ウクライナにおけるNATOによる対ロ代理戦争はいつまで続くのだろうか?素人の私には見当もつかない。しかしながら、その方面の専門家や識者たちはさまざまな見解や見通しを示している。
ウクライナの国家財政と戦争継続のための資源は大分前から枯渇状態であり、NATO諸国からの財政・軍事支援を抜きにして、対ロ戦争を継続することなんて出来ないことは明白だ。昨年2月のロシアの軍事侵攻以降現時点までにEUがウクライナに支援した額は550億ドルにも達する。そして、欧州理事会は550億ドルの新たな支援を提案しようとしている。(原典:EU
Reportedly Ready to Propose 55 Bln Dollars in New Aid Package for Ukraine: By
Sputnik, Jun/20/2923)
NATO諸国にとっての最大の問題は、対ロ経済制裁の発動によって、安価なロシア産の天然ガスや原油へのアクセスが絶たれ、エネルギーコストが急増し、インフレが進行し、その結果自国経済が低迷しており、今後どれ程長くウクライナに対する支援を継続することができるのかは不透明である。誰にとっても明らかなのは「支援を永遠に継続することはできない」という点だ。EU経済の牽引役であるドイツの政府高官は「これ以上の支援はできない」と、最近、公言したばかり。この状況を見ると、NATO全体の結束を最優先する欧州理事会とはまったく異なって、ロシア・ウクライナ戦争を直ぐにでも収束させたいのが各国の本音なのではないか。
思うに、たとえウクライナがクリミア半島を失い、ドネツクやルガンスクの両州、ザポロージエ地区やアゾフ海沿岸にそって続くクリミア半島への回廊地域をロシアに割譲されたとしても、NATO諸国にとっては安全保障上の重要な問題とはならないのではないか。なぜかと言うと、過去の歴史を見ると、ロシアが外部に向かって武力侵攻してくる公算は皆無であるからだ。その一方で、ウクライナ国内のロシア語を喋る住民が多い東部地域がロシアを憎み、ロシア語系の地域住民を民族洗浄しようとするネオナチによって率いられた対ロ強硬派・好戦派によって支配されることになると、ロシアにとってそれはNATO軍がロシア国境に直接到達することを意味するのである。ロシア国境からモスクワまでの距離は従来よりも大幅に短縮する。ミサイルを発射されたら、10分足らずでモスクワ上空に到達してしまうような距離だ。このような状況は、西側のロシア恐怖症や嫌ロシア症候群が続く限り、ロシアにとっては極めて高次な戦略的課題となり続ける。
ここに「対ロ代理戦争の失敗は米国が自国と同程度の国家と戦争することはできないことを示している」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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ワシントン政府は、今月、ロシアとの代理戦争で再びエスカレーションの段階を上り、米国が155mm榴弾砲の砲弾が不足していることを認めた後、クラスター爆弾をウクライナに送り込んだ。ジャーナリストのケイレブ・モーピンはこれは米軍産複合体(MIC)に関するいくつかの重要なことを暴露していると述べた。
日曜日(7月16日)にウクライナにクラスター爆弾を配備するという米国の決定について議論して、プーチン大統領は、ますます絶望的になっているワシントンは「弾薬が不足している」ことを示しており、米国自身が以前その使用は「犯罪的」であると性格付けていた武器をウクライナへ供与する積りだと述べた。
先週、クラスター爆弾の配備を正当化する一連の声明で、ホワイトハウスや国防総省、国務省の当局者は米国の防衛産業が155mm砲弾の「枯渇した」在庫を増やすことを可能にする一時的な措置としてこの決断を特徴づけた。アントニー・ブリンケン国務長官はワシントンが緊急に武器を送らなければ、ウクライナは「無防備」になるとさえ示唆した。
「世界中で、そして、ウクライナで単一爆弾の備蓄が不足し、枯渇しようとしていた。だが、クラスター爆弾は例外であった。それで、彼らにクラスター爆弾を与えるという難しいが、次のような状況から必要な選択肢として選ばれた。われわれがこれを提供しなければ、われわれは目標には到達しない。そして、ウクライナは弾薬を使い果たす。彼らが弾薬を使い果たしたならば、彼らは無防備になってしまう」とブリンケンが言った。
MICは裸の王様:
『クラスター爆弾がいかに「防御的」兵器であるのかは私には理解できない』と、米国に拠点を置いて活動する古参のジャーナリストで政治分析の専門家でもあるケイレブ・モーピンはスプートニクに語った。『これは飛行機から投下したり、展開したりして、広範囲にまたがって爆発を引き起こすか、その時爆発しなかった場合は、誰かが通りかかった際に爆発し、それに巻き込まれて死傷する。したがって、クラスター爆弾が何であるかを見ると、クラスター爆弾がなければウクライナ軍が「無防備」になるという考え方は成り立たない。』
モーピンは、また、ロシアを軍事的に何倍も上回り、モスクワが一年で防衛のために費やす量よりも遥かに多くの武器をウクライナに送った米国とそのNATO同盟国が、弾薬を「使い果たす」可能性があることには疑問を呈した。
米国は戦闘用機器にどれだけ費やしているのか?米国はウクライナにどれだけ送り込んだのか?何十億ドルも?この国へ何十億ドルも注ぎ込んでいる国は他にいくつあるのか?彼らは弾薬を使い果たそうとしているのか?何だって?!ロシアを見ていただきたい。ウクライナの反対側にある国、ベラルーシも見ていただきたい。彼らはこのような問題は抱えてはいないようだ。彼らは弾薬を使い果たしてはいない。彼らは軍の戦闘用機器や武器を使い果たしてなんていない」とモーピンは述べている。
「米国はこれにはるかに多くのお金を費やし、何十億ドルものお金がウクライナに注ぎ込まれてきた。ここで何が起こっているのか?ここではいったい何が起こっているのか?軍産複合体というものによって兵器が経済を安定させるためのメカニズムの場に成ったとするならば、われわれは軍事費にたくさんのお金を投じて無駄にしているのではないかとほとんど疑問にさえ思えて来る ― あなたはこれらの兵器の多くが決して使用されないかもしれないという考えで生産されているのではないかと思うのではないか。彼らはペンタゴンの特定の請負業者にとっては単に金儲けのためのドル箱なのである。それこそがこの状況であることから、われわれがなぜこれほど迅速にこれらの状況を素通りしているのか、そして、ここでは実際に何が起こっているのかについて疑問に思わなければならない」と彼は付け加えた。
同ジャーナリストは、何よりも、ウクライナでの17か月にわたるNATO・ロシア代理戦争は、1980年代から2000年代半ばまでの軍事介入では校庭での悪ガキによるいじめスタイルの記録を持つ米国がついに米国に立ち向かうことができる敵に遭遇するはめに陥ったことを示していると指摘した。
『いじめっ子に対しては「自分のサイズに合った相手を選べ」と言う諺があることを誰もが知っている。つまり、最近の米国の戦争を見ると、米国はリビアやイラク、セルビア、グレナダ、パナマと戦った。米国は非常に小さな国と戦争をする傾向がある。今、われわれは米国がロシアに対して代理戦争を繰り広げている状況にあり、ロシアは別のリーグ、つまり、完全に異なるリーグからだ。イラクで使われた「衝撃と畏怖」作戦や爆撃、他の場所では使われたかもしれないような迅速な勝利をもたらす戦法はここではそれほど効果的ではないようだ』とモーピンは言う。
その上、ロシアの核兵器は米国がロシアの軍隊との紛争には関与することはできないことを意味すると彼は指摘。ロシアとの紛争に参画した時点で第三次世界大戦となるからだ。そして、その時点で核兵器が爆発し、それはわれわれが知っている人類の文明の終焉となる。」
それに代わって、米国とその同盟国は代理国家に支払いをしなければならない。代理国家は本質的には制御不能で、より信頼性が低く、シリアに対する米国の汚い戦争でのように独自の狙いを持っている。あの戦争ではCIAが武装した聖戦戦士たちは最終的にダーイシュ(ISIS)*へと変身した。
モーピンによれば、ウクライナ危機は、端的に言って、西側とNATOにとっては「勝てない」戦争だ。「だから問題は、彼らがいつまでお金と武器を注ぎ続け、勝てない紛争で人々を死なせ続けるのかということだ。または、ゼレンスキーが取引を行う許可を得て、いくつかの新しい国境線が引かれ、いくつかの新たな領域が現出し、この紛争のすべてが終わるまでいったいどのくらいかかるのか?・・・さて、バイデン陣営は、地政学的な理由から、可能な限りこれを引き延ばしたいと思っているようだ。しかし、弾薬の不足、世界経済への影響、同盟国が期待どおりに参加していないこと、等、これらすべてのことはバイデンと彼を取り巻く連中がこれをいったいいつまで続けたいのか極めて疑問に思えてくる」と彼は述べた。
その一方、モーピンは、大手独占企業は、たとえ世界経済の残りの部分が「悲鳴を上げ」たとしても、彼らが自分たちの力を強化し、競争相手を弱体化させることを可能にしてくれるので、紛争が無期限に続くことを高く評価するかもしれないと認めている。
ケイレブ・モーピンの鋭い分析の詳細については、ラジオ・スプートニクのクリテイカル・アワーとの彼のインタビューを確認いただきたい。
*ロシアや他の多くの国で非合法化されたテロリストグループ。
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これで全文の仮訳が終了した。
著者は『最近の米国の戦争を見ると、米国はリビアやイラク、セルビア、グレナダ、パナマと戦った。米国は非常に小さな国と戦争をする傾向がある。今、われわれは米国がロシアに対して代理戦争を繰り広げている状況にあり、ロシアは別のリーグ、つまり、完全に異なるリーグからだ。イラクで使われた「衝撃と畏怖」作戦や爆撃、他の場所では使われたかもしれないような迅速な勝利をもたらす戦法はここではそれほど効果的ではないようだ』と述べた。現実を見据えた見事な総括であると私は思う。だが、著者には言い足りない点もある。米国はリビアやイラク、セルビア、グレナダ、パナマと戦ったが、米国は非常に小さな国と戦争をする傾向がある。もっと辛辣な批評家に言わせると、米国の数多くの軍事行動の中で米軍が圧倒的に勝ったと言えるのはグレナダへの侵攻だけであったと指摘する。さらに言えば、これらの作戦は米国の軍事的優位性を世界中に誇示するための作戦でしかないのだ!
ここまで来ると、さらなる時間の経過はウクライナにとって味方になりそうにはない。素人判断であってさえも、そんな気がする。ロシア本土から陸路を通じてクリミア半島へと続く回廊を取り戻そうとしたウクライナ軍による最近の大反攻作戦には勝利の兆候が見えない。この大失敗はNATOの大失敗であり、西側の大失敗でもある。これが決着すると、ロシア・ウクライナ戦争は自ずから決着する。
昨年の夏、「欧州平和ファシリティ」と称されるウクライナに対する支援プログラムがEUで発足し、EU各国の首脳たちは大はしゃぎでこれを歓迎した。だが、今や、軍事上の失敗だけではなく、政治的にも極めて大きな失敗が目の前に現出しつつある。間もなく、政治リーダーの総入れ替えが始まるのではないか。
この夏はまさにウクライナ版「大阪夏の陣」である。その波紋はウクライナだけに留まらず、欧州各国、米国、さらにはG7各国にもさまざまな形態で波及し、長期にわたる影響をもたらすのではないだろうか。
参照:
注1:Failed Proxy War With Russia Shows US Can’t ‘Pick
on Someone Its Own Size’: By Ilya Tsukanov, Sputnik, Jul/16/2023
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