何百万人もが今もなお後遺症に苦しめられている。これらの後遺症は今後どれだけ長く続くのであろうか?一般庶民は大規模な人体実験に曝されている。
新型コロナワクチンが引き起こした悲劇は米国の内政を大混乱に陥れた諸々の出来事と同根であると私は言っておきたい。
参照:
注1:The Middle East: Goodbye America, hello China?: By Marwan Bishara, Al Jazeera,
Jun/06/2023
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