4月20日、米連邦議会の下院本会議は9兆4000億円(610億ドル)のウクライナ支援予算案を可決した。民主党と共和党との駆け引きで長い時間をかけたが、この議会ショーは終わりを告げた。結局のところ、紆余曲折があったものの、軍産複合体は自分たちの目標を達成したということになる。
ここに、「たとえ支援法案が可決されてもウクライナは崩壊する ― 米億万長者の言」と題された記事がある(注1)。ウクライナの人たちには冷たい現実が待っているのだ。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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かって、米国の億万長者である投資家のデビッド・サックスは第三次世界大戦を避けるためにはロシアとの「取引を結び」、緊張緩和を模索する必要性を強調した。だが、ワシントンDCで開かれた共和党のシンクタンク「アメリカン・モーメント」の祝賀会においては、ウクライナで進行中の代理戦争への米国の関与は膠着状態を長引かせるだけだと語った(3月6日)。
米下院がキエフへの610億ドルの援助を含む対外援助パッケージを可決したにもかかわらず、ウクライナの崩壊は避けられないと、米国の起業家デビッド・サックスはソーシャルメディアプラットフォーム「X」に書いたのである。
「いずれにせよ、ウクライナが崩壊すれば、特にこういった祝賀会の光景は愚かに見えるだろう。連邦政府はより多くの紙幣を印刷することができる。砲弾や防空ミサイルは増やせばいいだけだ」と、同投資家は一部の議員がウクライナ国旗を振っている下院での歓喜の光景に反応し、書いている。続けて、彼は「そして、私はこう付け加えるべきだった。彼らはこれ以上兵士を印刷することはできない」と言った。
Photo-1:デイビッド・サックスのXへの投稿 © Photo : DavidSacks
サックスの投稿は共和党のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州選出)の批難の投稿に呼応するものであった。彼は法案可決後に下院の映像を投稿し、「彼らは、あなた方が苦労して稼いだお金を、腐敗した外国政権に送ることに投票している。そして、彼らはまさにそう叫んでいる。ウクライナの国境を守るためだ。われわれの国境ではなく、ウクライナの国境を守るために彼らは喜んで投票しているのだ」とコメントした。
億万長者の投資家はXのスレッドで「ただ単に610億ドルの話だけではない」と指摘。「ウクライナの完全な敗北を食い止めるために、毎年、巨額の現金注入を必要とするであろう。つまり、新たな永遠の戦争における年間予算の基準として、610億ドルを注入することになるのだ。」
Photo-2:デイビッド・サックスのXへの投稿 © Photo : DavidSacks
彼は「イラクとアフガニスタンの戦争でも年間600億ドルの範囲の歳出で始まった」と指摘した。「これらの戦争は何兆ドルもの費用を負担することになったのである。」
投資家はこう言った。『単純計算をすると、この新しい資金法案を可決しても、ウクライナには「昨夏の大反撃のちょうど半分程度」を買ってやる以上のことはしてやれないことを示している。』
そして、もちろん、昨年の大々的に喧伝されていた大反撃の試みでは戦場での成果は限られ、膨大な人員とハードウェアとの損失によってどのように終わったかは誰もがよく知っている。
サックスによれば、これは「外国の旗を振りながら海外に送金することに投票すれば、あなたは米国の愛国者と呼ばれる」という極めて奇妙な世界なのである。「自分たちの国境を守るべく国内の優先事項に資金を供給するために自分たちのお金を国内に留めておくことに投票すれば、あなたは外国の代理人と呼ばれてしまう。」
同起業家は次のようなエピソードを思い起こした。米国の調査ジャーナリストであるシーモア・ハーシュによると、「バーンズCIA長官はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に大金を盗むのをやめるよう警告しなければならなかった。彼の部下たちは、彼が戦利品を分け合っていないことに腹を立てていたのだ。この問題が解決し、今や、ゼレンスキーは戦利品をもっと多く分け合うとでも思うのか?」とデビッド・サックスは問うている。
スペースXの創設者でテクノロジー界の大御所でもあるイーロン・マスクもサックスの投稿に加わって、彼の「最大の懸念」は「出口戦略がなく、永遠の戦争だけだ」とコメントした。
土曜日(4月20日)、米下院はウクライナやイスラエル、台湾に対して支援を提供する法案を可決した。現在上院に提出されているこの法案にはウクライナ関連の支援として608億4000万ドルが含まれている。つまり、ウクライナに供与される防衛用品やサービスの補充に233億ドル、先端兵器システムの調達に138億ドル、この地域での米軍の作戦に113億ドル。この法案には、ウクライナに陸軍の長距離戦術ミサイルシステム(ATACMS)を提供する措置も含まれている。
さらには、下院はバイデン政権が違法に凍結したロシアの資産をウクライナに移転できるようにする、いわゆるREPO法も可決した。
デイビッド・サックスは、以前は、ウクライナへの軍事支援を推し進めようとする西側諸国の取り組みを背景に第三次世界大戦が勃発する可能性についての警告に加わって、NATOのロシアとの代理戦争を煽っていたものである。
米国は世界平和のベースラインを提供するためにロシアと「取引を結び」、緊張緩和を模索すべきだと、3月にワシントンで開かれた共和党のシンクタンク「アメリカン・モーメント」の祝賀会でこの米投資家は指摘した。演説の中で、51歳の彼はウクライナ紛争への米国の関与はついに失敗に終わったことが証明されたと主張。彼は膠着状態を長引かせ、ロシアに経済制裁を課したとしてワシントン政府を非難した。
「経済制裁が機能しているという考えは完全に妄想だ。ロシア経済は2023年に安定し、G7諸国をも上回った」と同ベンチャーキャピタリストは強調した。
サックスは、経済制裁の「本当の犠牲者」はヨーロッパだと主張し、ヨーロッパ大陸の人々は「このNATOの代理戦争、ロシアとの戦争は自分たちの利益にはならないことに気づいた」と付け加えた。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官によると、ウクライナ支援を提供するという米下院の予想された決定は米国に利益をもたらし、ウクライナには損害を与える。彼は、ロシア資産の没収は米国のイメージを傷つけ、恐怖を与えるであろうと付け加えた・・・(スプートニク
(@SputnikInt)、2024年4月20日)
米上院は火曜日(4月23日)にウクライナを含む同盟国を支援する法案とロシア資産を差し押さえるイニシアチブについて投票する予定だと、上院多数党院内総務のチャック・シューマーは法案が下院を通過した後に述べた。
これに対して、ロシアはキエフに対する米国の軍事支援のさらなる提供はウクライナを破滅させ、ウクライナ人を殺害する一方で、米国をさらに豊かにするだけだと警告した。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官はロシア資産を没収した場合、米国はその影響に対処しなければならないだろうと述べ、この動きは海外での米国のイメージを傷つけると付け加えた。
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これで全文の仮訳が終了した。
ウクライナに対する610億ドルの支援パッケージは下院で可決された後、上院でも可決された。そして、バイデン大統領はこの新法案に署名をした。
138億ドルの支援は、少なくとも、長距離用ATACMSミサイルやF-16 戦闘機、等をウクライナへ送り込むことに費やされるようだ。こうして、ロシア側の戦略的優勢が明白であるという客観的な地上の状況があるもかかわらず、この消耗戦は継続される。この状況が続けば続くほど、米国の軍産複合体には巨額な利益が舞い込んでくる。
ロシア・ウクライナ戦争についてはさまざまな批判や論評があるが、この紛争が始まった当初から一貫して批判的であった西側の論者のひとりにスコット・リッターがいる。「スコット・リッター:ウクライナに対する米国からの巨額な支援法案もロシアの戦略的な優位性を阻止することはないだろう」と題された最近の記事(原題:Scott Ritter: Hefty US Military Aid for
Ukraine Won’t Hamper Russia’s Strategic Advantage: By Sputnik, Apr/25/2024)によると、「ウクライナに提供される138億ドルの軍事支援は、進行中にあるロシア軍の進撃を基本的に止めるには不十分だ」とし、「戦場の結果を変えるには不十分だ」と彼は述べている。この金額は、キエフ政権が「ゼレンスキーの計算によれば、1991年の国境にロシア軍を押し戻すために流れを変える」のにはまったく役には立たないであろうとリッターは強調した。これと同じような評価を下しているのは彼だけではない。
この戦争はいったい誰のためなのか?2014年のマイダン革命以降のさまざまな出来事を眺めてみると、どう見てもこれはウクライナの民主主義と自由を守るためのものではなく、軍産複合体に金儲けをさせるためのものだ。
まさにそのために、西側のメデイアではロシア敵視やプーチン悪党説が都合よく喧伝されてきたのだと言えるのではないか。トランプ政権の最中(2017~2021年)はロシア疑惑がでっち上げられ、米国内政治は混乱を極め、麻痺状態に陥った。あの混乱も米国やその同盟国の人たちにロシア敵視を植え付け、洗脳し、ロシア・ウクライナ戦争を駆り立てるのに重要な要素のひとつであったのではないかとさえ思える。
だが、遅かれ早かれ「兵どもの夢の跡」となりそう・・・
参照:
注1:US
Billionaire Investor Warns Ukraine Will 'Collapse Anyway,' Despite Aid Bill: By
Svetlana Ekimenko, Sputnik, Apr/21/2024
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