2024年5月22日水曜日

ロシアの動きはハッタリではない ― 戦術核の演習はNATOがウクライナへ兵力を投入することを阻止する警告である

 

時事問題の解説では定評のあるスコット・リッターがダグラス・マクレガーの考えを59日にユーチューブ動画で掲載した。この動画は約30分もあって、全体について文字お越しをするのはいささか厄介であるので、冒頭部分をここにご紹介しておこうと思う。その表題にもあるように、米国がロシア国境の近くで軍事演習を行ったので、ロシアは怒っているという。緊張は高まるばかりだ(原題:Douglas Macgregor: Russia Is ANGRY After US Conducts Exercises Near Border! TENSIONS ESCALATE; Scott Ritter Latest! May 9, 2024):

ウクライナ軍は、例えば、1940年にダンケルクの海岸にいたイギリス遠征軍よりも、実は、もっと深刻な状況にあって、視聴者の皆さんの中には私が何を言っているのか理解できる人もいるだろう。ああ、この戦争は負けだ。これから負けるという話ではない。ウクライナは大分前に負けてしまっている。ロシアは、より賢明な頭脳が西側で優勢になって、停戦につながる何らかの議論を行い、最終的には和解が成立することを期待し、自制を続けることを選択した。言い換えれば、ポーランドやリトアニア、ラトビア、エストニア、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、そして、恐らくワシントンは(隠された目標を)実現してはおらず、ロシアは長くて泥だらけの寒い冬の後にようやく次のように言った。「見たまえ。ウクライナ人は完全に混乱している。彼らは、今、西へ移動している。彼らが今いる場所からドニエプル川に至るまで後退するであろうとわれわれには分かっている。われわれはそのことを極めて明確にしたので、彼らにはあまり選択肢がないと思う。われわれは交渉もしないし、何も議論をしない。彼らとは話し合わない。つまり、歴史的にロシアの領土であった地域、つまり、ハリコフからオデッサまでの支配を強化するという当初の目標をすべて達成するための体制を定めなければならない。」

原文ではこの先が延々と続くのであるが、ウクライナに関する現状分析についての基本的な部分は上記に言い尽くされているのではないかと思う。

ロシア・ウクライナ戦争が起こるまでは冷戦の終結から約30年間にわたって核の脅威からは比較的に縁遠かったのであるが、今や、欧州大陸や米国におけるもっともホットな話題は核の脅威であろう。NATO軍は欧州大陸ではベルギー、オランダ、イタリア、トルコ、ドイツに米国の核兵器を配備しており、自前の核兵器を有するフランスと英国もNATOの有力な核戦力である。

このような西側の核戦力の体制に対して、米国による大規模なNATO軍の演習に対して業を煮やしたロシアはベラルーシに戦術核を配備すると宣言した。これは好戦的なバルト三国やポーランドに対する布陣だ。それを受けて、ポーランド首相はNATOの核兵器を共有したいと主張している。欧州ではすでに極めて多くの核弾頭が配備されている。ひとたび核ミサイルの応酬が始まったならば、欧州は79年前の広島や長崎のような廃墟となってしまう。それでも、政治家たちは好戦的な文言を繰り出し、舌戦が継続している。このような状況は私には理解できない!

核兵器の所有は核戦争が起こることを抑止すると何十年も前から言われ続けてきた。この言い古された見方ははたして額面通りに受け取れるのだろうか?世界の政治に関与しているエリートたちはそう判断し、行動を起こす確固とした人道的・倫理的な価値観を持っているのであろうか?

ここに、「ロシアの動きはハッタリではない ― 戦術核の演習はNATOがウクライナへ兵力を投入することを阻止する警告である」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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Photo-1© Sputnik / Mikhail Metzel

ロシア軍はワシントンやパリ、ロンドンの当局者や議員らによるウクライナへの派兵に関する好戦的な発言を受け流し、戦場での核兵器を含む演習を実施することを発表した。スプートニクは、米陸軍での勤務から転身し、軍事や外交について20年間にわたって観察者の役割を務めて来たアール・ラスムッセンにそれはいったい何を意味するのかについて尋ねた。

ロシアで近々予定されている戦術核ミサイルの演習はウクライナに地上軍を送り込み、ウクライナでの代理戦争を本格的なロシア・NATO戦争にエスカレートさせる恐れがある攻撃的な措置を取ると脅している「西側の首都に住み、頭に血が上ってしまった連中の頭を冷やしてやる」ためにモスクワ側がとった企みであるとロシア外務省は特徴付けている。

同省は、月曜日(56日)の記者会見で、この演習は「西側当局者による最近の好戦的な声明と、多くのNATO諸国がロシアに武力で圧力をかけ、ウクライナとその周辺の紛争に関連してわが国の安全保障にさらなる脅威をもたらすためにとった急激な不安定化行動の文脈の下で検討しなければならない」と述べている。

これにはゼレンスキー政権へのますます高度な兵器の移転を含めて、キエフに新たな「直接支援」を提供するという脅しやヨーロッパとアジアの両方を軍事化するためにロシアとの軍備管理協定を破棄するという米国の決定も含まれるとモスクワは述べた。

同省は、この演習は「(NATOは)自分たちが生み出す戦略的リスクが壊滅的な結果をもたらす可能性を認識し、キエフ政権のテロ行為を支援し、ロシアとの直接的な武力衝突に巻き込まれるのを防ぐのに役立つ」筈であると述べた。

また、モスクワはNATOがウクライナに供与する予定のF-16戦闘機を潜在的核兵器を運搬することが可能な機種として扱い、この種の機種の供与は「意図的な挑発」であると見なすと警告した。米国内には核兵器を配備する意思があるというポーランドの発言やフランスの傭兵がすでにウクライナで戦っているという報道、ならびに、その他の挑発行為と相まって、ロシア外務省は西側諸国の取り組みは『わが国に「戦略的敗北」を負わせる敵対的な路線の実施の一環として、NATOとロシア間の公然たる軍事衝突に向けてウクライナ危機のさらなるエスカレーション』を意図的に推進していることを示唆するものであると強調した。

『キエフ政権と欧米の教唆者たちは自分たちがとった無謀な措置は状況を爆発的な勢いで「臨界物質」の蓄積にますます近づけていることを認識すべきだ』とモスクワは警告し、相手側に自分たちの立場を再考するよう促した。

これとは別に、月曜日(56日)、同外務省はナイジェル・ケーシー駐ロシア英国大使を召喚し、52日にキエフを訪問した際、ロシア領土への攻撃を実行するためには英国が供与した兵器を使用することを容認すると述べたデービッド・キャメロン外務大臣のコメントの意味について警告し、同コメントはウクライナ危機における直接当事者としての役割をロンドンが自ら認めたことを示していると強調した。 さらには、これに応じてモスクワ側は本件を扱う旨を英国に伝えた。

「同大使は、ロシア側はキャメロン国務長官の発言を深刻なエスカレーションの証拠とし、キエフ側の軍事作戦へのロンドンの関与の増大を裏付けるものであると見なしていると伝達した。ケーシー大使はロシア領内での英国の兵器を使用したウクライナの攻撃に対する報復にはウクライナの領土内外の英国の軍事施設や装備が含まれる可能性があるだろうとの警告を受けた」と同省が述べた。

モスクワ政府は、別途、駐ロシアフランス大使のピエール・レヴィを召喚した。それは「フランス指導部による好戦的な声明やウクライナ危機へのフランスの関与の高まり」に関するものであった。

Photo-3:関連記事:Macron Denies France Waging War Against Russia: By Sputnik, May/06/2024

ロシアのサインを読み解く:

「これは西側諸国の指導者たちにロシアは本気であるということを示すサインである。彼らはハッタリをかましているのではない」と、アール・ラスムッセン退役米陸軍中佐はスプートニクに語り、ウクライナにおけるNATOによる脅威の中、ロシア・ミサイル部隊が南部軍管区で戦術核兵器の演習を行う計画についてロシア軍やクレムリン、外務省が相次いで声明を出していることについてコメントをした。

「西側諸国の指導者らが直接関与してウクライナ情勢をさらにエスカレートさせれば、ロシアは彼らと直接交戦をするであろう。そして、ロシアは西側の軍隊を破壊し、潜在的にはロシア国家を守るためには戦術核兵器が使用される結果にさえもなりかねない。これは決して好ましいことではない。つまり、これはエスカレーションを余儀なくされ、最終的には全面核戦争につながるだろう」とラスムセンは警告した。

「ロシアがこのような状況を望んでいるとは思えない。彼らは、西側諸国の指導者たちにこれ以上エスカレートしないように警告のサインを送ろうとしているのだと思う」と、米陸軍軍人から転身して、20年間にわたって国際・軍事問題の解説者として活躍しているこの人物は付け足した。

残念なことに、ラスムセンは、ウクライナ戦線が崩壊した場合、ウクライナに「関与する」という西側の首都からの敵対的な声明は直接衝突のリスクを高めるのに役立つであろうと警告した。「これは非常に、非常に危険な挑発であり、極めて危険なエスカレーションだ。西側諸国の指導者たちには、そのようなことをしないよう警告したい」と彼は主張した。

「ウクライナはNATO加盟国ではない」とラスムセンは強調し、キエフはせいぜい一種の「疑似」加盟国としてNATO諸国から長年にわたって資金提供や訓練を受けてきたが、NATO諸国が支援にやって来る義務はなく、ましてやロシアとの潜在的な火種によって死ぬことなんてない筈だと指摘している。

「しかし、これは欧米側の言葉による美辞麗句と脅しによる非常に、非常に危険なエスカレーションだ。そして、ロシアはそれに応じて行動している。基本的に準備を整え、訓練を施し、必要であれば準備を整えるという明確なサインを送っている。彼らはそうしたくはないが、何としてでもロシア国家を守るだろう」とラスムセンは総括した。

***

これで全文の仮訳が終了した。

この記事でこの専門家は「最終的には全面核戦争へのエスカレーション」を心配している。

最近のさまざまな報道を読んでいると、まさにそのような状況がやって来るのではないかと思わせるような発言が好戦派の政治家から発せられている。彼らは「自己保身のためには全世界を犠牲にしても構わない。自分や家族は地下の核シェルターがあるからいい」とでも思っているのだろうか?「プーチンはけしからん。プーチンは大悪党だ」と叫んでさえいれば、自分の政治家としての地位は保てると本当に信じているのであろうか?

広島と長崎で日本は放射能がもたらす悪魔的な殺傷力を体験した。ウクライナで繰り広げられている戦争、西側では誰も止めようとはしないロシア・ウクライナ戦争に関しては、日本政府はその停戦に向けて仲裁役を買って出るべきではないのか!「核無き世界」に逆行する昨年の広島でのG7サミットにおける声明に続いて、世界の破滅を許す積りなのか?それはないだろう!

洋の東西を問わず、一般庶民の多くはこのような傲慢で、自己実現だけに走ろうとする現行のエリートたちにはすでに辟易としているのではないか。欧州議会の選挙は66日~9日に実施される。はたしてどのような結果が見られるのか?乞うご期待である。

ウクライナ問題に加えて、新型感染症の大流行に関しては、それが人工的な出来事であったことが判明しつつあり、いったい何のためにあれ程多くの人達が死亡させられ、身体障碍者にさせられたのかと疑問視せざるを得ない中、その答えがついに見つかりつつある昨今、今まで各国を率いてきたエリートたちの賞味期限は急速に過ぎ去ろうとしている。その一方で、ロシア敵視を喧伝し、2014年のマイダン革命以降10年間にわたって西側があれこれと準備し、推進して来たウクライナにおける米国の代理戦争は、今、歴史的な転換点を前にしているように感じられる。

こうして、エリートたちはすっかりパニックに陥ってしまい、冷静な判断が出来ずにいるようだ。次元の低い経済制裁といった政策に終始するばかりであって、もっと高次のレベルにある人類に対する貢献や健全な社会の実現に向けた対話にはまったく目が届かないでいる。これは実に不幸なことだ!

参照:

注1:‘Russia’s Not Bluffing’: Tactical Nuke Drills are Deafening Warning to NATO to Stay Out of Ukraine: By Ilya Tsukanov, Sputnik, May/06/2024

 


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