中東における米国の存在は陰りを見せてすでに久しい。
イスラエル・ハマス紛争を受けて、米国とイランとの関係は危険になりつつある。その危険の度合いが何処まで拡大するのかは誰にも分からない。しかしながら、現状についての一つの見方として、イラン外務省のスポークスマンであるナセル・カナニは次のように述べている。つまり、「一極世界はもはや存在せず、今や、米国は超大国として知られてはいない。もちろん、米国は強国である。しかし、実際には、もはや超大国として見なすことはできない。イスラム共和国の能力や地域レベルと国際レベルでのふたつの領域における力の均衡の変化に照らして、イラン政権はイランの国家としての利益を確保し、極めて包括的なアプローチとして地域の集結を促進するために、そのような可能性のすべてを解き放とうとしてきた。」 (出典:Iran:
Unipolar world is dead; US no longer known as superpower: By Press TV, Apr/17/2023)
これがイランがちょうど一年前に描いた米国の姿である。
1989年にベルリンの壁が崩れ、1991年には旧ソ連邦が崩壊してから30年間というもの、米国は単独覇権国家として我が世の春を堪能してきた。しかしながら、あれから30年余、米国が自国の軍事的優位性や資本主義の勝利に陶酔している間に、ロシアや中国、グローバル・サウス諸国は経済力を拡大し、国力をつけ、今や、G7を追い越した。この現状は昨年5月20日に広島で開催されたG7サミットでは中核的な懸念であった。ロイターは次にように報じた:
日本とドイツは、国連安全保障理事会を含む世界で最も強力な機関のいくつかが新興国にどのように対処するかを再考する時期に来ていると述べている。インドを含む一部の低・中所得国の略称である、いわゆる「グローバル・サウス」への働きかけは今年の広島でのG7サミットで焦点となっている。利他的な関心だけではない。世界の裕福な民主主義国は発展途上国における中国の大きな足跡に疑問を呈し、サプライチェーンや重要鉱物資源に対する中国の影響力を懸念している。(原典:At G7 Japan and
Germany want a rethink on the Global South'': By Sakura Murakami and Andreas Rinke, Reuters, May/20/2023)
ここに「ゲームは終わったか?ペルシャ湾岸諸国は米軍が対イラン攻撃のために国内の基地を使用することを拒否」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
ウクライナだけではなく、中東で起こっている国際政治における最近の地殻変動に関しても常に情報を漁り、理解に内容を更新しておく必要がある。
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1991年の湾岸戦争に遡ると、米国は中東全域における大規模な軍事作戦を同地域の同盟国に大きく依存していた。現在、イスラエルとイランとの間の緊張が高まり、米国が率いる一極世界秩序が緊張状態に陥る中、米国の伝統的な同盟国は、明らかに、ワシントンと歩調を合わせることを拒否している。
ペルシャ湾岸諸国は、地域の緊張が高まる中で自国の領土や領空からイランに対するいかなる攻撃も行わないよう米国に伝えたと報じられている。
米政府高官を含め、情報筋は「ミドル・イースト・アイ」(訳注:Middle East Eye:ロンドンに本拠を置くオンライン・ニュース社) に湾岸君主諸国は「テヘランやその代理国家に対する米国による報復攻撃については君主国内の基地からの作戦の道を閉ざす」べく、外交を通じて「残業」も厭わずに作業をしていると語った。
これらの国々には、地域の大国サウジアラビアやアラブ首長国連邦、オマーン、クウェートが含まれ、これらの国々の指導部は米国の基地協定の詳細について「疑問を呈し」、イランに隣接する基地がイランに対して使用されるのを阻止する措置をとっていると報じられている。
NATO加盟国のトルコも米国がイランに対する攻撃のために自国の領空を使用することを禁じたと報じられているが、スプートニクはこの情報について独自の検証はできていない。
4月1日にテルアビブがシリアのダマスカスにあるイラン大使館を攻撃したことを受け、バイデン政権がこの地域で最大の同盟国イスラエルに対するイランの報復攻撃に備える中で、バイデン政権が直面している頭痛の種に言及し、「混乱状態だ」と米政府高官は述べた。
このミドル・イースト・アイの報道は、もしもワシントンがイランとイスラエルの軍事衝突に介入すれば、中東の米軍を標的にするとしてイランが米国に内密に警告したという米当局者の言を引用した金曜日(4月12日)のアクシオス(訳注:米国バージニア州に所在するオンライン・ニュース社)による報道に続くものである。
米国は中東に点在する基地に推定で40,000人強の軍人を擁している。これには中東全域の軍事作戦を担当する戦闘司令部であるカタールのアル・ウデイド空軍基地が含まれ、少なくとも10,000人の軍隊を擁しており、米中央軍の前方本部として機能する。近隣のバーレーンには、最大で7,000人の兵士とペルシャ湾や紅海、アラビア海、インド洋の一部で活動する米第5艦隊が駐留している。米国はクウェートに15,000人の駐屯地を有し、UAEに少なくとも5,000人の兵士、サウジアラビアのプリンス・スルタン空軍基地に約2,700人の兵士と戦闘機を駐屯させている。オマーンは数百人の米軍を受け入れており、米空軍が上空飛行と着陸を行い、軍艦が年間80回の寄港を行うことを認めている。
独立する一途にある湾岸諸国の外交政策は、第二次世界大戦後何十年もの間(特に冷戦後)、石油が豊富な地域での軍事作戦をペルシャ湾岸君主国に頼ることができたワシントンにとっては大きな後退となる可能性がある。
サウジアラビアとUAEを中心とする地域諸国は、最近、経済的・政治的・軍事的に米国への依存から脱却するための一連の措置を講じており、リヤドは中国との原油取引においてオイルダラーの独占を打ち破り、イエメンのフーシ派民兵に対する軍事作戦を一時停止し、イランとの外交関係を回復し、
アブダビとともに「BRICSプラス」陣営に加わる。
パレスチナ・イスラエル危機は、湾岸諸国の指導者とその住民をイスラエルとの関係樹立という考えから遠ざけ、バイデン政権がガザ戦争の過程でテルアビブを全面的に支援したおかげで、米国との関係を冷え込ませた。
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これで全文の仮訳は終了した。
ガザにおけるイスラエル・ハマス紛争は決着がついてはいない。どの状況で両者が停戦に応じるのかは未だ見えてはいない。ガザが地図上から抹殺されるのか、イスラエルが国際世論に抗しきれずに譲歩するのか、あるいは、第三の出口があるのか、私には分からない。大局的な流れを重視するとすれば、従来型の米国の政策にはもはや大見えをきって、大向こうを唸らせるような舞台は用意されてはいないようだ。
米国内ではガザにおけるイスラエルの戦争犯罪に抗議をするコロンビア大学での学生の反政府デモは過激化しており、フランスでも学生デモが激しさを増している。この動きは、今や、世界規模になろうとしている。(原典:LIVE: US university protests spread amid growing calls to end Gaza war: By Nils Adler, May/01/2024)
思うに、中東諸国が自国内にある米軍基地を米国がイランを攻撃する際には使わないように米国へ伝えたというこのニュースは大多数の国民が米国に追従することを受け入れている日本社会にとっては意外に思えるかも知れない。私は日本におけるこの状況は閉ざされた社会が時折見せるものであって、偏った集団心理状態であると見ている。何時の日にか、このガラパゴス症候群に見舞われている多くの日本人にも目を覚ます時が来る筈だ。
ところで、米海兵隊で元諜報専門家であった人の話によると、バイデン大統領が、たとえば、ホワイトハウスからヘリポートまで歩く場合、大統領の周りには人垣を作って、大統領と一緒に移動するという。報道陣のカメラが大統領の歩行の様子を撮影できないようにすることが彼らの仕事である。これらの人たちは「walker」と呼ばれているそうだ。(出典:【アメリカ崩壊】ユダヤ資本の寄付金によって成り立ってきたアメリカ政権は今後どうなるか?!(マックス×石田和靖)@tokyomax:【越境3.0チャンネル】石田和靖、May/01/2024、https://youtu.be/LySk4gb_kgE?si=WrzXMOIT9Dx4Wmaf)
米大統領個人の周りに人垣を作ることは簡単に出来るけれども、米国という国家の周りには人垣を築くことは出来ないということを今回の引用記事は示唆しているかのようだ。少なくとも、イラン政府の高官たちには米国のすべてが見え見えなのである。
参照:
注1:Game
Over? Persian Gulf Powers Reportedly Refuse to Give US Access to Bases for
Anti-Iran Strikes: By Ilya Tsukanov, Sputnik, Apr/14/2024
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