2014年4月7日月曜日

ロシアとEUとを戦争に引っ張り込みたい米国の戦略


ウクライナではこの2月から3月にかけて数多くの出来事が次から次へと起こり、目まぐるしいほどであった。キエフの中枢にまでも迫った武装勢力による暴力を前にして、選挙で選ばれたウクライナの大統領ヤヌコヴィッチは国を去って、ロシアへ亡命した。そして、キエフには新政権が樹立された。この新政権の初仕事はロシア語を公用語から排除することであった。 

これを受けて、ロシア語系住民が過半数を占めるクリミア自治共和国ではウクライナからの分離ならびにロシアへの編入に関して住民投票が行われ、有権者の圧倒的多数が賛成票を投じた。ロシアへの編入の要請を受け、ロシア政府はクリミア共和国の編入に関して速やかに法的手続きを済ませた。 

そして、米国やEUはロシアに対する制裁を発表した。 

ウクライナの東部や南部にもロシア語系の住民が多い都市や地域がいくつもある。たとえば東部にはハリコフやドネツク、ドニエプロぺトロフスク、ルガンスク、等がある。そういった地域では反キエフと親キエフという二つの勢力の間で緊張が高まっている。一部には死者が出ていると報じられている。 

基本的に言って、ロシア語を公用語から排除すると、ロシア語系住民からは深刻な反感を買う事態になるだろうということは素人でも推測できることだ。 

一国を治めようとするならば、このような政策は政治的には不健全極まりないと考える筈だ。それでもなお、そうすることに踏み切ったということは、私の個人的な考えではあるが、キエフの新政権が考えていた方向性としては、ウクライナを纏めていくということは決して最優先目標ではなく、ウクライナを分裂させても構わない、ウクライナを分裂させてでも自分たちの目的を実現したいということであったに違いない。そして、もっと正確に言うと、それはキエフの新政権の考えというよりも、むしろ、その背後から操っていた黒幕の考えと言うべきであろう。 

それでは、その目的とは何だろうか?これが今日のブログのテーマだ。 

その目的を示唆する興味深い記事 [1] がある。この記事の著者はフィニアン・カニンガムという人で、数多くの国際政治に関する記事を執筆している。著者は1963年生まれで、元来は農芸化学の分野で修士号を取得し、英国のケンブリッジの英国王立化学協会で科学分野の編集者を務めていた。その後、ジャーナリズムの世界に転身した。 

 

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それでは、その記事を仮翻訳して、読者の皆さんと共有してみよう。
 

<引用開始>

大西洋の向こう側の枢軸国に対してワシントン政府が覇権を維持するためには、米国はヨーロッパをロシアと戦わせる用意がある。週の始めに、彼はわれわれに言った。「要は、ロシアとヨーロッパが通商や政治の面でより近しい関係を築くことを何とか防止することだ」と。第一にはエネルギー用燃料の膨大な取り引きのことであり、第二には米ドルが世界の基軸通貨として生き残れるかどうかという問題だ。
これらは米国の覇権にとっては死活的な問題であって、ワシントン政府はたとえロシアとヨーロッパの「同盟国」との間の戦争で何百万人もの死者が出ようともそれを厭わないだけの準備ができている。
この驚くべき新事実はNATO軍の前ヨーロッパ司令官の発言である。NSNBCインターナショナルのニュースと分析を主としたウェブサイトの編集者であるクリストフ・リーマンによると、このヨーロッパ側の将官は非公式の会合で米国側の同僚たちからこの重苦しい警告を伝えられたという。
このヨーロッパ軍司令官は、すでに退役の身ではあるが、後にこの情報をリーマンに打ち明けた。ウクライナを巡るロシアと西側諸国との間に生じている緊張はまさにこの米国からの脅しと辻褄がよく合っている。 
初期の脅かしは1980年代に表面化したが、ヨーロッパで戦争を引き起こすとする米国の政策はそれ以降において変更されたのではないかと疑う理由は何もないのである。何故かと言うと、米国の好戦的な論理を支える戦略的な根拠は今もなお依然として同じままであるからだ。ウクライナで最近起こった諸々の出来事はワシントンの破壊的な陰謀が依然として生き長らえていることを示している。
リーマンはこう述べた。1980年代の始め、NATO軍トップのヨーロッパの某提督は彼に「ペンタゴンの米国側の同僚たちは、もしもヨーロッパとロシア(当時はソ連だが)とが親密な関係を築こうとするならば、米英両国は新たに欧州戦争を引き起こすことは何ら厭わない」と明白に言った。 
米国側の論理的根拠の中核はエネルギー用の燃料であった。そして、今もなお、その中核となっている。ワシントンとしてはヨーロッパとロシアが経済や社会の発展に繋がり、死活的に非常に重要な石油や天然ガスの貿易を通じてお互いに統合することは決して望んではいないのである。
米国主導の西側と前ソ連との間の冷戦の終結以降20年余り、ヨーロッパとロシアは経済面での連携を実現してきた。これは主としてロシアからの膨大な量の石油や天然ガスの輸出によるものだ。ヨーロッパとロシア間の相互の貿易額は年間1兆ドルを大きく越し、米国とロシア間のそれに比べると10倍にも達する。
ロシアからの輸出量はヨーロッパ諸国の炭化水素系燃料の消費量の約1/3を占める。ヨーロッパの経済大国であるドイツにおいては、その数値は40パーセントにもなる。「ノース・ストリーム」や建設工事が進められている「サウス・ストリーム」の両パイプラインによって、ヨーロッパの主要なエネルギー供給源としてのロシアの役割は今後の数十年間さらに増加することになろう。
リーマンはさらに次の言葉を付け加えた。「西側の枢軸国に対して君臨する米国の立場はヨーロッパとロシアとの間の経済的連携が拡大することによって脅かされる。冷戦の終結以降、ドイツやチェコ共和国はロシアと経済面や他の分野で関係を密にした。両国はオーストリアやイタリアと共にモスクワとの連携をさらに強めようとしている。」
この傾向はワシントンにとっては常に戦略的には危険視されていた。1945年から1990年までの冷戦はヨーロッパとロシアとが自然に貿易面で統合されることを防ぐ防波堤として意識的に引き起こされたものだ。何しろ、ロシアは並外れたエネルギー資源国であり、陸続きの隣国であるのだから自然の結びつきは避けられそうにもない。
米国にとっての戦略的な危険性はふたつの要素からなっている。第一に、モスクワとヨーロッパとの近しい関係はNATOにおける米国の役割についての論理的根拠を弱め、それによってヨーロッパにおける米国の政治的影響力を弱めることになる。第二には、ヨーロッパ・ロシア間のエネルギー貿易は世界の基軸通貨としての米国の役割を危うくする。世界でも有数の市場においてその為替制度がユーロ・ルーブルに変更されることは避けられないかも知れず、そのような状況が起こると、世界における金融覇権国としての米国の役割が終焉することを意味する。さらには、借金漬けとなっている米国経済の終焉にも繋がることだろう。
米国経済は破産の瀬戸際にあり、負債総額は17兆ドルにも達して、悪化の一途を辿っている。米国の破産や社会的な内部崩壊は成り行き次第である。しかし、今のところは、そういった事態は燃料の国際貿易で標準通貨としてドルを使用し続けることによって先へ先へと延期され、健全な国家がそうするであろう基準よりも遥かに多くのドル札を米国の連邦準備銀行が印刷し続けることを許す魔法の道具と化しているのである。
リーマンはこう言った。「ロシア・ヨーロッパ間の連携の強化は今後25年以内には政治的にも、文化的にも、経済的にも米国を孤立化させることだろう。これは軍事的にもロシアや中国を戦略的に囲い込むという点においても米国を一層孤立化させることを意味する。ドルは崩壊するだろう。」
重要な注釈として、狡猾な英国の役割にも注目してみよう。NATO軍のヨーロッパ司令官が明らかにしたように、英国はヨーロッパに関する米国の戦争計画に賛同している。なぜそうなのかと言うと、リーマンに言わせると、「ひとつの理由としては、英米両国の資本主義における歴史的な相互依存性から来るものであり、大西洋を挟んだ枢軸が弱体化すると、ドイツやフランスに対する英国自身の影響力が著しく喪失することになり、英国はそれを何とか防止したいからである。」
以上がワシントンがウクライナでの最近の出来事に関して危機的な状況を作り出す道を敢えて選択したことの背景である。米国はウクライナにおける政権の移譲を扇動する上で重要な役割を演じ、これによってキエフでは選挙を伴わない傀儡政権を樹立した。このことはロシアに深刻な脅威を与えている。
キエフの扇動政治家らは大ぴらにテロリズムを扇動し、ロシアに対する集団的殺戮を煽り立てるような発言をし、さらにはロシアとの国境沿いに米国製ミサイルを設置しようとしている。
これは大失敗で、モスクワとヨーロッパ諸国との間には冷戦の終結以降では最悪の危機を招いている。核装備をした国家間での戦争の可能性は今や低下したとは言え、壊滅的な結果を導く危険性は残されている。
この週末[訳注:これは330日の日曜日]、ロシア外相のセルゲイ・ラブロフは相手先である米国のジョン・ケリー国務長官とパリで緊急会談をした。すでに報告されているように、ケリーはロシアと西側との間の「緊張を和らげる」ために会談をしている。しかし、現実には、米国は、自分たちの利己的な戦略のために、この衝突をさらに発展させるためにありとあらゆることを行っている。特に、ロシアとヨーロッパとの間で事を大きくさせるためにあらゆることを行っているのである。その内容としては、ワシントンの放火魔にとって必要であるならばヨーロッパにおける全面戦争の口火を切ることさえもが含まれているのだ。

<引用終了> 

 

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何ともおどろおどろしい話である。現実は醜悪な側面を示すことが実に多い。これもその例外ではないようだ。 

一国の戦略、特に覇権国の戦略がどこまで利己的になれるのかということを知りたい向きには、この記事が言わんとしていることは格好の材料となるに違いない。世界をリードすると自負している国々の政策決定者にはどこかに良心や自制心が少しでも残っていることを願うばかりである。洋の東西を問わず、歴史を見ると明らかなように、一握りの政策決定者の間違った判断の結果もっとも大きな影響を受けるのは決まってわれわれ一般人である。 

そして、われわれ一般人にとっての最後の切り札は、われわれが身を置いている民主主義体制の国家においては一国の指導者を選ぶ権利を与えられているという点だ。そして、それを行使するのはわれわれ選挙民自身であることを忘れてはならない。 

 

参照: 

1: US War Plan for Europe and Russia: By Finian Cunningham, "Information Clearing House - "Press TV", Mar/31/2014

 

 

 

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