2024年6月19日水曜日

オイルダラーはすでに衰退の一途


今までの世界経済は西側諸国によって牽引されて来たとわれわれ一般庶民は長い間教えられてきた。つまり、G7諸国のGDP合計は世界の経済のもっとも大きな部分を占めて、世界経済をリードして来た。

しかしながら、昨今は中国経済が台頭し、グローバルサウス諸国が国際政治や経済における発言力を増している。たとえば、BRICS諸国のGDPは今やG7諸国のそれを上回ったと言われている。その詳細に注目すると、これは購買力平価ベースでの比較である。下記のIMFのグラフをご覧いただきたいと思う。1995年~2023年の期間にBRICS諸国の経済がどれだけ拡大したかが示されている。それとは対照的に、G7諸国の経済が世界経済に占める割合は相対的に縮小して来た。

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BRICSのグループにはブラジルやロシア、インド、中国、南アが含まれる。そして、最近、これに新たなメンバーとしてアルゼンチンやイラン、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、UAEが加わって、この拡大したグローバルな集団は「BRICSプラス」と称される。その結果、BRICSプラス全体の購買力平価ベースでのGDPは世界のGDPの約37%を占めるに至っている。大雑把な性格付けを行うと、BRICSプラスは資源国の集まりであり、G7グループは非資源国であって、金融に特化した国々である。

ここに「オイルダラーはすでに衰退の一途」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。いったい何が起こっているのだろうか?

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サウジアラビアや他の産油国はエネルギー貿易において徐々に米ドルから離れており、この動きは最終的に「オイルダラー」を失脚させ、米国の金融システムを弱体化させる可能性があると国際政治経済アナリストはスプートニクに語った。

サウジ中央銀行は国際決済銀行(BIS)の中央銀行デジタル通貨(CBDC)プロジェクトである「mBridge」に参加し、国境を越えた即時決済を可能にした。

一方、1974年に米国とサウジアラビアとの間で締結されたいわゆる「オイルダラー協定」は202469日に失効したと言われている。だが、ワシントンもリヤドも、今のところ、この噂を確認してはいない。

この動きは世界の原油貿易における米ドルの終焉の可能性を示す前兆と見なされる。

「これらふたつの重要な展開はサウジアラビアが将来の米ドルベースの原油貿易取引に柔軟性を与えるというひとつの戦略的目的に役立つであろう」と、国際原油経済の学者であり、世界的なエネルギーの専門家でもあるマムドゥー・G・サラメ博士はスプートニクに語った。「単刀直入に言えば、サウジアラビアは米国を怒らせることもなく、中国への原油輸出の対価として人民元を受け入れることができる。だが、1973年以来世界の原油取引の通貨として用いられてきたオイルダラーへの打撃は計り知れず、特に湾岸協力会議(GCC)諸国が広く予想されているようにサウジに追随すれば、計り知れないものとなろう。」

特別協定の下で、50年前、リヤドは競争入札プロセスを迂回して米国債を買う機会を得た。それと引き換えに、サウジアラビアは原油を米ドルで売り、その収入を米国債に投資することに同意した。その後、リヤドは他のOPEC加盟国にもこれに追随するよう説得した。

この「オイルダラー取引」はニクソン政権が米ドルの金への兌換性を終らせ、ブレトンウッズ体制を不換紙幣に変えた数年後に成立した。これに先立って、1944年、米国に追従する国々は自国通貨を米ドルに固定することに同意し、米ドルは金に固定された。米国とサウジの合意の下で、米ドルの為替レートの設定は原油に「ペッグ」された。

ドル離れする産油国とその顧客:

ある試算によると、世界の原油販売の80%近くが米ドル建てで設定されている。しかし、ロシアやイラン、サウジアラビア、中国、等ではエネルギー貿易において現地通貨への移行が進行している。

2022年、サウジアラビアと中国は原油取引の一部を人民元で決済することについて交渉中であると報じられた。20231月、サウジアラビアのムハンマド・アル・ジャダーン財務相はサウジアラビアがエネルギー貿易で米ドル以外の通貨を使用することに前向きであると発表した。

2023117日、アル・ジャダーン氏はブルームバーグTVに対して「貿易協定の決済方法は、それが米ドルであろうと、ユーロであろうと、あるいは、サウジ・リヤルであろうとも議論することには問題はない」と語った。「われわれは世界貿易の改善に役立つ議論を振り切ったり、排除したりしているとは思わない。」

ブルームバーグによると、202311月、中国とサウジアラビアは相互の経済協力を促進するため、70億ドルの通貨スワップ協定に署名した。

その1カ月後、ウォールストリートジャーナル紙は、2023年には世界の原油取引の約20%が米ドル以外の通貨で決済されたと報じた。しかしながら、サラメ氏はこの数字はさらに高まるだろうと考えている。

「サウジ主導のGCC諸国は中国やアジア太平洋地域に日量約1,200万バレルの原油を輸出し、中国は1,300万バレルの原油輸入を人民元で支払い、ロシアは850万バレルの原油や石油製品をルーブルと人民元の両方で販売し、インドは500万バレルの輸入に対してルピーで支払っている。 これらの状況は世界の原油貿易の少なくとも52%が米ドル以外の通貨建てで売られている可能性があることを意味する」とこの原油の専門家は示唆した。

「これは、世界の原油貿易におけるオイルダラーのシェアで約40%を失ったことに相当する。それは、米国の金融システムと米ドルの両方に深刻な損失をもたらすことになり、最終的には現在の価値の3分の1から2分の1を失う可能性がある。サウジの動きの背後にあるもうひとつの深刻な要因は、米ドルの健全性に対する懸念である」とサラメは指摘した。

Photo-5:関連記事:India-Russia Oil for Rubles Deal Another Sign of Rapid Dedollarization: Sputnik, May/31/2024

サウジの手枷を解くためのデジタル・クロスボーダー決済:

サウジアラビアが「mBridge」プラットフォームに参加するという決断は原油貿易の脱ドル化を促進する可能性が高いと、政治アナリストで「Makkah NewsPaper」や「Arab News」のコラムニストでもあるファイサル・アルシャメリ氏が述べている。

「中央デジタル銀行通貨(CBDC)のプラットフォームは分散型台帳技術(DLT)に基づいて構築されており、国境を越えた即時決済と外国為替取引を可能にするため、参加している中央銀行や商業銀行の多くによって共有されている」とアルシャメリ氏はスプートニクに語った。

「サウジアラビアは、今月メンバーとして承認された南ア準備銀行を含めて、26以上の本規約を順守する参加国のひとつとなる。サウジアラビアは国際貿易のための中央銀行デジタル通貨(CBDC)のイニシアチブであるmBridgeに正式参加者として参加し、これによって、中国とサウジアラビア間の原油貿易における現地通貨建て決済も拡大される。サウジアラビアは米ドル以外の通貨で原油の支払いを受け付ける。こうして、より多くの国が米ドルを使わずに貿易を行うことが奨励されることになる。米国はこの世界経済における新しい事実を受け入れなければならなかった。」

ピーター・G・ピーターソン財団によると、米国の国家債務が34兆ドルを超して、米国財務省には6,600億ドル(2023年)という途方もない利息の支払い求められる中、これらの動向が最近具体化している。そして、同財団によると、2023年の米国の総利息支払い額(国債の支払いと政府口座が保有する債務の政府内支払いを含む)は合計で8,790億ドルとなった。サラメ氏によると、この状況は米ドルに対する世界の投資家の信頼を損ない、脱ドル化の動きに拍車をかけているという。

「米国経済は多くの問題に直面している」とアルシャメリ氏は同調した。「サウジアラビアは世界のどの国の国内問題に対しても中立を保っている。米国のネガティブな経済動向は世界中の企業やビジネスに打撃を与え、米国に追従する国々においては消費者の信頼感を低下させる」と述べた。

Photo-6:関連記事:Dollar's Role Diminishes as US Sanctions Boost Russia’s Yuan Trade: Sputnik, Jun/13/2024

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これで全文の仮訳が終了した。

米ドルの価値が3分の1、あるいは、半分になると、世界経済における存在感が低下する一方にある日本経済は拍車を掛けるように沈下することであろう。これは政治的・経済的・軍事的に米国にべったりと追従して来た日本が何時の日にか支払わなければならない対価だ。

ところで、読者の皆さんと共有しておきたい点がある。つい最近のことではあるが、スイスで開催されていたウクライナ平和サミット(615日~16日)は、結局、前評判程の成果は得られずに終わったようだ。その最大の要因はグローバルサウス諸国がロシアや中国が招待されてはいない場でウクライナの和平を論じることは不合理だとして、西側に同調しなかったからだという。この状況に本日の引用記事が指摘している政治や経済におけるグルーバルサウスの発言力が高まってるという現実のひとコマを見るような気がした。

西側、あるいは、G7諸国が低迷を続けるプロセスはわれわれの理解を超えて、深く、そして、着実に進行しているようだ。もちろん、日本の次世代の人たちの幸せは単に物質的な裕福さによって決まるものではない。価値観が大きく作用する。日本がその伝統を捨てて、近視眼的なグローバリズムの枠組みや政策に組み入れられる度に、個々の日本人の生活は日本らしさを失って行くように見える。千数百年続いて来た価値観は短期的には目に見える形で失われることはないかも知れないが、個々人の一生という時間的尺度から観察すると、そこには極めて大きな変化として認めることができよう。そして、その変化を認めた時には既に後戻りはできないのが普通だ。ここに伝統が持つ特質が見られる。換言すれば、それは伝統が持つ脆弱性でもある。

遅きに失したかも知れないが、日本独自の長期的視点と確固とした行動力とが、今、求められている。しかも、これはわれわれ一般庶民の意識レベルにおける話である。なぜならば、一握りの政治エリートには任せ切れないことがすでに明白であるからだ。

参照:

注1:Developments to Dethrone Petrodollar Already Underway: By Ekaterina Blinova, Sputnik, Jun/13/2024

 

 


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