ウクライナは今年の6月から鳴り物入りの「対ロ大攻勢」を試みてきたのだが、何の軍事的成果ももたらさずに終わった。これによって、西側では国際政治の舞台におけるゼレンスキー大統領のカリスマ性は地に堕ちた。
ウクライナ軍が戦場で見せたこのような現実の姿は今までプロパガンダを通じて伝えられていた戦況とは異なり、大量の兵器をウクライナに送り込み、NATOへの加盟という甘味な勧誘をチラつかせてウクライナに代理戦争を強いてきた西側にとっては完全に予測の範囲外であった。今や、すっかり「ウクライナ疲れ」を引き起こしている。ヨーロッパ経済の牽引役であったドイツはロシアからのエネルギーの輸入を絶つという西側の対ロ経済制裁に参画した。だが、米国は強力な盟友であるドイツのノルドストリーム2のパイプラインの稼働を認めず、挙句の果てには破壊工作を実行した。ドイツは米国からLPGを輸入し始めたが、このLPGの輸入価格は以前ロシアから輸入していた天然ガス価格の4倍にも跳ね上がったという。それだけではなく、原油価格も上昇した。こうして、新型コロナ禍によって鈍化していたEU圏の経済はさらなる停滞を強いられている。ドイツの産業界は国際市場における競争力を失い、今や、脱工業化の流れに入ったかのようであると伝えられている。
ウクライナに対する米国からの財政支援については、新たな支援パッケージが米国の二大政党間の駆け引きによって振り回され、議会はクリスマス休暇に入り、見送りとなった。米国の世論を見ると、米国政府はウクライナに対して税金を浪費し過ぎているとして納税者の半数が政府を批判していると報じられている。
ここに「ウクライナに対する支援はEUの終焉を招く ― 政治家たちが警告」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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EU加盟国はキエフ政権を支えなければならないことによる副次的影響に苦しんでおり、「ウクライナ疲れ」がヨーロッパ中に忍び寄っている。さらに、ウクライナをめぐる対ロ経済制裁が裏目に出て、ヨーロッパ経済に大打撃を与えた。ドイツのようなケースでは産業の空洞化の危機に瀕している。
ヨーロッパが「産業と経済の砂漠地帯」と化す前にウクライナ紛争を止める必要があると、フランスの国会議員であり、右派の政治運動「フランスよ、立ち上がれ」(「Debout la France」)の指導者でもあるニコラ・デュポン・エイナンはX(旧ツイッター)への投稿で警告を与えた。
同政治家によると、この紛争はヨーロッパを破滅させている。「われわれはゼレンスキーに金を渡し、米国で天然ガス代を4倍も支払っており、わが国では貧困が爆発的に拡大している!」と述べ、デュポン・エイナンは怒りを顕わにした。
ニコラ・デュポン・エイナンは手遅れになる前に「和平計画」が必要だとして、繰り返して訴えている。
ドイツ系フィンランド人のインターネット起業家であり、今や使用されてはいない「メガアップロード」ファイルの共有サービスを行う「キム・ドットコム」の創設者はソーシャルメディア・プラットフォーム上でヨーロッパに対して同様の悲惨な警告を発した。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は非EU国家であるウクライナに関する発言によって欧州連合 の破壊を招いていると、キム・ドットコムはXに書いている。
「この瞬間を思い起こして貰いたい」と彼は言った。「各国はすべての重要な決定については全会一致を約束してEUに加盟することに合意した。だが、この約束は、今、破られようとしている。欧州連合(EU)の終焉だ。」キム・ドットコムは、ハンガリーが拒否権を行使する中、EUの問題を解決するためには27の加盟国すべての承認を必要とはしない「潜在的な代替案」を開発する必要があるとのフォン・デア・ライエン委員長の声明に言及したのである。
木曜日(12月11日)、欧州理事会はウクライナとモルドバとのEU加盟交渉を開始し、グルジアにはEU加盟候補国の地位を与えることを決定した。しかしながら、ハンガリーのオルバン首相はEUのウクライナに対する500億ユーロ(550億米ドル)の支援パッケージを阻止した。オルバン首相は、ウクライナはEUに加盟する準備ができているとは思えないと繰り返して述べ、この決定は「完全に無意味で、不合理であり、不適切でもある」と評した。ハンガリーはウクライナのEU申請に対して拒否権を発動する代わりに、「悪い決定」からは「立ち去る」であろう。その日の遅く、ハンガリーは今後数年間でウクライナの加盟を阻止するチャンスがあと75回はやって来るであろうと彼は断言した。
これに対して、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は「全会一致が得られない万が一の場合に備えて、運用上の解決策を持つためには潜在的な代替案に取り組むことも必要だ」と述べた。
https://t.me/geopolitics_live/11588
キム・ドットコムによるXへの投稿はコメントのスレッドを生成し、数多くのユーザーたちがEUの窮状に関する彼の評価に同意した。アイルランドやフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなどに言及し、「指導者たちが自国でゴミのように捨てられる」様子に表れているとして、明らかな「EUへの憤り」があると指摘する者もいた。その一方で、ハンガリーやオランダ、スロバキアでは「EUに逆らう」ことを恐れない首脳陣が国内での支持を集めている。
ユーザーたちはEUを「失敗したプロジェクト」と非難し、「欧州連合の全体的な目的は大陸での新たな戦争を未然に防ぐことにあった筈だ」と強調。それどころか、今、「ウクライナは戦争を助長し、戦争に資金を注ぎ込み、戦争を遂行している」とし、「ウクライナは米国の命令によって引き起こされたもうひとつのヨーロッパの悲劇だ。」
インターネット上では多くの欧州の指導者らが「オルバンの拒否権を喜んでいるが、それを公に認めるには臆病者であるので、ロシア嫌いのEU官僚をなだめるために公然とオルバンを批判している始末だ」と密かに推測する者もいた。
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これで全文の仮訳が終了した。
こういったウクライナの現状、および、ウクライナを支持してきたが「ウクライナ疲れ」を引き起こしている西側の現状が今後行きつく所はいったいどこかが非常に気になる。
ウクライナ紛争の2024年の展望については、米国の軍事アナリストであるスコット・リッターは次のように述べている:
キエフに対する西側の軍事援助は枯渇し、ウクライナ軍の運命を決定づけている。西側諸国が何百台もの戦車や何百台もの装甲戦闘車両、何百台もの大砲をウクライナへ送り込む日々は終わった。われわれには与えるものはもう何も残ってはいない。だから、ゼレンスキーが望むことができるのは、せいぜい、わずかの戦車やわずかの歩兵戦闘車両、いくらかの弾薬、そして、おそらくは、一機か二機のF-16戦闘機だ。彼はウクライナ国家の資金を何とか維持するためだけではなく、ウクライナの腐敗し切った機構に潤滑油を塗って維持するためにも、自分自身を権力の座にとどめておく唯一のものとして現状を継続するために多くのお金を欲しがるであろう。(原典:Scott Ritter: Ukrainian Military to
Crumble by Mid-2024: By Ekaterina
Blinova, Sputnik, Dec/17/2023)
また、ヨーロッパの政界ではチェコ共和国のペトル・パベル大統領が2024年について次のような見解を示している:
チェコのペトル・パベル大統領はウクライナでの紛争に大きな変化が生じる可能性を発表した。「われわれが対処しなければならない新たな状況が起こるであろう。この変化は私たちが想像しているような最高のものにはならないだろう」と、パベルは2024年に何を期待するかという質問に答えて、述べた。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はロシアが最強の大国のひとつであるという世界ビジョンを主張しており、他の国々もこの事実を受け入れる必要があると指摘した。また、チェコの指導者はトランプが2024年のアメリカ大統領選に勝てばプーチンとトランプは合意に達することができるという可能性を排除しなかった。「少なくともプーチンの側には、トランプが大統領選で勝てば、ウクライナや他のヨーロッパ諸国がどう思おうと、彼と交渉することが可能となり、ある種の妥協に達することができるという期待がある。理論的には、これはロシアを主要なプレーヤーの地位に戻すことになり、他の国々はどうにかしてそれを我慢しなければならないだろう」とパベルは述べた。(原典:Czech President Pavel: There will be a
shift in Ukraine not in the best sense: By Iz.ru, Dec/19/2023)
加えて、巷の噂ではゼレンスキーと彼の家族については米国へ亡命するための書類の準備はすでに出来上がっているそうだ。
参照:
注1:Politicians
Warn Aiding Ukraine Will Bring About ‘End of EU’: By Svetlana Ekimenko, Sputnik,
Dec/17/2023
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