2024年5月26日日曜日

NATO高官や主流メデイアはロシアの軍事力に関する評価において態度を急変

 

実質的には終わったと言われながらも、依然として抗争が続いているロシア・ウクライナ戦争ではあるが、ここに「NATO高官や主流メデイアはロシアの軍事力に関する評価において態度を急変」と題された記事がある(注1)。

この表題に私は興味をそそられた。いわゆる「潮目が変わった」とされる出来事や兆候は歴史的にもさまざまな報告がされている。たとえば、80年前の太平洋戦争において日本が敗戦となる兆候はミッドウェーの海戦であったと言われる。空母4隻、航空機300機を失った。そして、最大の痛手は数多くの熟練兵を失ったことであったという。ロシア・ウクライナ戦争においては、昨年の夏、ウクライナ軍が対ロ大反撃を行うも、失敗に終わったこと、少なくとも、成功はしなかったことが転換点となったのではないかと私には思える。事前に語られていたような戦果が得られなかったという事実もさることながら、数十万人もの兵力を失って、ウクライナが戦争を継続する能力を疑問視させる程であった。それにもかかわらず、あれから数か月間にもわたって西側の指導者らは惰眠を貪り続けていたのだろうか?

早速ながら、この記事を仮訳し、読者の皆さんと共有してみたい。

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Photo-1: © Sputnik / Vyacheslav Prokofiev

ウクライナにおけるロシアに対するNATOの代理戦争はふたつの競合するような、相矛盾した欧米のプロパガンダの言説を前面に押し出し、当局者らはロシアがヨーロッパの安全保障にもたらす「脅威」を語り、ウクライナにおけるモスクワの「弱さ」を強調するといったあまり気のすすまない任務を背負わされている。

米国の軍部や政府、国防当局者や専門家に向けて出版された国家安全保障出版物によると、ウクライナでの代理紛争が進行する中、ロシアの軍事能力に関するロイド・オースティン国防長官の評価の「トーン」には決定的な変化が現れた。

ディフェンスニュース」の分析によれば、ペンタゴンの長官はこの3月にラムシュタイン空軍基地で行われた会議で、ロシアの血と財宝の損失を嬉々として積み上げていたものではあったが、そのわずか1カ月後にはロシア軍の「回復」ペースについて警告を発し、トーンを弱めた。

「ロシアは生産を拡大している」とオースティン国防長官は4月の記者会見で述べた。「防衛産業はすべてが国に直接答えるので、少し早目に目標を実現するのは簡単だ。」

1カ月の間隔をあけて発表されたこれらふたつのコメントは米国がロシア軍をどう見ているかについて明らかな変化を示している」と「ディフェンスニュース」は示唆している。

同紙は、「モスクワの防衛産業の回復力」、軍事関連の生産・運用コストの低減、欧米の経済制裁をかわすロシアの能力、「他の米国の敵対国からの驚くべきレベルの支援」、ソ連兵器でいっぱいの倉庫へのアクセス、等を挙げて、ウクライナを軍事的に利用してロシアを「弱体化」させるというオースティンが公に宣言していた目標をワシントンは達成できなかったとして、その理由として述べている。

「もしもクレムリンが予想よりも急ピッチで軍の再建を続ければ、NATO同盟にとってはより長期的で、おそらく、よりコストのかかる問題となる可能性が高い」と同紙は警告している。

目の前の現実を認識せざるを得ないのはオースティン長官だけではない。ウクライナ危機に関する美辞麗句における顕著な変化は他にもNATO当局者やシンクタンク、主流メディアでも観察される。

「ロシアは、衰退し、堕落し、喜びを失ったこの戦争の三年目に突入した」とネオコン系のシンクタンクである「ジェームズタウン財団」は1月にその分析で意気揚々と書いていた。だが、その数カ月後、「凍てつく北部で激化する一方のロシアと西側諸国との対立」と題された記事で、同シンクタンクはこの「衰退」し、「劣化した」ロシアが北極圏で米国とその同盟国に挑戦する時間と資源をどうにか見い出したことをしぶしぶ認めることになった。

英国の高官らは「ビジネス・インサイダー」が引用した12月の英国諜報機関の推算では「ロシアが高度に訓練された、経験豊富な軍隊を再建するには最大で10年はかかる可能性が高い」としていたが、今週、グラント・シャップス国防大臣は明らかにロシアはかつてないほど強力であり、モスクワと北京の同盟は「われわれの生活様式に対して直接の脅威」をもたらすというヒステリックな主張に転換したのである。3月には、ロブ・マゴワン国防副参謀総長はロシアとの直接の「全面的な銃撃戦」が数カ月以上続く場合、英国はロシアとの直接の「全面的な銃撃戦」には勝ち目はないと警告した。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、この1月、アントニー・ブリンケン米国務長官と並んで記者会見し、「年間国防費のごく一部で、米国はウクライナがロシアの戦闘能力の大部分を破壊するのを支援してきた」と自慢した。その3カ月後、ウクライナにより多くの武器を送るという「約束を守らなかった」として、狼狽したストルテンベルグは、米国を含めて、NATO同盟諸国を攻撃し、「これは戦場で深刻な結果をもたらした」と述べ、キエフを支援しなかったことは「生死にかかわる問題」だと述べた。

同様に、米国の主流メデイアも二極化した評価を報道している。12月のウォール・ストリート・ジャーナルによる「ロシアは戦争開始前の軍隊のほぼ90%を失ったと米諜報機関が言う」との勝利の見出しは、最近、キエフの絶望感が高まっているという一連の陰鬱な報道に置き換えられた。516日のウォール・ストリート・ジャーナル編集委員会の論説で同紙は、バイデン大統領は「ウクライナに踏み込む」積りなのかと問いかけ、「キエフに関する彼の限界は分割支援計画を打ち負かす戦略にある」と述べた。

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これで全文の仮訳は終了した。

今年の1月以降の数か月間がロシア・ウクライナ戦争に特に大きな変化をもたらしたのかどうかを正確に判断し、指摘することは素人のわれわれにとっては至難の技である。だが、この引用記事は国際政治の舞台で展開されている変化をみごとに描写してくれている。後知恵になることを承知の上で言うとすれば、この戦争が始まった2022年の2月においてさえも、予測される結末はすでに囁かれていたことは読者の皆さんもご記憶であろう。しかしながら、西側の指導者らは頭に血がのぼり、盲目状態に陥っていたようだ。あるいは、軍産複合体が主張する聞こえの良い、金儲けの筋書きにすっかり惑わされてしまったのか?いずれにしても、政治エリートたちは自分たちの愚鈍さを露呈させてしまったという事実に変わりはないと言える。

歴史は繰り返す。またしても、愚行の大行進である。対ロ経済制裁という政治的次元での思考だけに固執し、それよりも高次元にある人道主義的な価値観やより普遍的な倫理観はどこかへ置き去りにしてしまったようだ。

参照:

注1:NATO Officials, Legacy Media Flip on a Dime in Assessment of Russia’s Military Power: By Ilya Tsukanov, Sputnik, May/22/2024

 

 


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