2023年5月6日土曜日

クレムリンに対するドローン攻撃についてのスコット・リッターの見解 ― これでゼレンスキー政権は格好の攻撃目標となった

 

53日未明、クレムリンは2機のドローンによる攻撃を受けた。だが、対空防衛システムがこれを阻止した。ドローンの残骸はクレムリンの敷地内に落下したが、人的な被害はなかったという。そもそも、当時、プーチンはクレムリンには居なかったそうだ。目下、ロシア側はこの出来事を捜査中である。

現時点では事実として報じられている情報はまだ少ない。米国の元諜報専門家であるスコット・リッターはロシア・ウクライナ戦争に関して極めて第三者的な解析を行い、その解析結果を何回も公開して来たが、彼の解析の正確さには定評がある。彼の最近の見解は「クレムリンに対するドローン攻撃についてのスコット・リッターの見解 ― これでゼレンスキー政権は格好の攻撃目標となった」と題された最近の記事(注1)に報じられている。この出来事の背景が述べられており、われわれ素人がロシア・ウクライナ戦争について少しでも理解を深めたいと思う時、この記事は非常に有用である。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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Photo-1© AFP 2023 / NATALIA KOLESNIKOVA

クレムリンは水曜日(53日)の未明に爆発物が搭載された2機のドローンに攻撃されたが、これらのドローンは大きな損害を与える前に対ドローン防御システムによって撃墜された。クレムリンはキエフ政府がウラジーミル・プーチン大統領を暗殺しようとしたとして非難。スコット・リッターは状況を展望し、米国がこの種の挑発に関してどのように対応しているのかについて論評した。

ワシントンとキエフの当局者らは水曜日に行われたクレムリンに対するドローン攻撃へのいかなる関与さえも否定することで同調した。「われわれはウラジーミル・プーチンやモスクワを攻撃しない。われわれは自分たちの領土で戦っている。われわれは村や都市を防衛している」とフィンランドの訪問中にあるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は水曜日に表明した。

「私は米国による関与はなかったことを保証することができる。たとえそれが何であろうとも、われわれは関与してはいなかった」とホワイトハウス国家安全保障会議の報道官であるジョン・カービーが口を挟んだ。「われわれは個々の指導者への攻撃を支持したり、奨励したりはしない」と同報道官は言った。

ロシア政府は異なる見解を持っている。クレムリンの報道官であるドミトリー・ペシコフは、木曜日(54日)、モスクワは「このような行動、このようなテロ攻撃をすることを決定したのはキエフではなく、むしろ、ワシントンであることを非常によく知っている」と述べた。

「このような決定、攻撃目標の決定、攻撃手段の決定、等、はすべてがワシントンによってキエフに指示されている」とペシコフが述べた。

捜査官たちはこの事件について刑事訴訟を開始し、モスクワ政府は自分たちが選択した時と場所において同種のやり方で報復すると約束した。

「この件を大局的な視点から眺めて見よう。もしも米国に対して戦闘を行っている敵国がホワイトハウスは格好の攻撃目標であると公言し、後にホワイトハウスが二機のドローンによって攻撃されたと仮定するならば、われわれは次のような事柄を推論することができると思う。つまり、(a)この攻撃の背後にはホワイトハウスを攻撃すると公言していた敵の勢力が居り、(b)この攻撃を行った勢力の責任を米国が全面的に問う事は正当化できるであろう」と米海兵隊で諜報専門家であったスコット・リッターがスプートニク通信社に語った。

遅かれ早かれ、ロシアは調査を完了し、どのような種類のドローンが使用されたのか、どのような種類の誘導システムが搭載されていたのか、ドローン攻撃の責任者は誰か、等を確実に特定することであろうと彼は述べている。

関連記事:Kiev Faces Most Intensive Air Attacks Since Start of 2023 on Wednesday Night - Authorities, May/04/2023

「しかし、当面、ウクライナまたはウクライナの代理人がこの事件の背後にいて、ウクライナ政府の完全な知識と許可を得て実行したのだとほとんど断定的に言ったとしても極めて安全だと思う。言い換えると、ウクライナ政府は、今や、ロシアの報復の正当な標的となった」とリッターは述べている。

ワシントンはこの攻撃について事前に知っており、この攻撃を直接承認し、それについて知っていながらも攻撃の実行を未然に防ぐための努力は何もしなかったのではないか、とリッターは疑っている。

この観察者は、このエスカレーションと挑発はウォロディミル・ゼレンスキー大統領が「ならず者になり」、非論理的なことを実行し、西側のキエフの常連客の希望に反することを始めた兆候であるとする考えは退けた。

「ゼレンスキーがならず者になったわけではない。ゼレンスキーはこの危機をエスカレーションさせて、ロシアが軍事的優位性の観点において現在享受している快適ゾーンからロシアを排除し、F-16戦闘機などのより多くの装備を入手し、あるいは、NATOの積極的な関与を得る可能性によってこの紛争を再定義させようとしている。いずれにせよ、ウクライナは、何かが起こらない限り、この紛争で敗退するであろうと理解している」とリッターは強調した。

バイデン政権の行動についてリッターは次のように指摘。ウクライナ危機全体の米国の政策は一貫して紛争を「エスカレート」させ、「この紛争を拡大し、彼らが表明している最終的な目標はロシアを戦略的に敗北させることにあるのだから、この紛争を長引かせることだ。それに伴ってロシアとロシア軍は甚大な苦痛を被り、ロシアはウクライナ侵攻、つまり、20222月の特別軍事作戦の開始のような事態は二度と繰り返さないであろう。」

関連記事:Attempted Drone Attack on Russian President Putin, May/04/2923

証拠として、リッターは今週ワシントン政府が発表したキエフに対する3億ドルの追加直接軍事援助を指摘している。これはウクライナの春季大攻勢を促進するために設計されており、その究極の目標は「ロシアに痛みと苦しみをもたらし、うまくいけばロシアの戦略的敗北を達成すること」にある。

「これは重大な誤算であったのかどうかを調べてみたい。なぜならば、このエスカレーションを始めた理由に戻ってみる必要があるからだ。つまり、2機のドローンがクレムリンを攻撃したことについてだ。仮に2機のドローンがホワイトハウスを攻撃した場合、その攻撃を実行した連中は消される。おそらく、ゼレンスキー政権の未来はまさにそのような状況だ」とリッターは要約する。

クレムリンに対するドローン攻撃とウクライナ紛争への影響に関するスコット・リッターの独占分析の詳細についてはこちらのテレグラム投稿をご覧いただきたい。

***

これで全文の仮訳が終了した。

米海兵隊において諜報部門の専門家であったスコット・リッターはロシア・ウクライナ戦争は米国による対ロ代理戦争であるとはっきり述べている。クレムリンに対するドローン攻撃は、たとえゼレンスキーや米国の高官がそれを否定したとしても、米国が発案し、ウクライナに実行させたのではないかとスコット・リッターは推論しているのである。

素人である私から見ても、米国はウクライナに対する軍事援助や財政支援において断トツの存在であることを考えると、彼の見方は極めて妥当であると思える。ましてや、ウクライナが戦争を遂行している財源はほとんどが米国からの支援に頼っている現状を考えると、今回のドローン攻撃についての第二の可能性なんてほとんどあり得ない。

ロシアと戦うウクライナに対する西側の支援を見ると、支援の内容はさまざまな分野に分かれているが、最近もっとも関心を呼んだのは西側による戦車の供与であろう。米国はアブラム戦車を、ドイツはレオパルド戦車を、英国はチャレンジャー戦車を供与すると宣言し、そういった政府の決断はメディアであれこれと報じられた。そして、今や、その一部はすでにウクライナの戦場へ配備されているという。また、対空ミサイルシステム、レーダーシステム、装甲兵員輸送車、携帯型対戦車砲、砲弾、ミサイル、ドローン、兵員の訓練、兵站、等が供与されている。

ミサイル攻撃は目に付きやすいせいか、ウクライナあるいはロシアによる攻撃を問わず、メディアが報じている。今や、西側は戦闘機の供与さえも議論している。

大きな構図で見ると、もっとも大きな支援は米国とEUからの財政支援だ。この財政支援がないと、ウクライナ政府は公務員への給与さえも支払えない。武器の供与や戦場における効果は極めて目に付きやすいが、われわれ一般庶民にとっては財政支援は具体的に掴みにくい。

「ウクライナ支援追跡」データによると、トップファイブの各国政府による過去13ヵ月間のウクライナへの支援は下記のようである。その内容は軍事支援、人道支援、および、財政支援の三分野に分かれる。これらの数値は政府間援助だけであって、個人からの支援や国際赤十字社からの支援を含まない。

出典:Ukraine Support Tracker

期間:Jan/24/2022~Feb/24/2023

単位:億米ドル

 

軍事支援

人道支援

財政支援

合計

米国

431.9

36.3

244.6

712.8

EU

36.0

16.1

303.2

355.3

英国

66.3

2.5

29.4

98.2

ドイツ

35.7

25.0

13.0

73.7

日本

-

5.7

56.6

62.3

そして、ウクライナに対する米国による財政支援は今も続いている。

今後、これらの支援がどれだけ長く継続されるのかは不明だ。少なくとも、ロシア・ウクライナ戦争は、スコット・リッターが述べているように、ウクライナの国土を使った米国による対ロ代理戦争であることは明白だ。つまり、ロシア・ウクライナ戦争がどれだけ長く続くのかは多分に米政府の意向次第である。英国を始めとする西側の同盟諸国は、幸か不幸か、米国の政策に従属しているだけで、対ロ代理戦争に付き合わされているのが実状である。同盟国の政治家たちはこの従属を民主主義のための同盟、あるいは、価値観の共有と呼ぶ。

米国が対ロ代理戦争から手を引くと決断するのは、恐らく、米国が核攻撃を受ける可能性が一段と高まった場合だけに限られるのではないだろうか。これはかってのキューバ危機の際の米政府の心理状態に近い。そういった状況には至らない通常兵器による戦争の場合、過去の歴史が繰り返して示しているように、戦争遂行によって軍産複合体が手にする利益の拡大こそがこの対ロ代理戦争の動機であると言えよう。

米国が対ロ代理戦争において核戦争をも辞さないと決断したとしたら、それはもう理性を完全に超えた、狂気の決断である。

また、クレムリンの反応を見ると、報道官のドミトリー・ペシコフはクレムリンへのドローン攻撃の責任について「この種の攻撃に関する決定はキエフではなく、ワシントンで行われている」と述べた。「ワシントンは、私たちがこのことを知っている事実を明確に理解する必要がある」と同報道官は木曜日(54日)に記者団に語っている。

最期にひとつだけ付け加えておきたいことがある。スコット・リッターと並んで、米CIAの元職員であったラリー・ジョンソンも二基のドローン攻撃に関して次のように論評している:「このドローン攻撃はワシントン政府のウクライナ政策が自由落下の状態にあることを示している。」(原典:Former CIA Officer Reveals Possible Motive Behind Kremlin Drone Attack: By Ilya Tsukanov, Sputnik, May/04/2023

 

参照:

1Scott Ritter on Kremlin Strike: 'Zelensky Gov Now a Legitimate Target': By Ilya Tsukanov, Sputnik, May/04/2023

 

 


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