副題: 私はすっかり混乱してしまった。どなたか助けてくれませんか?
国際政治の舞台で頻繁に見られるダブルスタンダードについて非常に興味深い記事 [注1] が見つかった。もっと正確に言えば、これは世界の覇権国として君臨する米国ならびにその同盟国が見せるダブルスタンダードに対する歯に衣を着せない、痛烈な批判でもある。
早速、その記事を皆さんと共有したいと思う。
<引用開始>
Photo-1: ウクライナ東部のルハンシク(ロシア語ではルガンスク)市にある州の保安庁の庁舎が反政府派デモの参加者に占拠された。その建物の前で旗を振るデモの参加者。2013年4月14日。(Reuters / Shamil
Zhumatov)
私はすっかり混乱してしまった。何週間か前、西側に住んでいる私たちはウクライナ政府のビルを占拠した連中は非常に正しい人たちだと教えられた。これらの人たちは民主主義を標榜して反政府運動を行っているのだ、とわれわれの政治家や主要メデイアの批評家たちから聞かされた。
米国政府はウクライナ政府に警告を発して、「これらの反政府運動の参加者に対しては武力を使うな」と言った。われわれが見た写真によるとその一部はネオナチであるのだが、たとえそうであってもだ。彼らは警官に向かって火炎瓶などを投げつけ、像を破壊したり建物に放火したりした。それから数週間後、今、われわれはウクライナの東部でウクライナ政府のビルを占拠しているのは民主主義を標榜する反政府派ではなくて、テロリストまたは過激派であると教えられた。
ウクライナ政府のビルの占拠はこの1月には正しいことであったが、4月になったらそれは非常に悪質な行為となった。これは何故だろうか。政府が反政府デモ隊に対して武力を行使することは1月にはまったく受けいれらなかったが、今は受け入れられるとでも言うのだろうか?これは何故だろうか?もう一度繰り返して言いたい。私はすっかり混乱してしまった。どなたか助けてくれませんか?
Photo-2: 親ロシアの活動家たちがウクライナ東部のルガンスク(ロシア語ではルガンスク)市にある保安庁の屋外に集結。2013年4月14日。 (AFP Photo /
Dimitar Dilkoff)
この冬ウクライナの反政府運動の参加者たちの様子を見るために何人もの西側の著名な政治家がウクライナへやってきた。たとえば、米国上院議員のジョン・マケインや米国国務省のヴィクトリア・ヌーランド。ヌーランドはデモの参加者にクッキーの差し入れをした。しかし、最近の数週間、西ヨーロッパの多くの国ではかなり大規模な反政府デモが起こった。これらのデモにはそういった著名な政治家や西側諸国のメデイアの批評家からは何の応援もなかった。米国国務省の高官からはデモの参加者に対して何の差し入れもなかった。
もし彼らがヨーロッパにおける反政府運動に非常に熱心であり、デモの参加者を「民主主義」の真の具現者として賞賛するのであるならば、マケインやヌーランドはマドリッドやローマ、アテネならびにパリで行われたデモの参加者に対してもきっと共感を示したのではないだろうか。私はすっかり混乱してしまった。どなたか助けてくれませんか?
Photo-3: 反政府デモのためにマドリッドのスペイン議会の建物の前に集まった千人もの群衆 (AFP Photo /
Javier Soriano)
数週間前、米国国務長官のジョン・ケリーとのインタビューを観た。そこでは、ジョン・ケリーは「自分の利益を強く主張するために嘘で固められた口実のもとで他国へ侵入するようなことはするべきではない」と言った。しかし、これは正に過去20年程にわたって1度ならず何回も米国自身がやってきたことではないのか。
私は「イラクは大量破壊兵器を所有している」という言葉を間違って記憶しているのだろうか?2002年から2003年の始めにかけて、政治家やネオコン志向の評論家が毎日のようにテレビに現れ、サダム・フセインの破壊的な武器による脅威を受けており、この脅威を排除するためにはイラクに侵攻しなければならない、と私たち庶民は教えられた。私は、今、あの頃のことを夢に見ているのだろうか?クリミアで行われた民主的な住民投票やロシアへ帰属するべきかどうかという投票がどうしてあの残酷で流血沙汰となったイラクへの侵攻よりも悪質だと言うのだろうか?
あのイラク侵攻では百万人もの犠牲者を出した。私はすっかり混乱してしまった。どなたか助けてくれませんか?
Photo-4: AFP Photo
/ Pool / Mario Tama
私たちはすこぶる真面目そうな顔をした西側の政治家やメデイアの「専門家」たちによってクリミアで行われた住民投票は「軍隊の占拠」の下で行われたからあの住民投票は無効であると教えられた。しかし、私はアフガニスタンでの総選挙の様子を観ていたばかりだ。アフガニスタンは今大規模な軍事的占領下にあるが、あの総選挙に関してはNATO事務総長のアナス・フォー・ラスムッセンといった西側の大物政治家たちは「アフガニスタンにとって歴史的な出来事」であると言い、「民主主義」の偉大な成果であるとして賞賛を惜しまなかった。何故クリミアの住民投票が否定され、アフガニスタンでの総選挙は祝福を受けるのだろうか?私はすっかり混乱してしまった。どなたか助けてくれませんか?
Photo-5: ガズニにおける投票所で並んで投票を待つアフガニスタンの住民と、それを監視するアフガニスタンの警察官。2014年4月5日。 (AFP Photo /
Rahmatullah Alizadah)
シリアについても不可解だ。イスラム系の過激派グループはわれわれの平和や安全保障の脅威であり、西側の暮らしにとっては最大級の脅威になるとわれわれは言われてきたし、今もそう言われている。アルカエダやそれと同類の過激派グループは根絶する必要があり、彼らに対しては容赦のない「テロ戦争」を遂行しなければならないと教えられた。それにもかかわらず、シリアではわれわれの指導者たちはキリスト教徒を含む諸々の宗教上の少数派の権利を尊重している非宗教的な政府に対する戦争行為に加担してきた。
アルカエダやそのシンパがシリアで爆弾を爆発させ、無実の市民が殺戮されても、われわれの指導者からは非難の声を聞くことがない。彼らが非難する相手はイスラム系の過激派と闘っている非宗教的なシリア政府なのである。われわれの指導者やメデイアのエリート評論家は何としてでもシリア政権を転覆させたいと思っているのだ。私はすっかり混乱してしまった。どなたか助けてくれませんか?
Photo-6: AFP Photo
/ Amr Radwan Al-Homsi
そして、同性愛者の人権問題がある。われわれはロシアという国は悪辣で後ろ向きだと聞かされた。何故なら、ロシアは未成年者に同性愛を勧めることを禁じる法律を制定したからだと。それにもかかわらず、この法律を理由にソチ冬季オリンピックへの出席を拒否したわれわれの指導者は湾岸諸国を訪問し、そこでは支配者たちを暖かく抱擁した。しかし、同性愛者の人権問題については何も言及しなかった。これらの湾岸諸国では同性愛者は刑務所へ送られ、処刑の可能性さえあるのだ。
同性愛者を刑務所へ送り込み、処刑さえもしかねないという現実は同性愛を未成年者に勧めることよりも比べようもない程に悪辣ではないか。もし純粋に同性愛者の人権について心を痛めているのであるとすれば、われわれの指導者にとってロシアを非難するけれども同性愛者を刑務所へ送り込み処刑さえもしかねない国は非難しないということが一体あり得るのだろうか?私はすっかり混乱してしまった。どなたか助けてくれませんか?
Photo-7: オバマ米国大統領がサウジアラビアのアブドラー・ビン・アブドウルアズイーズ国王と握手。 (AFP Photo / Saul
Loeb)
無数の新聞を通じてわれわれはハンガリーの超国粋主義の「ヨビック党」は非常に悪質であると聞かされ、まだ政府の中にその地位を固めたわけでもなく、そのような恐れがないにもかかわらず、同党の躍進は大きな懸念になるとわれわれは教えられた。しかし、ウクライナの新政権ではネオナチや極右派の勢力が閣僚の地位を得た。この2月、民主的に選出されたウクライナ政府が転覆された際、西側のわれわれの指導者はその政権移譲に重要な役割を演じたネオナチや極右派を熱烈に応援した。これは「革命」だとして西側の応援を受けたのだ。どうして超国粋主義や極右派がハンガリーでは否定され、ウクライナでは受け入れられるのだろうか?私はすっかり混乱してしまった。どなたか助けてくれませんか?
Photo-8: 極右派政党の「ヨビック党」党首、ガボール・ヴォナが同等のメンバーと共に議会選挙結果に反応。ブダペスト議会センターにて、2014年4月6日。 (AFP Photo /
Peter Kohalmi)
ロシアは攻撃的な帝国主義国家であり、NATOの関心事はロシアの「脅威」に対して如何に対抗するのかという点にあるとわれわれは教えられた。先日私は地図を広げてみた。ロシアに近接する(ならびに、国境を接する)多くの国がNATOのメンバーであり、それらのNATOのメンバーである多くの国は米国主導の軍事同盟国家として過去15年間にわたって数多くの国々を爆撃し、侵略してきた。しかし、米国の近隣諸国にはロシアと軍事同盟を構成する国は見当たらないし、米国の近辺や米国との国境線を有する国にはロシアの軍事基地やミサイルを配備しているような状況はまったく見当たらないのだ。それにもかかわらず、ロシアは「攻撃的」であるとわれわれは教えられた。私はすっかり混乱してしまった。どなたか助けてくれませんか?
ここに示された論評、見解、および意見は著者独自のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではありません。
<引用終了>
この記事の著者、ニール・クラークは2007年に英国でベスト・ブログ賞を与えられたジャーナリストである。数多くの新聞に寄稿している。興味のある方はneilclark66.blogspot.com/を覗いていただきたい。ここに引用した記事には英国人らしい皮肉を込めた語り口が見られ、面白い。
覇権国の立場は、常に、自分が行うことは正義であるとする。覇権国の意思や政策に逆らうような他国の行動は、多くの場合、国際法によって罰しなければならないと決めつけられてしまうのが落ちだ。国際法は他国から覇権国の利益を最大限引き出すために存在する。
今、日本政府が米国との間で譲歩に次ぐ譲歩を強いられているTPP交渉を例に挙げるまでもなく、覇権国の傲岸さは嫌と言うほど私たち日本人は見せつけられている。経済交渉では流血沙汰にはならないことがせめてもの救いではあるのだが、ロシアとEUとの間では戦争が始まるのかも知れない。もし戦争が起こったとしたら、その戦争は米国のための代理戦争である。
それこそが米国の究極的な政治目標であるとの見方が最近各方面から出始めている。何とも恐ろしい話である。
衣の下の鎧が見え始めたということかも知れない。
参照:
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