2022年から2023年の2年間、世界はロシア・ウクライナ戦争によってすっかり捉われていた。西側のメデイアは、連日、戦況を報じた。もちろん、ある事、ない事の両方だ。だが、大量の戦車や武器が西側から送り込まれたにもかかわらず、昨年の6月から鳴り物入りで始まったウクライナ側の大攻勢は何の成果も見せずに終わった。西側の企業メデイアは決まったようにロシア側の劣勢を報じてきた。だが、対ロ政策の根幹を成していた西側による経済制裁は効き目が現れてはいない。皮肉なことに、ブーメラン現象が起こった。対ロ経済制裁を課した西側の経済こそがエネルギーコストの急上昇やインフレに見舞われ、今や、低迷している。ヨーロッパ経済の牽引役であったドイツは急速に脱工業化しつつあると報じられている。西側は完全に手詰まり状態に陥っている。これらの状況を「ウクライナ疲れ」と形容する向きもある。
ほぼ2年が経過し、このロシア・ウクライナ戦争のもっとも大きな皮肉は西側はロシアを弱体化することには成功せず、実際には自分たちの経済を潰しているという現実にある。
昨年の10月、ハマス・イスラエル紛争が新たに加わった。メデイアの関心はウクライナから離れ、中東へと移って行った。ウクライナに対する軍事支援や財政支援の行方はどうなるのか?
こういった状況から、今や、ウクライナ紛争の終焉が囁かれ始めている。
ここに、「ウクライナ紛争の終焉が始まって、外交や交渉のチャンスが到来」と題された最近の記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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アナリストのダニエル・ラザール氏は、もしも米国がそれを許すのであれば、ウクライナの将来には平和が訪れ、中立を謳歌するようになると見ている。
調査報道ジャーナリストであるダニエル・ラザールによると、ウクライナでの戦闘が終結すれば、妥協や「フィンランド化」の機会が生まれ、中国が果たす役割も生まれる可能性があるという。
ラザールは、木曜日(12月28日)、スプートニクの「政治的不適合」と言う番組で米国の麻薬政策や移民政策についても触れる幅広い議論の中で、このような主張をしたのである。
司会のジョン・キリアコウは「共和党はウクライナへのさらなる軍事援助には反対するという点で著しく団結しており、民主党は軍事援助をイスラエルへの支援に結びつけることには不成功に終わった」と指摘。
「この紛争の終わりが始まったことを、今、われわれは見ているのか?」とキリアコウが尋ねた。
「そうだと思う」とラザールは答え、ロシアの人口はウクライナの約3倍もあって、人的資源へのアクセスにおいて大きな優位性を享受していると指摘した。「彼らはまさにウクライナを潰しつつあり、大規模な外部からの支援がなければ、その運命はすでに決定的だ。」
しかし、ラザールはこの紛争の勃発は米国のせいであるとし、米国は依然として和平の妨げになる可能性があるとして、警告している。
「米国は、たとえ妥協が本当に理にかなっているとしても、いかなる妥協をも拒絶するという極端な立場にウクライナを追いやった。なぜならば、ウクライナ東部とクリミア半島の住民たちは過激な民族主義者に乗っ取られたキエフ政府への信頼を完全に失っていることは明らかであるからだ。
「私には、これは、長年のネオコンたちの傲慢さから生まれた、周到に計画された政策を示す好例であると思う」とラザールは主張。
バラク・オバマ米大統領の外交政策集団は、2014年のウクライナにおけるユーロマイダン革命の際、ビクトリア・ヌーランド 国務次官補のようなネオコンによって支配されていた。世論調査ではウクライナ人のほとんどはキエフのマイダン広場での抗議行動参加者の要求に同意してはいないことが示されていたにもかかわらず、西側諸国の政府は、当時、反政府抗議行動を応援していた。
ネオナチ集団が選挙で選ばれていたウクライナ大統領のヴィクトル・ヤヌコヴィチを国外に逃亡させた後、暫定政府を樹立しようとする米国の試みについてヌーランドがあれこれと議論している電話の音声が流出した。ヌーランドはウクライナにおけるいわゆる「民主主義構築プログラム」を推進するために50億ドルを費やしたと自慢した。「カラー革命」という用語は、特に、ロシアの勢力圏における反政府勢力の資金提供によって拍車がかかった米国の政権転覆の取り組みを説明する言葉として作り出された。
ラザールによれば、米国の干渉は「国を二つに引き裂く」のに役立ち、「全面戦争は多かれ少なかれ避けられない」ものとなった。
「そして、今、米国はその結果に直面している。むしろ、米国が立ち去る間、ゼレンスキーこそがその結果に直面している」と同アナリストは強調。
ラザールはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対する支援を「米国が簡単に撤回することはないだろう」と指摘したが、ウクライナが非武装化に同意すれば、ウクライナに平和がもたらされるという未来を提言した。
ロシアが求めているのは「フィンランド化」だとラザールは言い、冷戦時代を通じてソ連に対して中立的な立場をとったフィンランドの外交政策の立場をこの言葉で表現した。「フィンランド化」は汚い言葉である。しかし、「フィンランドはその全歴史を通じてフィンランド化の時代ほど平和で、繁栄し、民主主義を享受したことはなかったことを心に留めておいていただきたい。」
「私は1972年にフィンランド化の時期にあったフィンランドを訪れたことがあるが、フィンランドは輝かしい社会であった」とラザールは言う。「つまり、繁栄し、平等主義的で、社会主義的・・・ それがロシアの姿勢であることにはそれなりの理由があった。もっとひどいことになっていたかも知れない。つまり、ロシアはウクライナの「メキシコ化」を要求することさえもできた筈だ。それは貧困と犯罪が蔓延る社会に陥ることを意味した。しかし、ロシアはそうは望まなかった。こうして、彼らがこの辺境の国家に提示した内容は実に良好なものであった。(ウクライナにとっては)幅広い利害関係において満足すべきものであっただろう。だが、米国はそれを潰した。」
中国の影響力が増大していることや同国がサウジアラビアとイランを結びつけるという中東での最近の華々しい成功を指摘し、キリアコウはラザールに中国にはウクライナでの交渉に関与する可能性があるのかと尋ねた。
「中国から見ると、ウクライナは確かに外交上で非常に興味深い地域である。中国は米国が課した禁輸措置から抜け出そうとしている」と著者は述べた。「米国は大失敗を犯してしまったので、これまで影響を被って来た国々にとっては他の国に支援を求める以外の選択肢はほとんど残されてはいない。今は絶好のチャンスだ。」
『だから、もしも私が北京にいたとしたら、もしも私が中国の外交官であったとしたら、「この地域はわれわれが影響力を行使する機会があるかも知れないので、非常に注意深く監視すべき領域である」と進言するだろう。』
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これで全文の仮訳が終了した。
ロシア・ウクライナ戦争は完全に最終的な段階に入ったと言えそうだ。少なくとも、ウクライナ側は人的資源が枯渇し、武器弾薬の供給もままならない。
著者の「フィンランドはその全歴史を通じてフィンランド化の時代ほど平和で、繁栄し、民主主義を享受したことはなかったことを心に留めておいていただきたい」という言葉は新冷戦によって米ロ二大強国の間に立たされたウクライナにとっては大きな重みをもっていると言えるだろうと思う。
その一方で、もう一つの現実として、あるアナリストは「国際政治の謎のひとつは、ベトナムから始まってウクライナに至るまで、過去50年間軍事的に優勢な大国が小国での戦争に系統的に負けてきたことだ」と述べている(原典:Ukraine - Another Lost
US/NATO War With No Regrets: By Sputnik, Dec/19/2023)。
ウクライナにおける米国の対ロ代理戦争もこの範疇のひとつの例に数えられるようだ。ただし、ロシアはベトナムに比べると、遥かに強大な国家であるから、別の観点からの議論が可能であろう。最近もっとも気にかかる点は核兵器の使用だ。米国もロシアも核大国である。何らかの理由で核兵器の使用に走るかも知れない。米国やロシアにとっては、その気になりさえすれば、あるいは、何かが引き金となれば、核兵器は何時でも使用できる。
元CIAのアナリストであったレイ・マクガバンが抱く懸念は次のような具合だ:
アンドリュー・ナポリターノ判事のポッドキャスト「Judging
Freedom」での最近のインタビューで、マクガバン氏は、米国大統領選挙が近づいていることから、バイデン政権はウクライナ紛争で負けていないように見せる方法を必死に模索していると想定した。
ペンタゴンやホワイト・ハウスにはこんな馬鹿者がいる。「いいですか、大統領閣下、ロシアに対してわれわれが本気でビジネスをしていることを示す唯一の方法は小型核兵器のひとつを使用することです。広島に落とした原爆の10分の1くらいの大きさです。だから、それを使用すれば、彼らは戦争をやめて、私たちは選挙にも絶対に負けることはないでしょう。そうすれば、残りのことに対処することができるでしょう」とマクガバンは言った。
彼によれば、核の選択肢を検討するこのシナリオは「起こり得ること」であって、2024年の大統領選挙で敗北することを避けるためにはワシントンDCにいる権力者たちが考えるかもしれない「唯一の解決策」だという。(原典:US
May Consider 'Nuclear Option' to Avoid Defeat in Ukraine: By Andrei Dergalin,
Sputnik, Dec/28/2023)
2024年11月の大統領選では民主党にとっては前回の選挙以上に苦しい選挙となると多くの専門家らが予測している。つまり、前回のような不正選挙だけではこの大統領選には勝てないだろうと・・・。民主党がどうしても勝つにはウクライナで核を使用し、米国がロシアに勝つしかないとの結論に至れば、核兵器の使用はがぜん現実味を帯びて来る。常識的にはあり得ない選択肢ではあるが、選挙に勝つという政治的な命題の前で意思決定者ははたして正気を失わずに、常識的な判断を下すことができるのであろうか?政治が狂気に走った事例は歴史上たくさん存在する。
米国が核兵器を使えば、ロシアも核兵器で応酬するであろう。こうして、核大国間の核戦争が始まる。小型弾頭が巨大な弾頭にとって代わられるのにどれほどの時間を必要とするのだろうか。
ロシア側はどう考えているのか。ある観測筋によると、西側の経済は疲弊の一途を辿っており、現在の政治エリートらに対する信頼感は破綻し、西側の各国政府は親ロ的な政権にとって代わられるであろう。ロシアは何もしないで、そういった西側における変化を待つだけでいい。
今後、どのような変化が起こるのかについては誰も確かなことは言えない。だが、地上の現実がいったい何を指し示しているのかを分析し、冷静に判断するしかなさそうだ。
参照:
注1:‘Beginning of the End’ of Ukraine Conflict Sees Chance for
Diplomacy, Negotiation: By Sputnik, Dec/29/2023
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