ウクライナ・ロシア戦争はどこまで続くのか?何時かは終わるのだろうが、果たしてどちらが勝つのだろうか?
皆がこういった問い掛けをするが、誰も確かな答えを出すことはできない。見方は二つに分かれる。尋ねた相手次第である。「多分、ウクライナが勝つ」あるいは「恐らくは、ロシアが勝つ」という言葉が跳ね返って来る。これが現状である。確信はないが、希望的観測ならば誰でもが答えられる。
ここに、「世界のほとんどの国がウクライナを支援?それには程遠い」と題された記事がある(注1)。約1か月半前の記事であるのだが、この記事は今も十分に賞味期限内である。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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ベアボック独外相やバイデン米大統領といった高貴な人たちの声明の背後には平和主義活動家や経済制裁の反対者、ウクライナの筋金入りの政敵が住む広大な国に広がっている。ウクライナとの連帯は侵食されているのであろうか?
昨日(2月23日)の夕刻、ニューヨークでは
国連総会においてロシア軍の撤退が大多数によって議決された。193議席の内で141カ国が賛成票を投じたのである。われわれ(訳注:ドイツ)の外務大臣は感情的なスピーチを行って、自由のために戦っているウクライナへの支援を呼びかけた。「今日ここにいるわれわれ一人一人にはこの和平計画に貢献する絶好の機会に恵まれている。それは侵略者に対して侵略を止めなければならないと主張することによってだ。」
ほんの数日前、ジョー・バイデンは個人的には危険な仕事のために電車でキエフを訪れ、ゼレンスキー大統領に連帯を保証した。「彼らはわれわれに自由が貴重であることを思い出させる。大統領、われわれは必要な限りあなたと一緒だよ。」
だが、不都合な真実は次のような状況だ。つまり、ウクライナとその戦争を遂行する大統領は今や孤独になっているという点だ。
EU委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長はロシアに対する新たな制裁政策を提示した時、「われわれは皆でロシアの封じ込めを強化する」と好戦的であった。
言葉は世界を変えることができるとよく言われる。しかし、言葉は現代の証人が言葉の背後にある権力関係を見通すことを困難にする煙幕を形成する可能性をも持っている。したがって、ロシアの侵略の記念日に当たる今日、願いや現実は言葉の霧の中で見えにくくなる。「初めに言葉があり、最後に文章があった」と、かつて、ポーランドの詩人スタニスワフ・イェルジー・レックは言った。
不愉快な真実とは次のような状況だ。つまり、ウクライナとその戦争を遂行する大統領の周辺では物事が孤独になって来ている。ベアボック、バイデンなどの高貴な連中の声明の背後においては、平和主義活動家や対ロ経済制裁に反対する勢力、筋金入りのウクライナの政敵たちが住む広大な国が広がっている。しかも、この展開をウクライナにとって極めて危険なものにするこれらみっつのグループはすべてがこの世界の民主主義国家で自由気ままに過ごしている。
1. 利益への貪欲さ
制裁品をも含めて、経済的な理由からロシアで調達する国家や企業はまだまだ存在する。
石油禁輸後でさえも、ポーランドはロシアの石油を購入し続けている。2月初旬、ポーランドは輸入石油の10%(月間20,000トン)をロシアから調達し続けていることを国有資産省のマチェイ・マウェツキ長官が認めた。ロシアのガス生産者「タトネフチ」との契約は終了させることはできなかったのだ。終了させたならば、補償金の支払いが発生するのである。特定分野に応じた連帯。
インターネットで情報を漁るためのヒント: More money for war - Russia Exports 2022:
How gas and oil revenues increased
パイプライン:ヨーロッパは引き続き購入
EUによる天然ガス禁輸はまだ実現してはいない。ノルドストリーム
1 と 2 を経由する天然ガスの輸出はできなくなったが、ロシアは別のルートでガスを供給している。
「トランスガス」と「トルコストリーム」の両パイプラインは依然として活発に稼働しており、ロシアは液化天然ガスにも積極的に取り組んでいる。現在、EU
は週に約 5 億立方メートルのパイプライン 経由の天然ガスと、月に 1,500
立方メートル(訳注:原文通りではあるが、これは15億立方メートルの間違いではないか?つまり、「百万」が脱落しているようだ)の
液化天然ガスを輸入している。 価格情報サービスのICSによると、フランス、スペイン、ベルギーが上位にランクされている。
セメントやキャビア、金、プラスチック、木材、等のロシアからの制裁品目は、ドイツ向けを含めて、引き続き配送されている。ドイツのロベルト・ハーベック経済相は現行の経済制裁は国家や企業によって活用されている多くの抜け穴を提供していることを初めて認めた。「これらの抜け穴を通じて経済制裁が迂回されていることは明白である」と。
ヨーロッパはロシア産天然ガスを購入:
世界で最大の民主主義国家であるインドは欧米の拘束によって放出された大量のロシア産原油と天然ガスを安く輸入する絶好の機会を掴んだことから、インドは典型的な受益者となっている。ポーランドとは異なり、インドはウクライナ戦争を明確に非難することさえも決心することはできない。同国はこの紛争を利用しようとしているのだ。
2. 平和主義志向
世界中で平和主義的なムードが広がり、これは表面上は戦争を迅速に、かつ、非暴力的に終結することを促進するものではあるが、ウクライナの降伏や自由の欠如を促進している。
西側諸国はウクライナを軍事的に保護する必要があるか・・・
強力な支援を:32%
今すぐ支援を続行:40%
控えめな支援:23%
分からない:5%
サーラ・ワーゲンクネヒトとアリス・シュヴァルツァーによって始められた平和宣言はアンティエ・フォルマーやマルゴット・ケスマンのような人々だけではなく、ペーター・ガウヴァイラーのような保守的な政治家さえをも含めて一堂に集合させている。これらの人たちはウクライナにこれ以上の武器を供給したくはないので、ロシアの侵略に対してはウクライナを無防備のままにする。つまり、「われわれはドイツ首相に武器の供給をさらに展開することは止めるよう呼びかけたい」と言う。
3. 政治上の反対者たち
このグループはウクライナの主要なスポンサーであるワシントン政府を攻撃し、特に米国で活動していることから、ウクライナにとっては最も危険な存在である。
ドナルド・トランプの保守陣営における挑戦者であるフロリダ州知事のロン・デサンティスはジョー・バイデン政権が行っている軍事援助には明確に反対している。「受取人が指定されてはいない小切手であるからという理由だけでは、それを認めるわけにはいかない」と。
「彼は世界の反対側の国の国境を非常に心配しているが、国内ではわれわれの国家の国境を確保するために彼は何もしなかったと私や数多くの米国人は考える。」
米国のウクライナ支援は・・・
大量に行われている:40%
もっと支援を行え:24%
十分ではない:17%
何とも言えない:19%
ドナルド・トランプはこの列車に乗り遅れたくはない。この列車は高速でワシントン政府との正面衝突のコースを進んでいる。彼の選挙運動への資金提供の呼び掛けにおいて、彼はゼレンスキー政府へのさらなる軍事支援に関しては激しい反対者としての自分を立場を表明している。
彼は、「インフレが米国市民に厳しい打撃を与えている経済状態の中で、バイデンはウクライナの年金生活者に資金提供をするために米国の納税者のお金をキエフに送り込んでいる」と書いた。
「彼はわれわれの納税者のお金を海外に送るのが大好きだ。こうして、外国で他国の人々の国境を確保することができるのである。」彼の結論:「バイデンは自国民よりも、むしろ他国の人々を優先している。」
それは単に正義のためというのではなく、利益のためだ:
結論:ウクライナに対する米国民の支持は侵食されている。米国の支持者たちはこれまで十分には行っていなかった物事を今行わなければならない。つまり、彼ら自身と彼らの動機について説明しなければならないのである。米政府は納税者のためだけではなく、軍関係者に対してもウクライナで行っている投資や取るべきリスクに関しても説明する責任がある。
このような説得が成されないならば、ウクライナ戦争は、ベトナム戦争と同じように、この戦争に資金を提供している西側の国々において支援の欠如に見舞われ、失敗に終わる可能性がある。
ウクライナ人の自由のための闘争は自明であるという信念は子供じみている。それは単に正義のためと言うのではなく、利益のためなのである。西洋は超自然的な場所であるというわけではない。ポーランドの詩人スタニスワフ・イェルジー・レックをもう一度引用すると、「地上で天国を求める連中は誰もが地理の授業では眠っていた」。
著者のプロフィール:
ガボール・スタインガルトはドイツで最も有名なジャーナリストの一人。彼はニュースレターとして「パイオニア・ブリーフィング」を発行している。同名のポッドキャストは政治やビジネスに関してドイツにおいて毎日アクセスができる主要なポッドキャストである。2020年5月以降、スタインガルトは「パイオニア・ワン」号の船上で編集スタッフと一緒に働いている。「メディア・パイオニア」を設立する以前は、いくつもの責務を果たした中で、ハンデルスブラット・メディア・グループ(訳注:ハンデルスブラット紙はドイツにおいては最大の経済紙)の取締役会会長を務めた。彼の無料ニュースレターの購読がこちらで可能。
インターネットで情報を漁るためのヒント: Geo-politics - Sovereign state? How China
and the majority of countries stand by Taiwan
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これで全文の仮訳が終了した。
ドイツで著名なジャーナリストのひとりとして知られている著者は事実を示すデータに基づいてロシア・ウクライナ戦争の将来を見極めようとしている。彼の結論はウクライナを支持してきた西側の意欲が今や侵食されつつあるという点を指摘。この指摘は他の識者たちの意見ともよく一致している。
つい最近(4月10日)、前回のブログへの投稿のコメント欄へ下記のような捕捉情報を追記したが、改めてここでも掲載しておこうと思う。その内容との関連で言えば、ドイツの著名なジャーナリストであるガボール・スタインガルトがこの引用記事で指摘した内容は極めて重要であると言えるようだ。いずれは、時が判断してくれることであろう:
バフムートが陥落?
ロシア・ウクライナ戦争に関する4月8日のインタビュー(UGETube)で、元米海兵隊の諜報専門家であり、現在はロシア・ウクライナ戦争に関して常に事実に基づいた情報発信を続けてきたスコット・リッターはバフムートでは8万人のウクライナ兵が排除されたと述べた。バフムートの戦いは多くの専門家がこの戦争の帰趨を決めることになるであろうと言っていた。もしもバフムートが実質的にロシア軍の手に陥落したとするならば、次の展開は何か?停戦へと繋がるのだろうか?
バフムートが実際に陥落したのかどうかは別にしても、少なくとも、西側がロシアに課した経済制裁は効いてはいないことが明白である。たとえば、「Russia Exports 2022: How Gas and Oil
Revenues Increased」(By Oliver
Völkl, Mar/01/2023)と題された記事の要点を抜粋すると、次のような具合だ:
モスクワ政府の統計によると、ロシアの天然ガスと石油の販売からの収入は、西側の経済制裁にもかかわらず、前年比でほぼ3分の1増加した。
インタファクス通信によると、予算に対応する2022年度の収入は前年と比較して28%または2.5兆ルーブル(2022年末には約316億ユーロ)増加したと、ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相が2023年1月16日に述べた。
ロシアのウクライナに対する侵略戦争の過程において、バルト海のノルドストリーム1パイプラインを介してはヨーロッパに対するガスは何ヶ月も汲み上げられておらず、ノルドストリーム2パイプラインは稼働したことさえもない。両パイプラインはともに破壊句作された。
このような背景から、従来の天然ガスの輸出は減少しているとノバク氏は述べた。その一方、液化天然ガスの輸出は8%増の460億立方メートルとなった。
原油の輸出は7%増加した。
2023年2月5日以降、ロシアからの石油製品は欧州連合に輸入されなくなった。この輸入制限は、ロシアのウクライナ侵略戦争のために27の加盟国が昨年6月に採択した制裁規則に基づいている。これは決定の直後に発効していたが、石油製品の禁輸には長い移行期間を必要とした。
ロシア原油のEUへの輸入は昨年12月から大部分が禁止となった。石油製品の禁輸措置の唯一の例外はクロアチア。
将来、ロシアに石油製品を市場価格以下で他の国の顧客に販売することを強制することを目的とした規制もあり得る。ディーゼルなどの製品では1バレル(159リッター)あたり100米ドル(約92ユーロ)の価格上限を規定し、灯油などの高品質ではない石油製品の場合はバレルあたり45ドル(約41ユーロ)となる。
比較のために言うと、国際商品取引所ではヨーロッパに配達されるディーゼル油は、最近、バレル当たりで約100から120ユーロに相当する価格で取引されている。
どちらの措置もロシアの貿易の利益を抑制し、そうすることによってロシアの戦争能力を制限することを目的としている。
かねてから予測されていた通りに、西側の経済制裁はロシア側には何の痛痒さえをも与えてはいないようだ。ロシア産の天然ガスや原油の輸出によってロシアは2022年に前年比で28%増の収益を実現したのである。西側による調達は減少したが、インドや中国を代表とする非米諸国はロシア産天然ガスや原油を変え支えた。さらには、西側ではエネルギー危機が顕著となって、国際市場価格が高めに推移したこともロシア側には有利に働いた。
他には、半導体の対ロ禁輸がある。ロシアでは家電製品から半導体を取り出して軍需用に振り向けていると報じられた。西側による半導体の禁輸はロシアにとってはかなりの痛手になっているのかも知れない。
参照:
注1:Almost the whole
world is behind Ukraine? Far from it: By Gabor
Steingart, Focus online, Feb/25/2023
補足情報:
返信削除トランプ前大統領に対するフォックスニュースのタッカー・カールソンのインタビュー:
「ノルドストリームパイプラインを爆破したのは誰ですか?」と、カールソンが尋ねた。
「私は私たちの国を困らせたくはないので、それには答えない」とトランプが返答した。「しかし、ロシアではなかったということは誰にでも分かる。しかし、あなたも知っているように、連中がロシアを非難した際に、ロシアが自分たちのパイプラインを爆破したのだと彼らは言った。あなたも多いに興味をそそられたよね。あれはロシアではなかった。」
(原典:Tucker Carlson Asks Trump Who Blew Up Nord Stream Pipeline, Responds "I Don't Want To Get Our Country In Trouble": By Ian Schwartz, RealClear Politics, Apr/11/2023)