ロシアの電子戦遂行能力は前々から西側を上回っていたと言えるのではないか。
たとえば、2014年には黒海において象徴的な出来事が起こった。あの年の2月、ウクライナではマイダン革命が引き起こされ、民主的な選挙によって選出されていたヤヌコヴィッチ大統領は暴力的に大統領の座から放逐され、代わって米傀儡政権が樹立された直後のことであった。2014年4月11日、ロシアのSU-24戦闘機(「戦術爆撃機」と呼ぶ記事もある)と、当時、黒海の西部海域で「哨戒活動」を行っていた最新鋭の米イージス駆逐艦「ドナルド・クック」との間で思いがけない出来事が発生した。このエピソードはロシアが保有する電子戦用システム(注:この電子戦装置は「Khibiny」と称されている。恐らく、米国側はこれに対応する手段をすでに開発していることであろう。あるいは、まだか?私には分からない)が米国自慢のイージス艦を上回っていることを明白に示したのである。(注:詳細については、2014年11月21日に掲載した『手も足も出なかった! - 黒海で米ミサイル駆逐艦「ドナルド・クック」を恐怖に陥れたのは何だったのか?』をご覧いただきたい。)
ここに、最近のロシアの電子戦遂行能力を示す新しい記事がある(注1)。「ロシアの電子戦システム、フィールド-21」と題されている。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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電子戦は20世紀半ばにまで遡り、ロシアが得意とする分野であり、ソ連の軍事ドクトリンは戦場での「電子戦と物理的破壊資源の完全統合」を強調している。今日、ロシアは短距離や中距離、長距離、超長距離での電子戦システムを自由に使えるようにしている。
米国の有力経済誌はウクライナのNATO装備軍が直面した課題を概説している。これはウクライナ軍最高司令官ヴァレリー・ザルジニーが、今月初めの爆弾インタビュー記事においてキエフの対ロ大反攻が「膠着状態」に陥った理由を概説したものであって、ワレリー・ザルジニーが抱えている不満を報じたものだ。
同誌によると、ウクライナ軍にとっての問題のほとんどはロシア側の技術的優位性にある。特に、ロシアが「ウクライナの砲兵隊の有効性を抑制させながら、それと同時に、彼らはウクライナの目標を正確に攻撃する」ことを可能にする技術を持っていることだ。具体的には、この記事はロシアが「ランセット」無人機を使用していることを指摘。この無人機は「予測不可能な飛行経路を辿ることから、この無人機を探知し、交戦することは極めて難しい」ことが証明されている。事実上、これは「ウクライナが発射するエクスカリバー弾が必要とするGPS信号を妨害する」電子戦システム「ポリエ-21」 ― ポリエ-21を英訳すると、「フィールド-21」となる ― が使用されていることを指摘している。ウクライナが発射するエクスカリバー弾は「弾丸が意図したコースから外れ、目標には当たらない結果になる」と言われている(訳注:エクスカリバー弾は155ミリのスマート砲弾で、目標物に到達するのにGPSによる精密誘導が必要だ)。
徘徊型のランセット無人機の能力について、スプートニクはすでに広範囲にわたって書いて来た。この無人機の詳細については、こちら、こちら、そして、こちらを参照していただきたい。
ポリエ-21について私たちが知っていることを下記に示そう。
ヴォロネジとサンクトペテルブルクに本拠を置く「電子戦科学技術センター」(略して、JSC
STC Electronic Warfare)によって開発されたポリエ-21は敵の巡航ミサイルやスマート爆弾、無人機、スマート砲弾、航空機、さらには、基本的には衛星航法を基盤とした誘導方法に依存する発射体や機器に対抗するために設計されたものであって、極めて特殊な電子戦複合体である。
ポリエ-21は何の差別もなく、米国製のGPS規格を使った敵の兵器を狙うことができる。そして、それだけではなく、欧州連合(EU)のガリレオや中国の北斗、さらには、ロシアのグロナスといった衛星測位システムを使った標的さえをも狙うことができる。
敵の無人機やミサイル、航空機などは自分の座標を正確に決定する能力がなければ、戦闘任務を遂行することはできず、基地への帰還を余儀なくされるか(有人航空機の場合)、方向感覚を失って、目標には到達することができず、最終的には地上に落下する。
この電子戦複合体はどのように作動するのか?
各々のポリエ-21複合体はトラックのシャーシに搭載できるほど小型で強力なR-340RP無線局(または、必要に応じて恒久的に固定された地上無線局)と一群のアンテナ・モジュール(システムあたり最大100個)を操作するための制御システムによって構成されており、それぞれが最長で25 kmの範囲で信号を抑制するために使用される。全体として、一基のポリエ-21複合体は最大で150 km x 150 kmの領域を覆う干渉帯、つまり、「目には見えないドーム」を作り出すことができる。
独自の電波妨害タワーに加えて、システムの電波妨害モジュールを既存の携帯電話用タワーにも設置できるため、システムのコストと電力要件を大幅に削減すつことが可能。1176.45~1575.42MHzの周波数範囲で全地球測位信号を偏向させ、役に立たなくさせてしまう。 80kmの範囲ですべての飛行物体の衛星航法信号を妨害するには20ワットの送信機が1台あれば十分だ。
多くの現代のロシアの兵器設計と同様に、ポリエ-21複合体はモジュール原理に基づいて構築されており、生産と配備を簡素化し、費用を削減することができるように設計されている。このシステムにはベースモデルの近代化版であるポリエ-21Mや、輸出向けのポリエ-21E、等、いくつかのバージョンがある。システム設計者はこれらのバージョン間の違いについては固く口を閉ざしている。
2013年に「JSC STC Electronic Warfare」によって初めて披露されたポリエ-21は、2016年にロシア軍に導入され始めたと報じられている。導入以来、本システムは中部、南部、東部の軍管区、タジキスタンのロシア第201基地、シリアのタルトゥース基地で活動する電子戦部隊によって運用されていることが知られている。
ロシアは何基のポリエ-21を所有しているのか?
ポリエ-21の生産・導入の総数や単価は不明である。しかしながら、2021年初頭の国防省の報告によると、中央軍管区の部隊だけでも、同年末までに既存の在庫に加えて約10台のポリエ-21システムを納入する計画である。近代化されたポリエ-21Mシステムの納入は2019年に開始されたと報じられている。
NATOが提供した無人機や巡航ミサイル、ならびに、キエフが攻撃UAVに改造したソ連時代の「ツポレフTu-141ストリジ」重量級(5トン強)無人偵察機の両方を使用してロシア西部全域を標的にして行われるウクライナの攻撃に対して、ポリエ-21はロシア側の防衛の主力になるのにちょうど間に合うように導入された。
本システムは、現在、ロシアのより広範な階層型レーダー、電子戦、防空、ミサイル防衛ネットワークの重要な構成要素となっている。
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これで全文の仮訳が終了した。
この記事によると、ロシアの電子戦システム、フィールド-21はGPS信号を駆使した誘導システムによって制御されたウクライナの無人機や巡航ミサイル、航空機、スマート砲弾、等に電波妨害を引き起こし、それらの進路を変え、目標物には到達させない。また、ロシアには世界でももっとも性能が高いと見られるS400防空ミサイルシステムがあり、これらを組み合わせると極めて強力なシステムとなる。
米国とドイツが今年の1月にウクライナに戦車を供給することを承諾した直後、ウクライナはNATO側に戦闘機の供給を申し入れた。ウクライナ空軍はF-16を200機欲しいと言ったが、気前のいい西側といえどもこの数値には応えられない。(原典:How
could F-16s make the difference for Ukraine in the war against Russia?: The
Guardian, May/19/2023)
ところで、NATO陣営のデンマークとオランダは61機のF-16戦闘機をウクライナに引き渡すことを約束している。コペンハーゲンは19機の航空機を納入し、今年末までに6機、来年8機、2025年に5機を納入すると、メッテ・フレデリクセン首相は日曜日(8月20日)にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が訪問した際に述べた。(原典:Russian
military expert says Moscow will destroy Ukraine’s F-16 airfields: By The
National, Aug 22, 2023)
F-16戦闘機は世界でもっとも人気のある戦闘機のひとつであって、1979年に初めて実戦に配備された。最高速度はマッハ2。現在25か国で使用されており、合計で3000機以上が運用されているという。イラク戦争やアフガニスタン戦争で活躍した。だが、最新型のF-35ステルス戦闘機の出現によって、多くの国はF-16をF-35に切り替えようとしている。
パイロットの訓練プログラムはF-16戦闘機を運用・整備するスキルを習得することを目的としている。今週(11月13日の週)、ウクライナのパイロットにF-16戦闘機の使用を指導する「欧州訓練センター」がルーマニアに正式に開設された。キエフでは、戦闘機が2024年上半期に引き渡されるという希望的な期待が寄せられているが、当局は戦闘機の取得に関する具体的な詳細の不足に今も取り組んでいる。11月15日、欧州同盟の外交部門のトップであるジョセップ・ボレルは、最初のF-16戦闘機がウクライナに引き渡されるのが何時になるかについて現時点では正確な情報はないと述べた。しかしながら、パイロットの訓練は進行中であり、そのような準備には時間がかかると付け加えている。(原典:Russia
‘Enhances’ S-400 Missile System To Counter ‘Incapable’ F-16 Fighting Falcons On
Way To Ukraine – UK: By Ashish
Dangwal, The Eurasian Times, Nov/18/2023)
パイロットの訓練が順調に終了し、F-16
戦闘機がデンマークやオランダからウクライナへ移送されたとしても、F-16 戦闘機がロシア・ウクライナ戦争に与える影響については懐疑的な見方もある。
ワシントンがキエフに約束したF-16戦闘機の古いモデルは保守の難しさだけではなく、ロシアの戦闘機とは性能の面では競争ができないこと、そして、ロシア側の防空システムが密に配備されていることから、戦場の状況を変えることはないという見方にも注視する必要がある。これに先立ち、英紙テレグラフの専門家はキエフにF-16
戦闘機を供給するという西側諸国の約束を想起するが、それはまだ実行されてはいない。ウクライナはロシアによる制空権に挑戦するため、米国のF-16戦闘機の供与を約束されてはいるが、今のところ引き渡しの兆しはないままだ。(原典:Zelensky advised not to
rely on F-16 fighters: By Modern Diplomacy, Nov/10/2023)
パイロットの訓練には少なくとも6ヵ月は必要であると言われている。訓練は上述のごとく「欧州訓練センター」で始まったばかりだ。疲弊し切ったウクライナ軍が訓練が終了する来年の春まで実際に持続することができるのかどうかが問われそうだ。すでに実質的な戦争は終わっているとの指摘もあり、残されているのは政治的にどう終わらせるのかだけであるとも言われている。つまり、指導者たちが面子を失わないで、戦争を終わらせるにはどう終結すべきかということだ。それは戦場となって、すっかり破壊されたウクライナだけではなく、ウクライナで対ロ代理戦争を推進してきた米国自身についても同じことが言える。
参照:
注1:NATO Smart Artillery-Swatting Prodigy: Meet Russia’s Polye-21
Radio-Electronic Warfare Complex: By Ilya Tsukanov, Spunik, Nov/20/2023
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