ウクライナ情勢は、今、大きく変化しようとしている。少なくとも、私にはそう思える。
東部ウクライナのロシア語を喋る地域住民が、2014年のマイダン革命以降、キエフ新政府によって弾圧を受け、さらには、政府軍の武力による脅かしが急増したことを受けて、苦境に陥った東部ウクライナの住民を助けるためにロシアは特別軍事作戦をウクライナで開始した。その当時、キエフ政府だけではなく、キエフを支援する米国やEU諸国はウクライナ軍が最後の一兵になるまでロシアと戦うと言って、やる気を誇示した。
こうして、ロシア軍とMATO軍による代理戦争がウクライナにおいて開始され、現在に至っている。
しかしながら、今年6月に始まったウクライナ軍によるロシア軍に対する大反攻作戦は計画通りには進まず、結果をもたらさなかった。ウクライナ軍は9万人の兵力を失い、鳴り物入りで西側が提供した戦車や自走砲、装甲車両は多数が破壊され、今や、ウクライナ軍は戦いを続けるための兵士や武器、弾薬の補給ができず、言わば、「最後の一兵」の状況に近い。ウクライナ軍のザルジニー最高軍司令官はこの反攻作戦が失敗したことを認める発言をした。西側は急速に消耗される武器や弾薬を補給し続ける軍需産業体制が整ってはいないので、ウクライナからの要請に応え続けることはできない。ウクライナにとっては最後の頼みとされているF-16
戦闘機の投入も現状を変えるのには役がたたないと言われている。
その一方で、西側の当初の筋書きによれば、西側が課した対ロ経済制裁によってロシア経済は深刻な打撃を受け、プーチン政権は反政府運動によって苦境に見舞われる筈であったが、ロシア経済は極めて順調であり、IMFの最新情報によれば成長率を上方修正している程である。
そこへ、突如、「ハマス・イスラエル紛争」が勃発した。1か月前に始まった同紛争に対する関心が急速に高まったことから、ウクライナ支援はもはや国際政治の主役の座を奪われたかの感がある。
これらふたつの紛争は今後どのように展開するのか、今、世界中が注目している。
ここに、「米高官:ウクライナは交渉を開始しなければならないかも」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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副題
:富の移転と何十万人もの死者をもたらした現実を認めながら
四半世紀ほど前、米国の冷戦政策の立案者であったジョージ・ケナンは、ニューヨーク・タイムズ紙に、NATOをロシア国境まで拡大することの愚行について意見を発表した(A Fateful Error, Feb. 5, 1997)。
初歩的な「力の均衡」の原則に基づいて、軍事同盟(付随する軍事施設の設置を含む)をロシアの国境にまで拡大すれば、それはまさに不安定さを招き、そして、究極的には戦争をもたらすであろうと彼は認識していた。こういった不安定さや戦争はまさに彼らが事前に防ぎたいと宣言していたことそのものであった。
米国政府は、西半球のどこにおいてでも、米国本土の国境に軍事施設を併設するようなロシアの軍事同盟を決して容認することはないことは誰もが知っている。19世紀以降、米国政府は米国の領土の近くにおける欧州列強とのいかなる軍事同盟さえをも容認しては来なかったのである。
1917年、ドイツの外務大臣アルトゥール・ツィンマーマンはメキシコ政府に暗号化された電報を送り、その中で米国に対する軍事同盟を提案した。イギリス海軍がそれを傍受して解読した。それが米国のマスコミに掲載されると、直ちに対独戦争についての世論を揺さぶり、賛成に促した。
1962年にキューバでソ連のミサイル施設が発見された際、ケネディ政権とフルシチョフ政権の間には大きな危機が出現し、ケネディ政権がトルコから米国のジュピター・ミサイルを撤去することに同意したことによってこの危機はようやく鎮静化した。
1812年にフランスに侵略され、1941年にはドイツに侵略され、国民に壊滅的な結果をもたらされたという歴史的背景を持っているロシアが米国政府や諜報機関、NATOがウクライナに進出するのを容認するであろうなんて、正気な人たちはいったいどうして信じることができるのであろうか?これは私にとっては長年の疑問であった。
2022年12月以降、ウクライナとロシアの紛争について私は米国政府関係者からはナンセンスで愚かなことしか聞いていない。米国政府はウクライナがロシアとの相違点を交渉と妥協によって解決するよう促す代わりに、何十万人ものウクライナの若者を戦死させ、恐ろしく破壊的な戦争を奨励している。
軍事史を数時間勉強した人ならば誰であっても、ウクライナ東部のロシアの防衛陣地に大反攻を仕掛けても、それはうまく行かないことは容易に理解できるであろう。
ウクライナ軍をロシアが配備した砲兵隊に向かって次々と押し込む戦略は1862年のフレデリックバーグの戦いにおける北軍のメアリーズ高地への攻撃よりも優れているとはとてもじゃないが言えない。この全く無益な北軍の攻勢が行われていた際に、南軍の砲兵隊長は十分な銃弾と火薬が与えられさえすれば、北軍の士官がいかに兵力を送り込み続けても、ラッパハノック川の北側で彼ら全員を殺すことができると言った。
情報筋によると、米国と欧州の当局者らはウクライナとの和平交渉の話題を切り出した。会談では、ウクライナがロシアとの合意に達するために何を諦める必要があるかについて非常に大まかな概要が言及された。
これはすぐにでも予測可能であった。ほぼ2年前にウクライナ・ロシア危機が最終的な段階(戦争開始の直前)に到達して以来、ウクライナ政府はいずれはロシアと交渉しなければならなくなり、何十万人もの戦死者が出る前に交渉すべきだと私は考えて来た。
ワシントン政府が軍産複合体を豊かにする以外には何の成果ももたらさない、恐ろしい戦争を提唱し、扇動することをやめようとはしない、血気盛んな悪党連中に支配されていることはひどく恥ずかしいことだ。
20年にわたるアフガニスタンでの大失敗がもたらした悲惨な終焉からわずか2ヶ月が経過した頃、同じネオコンの馬鹿者の一団がウクライナにおけるロシアとの対決を叫び始めた。
ワシントンのタカ派の誰一人として、ごく普通のウクライナ人のことを気にかけているとはまったく思えない。ヒラリー・クリントンは、ウクライナでの戦争を支持すれば、アフガニスタンで行き詰まったのと同じように、ロシアはウクライナで泥沼にはまり込む結果になるだろうと明言した(アフガニスタンでは、米国の支援によって、オサマ・ビン・ラディンのようなムジャヒディンを武装させた)。
他の国会議員や政策通らもウクライナで代理戦争をすることの利点について同様の発言をしている。つまり、これは米兵を使わずにロシア人を殺し、ロシアを傷つける素晴らしい方法であり、金儲けに余念がない米国の軍需産業にとっては極めて有難い話なのだ。明らかに、彼らはウクライナ人のことなんてまったく何も気にしてはいなかった。
教訓は明らかだ。つまり、米外交政策に携わる連中は愚かで、無謀だ。彼らのほとんどは一発の銃弾さえも発砲したことはなく、戦争の恐ろしい現実は何も知らない。
ロシアとの交渉は忌み嫌われると主張した米国民についてもほぼ同じことが言える。リーグの最新サッカーチームを応援するかのように、彼らは交渉による解決を求めるよりも、他の国の人たちが殺された方がましだという残酷な程に感傷的な幻想にふけったのである。彼らの戦争に対する理解はポルノを消費する連中のセックスに対する理解、つまり、自己満足的で、現実から完全に切り離されたものに似ていると言えよう。
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これで全文の仮訳が終了した。
さて、NBCが11月5日に報じた米欧の当局者たちが論じた内容、つまり、「ロシアとの合意に達するためにウクライナは何を諦める必要があるのか」は具体的には何を指しているのだろうか?11月12日の記事(注2)によると、欧州NATO軍最高司令官であったジェームズ・スタヴリディス提督は次のように述べている:
ウクライナでの紛争の終結は朝鮮半島での戦争の終結に似て来る可能性があり、その兆候が高まっていると、NATO欧州軍の元最高司令官であるジェームズ・スタヴリディス提督はブルームバーグ誌の記事で述べている。キエフにとって最も困難な教訓は領土の喪失を認識することだと彼は考えている。
スタヴリディスは、キエフはクリミアと同半島への陸橋地域がロシアの支配下にあるという事実を「少なくとも一時的に」受け入れなければならないだろうと書いている。「ある意味、この結末はすべての人を喜ばせるものではない」とスタヴリディスは警告した。
提督はどの当事者もこのアプローチを好まないだろうと示唆している。西側諸国はロシアに1インチの土地たりとも明け渡すことは不可能であると宣言するであろうし、ウクライナは領土の譲歩をしたくはないだろう。しかしながら、モスクワもそのような結果を好まないだろうとスタヴリディスは考えている。彼によると、ロシア当局はウクライナの全領土と比較して「戦闘で損傷し、たくさんの地雷が敷かれている南東部の地域」を受け取ることになるからだ。
西側世界ではクリスマスが近づいている。経済の停滞や物価の高騰に悩まされて来た西側世界の住民には、今年のクリスマスには、思いがけない程大きなプレゼントが贈られることになるのかも。即ち、ウクライナ紛争の終結だ!
参照:
注1:U.S. Officials: Ukraine May Have to Negotiate: By John
Leake, petermcculloughmd.substack.com, Nov/05/2023
注2:Former
NATO Commander-in-Chief Calls on Ukraine to Agree to Loss of Territories: By
RBC, Nov/12/2023
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