米国の主流メデイアはウクライナ東部におけるロシア・ウクライナ戦争においてウクライナ軍が窮状に陥っている現状を認め始めたようだ。
多くの政府高官や軍事専門家はウクライナの敗北を指摘している。
たとえば、ウクライナ軍のヴァレリー・ザルズニー最高軍司令官は「ウクライナ軍による対ロ大攻勢は膠着状態に陥った。NATO軍の教科書はそれ程役には立たなかった」と公式に発言した。もちろん、ゼレンスキー大統領にとってはこの発言は気に喰わない。両者は気まずい仲となった。前月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、キエフによるこの夏の大攻勢の試みは膠着状態に陥ったのではなく、完全な失敗であったと述べ、90,000人以上のウクライナ兵の命を犠牲にし、500台以上の戦車を失うことにつながったと述べている。(原典:Ukrainian
Top General Admits Counteroffensive ‘in
Stalemate, NATO Textbooks Did Not Help Much’: By Sputnik, Nov/02/2023)
また、米下院と上院においては、米政府の活動を中断させないためにウクライナやイスラエルに対する資金援助を抜きにした暫定緊急予算が承認された。このことから、バイデン政権の要求に反して、ウクライナに対する米国からの資金の流れは一時中断となった。下院を制する共和党はウクライナに対する財政支援を嫌い、上院を制する民主党はキエフを助けたいようで、上院と下院は捻じれた状態である。(原典:Ukraine
Will Have to 'Suck It Up' After US Passes Stopgap Bill Devoid of Aid: By Sputnik,
Nov/17/2023)
ウクライナでは、当局はロシアとの紛争が終わったと信じており、自分たちのニーズのために予算を略奪していると、ウクライナの政治家セルヒー・ハイダイがユーチューブのPoliteka
オンラインチャンネルでのインタビューで語った。「彼ら(ウクライナ指導層)にとっては戦争はもう終わっている。彼らは何百万ドルもの費用をかけて結婚式を祝い、空にも届くようなケーキを注文し、高価な外国車を購入し、キエフのレストランでボーっと時間を過ごしている。彼らは新しい国家予算で自分たちの手当を増やし、国の人口が大幅に減少したにもかかわらず、国家公務員の数は削減せず、給与水準は増加している」とこの政治家は不満を漏らした。彼によれば、少量の資源を持った、非効率な国家は勝利を収めるチャンスはない。特に、西側諸国からの支援もなしには勝利なんてあり得ない。西側諸国は「キエフに対する酸素吸入を遮断し始めた」とハイダイ氏は指摘している。(原典:The
Kiev authorities began to glamour in anticipation of defeat, Ukraine said: By
RIA Novosti, Nov/17/2023)
ウクライナの大反攻は勢いを失った。いわゆる泥沼の季節に入ったことから、キエフは来年の春まではさらなる成功を収めることはできないだろうと、イギリスの政治学者マーク・ガレオッティはタイムズ紙の記事で書いている。疲弊し切ったウクライナ軍は損失を最小限にとどめようとして必死の努力をしている。それにもかかわらず、大きな損失を被っているとアナリストは言う。この点に関して言えば、武器増産のための西側の努力はキエフの要求に比べて遅れをとっていることをガレオッティは想起し、ドイツのボリス・ピストリウス国防相はEUは2024年3月までにウクライナに100万発の砲弾とミサイルを提供するという目標は達成できそうにはないことを認めている。(原典:Ukraine
Counteroffensive Running Out of Steam - UK Analyst: By Oleg Burunov, Sputnik,
Nov/19/2023)
ここに「米メデイア、特別軍事作戦地域における現状を認める」と題された最近の記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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ロシアはキエフに接近し、現在のウクライナ領土の約20パーセントを解放するであろうと、「アメリカン・コンサーバティブ」の編集者、ピーター・ヴァン・ビューレンが月曜日(11月20日)に書いている。
ますます多くの欧米のメデイアが、今や、特別作戦区域にける現場の本当の状況を認め、ほぼ二年間にわたってそのことを隠蔽し続けてきた欧米のプロパガンダの凄まじさを痛感している。
「プロパガンダの洪水の中で、ストーリーはいつも同じだった。ウクライナはNATOの幅広い支援者から提供された武器によってロシア軍を押し返している。あり得ないほどの撃墜率を誇るウクライナのジェット戦闘機乗りのエースやあり得ないような髪型をし、化粧を施した愛国的な女性狙撃チームに翻弄されて、ロシア軍は負けている」と。このジャーナリストはプロパガンダの実態を明らかにしている。
米国の介入がなかったならば、紛争自体は避けられた筈だと指摘する米マスコミの記事には常識が見い出される。これはいっそう驚くべきことではある。ヴァン・ビューレンは元ドイツ首相のゲアハルト・シュレーダーの言葉を引用している。シュレーダーは次のような単純な事実を率直に述べた:
「ウクライナをめぐる戦争を解決できるのは米国だけだ。2022年3月にイスタンブールで行われた和平交渉ではウクライナ側は和平には同意しなかった。彼らは、まず、米国人と話したことをすべて反映し、調整しなければならなかった。結局、和平は何も起こらなかった。私の印象では、すべてがワシントンで決まっていたので、何も起こり得なかったのだ。」
ほぼ2年間にもわたって「全能の」西側によってウクライナに対して行われて来た絶え間のない兵器の供給を自慢していたものではあるが、米欧のジャーナリストたちの間では紛争が膠着状態に陥ったことや和平交渉について語ることが、今や、新たな傾向になりつつある。
NBCニュースは『ウクライナの大攻勢はロシアに対して「目に見える進展」を遂げているとブリンケン国務長官がNBCニュースに語った』という論調から「米欧の当局者らはウクライナとの和平交渉の話題を切り出す」という新たな論調に到達するまでにわずか2カ月しかかからず、この危機に関する世論が大きく変化したことを強調している。
それと同時に、ウクライナのゼレンスキー大統領が抱く夢とは関係なく、ウクライナの状況は悪化している。タイム誌は、NATOの関心事のためにウクライナの若者たちはすでに「首尾よく」犠牲にし尽くされてしまったので、キエフ政権は、今や、40歳以上の人々を徴兵していると報じている。ヴァン・ビューレンはウクライナの成功を妨げている主な問題として「人的資源の不足」を強調している。同編集者はロシア軍が「全能」のNATO装備を破壊していることやこの事実を信じようともしないことには驚きを隠せないが、それと同時に、ウクライナ兵の訓練不足のせいであると考えている。
「NATOの装備に対してロシアの戦闘能力は驚くほど優れていたし、洗練された西側の武器を使うウクライナ側の扱い方が驚くほど悪かったということかも知れない」とその記事は述べている。
パレスチナ・イスラエル紛争が激化する中で、米国政府にとっては不幸なことに、米国人はウクライナ危機への関心を失いつつあり、ウクライナ危機は「退屈」になっているとヴァン・ビューレンは主張する。米国人はコミックに見られるような善人と悪人という単純な構図が好きだ。観客には危険が及ばないように、武力紛争はいつものように米国から遠く離れた地で行われるべきなのだ。だが、戦場の映像は一級品であって、戦場の地図はアメリカンフットボールのようにできるだけシンプルで分かりやすいものであるべきだと記事は明確に述べている。
「米国人は、国民も政府も、想像を絶する最大のプロパガンダ・ツール(メディア)に気を取られ、一度にたったひとつの明るく輝く対象物にしか集中することできないみたいだ。戦争の場合、新しい、明るく輝く観察の対象には善と純粋な悪のふたつの明確な側面が存在し、そこにはできれば負け犬が含まれており、あまり危険を冒さないでも入手できる毎日の戦闘の映像があり、分かりやすい戦場の地図上でフットボールの試合のような展開が含まれている必要があるのだ。決して退屈であってはならない」と同紙は明確に述べている。
しかしながら、実際の軍事紛争はこれらの基準のすべてにうまく当てはまることは決してない。だからこそ、「米国には、紛争に迷い込み、興味を失うという古くからの習慣がある」とこの記事は述べている。世界中の戦争で人々が苦しみ、殺害されている。米国政府にとってそれらの人々はスクリーン上のピクセルに過ぎないという現状は実に衝撃的であり、極めて凶悪に聞こえる。世界中に軍事的な存在を確立しているワシントンは、開発を奨励する代わりに代理戦争を仕掛けて、自国の覇権を促進することに耽溺している。しかしながら、米国の保守派が指摘しているように、米国が扇動する武力紛争は最初のうちこそは「十分に面白い」のであるが、人々の命は報道においては単なる数字に過ぎないのである。
「それにもかかわらず、ウクライナでの戦争が第一次世界大戦での塹壕戦のように見え始めるにつれて、米国の気まぐれな関心は中東に移っていった。ウクライナの様子を追跡し続けるのは実に大変な行為であった」と同紙は主張している。
ヴァン・ビューレンは米国の影響力は破壊的な本質を持っていることを認め、もうひとつの重要な真実を述べている。つまり、ワシントンの代理戦争を遂行する国家は米国の覇権を維持するために破壊される運命にある。
「われわれの代理戦争国家は見捨てられ、うろうろして死んでいく。イラクやアフガニスタンのように、両国以前のベトナムはともかくとして、最後に実現されたことは最初の万歳が過ぎ去った頃にはほとんどいつであったとしても達成できていた可能性が高い。2023年にそれが再び起きるのを見るために、これほど多くの人々が死ななければならなかったのは悲しいことだ」と同編集者は述べている。
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これで全文の仮訳が終了した。
ロシア・ウクライナ戦争に関しては和平の可能性を語ることが、今や、国際政治の場でのスタンダードになろうとしているかの感があるが、その極はゼレンスキー大統領を支える「Servant
of the People」党(仮訳すると、「人民の奉仕者」党)の指導者であるダビド・アラハミアが最近発した言葉ではないだろうか。今までは公衆の関心が及ばない場所に周到に隠されていた事柄であったのではないかと思われる内容ではあるが、今や、表面に現れて来た:
(2022年3月29日のイスタンブールでの停戦交渉で)NATOには加盟しないというキエフ側からの約束が必要だとロシアが述べ、ウクライナはこれには同意しなかったが、少なくとも憲法改正が必要だったからだとアラハミアは述べた。ウクライナがロシアの条件に同意することを拒否した理由についての質問に対して、アラカミアはこの決定は英国首相からの影響もあったと答えた。「しかも、我々がイスタンブールから戻ってきた時、ボリス・ジョンソンはキエフにやってきて、われわれはロシアとは何も署名しないと言った。そして「戦おうじゃないか」と彼が言ったとアラハミアは述べている。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2023年6月17日、アフリカからの代表団との会合において「ウクライナの永世中立と安全保証に関する条約」の草案についてはあの春の会談で議論されたと述べた。(原典:Head
of Zelensky’s Party: Ukraine Could Have Accepted Russia’s Peace Plan: By Sputnik,
Nov/25/2023)
ウィキペディアの「2022年ロシア・ウクライナ和平交渉」の項目には次のような解説があることに注目していただきたい。「2022年3月28日、和平交渉が3月29日にイスタンブールで再開される見通しが示され、ゼレンスキーはインタビューの中でウクライナの安全保障と中立化、非核の立場に向かう準備ができていると述べ、NATOの加盟に代わる新たな安全保障の枠組みについて議論する用意がある考えを示した。
だが、誰もが知っているように、イスタンブールでの停戦交渉は成果を見せずに終わった。このような結末を招いたのは、本引用記事でアラハミアが述べているように、当時の英国首相であったボリス・ジョンソンが暗躍した結果であると言えるようだ。彼は彼のボスである米国の意向に沿って行動したのであろう。そして、今、米欧はロシア・ウクライナ戦争からの出口を模索している。歴史が示すように、代理戦争の戦場となったウクライナはあっさりと見捨てられる運命にある。
日本には台湾有事を喧伝し、日本の軍事費を拡大させようとする勢力がある。彼らの話の中核は台湾を戦場とした米国による対中代理戦争にある。そこへ米軍の基地をたくさん有している日本も巻き込まれる。代理戦争の本質は、米国から遠く離れた地域で軍事紛争を引き起こし、米国の軍需産業が武器や弾薬を供給し、巨利を得ることができそうな舞台を設けることだ。こうして始められた代理戦争では何らかの決着がつくと、彼らはすーっと姿を消してしまう。自分たちの金儲けのためには、戦場となった国で何十万、何百万人もの一般大衆が被った被害については何の関心も示さない。巻き添え被害に遭って何人が死んだかと言う数値だけが報じられる。
われわれ日本人はウクライナにおける対ロ代理戦争の始まりから終わりまでを詳しく解析し、そこから教訓を学びとる必要があるのではないだろうか。
参照:
注1:US
Media Acknowledges True Situation in Special Op Zone: By Anatoly Dontsov, Sputnik,
Nov/21/2023
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