2014年のマイダン革命の直後、ウクライナ東部のドネツクおよびルガンスク両州のロシア系住民は住民投票を実施し、ウクライナ政府からの独立を宣言した。それぞれの州は「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」と称した。国際社会からは未承認の両国の住民はキエフ政府軍による執拗な暴力に見舞われ続けた。ウクライナ政府はロシア語を公用語から排除し、年金の支給を停止した。そればかりではなく、非戦闘員に対する無差別な武力攻撃を繰り返した。両共和国政府の要請を受けて、住民の安全を確保するために、ロシアは、2022年2月24日、ウクライナへの軍事侵攻を開始した。これを受けて、西側は今までに課していた経済制裁に加えて新たな制裁をさらに付け加えた。これらの経済制裁の中核的な目標はロシア経済を弱体化し、プーチンの国内人気を低下させ、最終的にはプーチン政権を退陣に追い込むことにあると喧伝された。
しかしながら、西側がロシアに課した経済制裁は奏功しなかった。ロシア側は西側が輸出を中断した諸々の製品に代わって、ロシア国内で代替となる製品の生産を開始したからである。また、西側諸国への輸出が中断されたロシア産天然ガスや原油の多くは新たな仕向け先として中国やインド、トルコへと向かった。2023年、中国は仲裁役を務め、イランとサウジアラビアとの国交の回復を実現した。これによって、サウジアラビアとロシアが主導するOPECプラスに加盟する産油諸国はほとんどが非米派となり、産油国は原油の売買において米ドルの使用を止め、当事国の自国通貨建ての輸出入を開始した。世界はエネルギー資源が乏しい西側とエネルギー資源が豊富なグローバル・サウスに二分されることになった。この動きは2023年に世界規模で経験した極めて大きな地政学的出来事であった。
ここに「素晴らしい復元力 ― 経済制裁にもかかわらずロシア経済は成長し、世界のトップ・ファイブに躍進」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。著者がいったい何を言いたいのかを詳しく理解しておきたい。
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この展開は継続的な経済制裁や国際的な圧力の中で起こったことであり、それらの経済的制約の有効性に関する従来の見解に正面から挑戦するものとなった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は最近の声明で2023年末のロシア経済の成長率は予測の3.5%を超える可能性があると明らかにした。この展開は単なる数値上の勝利ではなく、世界経済の舞台におけるロシアの大きな躍進を象徴している。
プーチン大統領はロシアが、今や、ドイツを追い越し、経済規模では欧州で第1位、世界で第5位に躍進したと強調している。
プーチン大統領は「購買力平価では欧州全体を追い抜いたが、人口一人当たりではさらに努力をしなければならない」と述べ、特にロシアが厳しい経済制裁と国際的な圧力に直面している現状を背景にして、この成果の驚くべき特質を強調した。「これは驚くべき成果である」とプーチン大統領は付け加えている。
ビジョン&グローバル・トレンド(Vision & Global Trends )のプラットホームを提供するグローバル分析国際研究所(International
Institute for Global Analyses)の会長であるティベリオ・グラツィアーニは経済制裁と世界的な圧力の中でのロシア経済の台頭はそのような措置の有効性に疑問を投じているとして、この「ロシアの現象」に光を当てている。
ウクライナ・ロシア危機によって10年前に始まった経済制裁にもかかわらず、ロシア経済は驚くべき復元力を示していると説明している。「この10年間、ロシアの生産的な経済構造は経済制裁の衝撃波になんとか耐えてきた」とグラツィアーニは断言。
グラツィアーニは欧州の経済苦境をロシアと比較し、欧州連合(EU)は2007年から2008年にかけて起こった経済危機の余波に今でも苦しんでおり、モスクワからのエネルギー資源の喪失はエネルギー集約型の各国の産業部門に大きな影響を与えていると指摘している。
「EUは遠い過去のものとなったあの危機を今でさえも乗り越えてはいない。約17年前の大危機を乗り越える上でEUが遭遇した困難さに加えて、EUのふたつの主要な製造国であるドイツとイタリアの経済的生産構造は劣化した」とグラツィアーニは述べている。
これは「ロシア現象」と呼べるのかと問われ、グラツィアーニはロシアが達成した回復力と成果は詳細な分析に値すると述べた。ロシア社会の結束、エリートたちと社会の関係、ロシアの広大な地理、等の要因が重要な役割を果たしている。さらには、BRICSやグローバル・サウスにおけるロシアの経済戦略はこの現象に寄与する極めて重要な要素でもある。
ロシアが(西側の)予想や経済予測を裏切り続ける中、国際社会はロシアを注視している。これらの一連の出来事は国際経済の展望を変えるだけではなく、経済制裁の有効性や経済の強靭性と戦略的計画が未開拓であることの可能性を示唆しており、格好のケース・スタディとしても役立ちそうである。
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これで全文の仮訳が終了した。
そもそもロシア・ウクライナ戦争はどのようにして始まったのか。私が理解している限りでは、ランド研究所の米国政府への提言によって始まったと言えるのではないだろうか。
2022年3月12日の「グローバル・リサーチ」の記事は「ウクライナ、それはランド研究所の戦争計画にすべてが記載されていた」と題されている(原題:Ukraine, It Was All Written in the Rand
Corp Plan: By Manlio Dinucci, Global Research, Mar/12/2022)。2022年3月12日はロシア・ウクライナ戦争が始まった同年2月24日から約半月後のことだ。同記事の主要な点を下記に記す:
米国の対ロ戦略計画は3年前にランド研究所によって策定された(「ロシアを倒す方法」:2019年5月21日発行)。ワシントンD.C.に本社を置くランド研究所は「政策課題の解決策を開発するグローバルな研究組織」であり、50カ国から採用された1,800人の研究者やその他の専門家を擁し、75の言語を話し、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、ペルシャ湾地域、他にオフィスが広がっている。ランド研究所の米国人従業員は25カ国以上に住み、働いている。
自らを「非営利、無党派組織」と称するランド研究所はペンタゴン、米陸軍、空軍、国家安全保障機関(CIA、等)、他国の機関、強力な非政府組織から公式に資金提供を受けている。
まず第一に、この戦争計画書はこう述べている。ロシア経済はガスと石油の輸出に強く依存しており、ロシア経済の最も脆弱な側面に攻撃を加えなければならない。この目的のために、商業的、金融的制裁を用いなければならず、それと同時に、ヨーロッパはロシア産天然ガスの輸入を減らし、米国産の液化天然ガスに置き換えなければならない。
ウクライナの軍国化は2014年のマイダン革命以降から西側の手で大っぴらに進められてきた。EUやNATOはウクライナが将来EUやNATOへ加盟するという錦の御旗の下でさまざまな形でウクライナに関与してきた。そして、ランド研究所が提言したように、ロシアを倒すために、米国はロシア・ウクライナ戦争を誘発させた。西側のメデイアは「ロシアが突然ウクライナへ軍事侵攻をしてきた、ロシアはけしからん」としてプロパガンダを開始した。米国とEU諸国はロシアに対して経済制裁を発動し、西側諸国がロシアからの原油や天然ガスを輸入することに制限をかけた。これらは多くの読者の皆さんにとってもまだ記憶に新しいことだと思う。
ただし、これらの対ロ経済制裁が所期の目標通りに首尾よくロシアを倒すことができたかどうかはまったく別の話である。本日の引用記事が述べているように、プーチン大統領は最近の声明で2023年末のロシア経済の成長率は予測の3.5%を超える可能性があると明らかにした。つまり、西側の思惑は大失敗したとプーチン大統領は述べているのである。
その一方で、ウクライナの現状は悲惨そのものである。米国の代理戦争に応じたウクライナはロシア・ウクライナ戦争を通じて領土を失い、インフラが破壊され、何十万人もの兵士を失った。何百万人もの女性や子供たちが国外へ避難することを余儀なくされ、ウクライナの人口は激減した。それでも、ウクライナ政府はまだ停戦交渉に就く気配を見せてはいない。
米国はウクライナに対する財政支援や軍事支援を本気で中断するのだろうか。今広く言われているのは「ウクライナ疲れ」だ。西側の政治家も一般大衆もウクライナに対する支援については非常に懐疑的になっている。そして、今年の11月には米大統領選がある。ウクライナでの代理戦争を推進してきたバイデン政権は続投するのか、それとも、下野となるのか。選挙がある年には何が起こるか分からない。
今もっとも注目しておきたいことがひとつある。2022年7月14日のLenta.ruに掲載された「The historian named five
factors indicating Russia‘s victory in Ukraine」と題された記事である。その記事には興味深い洞察があった。1年半前のものではあるが、下記のように述べていた:
コラムニストのジャレッド・ピーターソンは、米国版の「アメリカン・シンカー」の記事で、西側諸国はウクライナでの紛争に勝利するであろうロシアの意志を過小評価していると述べた。また、彼はウクライナは米国よりもロシアにとって重要であるため、モスクワは間違いなくこの紛争に勝つであろうという意見を表明した。
つまり、ウクライナは米国からは何千キロも離れた地域であって、端的に言って米国にとってはウクライナはどっちに転んだとしても最終的にはどうでもいいことなのだ。米国がウクライナへの財政支援や軍事支援を続けるかどうかは国内の優先課題によって決定的な影響を受けることになろう。その一方で、ロシアにとってはウクライナがNATOへ加盟せずに、中立を保つことは国家の存亡に関わる最大級の関心事である。これらふたつの立場には目が眩むような大きな違いがある。それを考えると、どちらが勝つのかという予測は実に簡単な作業であったのだと言える。
参照:
注1:Remarkable
Resilience: Russian Economy Grows Despite Sanctions, Becomes World’s Top 5: By Sputnik,
Jan/12/2024
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