ウクライナにおける米国の対ロ代理戦争では、NATO諸国はウクライナに対して武器を供与し、ウクライナ兵に対する訓練を与えるといった支援を行ってきた。だが、西側が供与したミサイルをロシア国内の標的を攻撃するために用いることは許されてはいない。潜在的にロシア国内に向けて攻撃をすることが可能な長距離ミサイルはウクライナ国内での戦闘には使用されている。たとえば、ロシアによって占領されている地域、つまり、ドネツクやルガンスク、クリミアといった地域に対する攻撃ではこういった西側から供与された長距離ミサイルがすでに使用されている。
そして、現在、ロシア領内の奥深くまでミサイル攻撃を行えるような長距離ミサイルをさらに供与すべきかどうかについてはNATO内部では議論がふたつに分かれている。米国やドイツ、イタリアはそのような長距離ミサイルの供与には反対であるが、英国やポーランド、バルト三国は賛成している。NATO全体としての決断を行うのか、今後も各国ベースでの判断に委ねるのかどうかはまだ結論に至ってはいない模様だ。
お国の事情はそれぞれ異なる。したがって、NATOが統一見解を図ろうとするとそれはそれで結構厄介なようだ。
ここに「西側の指導者らは自分たちの政治的失敗から関心を逸らすために第三次世界大戦を始めるのか」と題された記事がある(注1)。物騒な話である。
実は、この種の状況は歴史を紐解けばいくつも例が挙げられるのではないか。卑近な例としては、バルト三国だ。不景気に見舞われ、多くの若者が国を離れ、人口減少が続き、国内の課題を解決することはどれをとっても容易いものではないと言われている。こうして、これらの国では、歴史的な背景もさることながら、国民の関心を外へ逸らすために反ロシア政策が都合よく採用され、必要以上に喧伝されているのだとの解説がある。同様に、国内問題が山積する米国も決して例外ではない。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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キエフの同盟国がロシアとの緊張を再びエスカレートさせようとしているように見える中、各国政府では国内の懸念を排除してウクライナ代理戦争に執着していることを巡り、論争が激化している。
西側諸国は政治的正統性の危機に直面している。G7諸国での政府支持率はイタリアのジョルジャ・メローニ首相の44%からドイツのオラフ・ショルツ首相のわずか20%までと幅がある。
特に米国では支持率の低い2大政党候補が争う大統領選挙シーズンに突入しており、状況は深刻である。米国人の4分の3はこの国は間違った方向に向かっていると信じており、米国の社会制度は議会から裁判所に至るまで不信感を持って注視されている。
このような厳しい政治的・文化的な要素を考えると、指導者たちは自らの失敗から国民の関心を逸らすために敢えて世界的な紛争を追い求めているのではないかとの疑念が湧いてくる。米国が支援しているウクライナ傀儡国家が崩壊に近づく中で、これは金曜日(5月24日)にスプートニクの番組「断層線」に出演し、欧米支配階級の絶望感が高まっていることを論じた作家のジェレミー・クズマロフがもっとも恐れている点だ。
「これらの指導者は世界大戦を望んでいるみたいだ」と、「コバート・アクション」誌の編集長クズマロフは言う。「多分、それが彼らの望みなのかも知れない。つまり、彼らは敗北し、国内で統治する限り、その正当性を失う。私の感覚から言うと、まさにこれは戦略であって、国内の悪政や汚職から国民の関心を逸らすために海外での紛争を引き起こしているのだ。」
西側諸国の政治論争の主旨は、移民や経済などの問題をめぐってますます論争の的となっており、反政府勢力の候補者が前面に出て来て、既成政党に挑戦している。
ウクライナの代理戦争への支持率はこうした国内における懸念と結びついているとの見方が強まっている。ドイツではロシア産エネルギーへの制裁が経済成長を阻害し、ウクライナ産食品の輸入関税が撤廃されたことから欧州全土で農民による抗議行動が頻発している。
戦場におけるモスクワ側の成功は米国やNATOに「絶望」を引き起こした、と司会のジャマール・トーマスが指摘。ジョー・バイデン米大統領は自らが課した「越えてはならない一線」を自ら何度も破り、これまで供与することを拒否していたATACMSミサイルなどの西側兵器を最終的にウクライナに供与している。現在、アントニー・ブリンケン国務長官は、キエフがロシア領内の標的を攻撃するために米国製兵器を使用することを認めてやるようバイデンに公に促している。
しかし、代理戦争への関与を深めること、ならびに、NATO軍が最終的に戦場に配備される可能性はさらなる論争を引き起こす危険性がある。
「ロシア軍が勝利し、ウクライナは弾薬と兵員を使い果たしつつある」とクズマロフは指摘。「もしも米軍が戦場に入ったならば、ベトナム戦争時代のような抗議行動が起きるかも知れない。いったい何が起きているのかについて、世論はもっと疑問を抱き始めるのではないかと思う。」
「国内でより多くの課題について権威主義的な基準に頼らない限りは、彼らが政治的にそうすることができるかどうかは分からない。だが、そういった状況がすでに始まっているようだ。とすると、繰り返しになるが、国内での政治的反発は持続することになる。つまり、彼らは問題を抱えていると思う。だからこそ、このような無謀な脅しや非常に無謀な行動が見られるのである。私はこれが第三次世界大戦を誘発しないことを願うばかりだ。」
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これで全文の仮訳が終了した。
米国政府がキエフにロシア領内の標的を攻撃するために米国製兵器を使用することを認めてやるかどうかについては、最近の報道(原典:The
West announced pressure on Biden on the issue of strikes by the Armed Forces of
Ukraine on Russia: By Lenta.ru, May/30/2024)によると、下記のような具合だ:
「ジョー・バイデン大統領は、議会からこの立場を変えるよう圧力をかけられているが、彼は断固として持ちこたえている。ワシントンからのゴーサインがなければ、ウクライナは自国のミサイルや無人機を使ってロシア領内の標的を攻撃することについては立ち往生している」と同紙(Politico)は指摘。
この記事の著者らは、米国はウクライナ軍による長距離兵器によるロシア領内の攻撃を認めることに対して、依然として、主要かつ最も一貫した反対者のひとりであることを強調している。著者らによれば、この事実はワシントンとヨーロッパの多くの同盟国との関係を幾分複雑にしている可能性がある。
米国がロシア領内へのウクライナ軍による攻撃をはたして容認するかどうかは私には分からない。米国にとっての最大の懸念は、もしもウクライナがロシア領内の奥深くの標的に向けて長距離ミサイル攻撃を加えると、これは誰が見ても、軍事的なエスカレートであることは明白となる。しかも、そうしたとしてもウクライナが勝利するという保証は何もない。今年11月の大統領選挙を控えているバイデン大統領にとってそのような悲観的な戦況の拡大はマイナス材料となるであろうとの判断があるのではないか。
あるいは、この夏、兵士不足や弾薬不足といった極端な消耗戦の中でウクライナ軍は内部崩壊し、キエフ政権も匙を投げ出さざるを得なくなるかも知れない。
ま、さまざまな筋書きが可能であろうが、地上の現実を眺めてみると、大勢に影響を与えるのかどうかは必ずしも定かではない。
参照:
注1:Will Western
Leaders Start World War III to Distract From Their Political Failure?: By John
Miles, Sputnik, May/25/2024
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