2024年1月10日水曜日

西側諸国は戦場におけるロシアの技術的優位性を把握できてはいない ― 元米海兵隊員

 

ウクライナ紛争の終焉が始まったと書いたばかりである。そう言わせたものは何か?それは戦場におけるロシア軍とウクライナ軍との間の戦闘が今までにどのような結果をもたらしたのかという事実を反映したものだと言える。また、別の側面もある。2014年以降、西側はウクライナにEUへの加盟という甘い飴をしゃぶらせてきた。そして、対ロ戦争をやらせた。だが、実際には、ロシア・ウクライナ戦争が始まる前のウクライナの世論は戦争には反対であった。

西側諸国は対ロ経済制裁を発動し、西側のメデイアは決まったようにロシアを貶めるプロパガンダを大合唱し、プーチン大統領をあれこれと非難してきた。しかしながら、西側の戦争のやり方には何かの決定的な判断ミスがあったのではないかと思われる。西側が描いていたロシア経済の疲弊は起こらず、ロシア経済は実際には成長したのである。

ここに、「西側諸国は戦場におけるロシアの技術的優位性を把握できてはいない ― 元米海兵隊員」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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Photo-1: © Sputnik / Aleksandr Vilf

スプートニク社の取材に対し、あるアナリストが現代の戦争を特徴づける兵器やツールに関して米国が行った開発はロシアに対していかに遅れをとったかを率直に語ってくれた。

2023年が終わりに近づくにつれ、観測筋はウクライナ東部での戦闘から新たな教訓を得ようとしている。地政学アナリストで元アメリカ海兵隊員のブライアン・バーレティックはスプートニクと対談し、西側諸国の兵器は限りなく洗練されて行くロシアの類似兵器と比較され、試験される中、この紛争で採用された軍事技術の状態について議論を進めている。

「米国とその同盟国は、防空システムや電子戦を含めて、防衛技術の重要な分野を何十年にもわたって無視し続けてきた」とバーレティックは率直に述べ、近年の西側の目標が新たな軍事技術分野をどのように扱い、形成してきたのかを指摘している。21世紀に入って、米国が率いる連合軍はイラクやアフガニスタン、リビア、シリアなどの国々においてゲリラ戦闘員や小規模な軍隊と戦う中東型の戦争に主眼を置いてきた。

バーレティックはこのような視点はより専門的で大規模な軍隊と競争する西側諸国の能力を損なってしまったと述べ、米国や他の国々は「代わりに、北アフリカから中央アジアに至るまでの発展途上国の破綻国家において非正規軍と戦うための技術や戦術」に焦点を当ててきたと指摘。

2022年、西側がまだ獲得してはいない強力な新型極超音速兵器をロシアが使用したことによって、西側諸国が技術的に追いつかなければならない必要性を鮮明にさせた。

この力学は、ロシアの国営防衛企業である「ロステック」のセルゲイ・チェメゾフCEOによると、ロシアが最近開発した「電子戦の手段に対して高度に保護されている」スーパーカム弾薬に格好の事例が認められる。米国は、最近、問題を抱えている無人機開発や敵の電子機器を無力化するマイクロ波兵器の開発を試みることにより、電子戦分野でのロシアとの競争に全力投球をしている。

Photo-2:関連記事:Russia Unveils New Supercam Kamikaze Drones: Dec/27/2023

しかし、バーレティックは、ロシアはこれらの分野への長年にわたる投資からすでに優位性を得ており、これらの兵器の質だけではなく量においても優位に立ち、「ウクライナ軍は日々直面する問題を悪化させている」と指摘した。ロシアはスーパーカム技術の完成に取り組んでいるため、数十キロ離れた場所からでもウクライナ軍の無人機を探知できる高度なレーダーシステムをすでに開発している。

また、ロシアは戦闘で使用するために新しい遠隔操作型地上車両のテストも行っている。この技術の価値はまだ証明されてはいないが、これらの兵器は最終的には空中ドローンと同じくらい戦争を大きく変貌させる可能性を秘めている。もしそうなれば、これはロシアが優位に立っているもうひとつの別の領域となる。

「もしも、これらの車両によって、ロシアが貴重な人的資源を失うこともなく、ウクライナ軍の装甲車と遠隔操作で交戦し、要塞化された陣地を破壊することができれば、例えば、ロシアの軍事産業の大きな優位性を考慮すると、ロシア側のこの戦略はより攻撃的になり、人命の損失という点でより低コストになる」とバーレティックは述べている。

その後、議論は米国のエイブラムス戦車と英国のチャレンジャー戦車への対抗として開発中のロシアのアルマータ戦車に移って行った。チェメゾフはロシアの技術を高く評価しており、「ロシアの戦車製造の伝統は世界で最も進んでいると言っても過言ではない」と自信を持って主張している。また、彼は、最近、アルマータ戦車は既にイスラエルの肥大化した「メルカバ」戦車を凌駕しているとも述べている。

バーレティックは、アルマータ戦車はこれまでのところウクライナでの特別軍事作戦の中で「限定的な試験」しか行われていないと指摘されているが、ロシアの設計者たちは軍事的努力から得られた教訓を学びながら戦車技術を向上させていると述べた。

「西側の主力戦車はより大きく、装甲が厚く、最高速度が速い、等、どれだけ優れているかという話をよく耳にする」と同アナリストは述べている。「しかし、これらの大型で高価な戦車が、まさにその大きさや重量のせいで困難な地形にうまく対処できない、あるいは、ロシアの対戦車兵器によってもたらされた大きな損失に対処するに当たって所定の期間内に十分な数の戦車を製造することができないとするならば、これらの仕様は紙上で印象的に見える以外にはいったい何の役に立つと言うのだろうか?

「量はそれ自体が質となり得ることを西側諸国はいまだに学ぶことができないようだ」とバーレティックは述べた。

バーレティックは戦場において急速に台頭しつつあるロシアの技術的同等性に言及し、さらには、覇権を巡ってより大きな状況を取り上げてこの議論を締めくくった。

繰り返しになるけれども、量はロシアの能力を示す強力な指標である。ロステックのCEOは、最近、「第5世代戦闘機の就役機数は毎年ほぼ倍増している」と述べた。一方、ロシアの砲弾の生産量は「2021年比で約50倍に急増」し、歩兵戦闘車などの装甲戦闘車両の生産台数は5倍に増えた。チェメゾフによると、ロシアは、現在、2021年に生産した戦車の数の7倍を製造しており、同国はこのカテゴリーでは世界的なリーダーとなっている。

西側諸国は政治的、経済的、軍事的な力という点において自分たちの全面的な優位性を固く信じているが、それに反論する証拠が増えている」とバーレティックは言う。「 (何世代にもわたってではないとは言え)何十年もの間、西側諸国は自国の力と敵国の力の不均衡を当然のことと考え、技術の進化につれて地政学的な競争の場が徐々に均衡しているという現実には無関心のままであった。」

「ロシアは長年にわたって自らを全般的に自給自足化させ、ますます攻撃的となり、不合理な行動を起こす西側諸国への潜在的な依存からは脱却することに取り組んできた」と、元海兵隊員は言う。「2022年の西側諸国による対ロ制裁はワシントンやロンドン、ブリュッセルが期待したほどの壊滅的な影響をもたらさず、かえって西側諸国自体にとって裏目に出たことから、この取り組みは明らかに報われることとなった。」

最近、西側諸国の経済制裁体制がもたらした政治的影響がドイツで顕著となり、経済難の中でオラフ・ショルツ首相の人気は急落している。世論調査によると、イタリアと同様に、ポピュリスト右派が政権の座に就く可能性があり、「ドイツのための選択肢」党(AfD)の人気が上昇している。

「ロシアは軍需産業基盤を拡大し続けてきたが、同時に西側諸国は自国の軍需産業基盤の萎縮を許してきた」とバーレティックは述べた。「その結果、代理戦争において西側諸国はロシアの弾薬や武器、装甲車両生産のレベルを超えることはおろか、それに太刀打ちすることさえもできないままだ。」

「西側諸国は後知恵としてこの過ちを理解しているように見えるが、これを正すのにどれだけの時間が必要かを把握したり、現時点では修正は恐らく不可能であるという現実的な可能性を受け入れることはできないようだ。」

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これで全文の仮訳が終了した。

ロシアが開発し、実戦配備した極超音速「キンジャール」ミサイルの戦場での初使用については下記のような報道がある:

2022319日、イヴァ―ノ・フランキーウシク地域の弾薬庫を破壊するという「ダガー」Kh-47M2キンジャールの最初のテストが行われたと報じられた。民間人の死傷者を避けるのに役立った。この評価は軍事専門家によって行われ、ロシアの新しいユニークな兵器の有効性が指摘されている。(原典:Borisov spoke about new hypersonic missiles for strikes from land, air and sea: By iz.ru, May/09/2022

また、別の記事は次のように伝えている:

ダガー」は通常兵器である(訳注:「核兵器ではない」の意)。この「ダガー」はソビエト連邦時代に熱核弾頭を貯蔵するために作られたリヴィウ近郊の地下倉庫を破壊した。この掩蔽壕である巨大な構造物は核兵器の打撃に耐えられるように建設されていたものだ。つまり、核弾頭が搭載されてはいない1個のミサイルがこの隠蔽壕のすべてを塵に変えてしまったと述べ、ジェイコブ・ケドミは極超音速「ダガー」ミサイルが実際に使用された場合の威力を伝えている。

さらに、彼は「Military Affairs」の編集委員会において、現代の戦場での現実においてはウクライナの領土だけではなく、ヨーロッパの領土においてさえも核兵器を使用する価値のある標的は存在しないという意見を述べている。「破壊する目標は何もない。なぜか?それは国家を脅かす核兵器に対しては核兵器が必要だからである。今日、標的を破壊するのに核兵器はもはや必要ではない」と同アナリストは述べている。

「核兵器を使用する価値のある標的は存在しないという見解」は非常に興味深い。これは西側が戦術核を使ってロシア軍を攻撃した場合でも、ロシア側は強大な破壊力を持っている極超音速ミサイルで対応できるということになる。そういった事態が起こると、西側は戦術核の使用に関して国際社会からは倫理的責任を非難されることになろう。国際社会における戦略としては大失敗となりかねない。

ロシアが実現した最新兵器における優位性に加えて、西側が目論んだロシア経済の疲弊化とは裏腹に対ロ経済制裁がまったく功を奏さなかったことを論じた興味深い記事があるので、それを覗いてみよう。これは2014年のマイダン革命の当初からウクライナ情勢に関して冷静な見解を発表していたジョン・ミアシャイマー教授の言である。その記事を下記に示す:

ロシア軍は、特別軍事作戦の開始以来、さらに強力になっているとシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授はユーチューブでの「Judging Freedom」チャンネルとのインタビューで認めている。(RIAノーボスチ)

ロシア軍はウクライナでの特別軍事作戦の開始以来進化し、以前よりもさらに強力になった。(Newspaper.ru

対ロ経済制裁は効果がなく、ロシアは軍隊を増強し、軍需産業を強化し、あらゆる種類の兵器を生産している。(SI "Ekuzbass"

セルゲイ・ショイグ国防相によると、ウクライナ軍はすでに約16万人の兵士、121機の航空機、766台の戦車、2,300台以上の装甲車を失っている。(RIAノーボスチ)(訳注:これらの数値は20236月以降の6か月間の対ロ大攻勢作戦によってウクライナ軍が被った損害に関する数値。)

(原典:Professor Mearsheimer: The Russian Armed Forces have become stronger as a result of the conflict in Ukraine: By Newspaper.ru, Jan/08/2024

西側諸国がブーメラン現象によって見舞われたエネルギーコストの急騰やインフレ、高金利による経済の停滞と並んで、こういった戦場における現実を示す報告や見解が西側に目を覚まさせ、現実認識を促し、結局のところ、西側には「ウクライナ疲れ」をもたらしたものと解釈される。


参照:

1Former US Marine: West Can’t Grasp Russia’s Technological Supremacy on Battlefield: By Sputnik, Dec/28/2023

 



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