ニジェールはかってはフランスの植民地であった。そのニジェールで、7月26日、軍によるクーデターが起こり、全世界に衝撃が走った。何故かと言うと、ニジェールはサハラ沙漠の南部地域に残された、言うなれば、西側最後の同盟国であったからだ。
最近の報道によると、ニジェールの軍事政権は、先に通告されたフランス大使と同様に、米国とドイツ、ナイジェリアの大使にも48時間以内に同国から出国するようにと通告したという。だが、その後(8月26日)、フランスを除いて、軍事政権はその命令を撤回したそうだ。
ここに、「ニジェールの軍事政権はペンタゴンによって支持されている。ワシントン政府の秘密の目標はフランスをアフリカから追い出すことにある」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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副題:西アフリカには純粋な「反帝国主義の人民民主運動」は存在するのだろうか?
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初出は2023年8月24日で、8月29日に改定版が発行された。
はじめに:
報告によると、「反帝国主義人民運動」は、2023年7月26日、選挙で選ばれ、フランスのマクロン大統領の支持を受けていたモハメド・バズーム大統領の政府に対して軍事クーデターを引き起こし、権力を奪った。ニジェールの「祖国をセーフガードするための全国評議会」(CNSP)を支援するべく、同運動は西アフリカのフランス語圏全域で自発的に展開されていった。バズームは1990年に創立された「民主社会党」の創設者の一人であった。
CNSP政府の支持者らによるニジェールでのデモは主にフランス駐留軍の撤退を求め、フランスを標的にしている:
「抗議者たちは、フランス大使館を襲撃して、彼らの国が苦しんできた何十年にもわたる植民地支配と新植民地支配に対する怒りを表明しようとした。」(解放ニュース)
(ナイジェリアのボラ・アフメド・ティヌブ大統領によって率いられた)「西アフリカ諸国経済共同体」(ECOWAS)やアフリカ連合、国連からの圧力を受けて、ニジェールの軍事政権は「追放された大統領の再任を拒否した」(2023年8月8日)。
ナイジェリアのボラ・ティヌブ大統領は、現在、15か国のメンバー国家で構成された西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の議長を務めている。CNSPが権力を掌握したわずか数日後、バズームを復活させるために彼は軍事介入を主導すると述べ、脅迫した。(ブラック・アジェンダ・レポート、強調を追加)
最近の展開において何千人もの若者らがニアメのスタジアムに集まり、国を守るボランティアとして登録している。
ECOWASからの脅しは「フランスと米国に対する敵意をより煽る」ことに貢献した。
この「反帝国主義運動」は本物か?それとも、偽物か?
ECOWASはフランスと米国の両方の新植民地主義の利益に(非公式に)奉仕する組織として描かれているが、西アフリカの人々はニジェールの
CNSPの役割には気づいてはいない。
いわゆる「反帝国主義人民運動」(反戦進歩主義者、労働組合、等が統合されている)は故意に誤解されてきた。ニジェールのCNSP軍事政権は、サハラ以南のアフリカにおいて米国が支援する新植民地主義との闘いに全力を捧げているわけではない。CNSPの軍事指導部は(間接的に)ペンタゴンによって支配されているのである。
ニジェールの軍事政権の少なくとも5人の上級メンバーは米国で訓練を受けた。
クーデターを主導し、現在はCNSP軍事政権の指導者であるアブドゥラハマネ・ティアニ将軍は「国防大学」(NDU)の「国際安全保障問題カレッジ」(CISA)で軍事訓練を受けた。CISAは米国防総省の「テロや非正規戦争との闘い、および、戦略レベルにおける抑止力の統合におけるパートナー能力の教育と構築のための旗艦」だ(強調を追加)。
現在軍事政権を代表しているバルムー准将はジョージア州コロンバスのフォート・ムーアと国防大学(ND)において米国流の軍事訓練を受けた。
バルムー准将と彼のチームはウォールストリートジャーナルによると「立派な連中」として分類されている:
「ニジェールのクーデターの中心にいるのは米国お気に入りの将軍の一人である「バルムー将軍」である。ビクトリア・ヌーランドの言によると、こんな具合だ(2023年8月7日):
「バルムー将軍、つまり、元バルムー大佐は長年にわたって米国の特殊部隊と非常に緊密に協力してきた人物である。」
ヌーランド国務副長官はA・ティアニ将軍とバルムー准将の軍事的プロフィールと経歴の点においてはどちらも「米国の友人」であると暗黙のうちに認めている。
ビクトリア・ヌーランドからの「ネオコンの祝福」を享受しているこれらの「立派な連中」たちは米帝国主義に反対する真の草の根運動をはたして主導してくれるのであろうか?答えは明らかだ!
理解すべき点はこうだ。パリ政府がECOWAS内で新植民地主義の影響力を行使しているのに対して、ワシントン政府は双方を支配している。すなわち、ECOWASとニジェールのCNSP軍事政権の両方だ。また、大陸全体の多数のアフリカ諸国を支配してもいる。
明らかに、米国とフランスの間には利害の衝突があるが、メディアの報道ではその事実はほとんど分からない。今展開しているのは西アフリカ領域内での政治的分裂の創出であり、武力紛争につながる可能性がある。
ほとんどの分析専門家はCNSP軍事政権が米国防総省と密接な関係を持っていることを認めてはいない。バイデン政権はM.バルムー大統領の追放を「クーデター」または「政権交代」と表現することはさりげなく拒否した。
エジプトでの2013年の抗議運動は大規模な抗議運動(抗議運動こそが介入の目標であったが・・・)であるという点で特徴づけられることをご記憶していただきたい:
「メディアは軍事クーデターの背後にいるエジプト軍の指導者と米国の指導者との間に緊密な関係があることに言及することはなく、抗議運動を広く「支持する」ものとして描写して来た。
幻想を抱かないようにしよう。
軍内には重要な亀裂があるが、エジプト軍の高官らは最終的には米国防総省からの命令に従う。
モルシ大統領に対してクーデターを扇動したアブドゥル・ファタハ・アル・シシ国防相はペンシルベニア州カーライルにある「米国陸軍士官学校」を卒業している。
アル・シシ将軍は、抗議運動の当初から、チャック・ヘーゲル米国防長官と常時電話で連絡を取り合っていた(ミシェル・チョスドフスキー、2013年7月4日)。
ワシントンの暗黙の目標はアフリカからフランスを排除することにある。」
退陣させられたモハメド・バズーム大統領はフランスのエマニュエル・マクロン大統領の支持を得ていた。バズームはペンタゴンによって直接支援されている軍事政権によって排除された。
ビクトリア・ヌーランドの任務(2023年8月7日)の暗黙の目標は最終的には「交渉」することであり、もちろん、ニアメがパリとではなく、ワシントンと非公式に「連携」することにあった。この目標は実質的に達成された。
さらに、“USAFRICOM
はニジェールに軍事基地を持っている。米軍は、今や、CNSP軍事政権の下で活動しているニジェール側の相手と日常的に協力をしている。
2022年、マリとブルキナファソではすでに「舞台が整った」。フランスとの関係を断ち切った:
軍事クーデターの年表を見ると、これらはすべてが国防総省と直接または間接的な繋がりを持っている:
マリ:2021年5月24日、アッシミ・ゴイタ大佐
ギニアのコナクリ:2021年9月5日、ママディ・ドゥンボウヤ司令官
ブルキナファソ:2022年9月30日、イブラヒム・トラオレ大佐
ニジェール:2023年7月26日、アブドゥラハマネ・ティアニ将軍
マリ:
主にフランスに向けられた彼の反植民地主義で飾られた美辞麗句にもかかわらず、マリの(暫定)国家元首であるアシミ・ゴイタ大佐は米国防総省の忠実な道具である。彼は米国で軍事訓練を受け、米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)とも積極的に協力した。WP紙によって確認されているが、アッシミ・ゴイタ大佐はフリントストックとして知られるUSAFRICOM訓練プログラムに参加した。また、彼はフロリダのマクディル空軍基地にある統合特殊作戦大学 で学んだ。
2022年1月下旬、「米国の友人」であり国防総省の道具でもあるアッシミ・ゴイタ大佐が率いるマリ共和国はすでに「アフリカからフランスを排除する」ための舞台を設定していたという点は注目に値する。
アッシミ・ゴイタ大佐(上の画像で左から2番目)は「フランスとの外交的、軍事的、経済的関係を終わらせる」という指令を出した。彼は、また、マリのECOWASのメンバーシップを終了することを確認した。
と同時に、彼はマリの公用語としてのフランス語を廃止することを発表した。
これは1990年代後半から中央アフリカで英語を話す「米国の保護領」となったポール・カガメ政権下のルワンダを思い出させる。
ママディ・ドゥンブヤ大佐(2021年9月にクーデターを主導)が率いるギニアの軍事政権はルワンダのポール・カガメ大統領(2023年4月)をコナクリで歓迎し、ポール・カガメの「ルワンダ・モデル」に触発されたと述べた。
(米仏関係についての簡単な歴史と題された付録を参照されたい。)
ブルキナファソ:
ブルキナファソではイブラヒム・トラオレ大尉(左)が軍事クーデターで権力を掌握した(2022年9月30日)。2022年10月5日に軍事政権の指導者として確認されると、彼はフランス軍の撤退を命じた。
同様のパターンがニジェールでも展開されているのであろうか?
最近の展開ではあるが、CNSP軍事政権はフランス大使のシルヴァン・イッテに48時間以内にニジェールを離れるよう要請した。
同様に、マリとブルキナファソは必要に応じてニジェールに軍隊を派遣するという決意を表明した。彼らはニジェールのCNSP軍事政権を完全に支持している。
ビクトリア・ヌーランドの役割:
バイデン政権を代表して行動するビクトリア・ヌーランドは重要な役割を果たしてきた。彼女は2023年8月7日から8日にかけてニアメに滞在し、軍事政権(上記を参照)との会談、ならびに、昨年、ブルキナファソやマリ、モーリタニア、ニジェールへ送り込まれた「省庁間代表団」にも参加した。(2022年10月16日〜23日)。
皮肉なことには、イブラヒム・トラオレ大佐が率いるブルキナファソの軍事クーデターはビクトリア・ヌーランドのサヘル地域訪問の3週間前に起こった:
「われわれはその地域に出かけた。われわれは、特に、サヘル地域に対する米国の戦略がどのように機能しているのかに注目していた。これは安全保障の強化をサポートするための取り組みに一貫性をもたらすために約1年前から実施した戦略であった・・・
ブルキナやニジェール、モーリタニアでは、これらの国々の軍隊や憲兵隊、対テロ部隊と非常に緊密に協力し、マリの害毒から国民を押し戻し、保護する取り組みを支援している。」(ビクトリア・ヌーランドの言としてローリングストーン誌が2023年2月号に引用)
アフリカの人たちへ。連帯して:
皮肉なことに、「フランスの脱植民地化」(すなわち、「アフリカからパリを追放」)のプロセスは必ずしも民主的な形態の政府が復活することを保証するものではない。まったく逆なのであって、それは米国の新植民地主義の覇権的発展をもたらし、アフリカ大陸の軍事化を支持する傾向がある。それらは強く反対しなければならない。
米国による軍事化のパターンは、(新自由主義的な「ショック療法」やマクロ経済政策の押し付けと相まって、)サハラ以南のアフリカのいくつかのフランス語圏諸国で展開されている。
関連記事:
分割統治:イタリアのジョルジャ・メローニ首相は米国の「政治的資産」。ニジェールのクーデターの背後には米国。米国の覇権を維持するための欧州やアフリカに対する戦争:
By Prof Michel Chossudovsky, August
20, 2023
本記事の出版元は「グローバルリサーチ」
著作権
© Prof Michel Chossudovsky, Global
Research, 2023
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これで全文の仮訳が終了した。
この引用記事の表題は「ワシントン政府の秘密の目標はフランスをアフリカから追い出すことにある」としている。米国の最大の戦略は米国の一極覇権体制が傾きつつある中でライバルを如何にして倒すかにある。最大級のライバルは中国とロシア。その次に大きなライバルはドイツと日本だ。
言うまでもなく、それは軍事、政治、経済、世界貿易、等における総力戦である。その点に注目しながら、最近数年間に起こった個々の出来事を少し反芻してみよう:
◆新型コロナ禍においては米国の指導力は、その基本政策が如何に正当であったかどうかにはかかわらず、科学的な議論や意見が排除され、自分たちのシナリオだけをブルドーザの如く推進して行った。各国はWHOのガイドラインに従った。こうして、科学は政治によってハイジャックされた。その実態は数々の嘘が暴露されたことから、われわれ一般大衆さえもがその実情を知ることができるようになった。製薬企業の金儲け志向が2020年代の初めに全世界を席巻したという事実は現実に起こった悪しき事例として、そして、人類にとっては極めて恥ずべきこととして歴史上に刻まれることであろう。
2023年の夏は過ぎ去った。次のインフルエンザシーズンが近い内にやって来る。巷では、次のシーズンにおけるワクチン開発の話が出始めている。製薬大手は「金儲けプロジェクトV2.0」にすでに取り掛かっているようだ!
◆ロシア・ウクライナ戦争においては米国による一極覇権体制志向がこの戦争をロシアとNATOとの代理戦争に発展させた。そして、同戦争は、今や、米ロ代理戦争と化したかのようである。NATO加盟国の大部分を占めるEUを弱体化させ、米国に従属させるには消耗戦争を延々と続けることが最適だと覇権国の戦争計画者らは判断した。EU圏のエリートたちは覇権国に忖度し、政治的野心からウクライナに対して「最後の一兵になる迄戦え」と檄を飛ばし、兵器や弾薬を送り込み、対ロ経済制裁を次から次と発表した。当初、ヨーロッパ各国はその結果として自分たちが最大級の経済的損害を被ることになるとは夢にも思わなかったに違いない。
◆ノルドストリーム・パイプラインの破壊工作。これによって、ドイツ経済は今や沈没寸前である。調査報道で著名なジャーナリストであって、ピューリツアー賞を受賞したこともあるセイモア・ハーシュは犯人は米国だと推論した。一極覇権体制を標榜する米国にとっては、たとえそれが同盟国としては最大級のEUと言えども、その機関車役を果たしてきたドイツを切って捨てるのは朝飯前だ。英国は強大な経済圏を確立したEUから脱退させられ、ドイツ経済がノルドストリーム・パイプラインの破壊工作によってほぼ破綻した今、最後に残っているのはフランスだ。
◆こうして、アフリカ諸国からフランスを締め出し、フランス経済を支えてきた原発用天然ウラン原料のニジェールからの供給を絶つことが地政学的に結構重要な要素となって来たのではないかと私は推測する。
こうして国際政治を俯瞰して見ると、ニジェール政府がフランス大使を同国から退去するように勧告し、フランス語を公用語から排除したという事実は単なるフランスの植民地政策に対する反対運動には留まらず、極めて広範な地政学的な動きや背景が現実に存在していることを認めざるを得ない。もっとも奥にはヨーロッパに対する優位性の確保を続けなければならないとする米国の台所の事情が浮き彫りされる。そのためには、米国はドイツに続いてフランスも潰さなければならない。そういう観点から見れば、ニジェールに関するこの記事は極めて重要な情報のひとつであると言わざるを得ない。ディープステーツのお偉いさんたちがアフリカで何をしようとしているのか、そして、それらの出来事が国際政治全体とどのように関わって来るのかが少しずつ見えて来るような気がする。
最期に、米国のライバルのひとつである日本についてはいったいどうなのか?日本をどのように潰す気か?この質問に答えているのは、私の知る限りでは伊藤貫である。彼の最近の動画、「核の傘というアメリカの嘘【混乱する国際政治と日本③】|伊藤貫」(https://youtu.be/MVtqes-JDQQ?si=kwt_tabfU8PiIGDK)を覗いてみていただきたい。彼が直接、間接に答えている。つまり、米国による核の傘なんてあり得ないという見解を内外の識者の言葉を通じて紹介している。極めて強力な論証だ!
参照
注1:Niger’s Military Junta Is Supported by the Pentagon.
Washington’s Unspoken Objective: “Remove France from Africa”: By Prof Michel Chossudovsky, Global
Research, Aug/30/2023
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