ロシア・ウクライナ戦争は実質的には米ロ代理戦争であると言われている。
旧ソ連邦の崩壊とともに東側の軍事同盟であったワルシャワ条約機構軍が解体され、東西冷戦構造は終結した。それにもかかわらず、米国は西側のNATOという軍事同盟を温存し続けた。旧ソ連邦が崩壊した直後の1990年代、NATOはその存在理由を明確には打ち出せず、方向性を失っていた。だが、2001年に起こった(あるいは、自作自演によって引き起こされた)9・11同時多発テロを受けて、国際規模の対テロ戦争が宣言された際には米国のある将軍は「これで今後50年間は米軍は安泰だ」と言った。彼らを取り巻いていた当時の状況を考えると、あれは、恐らく、偽らざる本音であったのではないかと思える。
軍の高位高官たちにとっては軍の存続は非常に大事だ。退役後に回想録を書いて印税収入を確保することと並んで、退役後の天下り先を含めて自分たちに約束されていた権益をしっかりと擁護することは極めて重要なのである。
大量破壊兵器の存在をでっち上げて、イラクへの米軍侵攻が始まった。しかしながら、大量破壊兵器はイラクの地で発見することはできなかった。この事実は米国の権威を大きく失墜させた。歴史を振り返ってみると、米国の権威失墜はあの時から始まり、今に続いている。腕力で自分たちの言い分や目標を押し通そうとする試みがあれこれと繰り返されたが、多くは失敗に終わった。対外政策だけではなく、国内政策においても同様だ。
ロシア・ウクライナ戦争はそういった米国による間違った政策の延長線上に構築された。この戦争も大失敗に終わるのではないだろうか?少なくとも、西側諸国では戦争疲れが高まっているように見える。
ここに、「大破局に向かって夢遊病者のごとく歩いている」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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副題:(心理学者の)ジョーダン・ピーターソンとマイク・リー上院議員がウクライナにおける米ロ代理戦争について語る。
昨年(2022年)の2月、米国政府はロシア・ウクライナ間の危機を和らげるために何の努力もしなかったことが明らかになった時、それに代わって、カマラ・ハリスがミュンヘン安全保障会議に送り込まれ、彼女は到底理解できないような、わざと曖昧にしたメッセージを伝えた。
1998年に議会がNATOの拡大を決議した際、ジョージ・ケナンは次のように述べた。『これによって新たな冷戦が始まるだろう。ロシア人は徐々に否定的な反応を見せ、それは彼らの政策に影響を与えると思う。悲劇的な間違いだと思う。これには理由がまったく見当たらない。他の誰かを脅かしている者なんて誰もいなかった。このNATO拡大は当国の建国の父たちを墓の中で七転八倒させていることだろう・・・ もちろん、ロシアからは否定的な反応があるだろう。そうすると、NATO拡大論者たちは「ロシア人はいつもこうなんだと私たちはあなた方にいつも言ってきただろう」と言うに違いない ― しかし、これはまったく間違っている。』
私たちは歴史上のひとつの段階に入っていると思う。われわれはひとつの危機から次の危機へとよろめきながら渡り歩く運命にあると思う。おそらく、これは支配階級によって意図的に引き起こされた最後の危機をわれわれ一般市民がすぐにも忘れさせるためなのである。ウクライナの中立協定はなぜ試みられなかったのだろうか?冷戦中、スウェーデン、フィンランド、オーストリアに関して中立協定が結ばれ、それは何十年にもわたって維持されてきた。プーチンがそのような中立協定に違反したであろうという当然の結論にはいったいどのようにして到達したのだろうか?人類にとって壊滅的な結果をもたらしかねないこの戦争を回避するための努力はまったく成されなかったように私には思える。
もしもウラジーミル・プーチンが存在してはいなかったとしたら、(アイゼンハワー大統領が別れの挨拶で彼らをそう名付け、警告したように)米国の軍産複合体は、年間7500億ドルもの国防予算の大部分を維持するためには、プーチンを発明しなければならなかったであろう。数多くのアナリストは米国の政策が最終的にウクライナでの戦争につながることを理解し、何年にもわたって警告をしてきた。われわれの国家や他の国々を運営している連中は彼らの市民については誰も何とも思ってはいない。ましてや、彼らは彼らの政策によって破壊してしまった国についてはなおさらのことである(最近のアフガニスタンでの大失敗が示しているように)。人々はいったい何時になったらこの恐ろしい現実から目を覚ますのか私は疑問に思っている。だが、そんなことは決して起こらないように思え、これはプロパガンダの威力を純粋に示す証であると言えよう。
米国またはNATOはウクライナでの戦争をどのように終結させることができるのかについて計画を持っているのだろうか?ウクライナの勇敢な連中にはアフガニスタン人が1980年代にしたように持ちこたえ、ロシア軍を出血させるだろうという漠然とした想定が成されているようだ。これは極めて非現実的であり、いずれにしても、数ヶ月前の米国の混沌とした撤退に続いて、現在、アフガニスタンは大規模な人道危機の真っ只中にある。アフガニスタンにとっては物事はうまく進展しなかった。いざという時には米軍が彼らの援助に駆け付けるという保証に基づいて、リンゼイ・グラハムのような連中はウクライナ人にロシアに対して厳しい姿勢をとるように長い間奨励してきたが、そのような軍事紛争をどのように解決できるのかについての計画は何も提供してはいない。窮地に立たされたプーチンが戦術核兵器を使用した場合、NATOはどのように反応するのだろうか?ミュンヘン安全保障会議でのハリス副大統領の声明には一貫性がなかった。賢明な人たちはこの種のその場凌ぎの政策が10億人もの死をもたらす可能性があることを考える必要がある。
私の投稿はアフガニスタンやイラク、リビア、シリアでの米国の戦争(および代理戦争)に疑問を呈する人たちに対して何時ものように向けられる無意味な批判に遭遇した。
一年以上を経て、この紛争における米国の政策に関する私の懸念はことごとく現実のものとなり、以前よりも強化された。ジョーダン・ピーターソンがユタ州上院議員マイク・リーとの会話(昨日の公開)で指摘しているように、米国政府はこの戦争に勝つ方法については何の概念も持ってはいない。インタビュー全体を見ることを強くお勧めしたい。
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これで、全文の仮訳が終了した。
ジョージ・ケナンの洞察は素晴らしい。残念なことには、このような彼の長期的な見通しは大多数の政治家に支持されることはなかった。彼らは多くが極めて短期的な目標に囚われているからだ。
ロシア・ウクライナ戦争を巧妙に引き起こした米国はこの戦争についての出口戦略を持ってはいないと著者は述べている。米国、あるいは、NATOは夢遊病者のように歩き回っているだけだと言う。この戦争は米国の軍産複合体に金を落とすことが主な目的であったのだから、このような結果を招いたのは当然の結末ではないかとさえ思える。
軍産複合体に金を落とすには軍需品を世界的な規模で新たに調達させる状況を作り出さなければならない。つまり、武力抗争を引き起こし、手持ちの戦車や弾薬、ミサイルを消耗させ、新たな調達に導かねばならないのである。EUもこの短期的な目標に賛同した。平和な世界が続いていては軍事産業の利益目標を達成することはできないし、金儲けの野心は膨らむ。米国に対する敵国が存在しなければ、敵国を作り出し、プロパガンダマシーンを駆使し、その敵国がいかに悪党であるかについて喧伝しなければならない。こうして、一般庶民に対する洗脳作戦が展開される。ネオコンのシナリオを持ち出すまでもなく、イラクが好例であった。イランもそうだ。シリアもだ。そして、ロシアや中国もまったく同様だ。
そんな国際政治環境の中で、アラブの春の余波を受けて、2015年以降イエメンでは代理戦争が行われてきた。そんな戦争遂行者であるサウジアラビアとイランとの国交が再開されることになった。これを仲介した中国の影響力は無視できない程に大きい。中国は中東における同国の存在感をはっきりと見せつけた。それに引き換え、この中国の動きによって、米国は中東諸国にとってはもはや同地域に居ても居なくても、どうでもいいという新しい現状認識が現出している。西側諸国が夢遊病者のように歩き回っているウクライナの舞台においてもこのような和平の動きが一日でも早くやって来て欲しいものだ!何と言っても、戦争で最も大きな損害を被るのは常に一般庶民であるからだ。イエメンでは200万人もの国内避難民が発生している。ウクライナを逃れ、ヨーロッパ諸国へ流れ込んだ避難民は何百万人にも達した。
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