2023年9月7日木曜日

エスコバー:中央アジアは新たな大ゲームの主戦場

 

中東諸国は、今、雪崩をうったように親米から反米へ変わろうとしている。かっては犬猿の仲であったサウジアラビアとイランが中国の仲介によって外交関係を再開したことによって火が付いたのだ。サウジアラビアは原油の取引に米ドルの使用を止めて、取引国の通貨を使うと宣言した。こうして、中東の原油を産出する国々はサウジに倣って、米ドル離れを起こしている。

また、82224日に南アで開催されたBRICSサミットで議長役を務めたシリル・ラマポーザ南アフリカ大統領は「われわれはアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビアおよびアラブ首長国連邦をBRICSの正式メンバーとして招請することを決定した。メンバーシップは202411日から有効になる」と発表した。これらの新メンバー国家以外にもBRICSへ加盟したい国々は20数カ国にも上ると報じられている。

このように、世界は、今、急速に変貌しようとしている。

ここに「エスコバー:中央アジアは新たな大ゲームの主戦場」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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オリジナル記事はぺぺ・エスコバーによるもので、The Cradleにて初出

ロシアと中国がこの地域の支配的な政治的および経済的大国であり続ける限り、中央アジアの中心地は米国とEUによる脅威や賄賂、カラー革命といった攻撃の標的となり続けるであろう・・・

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歴史の中心地であったユーラシア大陸の中心部(ハートランド)は米国と中露戦略的パートナーシップとの間で争われる「新たな大ゲーム」の主要な戦場であり、今後もそうであり続けるであろう。 

「大ゲーム」の元祖は19世紀後半に大英帝国とロシア帝国との戦いであって、実際、この戦いはこの地から離れることは決してなかった。つまり、それは米英協商対ソ連、その後は米国・EU対ロシアへと姿を変えて転移して行った。

1904年に大英帝国によって概念化され、マッキンダーによって設計された地政学的ゲームによると、このハートランドは諺にある「歴史の要」であり、再活性化された21世紀における歴史的役割は何世紀も前と同じくらいに関連性がある。新興する多極化世界を推し進める主要な推進力である。   

こうして、中国やロシア、米国、EU、インド、イラン、トルコ、そして、程度は低いが日本、等、すべての主要国がハートランド、つまり、中央ユーラシアで働いているのも決して不思議ではない。中央アジアのいつつの「スタン」国家のうちで四カ国は上海協力機構(SCO)の正会員である。カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、ならびに、タジキスタンだ。そして、カザフスタンのように、すぐにBRICS +のメンバーになる国家もある(訳注:すでにご存じのように、最近開催されたBRICS+サミットの決定によると、カザフスタンは新メンバーには含まれていない)。  

ハートランド全域での影響力をめぐって起こる主要な直接的な地政学的衝突は無数の政治的、経済的、財政的な領域で米国をロシア・中国と対抗させている。  

帝国の手法は特権を与える。他にはいったい何があると言うのか。脅しと最後通告だ。たった四カ月前のことであった。米国務省と財務省、および、外国資産管理室(OFAC)からの使者が露骨な、あるいは、薄く偽装した脅しのような形で「贈り物」のパッケージを持って、ハートランドを視察した。彼らからの重要なメッセージはこうだ:貴国が何らかの形でロシアを「助ける」か、取引をしたならば、貴国は二次制裁で平手打ちを喰らうことになるであろう。

ウズベキスタンのサマルカンドやブハラの企業、ならびに、カザフスタンの連絡先との非公式な会話には明らかにある種の共通パターンが存在する。つまり、米国人がハートランド/中央アジアの国家に銃を突きつけることは何ら禁じられてはいないということを誰もが知っているようだ。

古代シルクロードの王たち:

ハートランド全体を見ても、現在のパワー外交を観察するのに伝説の「東のローマ」であるサマルカンドよりも適している場所なんてとても見当たらない。ここは中国やインド、パルティア、ペルシャの間の歴史的な貿易上の交差点である古代ソグディアナ地域の中心にあって、東西の文化的傾向、ゾロアスター教、イスラム前後の諸々の動きにおける非常に重要な節点であった。

4世紀から8世紀にかけて、東アジアや中央アジア、西アジア間のキャラバン貿易を独占し、絹や綿、金、銀、銅、武器、香料、毛皮、絨毯、衣服、陶器、磁器、ガラス、装飾品、貴石、鏡、等が交易された。狡猾なソグド人の商人は遊牧の民の王朝から得た保護を活用して、中国とビザンチウムの間の貿易において強力な地位を固めた。

実力主義の中国要人は非常に長い歴史的サイクルの観点から推論するが、上記のすべてを非常に深く認識している。つまり、ほぼ10年前にカザフスタンのアスタナで習近平国家主席によって発表されたように、それは正式にはBRI一帯一路イニシアチブ)として知られている新シルクロードの概念の背後にある主要な推進力である。北京政府は汎ユーラシア貿易と連結性の向上に向けて必要となる経路として西側の近隣諸国との再接続を計画している。                 

ハートランドとの関係に関しては北京とモスクワの両政府は常に戦略的協力の原則の下で補完的な関係性に焦点を当てようとしている。1998年以降、両国は中央アジアとの地域的な安全保障と経済協力に取り組んでいる。2001年に設立されたSCOはロシアと中国の共通戦略の実際の産物であり、ハートランドとの継続的な対話を行うためのプラットフォームである。

中央アジアのさまざまな「スタン」国家がそれにどのように反応するのかは多岐にわたる。

  • タジキスタンは、たとえば、経済的には脆弱であって、安価な労働力の供給者としてロシア市場に大きく依存しており、西側を含むあらゆる種類の協力に対して公式に「門戸開放」政策を維持している。   
  • カザフスタンと米国は「戦略的パートナーシップ評議会」を設立した(最近の会議は昨年の末に開催された)。
  • ウズベキスタンと米国は2021年後半に設定された「戦略的パートナーシップ対話」を運用している。米ビジネスの存在はウズベキスタンの田舎町の一角にある店でさえもコーラやペプシが見受けられことは言うまでもなく、印象的な貿易センターを介してタシケントでも非常に目立っている。 

EUは、特に、カザフスタンで追い上げている。外国貿易(390億ドル)と投資(125億ドル)の30%以上がヨーロッパからである。ウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領は5年前に国を開放したことで非常に人気があったが、3か月前にドイツを訪問した際に90億ドルの貿易協定を結んだ。

10年前の中国による「一帯一路イニシアチブ」の発足以来、EUはハートランド全域に約1200億ドルを投資しており、決してみすぼらしいもの(外国投資総額の40%)ではないのだが、それでもなお中国の投資額には及ばない。

トルコは本当に何をしているのか?

ハートランドにおける帝国の焦点は膨大な原油と天然ガスの資源があることから容易に予想できるようにカザフスタンである。米国・カザフ間の貿易は中央アジアと米国の全貿易額の86パーセントを占めているが、昨年は38億ドルで、必ずしも印象的なものではなかった。この数字を米国の対ウズベキスタン貿易がわずか7%であることと比較していただきたい。

SCOのこれらよっつの中央アジアの「スタン」国家のほとんどは望みもしない帝国の怒りを引き付けないようにし、「多面的な外交」を実践していると主張することは公正だ。カザフスタンはその一部として「バランスの取れた外交」を求めている。この外交姿勢は同国の「外交政策概念2014-2020」の一部となっている。

ある意味で、アスタナの新しいモットーはヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領のほぼ30年間の統治の間に確立されたモットーである「マルチベクトル外交」との継続性をある程度示している。カザフスタンはカシム・ジョマルト・トカエフ大統領の下で、SCOやユーラシア経済連合(EAEU)、および、BRIのメンバーであるが、それと同時に、帝国の策略に対しては24時間年中無休で警戒しなければならない。結局のところ、2022年初頭のカラー革命の試みからトカエフ政権を救ってくれたのはモスクワ政府とロシア主導の「集団安全保障条約機構」(CSTO)による迅速な介入であった。

一方、中国は集団的アプローチに投資しており、たとえば、わずか3か月前に開催された「中国・中央アジア5+1首脳会議」などの注目を集める会議で固めようとしている。

次に、トルコ、アゼルバイジャン、ならびに、中央アジアのみっつの「スタン」国家であるカザフスタンやウズベキスタン、キルギスタンを統合する旧「チュルク評議会」である「チュルク諸国機構」(OTS)という非常に興味深い事例がある。

このOTSの包括的な目標は「チュルク語圏の諸国間において包括的な協力を促進する」ことにある。だが、トルコ製品を宣伝する奇妙な看板を除いては、ハートランド全体では実際にはあまり見かけない。2022年春にイスタンブールの事務局を訪問したけれども、「経済、文化、教育、運輸に関するプロジェクト」、そして、さらに重要なこととして関税についての漠然とした言及はあったものの、正確な答えは得られなかった。

昨年11月、サマルカンドでOTSは「簡素化された関税回廊の設立に関する協定」が署名された。これがハートランドを横断して、一種の「ミニ・トルコ・シルクロード」を助長することになるのかどうかを推測するのは時期尚早だ。

それでも、彼らが次に何を思い付くかについて監視し続けることは有意義であろう。彼らの憲章は「外交政策問題に関して共通の立場を発展させる」、「国際テロや分離主義、過激主義、国境を越えた犯罪と戦うための行動を調整する」こと、さらには、「貿易や投資にとって好ましい条件」を作り出すことに特権を与えている。

トルクメニスタンは絶対的な地政学的中立性を熱烈に主張する特異な中央アジアの「スタン」国家であり、たまたまOTSオブザーバー国家でもある。また、キルギスの首都ビシュケクに拠点を置く「遊牧文明センター」も目を引く存在である。

ロシア・ハートランド間の難題を解く:

ロシアに対する西側の経済制裁はかなりの数のハートランドのプレーヤー国家に利益をもたらすことになった。中央アジア諸国の経済はロシアと密接に結びついているため、輸出は急増し、ヨーロッパからの輸入と同じくらいとなった。

かなりの数のEU企業がロシアを去った後、ハートランドに再定住した。それに応じて、中央アジアの大物たちはロシアの資産を購入するプロセスにありついた。それと並行して、ロシア軍の動員推進の影響で、おそらくは、数万人の比較的裕福なロシア人たちはハートランドに移住した。特に、モスクワやサンクトペテルブルクでは中央アジアからの余剰労働者たちは新しい仕事を見つけた。

たとえば、昨年、ウズベキスタンへの送金は169億ドルに急増し、その85%(約145億ドル)はロシアにおける労働者からのものであった。「欧州復興開発銀行」によると、ハートランド全体の経済は2023年に5.2%の成長を示し、2024年には5.4%の健全な成長を遂げるであろうと見られている。

そのような経済成長はサマルカンドではっきりと観察される。同都市は、今日、巨大な建設と修復の場となっている。申し分なく広く、新しい大通りがいたるところに新設され、緑豊かな造園、花壇、噴水、広い歩道があって、すべてが綺麗に輝いている。浮浪者も、ホームレスも、薬物中毒者もいない。衰退しつつある西側の大都市からやって来る訪問者は間違いなく唖然とさせられることであろう。      

タシケントでは、ウズベキスタン政府が汎ユーラシアビジネスに重点を置いた、広大で見事な「イスラム文明センター」を建設している。

ハートランド全体の重要な地政学的ベクトルはロシアとの関係であることは間違いない。ロシア語は生活のあらゆる分野で共通語となっている。

まず、ロシアと7,500kmもの長大な国境を有するカザフスタンから始めてみよう(それでも、国境紛争はない)。ソ連時代に戻ると、カザフスタンの大部分は西シベリアの南にあり、ヨーロッパに近いため、中央アジアのいつつの「スタン」国家は実際には「中央アジアとカザフスタン」と呼ばれていた。カザフスタンはそれ自体を典型的なユーラシア人と見なしている。ナザルバエフ時代以降、アスタナがユーラシアの統合に特権を与えて来たのも決して不思議ではない。

昨年、「サンクトペテルブルク経済フォーラム」でトカエフは、直接、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にアスタナはドネツクとルガンスク人民共和国の独立を認めないだろうと言った。カザフスタンの外交官は西側による経済制裁を回避するための玄関口として同国を位置付ける余裕などはないと強調し続けているが、影では、多くの場合、そのようなことが起こっている。

キルギスタンは昨年10月に予定されていたCSTOによる「ストロング・ブラザーフッド-2022」と称する合同軍事演習への参加を撤回した。この場合の問題はロシアではなく、タジキスタンとの国境問題であったことは言及しておく価値があろう。

プーチンは、ロシア・カザフスタン・ウズベキスタンのガス統合を設立することを提案した。だが、現状では何も起こってはいないし、何も起こらないのかもしれない。

これらはすべてが小さな挫折であると見なす必要がある。昨年、プーチン大統領は久しぶりに中央アジアのいつつの「スタン」国家すべてを訪問した。中国に倣って、「5+1サミット」を初めて開催した。ロシアの外交官とビジネスマンはハートランドの道路を常時走り回っている。そして、中央アジアのいつつの「スタン」国家のすべての大統領は昨年5月の「戦勝記念日」にモスクワで開催された赤の広場パレードに出席したことを忘れないでいただきたい。

ロシアの外交部門は中央アジアの「スタン」国家をロシアの影響圏から引き離そうとする帝国の執着に関して知っておくべきことは何でも知っている。

それは公式の「米国の中央アジア戦略2019-2025」をはるかに超えており、アフガニスタンでの米国の屈辱とウクライナでの差し迫っているNATOの屈辱の後、ヒステリー状態にまで達している。

重要なエネルギーの面では、トルクメニスタン・アフガニスタン・パキスタン・インド(TAPI)パイプラインが、その後、TAP(インドが撤退)と縮小され、国務省で作成され、2011年に当時のヒラリー・クリントン国務長官によって売りに供された米国版新シルクロードが優先事項であったという事実を今日覚えている人はほとんどいない。

空中にあるそのパイに関しては、実用的なことは何も起こらなかった。米国人が、最近、なんとかやり遂げたことはいったい何かといえば、それは競争相手であるイラン-パキスタン(IP)パイプラインの開発をもみ消すことであった。これは、パキスタンの政界からイムラン・カーン元首相を排除するように設計された法律スキャンダルの全体を受けて、イスラマバードにそれをキャンセルさせることによって達成された。

それでも、TAPI-IPパイプラインの物語はまだ終わってはいない。アフガニスタンが米国の占領から解放されたことで、ロシアのガスプロムと中国企業はTAPIの建設に参加することに非常に興味を持っている。当パイプラインは中央アジアと南アジアの交差点にある「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)にリンクされた戦略的BRIの結節となる。

「エイリアン」集団である西側:

ロシアはハートランド全域で知られている通貨であり、今後もそうであり続けるのと同程度に、中国モデルは中央アジア諸国に固有な一連の問題解決策を刺激することができる持続可能な開発例としてこれを超えるものはないだろう。

それとは対照的に、帝国はいったい何を提供しなければならないのか?一言で言えば、分割統治だ。ISIS・ホラーサーンのような局地的なテロリストの手先を介して、たとえば、フェルガナ盆地からアフガニスタン・タジク国境に至るまでの最も脆弱な中央アジアの節点は政治的不安定化を助長するための道具となった。

ハートランドが直面している複数の課題は「バルダイ中央アジア会議」などで詳細に議論がされている。

ヴァルダイ・クラブの専門家であるロスタム・カイダロフは西側・ハートランドの関係性について最も簡潔な評価をしてくれた:

「西側集団は文化と世界観の両方の点においてわれわれとは異質である。一方では米国と欧州連合、他方では中央アジアとの関係において言えば、和解の基礎として役立つ可能性がある単一の現象や出来事、あるいは、現代文化といった要素はない。米国人とヨーロッパ人は中央アジアの人々の文化や考え方や伝統について何も知らないので、彼らはわれわれと交流することができない。今後も交流することはできないであろう。中央アジアは経済的繁栄を西側の自由民主主義と結びつけては見ない。それは本質的に同地域の国々にとっては異質な概念なのである。」

このシナリオを考えると、日ごとにますます白熱している「新しい世界ゲーム」の文脈においては、一部のハートランド国家の外交界の一部が中央アジアのBRICS+へのより緊密な統合に非常に関心を持っていることはまったく不思議ではない。これは、来週、南アフリカで開催されるBRICS+サミットで議論されるに違いない。

戦略的な公式は「ロシア+中央アジア+南アジア+アフリカ+南米」のように読める。つまり、(ルカシェンコを引用すると)「グローバル・グローブ」の統合のさらに別の事例だ。それはカザフスタンがBRICS +のメンバーとして受け入れられる最初のハートランド国家となることから始まるのかも知れない。

その後、世界中が輸送や物流、エネルギー、貿易、製造、投資、情報技術、文化、そして、最後になってしまったが、新旧シルクロードの精神で「人と人の交流」においてハートランドは再活性化された舞台へと復帰することであろう。

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これで全文の仮訳が終了した。

ぺぺ・エスコバーは地政学的な論考では群を抜くジャーナリストだ。この引用記事を読むと、彼に対する世間の評価がわれわれ素人にさえもよく理解できるような気がする。地理的な広がりを横糸にし、歴史的な経過を縦糸にして織り成される彼の世界観は国際政治を俯瞰するのに極めて有効な手法であると痛感させられる。

ユーラシアのハートランドは「新たな大ゲーム」の主戦場であるという命題は、現行のウクライナ・ロシア戦争が実質的にはもう終わっているかのような印象を与える。著者はロシア・ウクライナ戦争の後にやって来る新たな大ゲームに視点を移し、それを理解しようとしているかのようだ。だが、毎日のように流されるニュースに翻弄され、右往左往させられるわれわれ一般庶民にとってもそういった視点は時には必要であるのかも知れない。あるいは、現実はまだまだそのような段階には達しておらず、ロシア・ウクライナ戦争は一段と厳しい消耗戦争となって居座り続けるのかも知れない。

結局、その理由が何であろうとも、ウクライナの停戦は米ロのどちらが早く音を上げるか次第だ!

参照:

1Escobar: Central Asia Is The Prime Battlefield In The New Great Game: BY TYLER DURDEN, zerohedge, Aug/21/2023

 




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