2014年4月4日金曜日

軍事予算を確保するために大きな敵を新たに探そうとしている米国


2001年、ニューヨーク市の世界貿易センタービルに旅客機が突入した。続いて、二本の高層ビルのもう一方にも旅客機が突入。これらのビルは崩壊し、自由落下する様子が何度もテレビで放映された。こうして、「911同時多発テロ」の様子は全世界で放映された。
すかさず、米国政府は首謀者はアルカイダのメンバーであると断定し、テロの脅威を排除するためには「対テロ戦争」を開始しなければならないと宣言した。
高層ビルが自由落下していく映像がまだ脳裏に生々しく残っていた頃、米軍のある高官がこの「対テロ戦争」は今後数十年は続くのではないかとの見通しを述べていた。あの時、私は非常に嫌な印象を覚えた。「何ということだ!これを契機に、米国政府に対して、巨額な軍事費を今後何十年間も継続して拠出しなければならないと言っているのと同じではないか」と…
あれからもう10数年となる。
アフガニスタン戦争は米国政府によって対テロ戦争の一環として位置づけられ、国際的なテロを防ぐための防衛戦であると喧伝された。10数年が経過した今、当初の目的は達成されたのだろうか。無人攻撃機の使用頻度はオバマ政権下で急速な高まりを見せた。しかし、無人攻撃機によって、テロリストとは関係のない一般市民の犠牲も鰻上りに増えた。
たとえば、イエメンではこの無人機攻撃による一般市民の犠牲が新たなテロリストを生み出しているとの指摘がされている。テロリストの撲滅どころではなく、現実にはテロリスト志願者を育成しているような状況が続いている。
無人機攻撃が継続されているイエメンの現状をどう理解するかはその視点によって大きく分かれるところではあるが、世界最高の論客と見られているノーム・チョムスキーの辛辣な表現を借りると、こうだ。『今や、「有罪」という言葉は「オバマ政権によって暗殺の標的になっている」ということを意味するが、「無罪」という言葉は単に「まだそのような状態にはなってはいない」ことを意味するに過ぎない。』
今年の2月、米国のオバマ政権は今年中にはアフガニスタンから米軍を撤退させるとの計画を示した。連邦予算の大幅な削減が不可避となっている中、2月末に公表された米国国防省の2014年度の予算案は兵力を削減し、緊縮予算の中で新兵器の開発や訓練費用を充当せざるを得ない構成となっている。
また、イラク戦争は米国が喧伝していたいわゆる「大量破壊兵器」は発見されずに終わった。さらに、イラク政府とアルカイダとの関係を実証することもできなかった。そして、このイラク戦争によってイラク国民が一方的に負わなければならなくなった代価は余りにも大きい。二百万人もの市民が死亡したと言われている。そして、国内は分裂し、内戦状態が続いている。イラクの代価の大きさは今も拡大を続けている。この状況が一体どこまで続くのかは誰にも分からない。米軍のイラクからの撤退はすでに2011年の末に現実のものとなった。
しかし、あの「完全撤退」の決定は、米国が求めた駐留米兵への刑事免責の付与をイラク政府によって拒否されたことが方針決定の跳躍台になっていたことを思うと、イラク戦争によって米国が成し遂げたとするさまざまな成果も影が薄くなりそうだ。
イラクに続いて予定表に挙がってきたアフガニスタンからの米軍の撤退。撤退後は、米国の軍産複合体は自分たちの将来をどのように見ているのであろうか。もちろん、軍産複合体が自分たちの体制の将来に関してその本音を正直に述べてくれるとはとても思えない。たとえ何らかの形で表明があったとしても、それは美辞麗句を並べたもので、今までに聞きなれた文言の集積にしかならないのではないか。
当事者からの正直な説明が得られないとしたら、識者らが本件をどのように見つめているのか、どのように理解しているのかを学ぶしかなさそうだ。
ここに、興味深い記事 [1] がある。そのタイトルを直訳すると、「軍事予算を正当化できるような大きな敵を新たに探している米国」となろうか。
これは、連邦政府の軍事予算を確保するためには、つまり、過去10年以上にもわたってイラクやアフガニスタンで浪費してきた巨大な軍事費のレベルを温存させるためには、今年中に米軍の撤退が予定されているアフガニスタンに代わって、新たな大きな敵の存在が必要であると言っているのである。
われわれ一般人にとっては何とも恐ろしい話である。
ここに示された米国にとっての「新たな大きな敵」の存在が必要だとする米国の戦略を考えると、昨年の8月、米国政府がシリアを空爆するぞと言って、アサド政権を脅迫しようとした場面があったが、私に言わせると、仮にあのシリア空爆が実現したとしても、あれは産軍複合体にとっては規模が余りにも小さくて「お話にならない」ということになる。これが彼らの偽らざる心境だったのではないだろうか。
そこへウクライナの政治的真空状態が目の前に現れた。いや、「現れた」というだけでは十分な描写にはなり得ない。アフガニスタンからの撤退はかなり前から論じられていた筋書きであったことを考慮すると、アフガニスタンに代わって軍産複合体の懐を潤すような状況が突然ウクライナに現れたとはとても言えない。米国の大手の商業新聞はウクライナとロシアとの関係を新たな冷戦構造に見たてて、ロシア軍が明日にでもウクライナへ攻め込んで来るかのような報道振りである。その報道姿勢は軍産複合体のもっとも好ましいシナリオに沿ったものになっていると言えようか。たとえば、ロシアのラブロフ外相がウクライナとの国境には以前と同じように兵力としては2万人程度が配備されているだけだと言っても、米国のメデアは10万もの兵力が動員されたと報道している。いわゆる「プレステチュート」としての本領を発揮して、世論をひとつの方向へ導こうとしているようだ。
ウクライナに対する米国の画策は2004年の「オレンジ革命」の当時から進行していたという事実を見逃してはならないと思う。事実、その画策には国務省の下部組織や民間のNGOが長い間絡んでいたのである。この国務省の下部組織やNGOに関しては、310日に掲載したブログ「ウクライナでのNGO活動」を参照していただきたい。ウクライナでのそうした米国側の活動には莫大な資金が投入された。「くたばれ、EUめが!」と発言したことで有名になったヴィクトリア・ヌーランド国務次官補が言及したように、総額は「50億ドル」にも達している。
 

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それでは、上述した記事 [1] の仮翻訳を行い、読者の皆さんと共有してみたいと思う。 

<引用開始>
 

Photo-1: AFP Photo / Andrew Redington
 

政治分析を専門とするパトリック・ヘニッグセン氏はRTに対して次のように語った。 

「米国の年間国防予算が1兆ドルにも達し、ボーイング社のような超ド級の防衛関連企業のロビー活動が高まる中、これだけの大金の出費に関しては米国は世界中で新たな敵を具体的に作り出さなければならない。」 

RT: 米国人はクリミアに対してロシアが反応したスピードは驚くほどだったと言っていますが、あれはどうしてなんでしょうか? 
パトリック・へニッグセン (PH): 個人的には私はメデアが流す情報あるいはワシントンからの宣伝内容には疑ってかかるのが普通です。このウクライナ危機のような場合はことさらにそうです。もちろん、連中が居眠り運転をしていたとか、まったく無能であったというわけでもない限り、キエフ政府の危機的状況を念頭に入れると、少なくともクリミアでの住民投票の結果を予測することができなかったとする言い分はとても信じることができません。
この危機によってウクライナは二つに、あるいは、三つに分割されるかも知れない、と私はこの2月に言っていました。でも、国務省やCIAの経験豊富な諜報分析担当者たちは五つも六つもの違った筋書きをあれこれと検討していたのでしょう。あるいは、キエフ政権の交代にともなって採用される行為の結果生じてくる反応を見ようとしていたのかも。
連中がこれによって虚を突かれたとする説明はとても信じられません。ところが、これはワシントンDCのペンタゴンが考えている優先順位にはとてもうまく整合するんです。国防総省傘下の組織の予算を増加させ、本年見直しが実施される予定となっているペンタゴンや他の省庁の契約を増加さるには好都合なのです。
私は特に驚いてはいません。連中はそのような言明をしましたが、私の意見では、それは賢いやり方だとは言えませんね。 
RT: 米国政府は計算違いをしたのでしょうか?一体誰が、もしくは、何がロシアに関する米国の対外政策に影響を与えているのでしょうか? 
PH: 最近の歴史を見ると、少なくとも、最近の30年から40年間の米国を見ると、米国は自らが犯した過ちを決して認めようとはしません。自らが設定した政策が世界に対して否定的な影響を与えているといったことはこれっぽちも認めようとはしないのです。ですから、この件については決して驚いてはいませんが、今回の危機や対決を通じて、ロシアとの冷戦に再度火をつけることによって、途方もない程の金銭的利益を得ようとする日和見主義者がたくさんいるということだけは確かです。 
現在、新しい意図を持った米国は大きな敵を探しています。国防総省の予算を見れば分かりますが、この大きな敵の存在によって総額で年間1兆ドルにもなる軍事費を正当化しようとしているのです。これらの軍事費はとりもなおさずワシントンDCにおいては強力なロビー活動をしているさまざまな企業が関与する契約となるのです。彼らは政治的指導者に対して非常に大きな影響力を持っており、これが米国やワシントンDCで見られる政治システムの現状です。ですから、日和見主義者たちがメデアを通じて意思決定者の地位を獲得しようとしている姿やワシントンDCの政策決定者によって意思決定される対外政策を方向付けるようとして繰り広げられている企業側のロビー活動を見ても、特段驚くことではないでしょう。
 

Photo-2: クリミアの都市シンフェローポリの中央広場での祝賀会に詰めかける市民たち。
2014321日。 (Reuters) 

「クリミアの市民にとってはロシアへの編入を決心することは頭を煩わせることもなく、非常に容易いことだった」 

RT: ロシアへの編入についてあれほど多くのクリミアの市民が賛成票を投じたのは何故だと思いますか? 
PH: 今広く喧伝されているロシアは「腐敗し切った国家」であるとか「専制主義国家」であるといった一般的な反ロシア的な宣伝文句は取り敢えず脇へ置いて、まずはロシアでの選挙の様子を観察した国際査察団体に注目してみましょう。彼らは、選挙が透明性を保っており、非常によく運営されているとコメントしています。クリミアの市民の立場から見ると、頭を煩わせることもなくまったく容易い決断だったと言えましょう。彼らが立つ位置に自分自身を置いてみてください。そして北の方を眺めてみてください。そこにはすっかり不安定になってしまったキエフの姿があり、法の順守が否定され、腐敗した政府を目にすることでしょう。キエフで起こったことの結果としてウクライナでは経済が完全に崩壊してしまった事実を目にすることでしょう。こうして、非常に高い投票率が現実のものとなり、多数派による地滑り的な勝利へと繋がったのです。
全世界の誰をとっても、多分、同様の決断をしたのではないでしょうか。たとえば、ロンドンの政府がすっかり腐敗してしまったことから、北アイルランドの市民が何らかの政治的決断をしなければならないと仮定しましょう。北アイルランドの市民が住民投票を行うことができるとしたならば、もちろん、北アイルランドの市民は南側に加わることでしょう。自分たちの生活の安定や生命の安全を求めてアイルランド共和国へ加わることになるでしょう。つまり、より大きな視点に立ってこれを見ようとすれば、それほど大きく背伸びをしたとは言い切れないのではないでしょうか。
RT: クリミアにおける軍事施設の移行が非常に穏便に進められたという事実はどのように説明することができるのでしょうか?ご存知のように、キエフへ戻ると決断した兵士はほんの僅かで、ほとんどの兵士たちはロシア軍へ加わりました。
PH: クリミアでの軍の移行はそれほど驚くことではありません。と言うのは、ウクライナ軍とロシア軍との間には20年にも及ぶ協力関係、軍のトップから末端の兵士に至るまでの軍事協力の歴史があって、彼らは演習を一緒にやったり、作戦行動を共にしてきた仲です。さらには、それはソ連時代にまでも遡ります。クリミアではロシア軍の存在は何世紀にもなります。ですから、そのような視点から今回の出来事を眺めてみると、すべてがスムースに進んだこと自体は特に不思議なことではないでしょう。ウクライナ軍の兵士あるいはロシア軍の兵士が互いに発砲するという状況はとても考えられないと私は思っています。特に、最近の二十年間はお互いに親密で、友好的な協力関係を維持してきたのですから。
 

Photo-3: 2014330日、クリミアの都市シンフェローポリの鉄道広場で時刻の変更を
祝い合う市民たち (Reuters)
 

「米国の指導者にはイラク市民に対する敬意の念が欠如」

RT: オバマ大統領はどうしてイラクとクリミアとを比較したのでしょうか?これらのふたつの事例を実際に比較することは可能でしょうか?
PH: オバマ大統領が発したコメントはイラク市民の観点からは非常に悲しいコメントだと思います。あのようなコメントはイラク国家ならびにイラクの市民に対して米国政府が何らの敬意の念も持ち合わせてはいないという事実を示しています。一握りの米国の多国籍企業やペンタゴンが描いた筋書きのためにイラク市民が自分たちの血で、あるいは、文化や経済で支払うことになった代価に関しては彼らはすっかり忘れてしまっているようです。 
あのような声明、あのような明確な声明をするにしては、あれは現実に根ざしたものにはなっていないのです。イラクとクリミアとを比較することはできません。第一次湾岸戦争以降、どれほど多くの市民が殺害されたでしょうか?ある専門家の推計によりますと、二百万人にもなります。あのような類の比較を行うことは、私にとっては、知性的な観点からはあまりにも杜撰であり、米国が採用した中東政策の目的のために究極的な犠牲を払うことになったすべてのイラク市民に対する敬意の念に欠けていると思います。
RT: クリミアに関するモスクワ政府の意図は何だと考えますか?
PH: クリミアに関するロシア政府の外交を考えてみますと、皆さんが実際に話していることはモスクワ政府の外交についてであり、クリミア市民との対話や関係性をどうするのかといったことです。このことはこのクリミアという地域の歴史を見れば不思議ではありません。西側の多くの人たちはミカイル・ゴルバチョフは世界主義者、あるいは、国際主義者であると見ていますが、そのゴルバチョフはクリミアでの住民投票はソ連時代にニキータ・フルシチョフの下で成された古い間違いを修正することになったと述べています。あの間違いが修正され、クリミアはロシアの一部になるべきだったのです。市民たちは投票をし、事実声高に自分たちの意思を表明しました。その結果があのように表れたのです。
他にも数多くの国際的な批評家が賛意を示していると思います。国連が住民投票の結果を認識する投票を行わなかった事実には非常に失望しています。あの国 [訳注:ウクライナ] で市民たちが言っていること、ならびに、西側の論点によると、住民投票は憲法違反だとしています。しかし、端的に言えば、ウクライナ憲法は[選挙で選ばれた]キエフの政権が銃口を突き付けられ、政権の移行が行われたその瞬間にその存在を停止したのです。あの時点ですべての手立ては消えてしまったのです。今から数週間前にキエフで起こったことを考えると、クリミアでの住民投票はウクライナ憲法に違反するとの西側の論点はぜんぜん率直ではないと言えます。
このコラムに示す内容、物の見方ならびに意見はすべてが著者のものであって、必ずしもRTの意見を代表するものではありません。
<引用終了>

 

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パトリック・へニングセン 「21st Century Wire」と称するニュース専門のウェブサイトの設立者で、「Infowars.com というニュース・サイトの共同編集者も務めている。また、RTでは定期的に地政学的な分析に従事している。
要するに、このインタビュウ記事に登場するパトリック・へニングセンは商業新聞には飽き足らずに、調査報道に重点をおいたジャーナリストであることが分かる。
この引用記事でもっとも痛烈な批判となっているのは、ウクライナ憲法は[選挙で選ばれた]キエフ政権が銃口を突き付けられて政権の移行が行われたその瞬間にその存在を停止したのですという指摘ではないだろうか。西側が言うところの「クリミアでの住民投票はウクライナ憲法に違反する」という根拠は脆くも崩れていく。
そして、この引用記事の表題を見ると、かってリーガン大統領がソ連を評して「邪悪の帝国」と決めつけたが、そのまったく同じ言葉が、今、こだまとなって米国へ跳ね返ったきた感がする。この感慨は私だけのものではないだろう。何という歴史の皮肉であろうか。
 

参照:
1US looking for a major enemy to justify its defense spending: By RT, Mar/31/2014, http://on.rt.com/u7ta3p

 

 

3 件のコメント:

  1. 今回も素晴らしい記事をありがとうございます!こういった記事がどんどん広がり、戦争屋の陰謀が砕け散ることを願っています。

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    1. 八ノ宮様  コメントを有難うございます。まったく同感です。戦争屋の詭弁やメデイアの情報操作には最大限の警戒心を持つことが必要な時代に入ってきているような気がします。
      また、ゴルバチョフ元ソ連大統領の言葉も光っていますよね。歴史を真正面から捉え、より大きな観点から見た言葉に大きな重みのようなものを感じさせられました。

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    2. 八ノ宮様  もう一点付け加えておきたいと思います。米国のブッシュ大統領は戦争について日頃どんな思いを持っていたのか? その答えになりそうなエピソードを2012年10月11日付けのブログ「二人の大統領」で紹介しています。「産軍複合体」ではなく、「政産軍複合体」とでも言うべきかも…

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