2023年5月2日火曜日

旧ソ連邦の崩壊を見ることができなかったならば、英国へ来て、その再来を見るがいい

 

欧州の世界は、今、崩壊が始まっているかのように見える。

2020年に新型コロナの大流行が始まり、都市閉鎖が行われ、自宅からのオンライン勤務となった。多くの労働者が職を失い、多くの中小企業が倒産したことから、社会は全体として貧困化していった。それに追い打ちをかけるようにして、ロシア・ウクライナ戦争の勃発に伴って、西側が発動した対ロ経済制裁はロシア経済を弱体化させることが目標であったにもかかわらず、自国の資源には限界がある西側各国はブーメラン現象によって予想もしなかった程の経済的打撃を被った。特に、ノルドストリーム・パイプラインが破壊工作を受け、ロシア産の天然ガスや原油の輸入を禁じたEUの対ロ経済制裁は20222023年の冬に向けて、欧州各国にエネルギーコストの高騰や物価の上昇をもたらした。

ここに「旧ソ連邦の崩壊を見ることができなかったならば、英国へ来て、その再来を見るがいい」と題された最近の記事がある(注1)。極めて刺激的な表題である。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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今日、東側諸国の崩壊が実際にどのようにして起こったのかをはっきりと覚えている人はほとんどいない。西側においては、そのシステムは非常に厳しく管理されているため、難攻不落であるというのが一般的な認識であった。古いスローガンを聞く限りにおいては、彼らの共産主義は健在であると西側の人々に確信させた。そして、それを目にする限りにおいても、以前にも増して邪悪であると確信させるのであった。

実際の共産主義国における現状認識は異なっていた。党がどれほど深く浸透していても、スローガンを聞いた人々が増えれば増えるほど、彼らはそれを信じなくなっていった。共産主義の活動家であってさえも彼らが言っていることはあまり信じてはおらず、人々を助けるのではなく、権力を獲得し、維持することがすべてであるということを知っていた。一般庶民はこの宇宙には住んではいない。ましてや、この同じ惑星には住んではいないのである。

ミハイル・ゴルバチョフを覚えているかい?彼の全盛時代には彼はルーズベルトやビスマルクと同等の政治家と見なされていた。彼はすでにソビエトシステムを自由化し、現実世界により敏感に反応するようにしたことによって、著名人のひとりとして彼の名前を刻み込んだ。だが、今は、われわれは違った考え方をし、彼は世間知らずであったか、反対側のために働いていたか、あるいは、その両方であったのではないかと理解している。

今日、彼はほとんど見過ごされ、忘れられている。なぜならば、真逆が真実であるからだ。つまり、彼は無視することができない現実の脅迫的な状況に対して余りにもゆっくりと対応していた。彼は自分自身の喉を切らずにそれに適応することはできなかったので、それは最終的に彼自身を一掃することになった。

真逆が真実:

数年にわたって、私は、米国がかつてソ連邦が行っていたのと同じように振る舞っていることから、実際にはソ連邦が冷戦に勝ったのだとこのNEOジャーナルで主張して来た。米国の同盟国はしばしばこのような傾向には抵抗しようとした。だが、ソ連邦の要点を理解してはいないこれらの同盟国は、まさにロシアのごく普通のアレクサンドラ・イワノワがそうであったように、食べて行かなければならなかったし、彼らは共存しなければならなかった。彼らは自分たちが望むものを手に入れるのは良いことだといった振りをしなければならなかったのだ。

あなたがこのような声明を出す際には、それは広く受け入れられている認識とは非常に異なっており、さまざまな出来事があなたが正しいことを証明してくれるであろうことをあなたはいつも期待する。だが、米国では毎日がそんな状況にあるので、まったく問題ではない。

しかしながら、歴史に委ねられる直前にあった旧ソビエト諸国がどのようなものであったのかをより正しく理解したいならば、大西洋のこちら側に注目する必要があろう。民主主義と真実の唯一の守護神であると主張する米国に人々がうんざりした時、しばしば、古い民主主義を誰もが文明の価値観の好例と見なした。そして、これらの国々の中でも、特にこのひとつの国を。

彼らの国の政治がどんなものであれ、クリケットの本拠地である英国、議会制や君主制が世界中の羨望の的となり、憲法は書き留める必要がないほど実効性を見せつけていた英国が旧ソ連邦崩壊の現代版になる日が来るとは誰も思ってはいなかった。与党における粛清、望ましくはない数々のスローガンを根絶するための有権者に対する規制、等々、そこにはまったく同様の要素が観察される。

しかし、これらの要素は、最後の日々だけではなく、共産主義を経験した全期間をも定義していた。英国がまさにそれらの最後の日々を反映していると言える理由は、何が現実であるのかを誰でもが見定めることができるからであり、現実は劣悪であるという点にもあるが、指導者らはそれには関係なくバタバタと動き回り、歴史や裁判所が最初にそこに辿り着く前に地球が彼らを飲み込んでしまうのを無為に待っているだけなのである。

行動とその反動:

現在の英国政府はブレグジットを成し遂げるというひとつの単純な公約に基づいて選出された。それに投票した人々にとってこれが何を意味するのかと言うと、それは国外であろうと国内であろうとも政治家から国を奪い返し、人々にそれを還元することであった。

1917年と同じように、排除されていた人々は自分たちの本当の代表者を通して支配するであろう。代表者たちは一般大衆に耳を傾け、彼らのために入札を行った。彼らは、もはや、腐敗したエリートによって支えられた国外の陰謀者からの最新流行の考えには同意をしなかったので、彼らは悪人であると名指しされることはなかった。

誰もが職に就くことを望んだことであろう。彼らは以前のように自分の家を買う余裕があり、より安い食料と公共料金を謳歌し、そして、より明るい未来を期待し、新たに(EUから)解放された国家は独立心を発揮し、同国を侵略し正直な市民を吸い取ってしまう外国人のすべてを救済する必要なんてないのだ。

それはどれもが非常に上手く行くが、ふたつの事柄が一緒に進行しなければならない。あなたがそこにおり、高貴な考えを支持したにもかかわらず約束された利益が見当たらない場合、問題のスローガンは人々がそれに惹かれた当時とはまったく異なって聞こてくえるのである。

ソ連邦の場合とまったく同様に、同じ言葉といえどもそれらには異なった意味が与えられる。大臣らが話をする時、他の人たちは言うまでもなく、ブレグジットを支持した有権者のほとんどが最初に到達した考えは、もはや「われわれが支配している」のではなく、「大臣たちはどんな犠牲を払ってでも自分たちの権力を維持したいだけなんだ」という点だ。

しかし、支配者たちは、彼らの周りで見られる大虐殺には関係なく、一般大衆が彼らの考えを支持しているからこそそこに君臨しているのである。何年間も同じ数インチ四方の舗装された通りに座って、まったく動こうとはしないホームレスの男のように、彼らはもはや誰も聞いてはいない嘘を繰り返すことによってすべての責任から逃げるのである。単純に言って、彼らが存在し続けることを正当化する術はないのだから。

痛みを共有した仲間たち:

ブレグジットにおける重要な論点はこうだ。それは、英国は経済的に自給自足が可能であり、ほとんどのEU諸国よりも強力であるという点にあった。したがって、EUの官僚機構や経済的に弱い加盟国への救済によって妨げられることなく、自分たちが望むことをすることができるようにさえなれば、誰もが1972年以降よりも立派な生活を送れることになるであろう。

英国は確かに世界の主要経済国家のひとつであり、ほとんどのEU諸国よりも強力である。したがって、国内の人々は第三世界の基準ではなく、第一世界の基準を期待する。国境の内外を問わず、英国にEUのルールを課した例の厄介な外国人たちを非難するのである。

現在、英国はある種の食料配給を体験している。スーパーマーケットは誰に対しても一度に購入できる生鮮食品の量を制限している。食料や燃料を買うことがますます困難になっている今、このこと自体、極めて悪い状況だ。多くの人たちが食料と燃料の間で厳しい選択に迫られている。

しかし、問題はその象徴にある。フードバンクによってすでに引き裂かれている国家(訳注:英国では2022年に人口の3%、約210万人がフードバンクのお世話になった)においてはEUがあなたの仕事を奪って、外国人にそれらを分け与えたとしたら、いったい何が起こるだろうか?何れは英国にやって来て、彼らはわれわれの仕事を奪う。それと同時に、彼らが働くことを避けたらいったいどうなるのか。あなたは彼らが第三世界の国々で持っていると想定されるのと同じことを英国の一般大衆に課すことはできない。 しかし、彼らはそうではない。

南欧の悪天候やウクライナ紛争がもたらしたエネルギー価格の上昇、等、すべてが生鮮食品の不足の原因であるとされている。しかし、経済がはるかに弱い他の国々は食料を配給制にしてはいない。彼らはしばらくの間そうしたが、天候はまだ悪く、戦争はまだ続いているにもかかわらず、彼らはそれを乗り越えた。

英国は次に示すような混乱の中にあり、ブレグジットのせいで英国では他にもさまざまな混乱を毎日のように目にする。農産物を輸送する人たちは税関を通過しなければならず、はるかに長い時間がかかるので、彼らはもはや輸送を請け負うことはしない。したがって、英国は十分な農産物を供給することができない。作物は畑で腐り、それらの収穫作業に従事するのは移民労働者だけであるのだが、彼らは国外へ追い払われた。

EUではなく、英国へ輸出する動機はもはや消え失せた。どこへ行ってもわずかなコストさえをもカバーすることができず、誰もが何らの見返りさえをも期待することができない時、エネルギー危機を英国と共有し、英国がそれに対処するのを助ける理由なんて何もないのである。

しかし、政府の誰も、彼らが奉仕するために選ばれたという考えに責任を持つことについては認めようともしない。政治家がどれだけ知らない振りをしようとも、国民には分かっている。また、大臣たちは彼らが何でも非難し、他の連中のすべてを非難する時、国民はその真逆を理解することを知っているのだが、彼らは他に何も言うことがないので、とにかく同じことを言い続ける。

1989年に怒った暴徒らによって破綻国家から追い出された貧しくて、怯えていた男たちと同じように、彼らは自分たちのシステムの利点を永遠に議論することはできるが、人々は現実を望んでいるという事実を避けて通ることはできない。これは、ソ連が崩壊するのに70年、その同盟国が崩壊するのに45年、そして、かつてはそれらのすべてに対して解毒剤であった英国が崩壊するのに6年を要したプロセスなのである。

余りにも上手く行き、間違う筈はなかった:

ソ連邦では人々がもはや嘘を信じてはいないことを知った時、彼らは常に後退した。彼らは、現実の敵であろうとも、想像上の敵であろうとも、敵を攻撃しようとする。なぜならば、すべては彼らのせいであり、もしもあなたが栄光のシステムに反対した場合にはあなた自身が彼らのようになってしまうので、彼らは敵を攻撃するのである。

彼の姓はミススペルであるというような冗談の対象となっている大蔵大臣のジェレミー・ハントは英国の経済問題はウラジーミル・プーチンのせいであると主張する程の大胆さを持っていた。どうやら英国は「ロシア製の景気後退」に苦しんでいるようではあるが、彼が認めた問題は極めてグローバルなものであって、英国政府の決定によって他のどこの国よりも英国自身が影響を与えている。ロシアで起こっていることによるものではない。

党の解決策はどうか?ブレグジットと平和の名の下でウクライナに飛行機を送り込み、以前はできなかったかのように増税し、支出を削減し、プーチンを阻止するためにエネルギーを節約するようにと皆に訴えることによって人々への経済的抑圧を強めることとなる。

プーチンのせいではないとするならば、すべての問題の根本的な要因は嫌われているEUだ。EUの何が問題なのか?問題は金持ちクラブだ。彼らは労働者にお金を稼ぐ機会と民主的、人権的、法的な権利を与えることによって労働者から搾取する。まさにこれらの理由から本質的に腐敗しており、人々を英国に送り込んで、仕事をさせ、詐欺行為を行い、正しい思考の英国人に退廃的な考えを押し付けたりすることによってこの腐敗を広めている。

聞き覚えがあるだろうか?今では何も聞こえては来ないかもしれないが、ソ連時代に東欧圏から出てきた嫌われ者による西側に関する公式な考えについては何でも読むことが可能である。

西側の貸し出しを行わない図書館にはソ連やブルガリア、ハンガリー、等の情報については膨大な量の古い書籍があり、これらは自国の歴史や西洋諸国との違いについてあらゆることを記述している。共産主義を決して受け入れようとはしない国々においては西欧人は典型的とも言える「潜入している共産党員」に対して妄想的な恐怖心を抱くが、社会主義を内部から破壊しようとする西側の試みに関する暴言と比べると、それは大したことではなかった。

人々は西側の代替案としては現実を望んでいたために、これらはより声高に論じられ、より長期間続いた。だが、それに失敗すると、すべては仕事が保証され、何をすべきかを指示されることに慣れている人々のせいにされた。すぐに受け入れられる退廃的な外国人の概念とEUが英国にもたらした利益や保護との間には大きな違いがあったため、それらは英国においては声高に論じられ、長く残っていた。EUが英国にもたらした利益や保護については、英国の選挙民はそれらを失うまでは自分たちがそれらを如何に好んでいたのかさえも認識してはいなかった。

果物のような腐敗:

トマトの配給をプーチンや外国人のせいにするのは英国人が自分たちの国こそが標準であると信じるように育てられ、他国の連中が英国に何らかの問題を引き起こしているとするので、彼らの考えはそこまでしか到達することができない。個人や政治家がどれほど寛容で、リベラルで、パートナーシップを望んでいるとしても、ビクトリア女王の下で帝国が壮大になってからというもの、それが他者との間で行われる交流の土台となった。

恵まれない人たちや欲得ずくの連中に彼らが聞きたいことだけを伝えることによって、ブレグジットはあのような仮定を利用したのである。彼らの生活にとって悪いことはすべてが劣等者のせいであって、定義上、彼らはそのことを聞くべきではないのだ。東側諸国の市民は彼らのシステムが道徳的、倫理的、知的に優れていると常に吹き込まれていたように、何かが上手く行かなかった場合、それは個人的に自分たちに向けて反対するのではなく、自分たちの国に足を踏み入れたことのない西欧人のせいであった。

システムが優れていて、あなたがその中に住んでおり、そうし続ける心構えができているならば、あなたご自身もまた優れている。英国が現在直面している問題はまさに下記のような具合だ。つまり、これらの優れた人たちは誰もが実際的な方法で台頭してくることを期待しているが、屈辱以外のものは何も見ようとはしない。これは彼らが戦争に負けた場合にそれを受け入れる以上に受け入れ難く、あるいは、自分たちの友人だと思っていた連中は彼らにとっては好ましい人たちだと言われていたにもかかわらず、別の荒廃によって破壊された場合以上に受け入れ難いのである。

1980年代後半から1990年代初頭の東欧人は、政治家らが決まりきったことを約束し、決まりきった敵を想定したとしても、そういった約束がもたらす現実を変えることはできないことをよく理解していた。彼らの政治家もまたそのことを知ってはいたが、真実が間違っている振りをすることによってのみ彼らは生き残ることができるのであった。

より優れていたことによって共産主義を破壊したと考えていた勝者たちは、今、われわれの目の前でまったく同じことをしている。英国とその現在の支配者らを破壊するであろうと想定することは大袈裟に聞こえるかも知れないが、それは共産主義が崩壊する直前まで言われていたことでもあって、西側諸国が同じ道を辿ると考えることは決して大袈裟ではない。

著者のプロフィール:セス・フェリスは調査報道ジャーナリストであり、社会学者、中東問題の専門家でもある。オンライン・マガジンであるNew Eastern Outlookのために独占的寄稿をしている。

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これで全文の仮訳が終了した。

この記事を読んで、ブレグジットの本質に触れたように思う。著者は次のように述べている:

ブレグジットにおける重要な論点はこうだ。英国は経済的に自給自足が可能であり、ほとんどのEU諸国よりも強力であるという点であった。したがって、EUの官僚機構や経済的に弱い加盟国への救済に妨げられることなく、自分たちが望むことをすることができるようになれば、誰もが1972年以降よりも立派な生活を送れることになるであろう。

ブレグジット政策が結果として正論であったのかどうかについては歴史が証明してくれるのであろうが、上記のような論理が英国をEUから離脱させたのである。歴史的考察はその機会が来れば間違いなく行われるので、専門家にお任せすることにしよう。

ロシア関連のエッセイストとして著名な米国のドミトリー・オルロフは、数年前に、「米国は旧ソ連邦がその崩壊の際に経験した苦境を上回るような状況に遭遇するのではないか」とエッセイで看破していたが、この引用記事は米国の最大級の同盟国である英国についてまったく同種の見解を述べている点が実に興味深い。西側の衰退が始まっており、その兆候が観察されている。実に不気味だ。資源の豊富な中国やロシア、インド、イラン、ブラジルといった国々と協調するのではなく、西側が金融戦争や経済戦争を仕掛けることによって、資源には恵まれていない西側諸国は、今、逆に自殺行為をしているようなものだという議論が現実味を増していると言えよう。

参照:

1If You Missed: The Collapse of the Soviet Union, Come to the UK 4-The Remake: By Seth Ferris, NEO, Mar/02/2023

 



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